CULTURE

ナタリー・ワイズが19年ぶりのニュー・アルバム『Open Sky』をリリース。今でしか創れない音が此処に在る

JUN. 21 2023, 11:00AM

対話 / 山崎二郎 構成 / 上野綾子

BIKKEのスポークン・ワーズ、斉藤哲也のピアノ、キーボード、高野 寛のヴォーカル、ギターという構成で、2001年に結成されたNathalie Wise(ナタリー・ワイズ)。一聴した瞬間に脳内に映像が喚起されるひとときがゆったりと過ぎていく音像は、他に類を見ない。3枚のアルバムを残すも、活動休止。ところが、結成20年の2021年に「再奏」を果たした。そして、パンデミックを経て、この5月に19年ぶりのニュー・アルバム『Open Sky』がリリースされた。そこには、20年前の若さの一瞬を捉えた青春映画でなく、長い歳月を辿っていくことの楽しみを感じるような長編映画があった。今だから創れる音楽が其処に在る。過去を振り返るのも悪くないという気付きをもたらせてくれたのだ。久しぶりに3人に逢った。

「Shine」がなかったらこれまでのNathalie Wiseなんですよ。でも、「Shine」が入ることによって、違うNathalie Wiseが始まっていて(BIKKE)

   2004年の活動休止から19年ですよ! 19年経ちましたが、その間はみなさんの間でコミュニケーションなどあったんですか?

BIKKE 高野さんと斉藤は何かしらやり取りしていたんだよね?

高野 たまーにね。

斉藤 でも、3人揃うことはなかったね。

   発想も全く?

高野 今もまたそうなっているけど、コロナ前は本当に1つこなすと次のことがもう決まっていて。それに取り掛かっていたら時間が過ぎてしまい、なかなか新しいことを考える余裕がなくて。だからコロナになって時間ができたことが、第一にありました。

斉藤 そもそもね、19年前やっていた時も3人集まって、どうしていくこうしていくっていう話し合いはあまりなかったよね。

高野 事務所が仕事を持ってきてくれていたからね。映画音楽だったり、小泉今日子さんの作品にいろんな形で関わったり。そういうのがあったからうまーく続いていたんだよね。

斉藤 うまい具合に流されたのかもしれないですが(笑)。

BIKKE (笑)でも、まぁ、そういうものだと思いますよ。

   しかし、そのまま集まらないのがほとんどのパターンじゃないですか。まず19年ぶりに集まったというのがすごいことなんですよね。何がきっかけだったんですか?

斉藤 Nathalie Wiseでずっとヴァイオリンを弾いてくださっている神田珠美さんという方がいて。僕の奥さんなんですけど。神田さんが「BIKKEさんと連絡取ってみたんだけど〜」という話をしてくれて。そこから「あ、本当?」って。

   そこから(笑)。

斉藤 そうです。で、高野さんに「みんなで会ってみる?」というような連絡をしたような気がします。細かくは忘れちゃいましたけど、一度どこかで会おうと。でもコロナ禍で状況も状況だし、1回断念したりもして。で、様子をみて、ファミレスで会ったんです。

   3人で久しぶりに集結と。

BIKKE あの時だったかぁ。写真撮ったよね。思い出した。その辺のタイミングで、配信でライヴしたんだよね。

斉藤 そうだ! 別で、ライヴ・ハウスでの配信ライヴやってみませんか?っていう話があったんだ。

高野 僕のところに、無観客での配信ライヴの誘いがきたんです。自分のワンマンは何回かしていたし、せっかくだからNathalie Wiseでやってみようかっていう話になったんじゃないかな。

   先にいきなりライヴをやっちゃったんですね!

斉藤 話し合うこともなく、「とりあえずやってみようか!」みたいな感じだったよね。

高野 リハも3回くらいでね(笑)。

   すごい!

