写真家・名越啓介が幽玄な世界を写し出す写真展『よあけの』が開催。大切な人の死と向き合った静かな風景写真
『バァフアウト!』、『ステッピンアウト!』でも様々な人物のポートレートを撮影してきた、ドキュメンタリー写真家の名越啓介が、6月5日より東京・馬喰町のアートギャラリー〈KKAG(Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery)〉にて写真展『よあけの』を開催する。
〈KKAG〉に於ける展示は3回目。第1弾となった『THE MAN』(2021年)では、アパレル・ブランド『RADIALL』のヴィジュアルとして役者・渋川清彦をモデルに撮影した写真集『ALL.』から、厳選した約40点の作品を展示。次作『Familia 0565』(2023年)では、南米出身者が多く住む愛知県豊田市の公営団地「保見団地」を舞台に。世界各地のマイノリティな人々と寝食を共にしてきた名越ならではの撮影スタイルで、自身も約3年団地に住み込み、強烈な家族の結び付きを写し出した。
今作『よあけの』はいずれとも異なり、名越の私的な表現作品が並ぶ。2018年から山深い岡山の実家で病に臥す父親と向き合い、母親と共に父親の軌跡を辿ることにした名越。日本の原風景が残る父親が育った場所を中心に、彼の親族や身の回りの出来事を通じて、日本人が持つ“幽玄な世界”を24点の作品に落とし込んだ。
自身の感情を写真に表出したのは、〈代官山DINER$ CLUB〉で開催した『ON THE LINE』(2022年)が記憶に新しい。アメリカにてトレイン・ホッピング(貨物列車に飛び乗る行為。起源はゴールドラッシュの開拓時代に遡る)をおこない、毎日何十時間と貨物列車に揺られながら、線路や車窓からの景色を切り取る。それまでは、被写体の魅力を引き出すため自身の感情を決して表さないことにこだわりを持っていた名越だったが、自身の生死と対峙したことで、はじめて名越啓介という人間を曝け出す写真を撮影した。『よあけの』は当時と同じく自分自身と向き合い、大切な人の死に触れた名越の内面を表現している。
命の灯火を想像させる光、非現実的な世界に誘われるかのようにも感じられる写真群を、限られたこの期間にぜひ会場でご覧いただきたい。