国を動かし法を作った映画『Firebird ファイアバード』。冷戦時代の愛の実話をペーテル・レバネ監督が繊細に紡ぐ
1970年後期、ソ連占領下にあったエストニアの空軍基地でまもなく兵役終了を迎えようとしている二等兵・セルゲイ(トム・プライヤー)は、モスクワで役者になることを夢見ていた。そんな折、セルゲイと同じ基地にパイロット将校のロマン(オレグ・ザゴロドニー)が配属されてくる。初めて顔を合わせた瞬間から互いに心を惹かれていた2人は、写真という共通の趣味をきっかけにゆっくりと密やかに愛を育んでいく。同性愛が固く禁じられた当時、法を犯した者には即刻厳罰が施され、規律が厳格な軍隊に於いても2人の関係は断じて許されなかった。法に加え、クズネツォフ大佐(ニコラス・ウッドソン)ら周囲の何気ない言葉や固定観念によって彼らの愛は阻まれるだけでなく、セルゲイの親友で女性将校のルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ)との間柄も、ロマンを巡り悲劇的な三角関係へと発展するのだった。
長編映画『Firebird ファイアバード』の監督を手掛け、主演のトムと共に共同脚本も務めたペーテル・レバネは、かねてから故郷エストニアで同性婚を認めさせるためのロビー活動をおこなっており、自身も含めセクシャルマイノリティの人々が自由と権利を平等に手にできるよう幾度も立ち上がってきた。本作の主人公のモデルであり原作者のセルゲイ・フェティソフの回顧録『ロマンについての物語』、そして本人と出会ったことで、映画を結実することを誓い邁進した。そして2021年、本作がエストニアではLGBTQ 映画として初の一般劇場公開、配信を果たす。さらには2023年3月に、同性婚法案が議決。セルゲイの想い、本作の持つメッセージの強さが時代を動かす結果となった。
2023年12月中旬、エストニアに滞在中のレバネ監督にリモート・インタヴューを受けていただいた。とても穏やかで優しく、1つひとつの質問に誠実に答えてくれ、何よりセルゲイ・フェティソフという素晴らしい人物を知って欲しいと言葉の端々から想いが溢れる。同性婚法案が施行されたのは、その数週間後のことだ。