高野 やっぱり過去にやっていたから、すぐ思い出すんだなって思いましたよ。不思議な感覚でしたね。

   今サラっと言いましたけど19年ですよ!? 19年ぶりにやって3回くらいで音が合っちゃったって(笑)。

BIKKE Nathalie Wiseって、リズムもないような特殊な曲をやっていたので、初期のレコーディングでは、何度も何度も録らせてもらっていたんです。だから結構、身体に入っているんですよね。染み付いているんです。割と近年の曲の方が、覚えようと思わないと覚えられないですもん(笑)。

斉藤 そうですね。しかも誰かの曲だったら忘れていたとかあるかもしれないけど、僕か高野さんが作っているから、そういう意味でも、そんなに時間は掛からなかったのかもしれないですね。

   配信ライヴ後は、3人の中でどんな感触があったのでしょうか?

高野 視聴者数が結構多かったんです。「こんなにいたの?」と嬉しくて(笑)。やってみて手応えを感じました。物販も自分たちで一生懸命作りましたし。『フィルム・サイレンス』というアルバムがありますが、映像と元々相性が良いというか、映像的だともよく言われていたので、配信ライヴとしてやれて良かったなと思えるところもあって。そこから、これからも時々ライヴをやってみようという流れになりました。その後は地道だったよね。

斉藤 地道に自分たちにできることを模索しながら。で、やっていくうちに意外と曲がないってことに気付く(笑)。

一同 (笑)。

BIKKE そんなに活動していなかったしね。

斉藤 そう。リリースも何枚もなかったので。インプロとかも挟みつつだったし。で、「(曲を)増やそうよ」という風になって。制作に結びついていったんです。

   レコーディングする前にライヴで披露とかもしたんですか?

BIKKE ほとんどの曲は披露しています。ライヴのために曲を作っていたので。

斉藤 「1曲できた、じゃあ次のライヴでやろう。もう1曲できた、じゃあこれとこれやろう」という感じでどんどん増やしていきましたね。

高野 今回は何かとコロナがテーマになっていて。コロナの影響もあり、みんなリモートで録音できる状態になっていたんです。レコーディングも8割方リモートで。

   コロナは作品にどう作用されたのでしょう?

斉藤 僕は19年振りにやってみて、BIKKEの変化に一番びっくりしたかな。生活が変わっていたことにも驚いたけど、リモートでやり取りする中で、僕が作ったものをBIKKEに送ったら、ラップが入って戻ってきたんです。そういうのも19年前だとなかったから。高野さんとのやり取りでも、送ったものが全然違う感じで戻ってきたり。それぞれの制作過程が見えないからこその面白さがありました。

高野 制作過程が今までと全然違うっていうことはまずあって。あとは発売したのは5月8日で、ちょうど世の中の行動制限がなくなる時だったので、『Open Sky』というタイトルがハマったのも不思議だったんだけど。

   あ、それは“ハマった”って感じなんですね。

高野 そう、何の意図もなくてたまたま。でも、作品には、コロナ禍のいろんな抜け切らない感じみたいなものが、どうしても横たわっていますよね。歌詞の内容とかもそうじゃないかな。

BIKKE コロナもだけど、戦争が起きたじゃないですか。言い方として変かもしれないですが、みんなが同じことを経験しているというか――戦争は体感しているわけではないので、同じことを知っているという方が正しいのかもしれないけど。そういう出来事が重ねて起こっていたので、意識的ではないですが、今思うと影響していたのかなと思います。あとは、諦めみたいなものも同時に感じて。それは年齢的なものもあるのかもしれない。今でも気持ちは楽しくやっているんですけど、実年齢っていうものがありますから(笑)。単純に考えれば人生のピークを越えてきているっていうところで、感じるものはありますよね。同時に「じゃあどうしようか?」という考えにもなるんですけど。いろんなことがあったから、歌詞も暗いものが多いとは思いますが、そういうことも、自分の現状も、すべて受け入れていかなきゃいけないなという感覚はありました。

   『Open Sky』、1年前くらいに発表されていたら聴き方も違っていたと思いますが、僕はパンデミックを反映したとは全然感じなかったんですよ。若い時を振り返ったり、過去を意識しているように感じていて。それって今の年齢じゃないとできないなと。

高野 あぁ〜なるほどね。

BIKKE 振り返るっていうのは、年をある程度取らないとできないからね、これだけは。

   で、振り返るのも悪くないよねって気持ちになれまして。

高野 いつもそうだけど、全然自分たちが意図しているものと違うものが作品って出てきちゃう。深層心理みたいなのが出てきちゃうんだろうね。

   タイムラグがあるじゃないですか? 作っている時と発表した後って。

高野 そうそう、聴こえ方も変わるしね。そっかそっか、なるほど。

   僕はポジティヴなものに捉えたんですよ。ジャケットも相まって、抜けてるなと感じたんですけど(笑)。

高野 そこまで狙ってなかったんだけど、結果としてそうなったんだろうな。でも「Shine」という曲が『Open Sky』っていうタイトルと、アルバム全体のイメージと繋がっていると思うんだけど、あれは最後に作った曲なんだよね。BIKKEと斉藤くんが主だって。

   それは示唆的ですね。

高野 この曲だけライヴでは披露しないまま収録して。アルバム発売ライヴで初めて人前でやったんです。

    「Shine」はどのような経緯でできたんですか?

BIKKE 「Shine」はなくても出そうと思えば出せていたんだよね。でもなんとなく、正直言うと足りないなという想いが僕の中にあって、その時に加えました。曲のベースになっているのは、斉藤が温めていた曲で、少し前に2人でいじったことがあったものだったんです。

   ナイス・ジャッジじゃないですか! 「Shine」が入っているのと入っていないのでは、全然違うと思います。

高野 ないともっと内省的な1枚だよね。

   おっしゃる通り。そう聴こえたかもしれない。

BIKKE 多分、「Shine」がなかったらこれまでのNathalie Wiseなんですよ。

   それすごく分かります!

BIKKE でも、「Shine」が入ることによって、違うNathalie Wiseが始まっていて。ちょっと幅が広がっているんですよね。

   今この年齢でNathalie Wiseで再活動されて、かつてなかった喜びや楽しみはありますか?

高野 気負いがなくできることですかね。焦りもしないし。でもアルバムはよく形になったなとは思います(笑)。

BIKKE 音楽的にもね、高野さんがいてくれたからできたんだよ。

斉藤 そうだね、高野さんのおかげ。今回、ミックスとマスタリングも高野さんなんです。

   そうだったんですね!

高野 コロナ禍に徐々に手を出してみて。でも制作期間が長かったからできたことだと思います。アルバムも出しましたし、イヴェントに出たいんですけどねぇ。まだ誘いはこないですね。

   そうですよ! 気持ち良いと思いますよ。『Open Sky』の野外ライヴ。

BIKKE 1回自主でやるしかないかな。「(Nathalie Wiseは)外も合うんですよ〜」って(笑)。やっぱりNathalie Wiseのイメージは前の感じですからね。それはそれで、そういう面もありますからいいんだけど。

   僕、聴いていてそこが面白いと思ったんですよ。若い時に明るく野外ライヴをガンガンやって、年齢を経たら内省的になってしっとりしてくるパターンってありがちだけど、Nathalie Wiseは逆っていう(笑)。

BIKKE でももう僕、自分の中で“大人に見てもらおう”ピークは過ぎていて。

   いつだったんですか? ピークは。

BIKKE 40代くらいまでですね。「大人っぽくいきましょう」って空気、なんかあるじゃないですか? 今なんて、だんだん子供の方に戻ってきているんですよ。よく幼児退行するって聞くけど、それに近い感じになってきていて。

   確かに(笑)。僕もそれ、思ってました。

BIKKE 僕の場合はお酒を飲まなくなったこともあるかもしれないですね。今まで、感覚含め、自分の何かをお酒で誤魔化していたところがあったんだろうなと思いました。飲まなかったら誤魔化せないから、自分が本当に好きなもの、感覚がはっきりしてきたんですよね。

『Open Sky』Nathalie Wise
発売中
〈NW records〉
※一部楽曲はサブスクでも配信中!

INFORMATION OF Nathalie Wise

7月15日にアルバム発売記念ライヴを京都にて開催。

 

【WEB】
nathaliewise.base.shop

 

【Instagram】
BIKKE @bikke_no.1
斉藤哲也 @senpuchance_777
高野 寛 @takano_hiroshi

 

【Twitter】
@nathalie_wise_

BIKKE    @BIKKE_NO1
斉藤哲也 @tetsuyasaito
高野 寛 @takano_hiroshi

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