CULTURE

写真に魅せられ時代を映し出してきた写真家、デニス・モリス。キャリア初期の写真群が人間の在り方を問う

APR. 28 2023, 1:00PM

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撮影&文 / 多田メラニー

数々のレジェンド・ミュージシャンたちのポートレートで知られる写真家、デニス・モリスが写真集『Colored Black』をリリース。ジャマイカ人移民としてイギリス・ロンドンへと渡り、9歳で写真に目覚めるも、貧困や差別が蔓延る当時の暮らしは苦難に満ちていた。写真集に映し出されるのは、彼自身が経験し等身大の視点で捉えた人々の何気ない日常や文化だ。この度行われた出版記念トーク・イヴェントでは、モリスの軌跡を振り返ると共に力強いメッセージを来場者へと届けてくれた。

—— まず、今回の写真集の内容と、デニスさんが写真に興味を持たれたきっかけを教えてください。

モリス 私たちの世代は肌の見た目から、カラード(有色人種)、そして後にブラック(黒人)へと呼ばれ方が変化したのですが、写真集のタイトル『Colored Black』はその変化を表しています。なので表紙も、カラーとモノクロの写真を採用しました(写真一番上)。アフリカの民族で少し青みがかった皮膚の色を持つ人々がいるのですが、カラー表紙の青色の肌はそこからインスピレーションを受け、写真を現像する時に青色を強く出しました。こちらの写真集は私が10代前半の頃、1960〜70年代に渡って撮影した写真をメインにコレクションしています。
私は9歳から写真を撮り始めたんですけども、今もそうですが当時は本当にシャイな男の子で。写真はその頃通っていた教会の聖歌隊の創設者でもある牧師様に教えてもらいました。フィルムの現像方法などを間近で見せてくれたのですが、色々なプロセスを通してパッと写真が現れた時、「魔法みたいだ!」とすごく感動して。その瞬間、「写真のために生きよう」と心に決めたんです。そこからはもう夢中で写真を撮りましたし、毎晩自分の部屋を真っ暗にしてはフィルムを現像していました。

—— 写真集の中に、〈コートールド美術研究所〉(美術史を専門とする単科大学)のアシスタントの面接に行く途中、ベイカー・ストリートで知らない人から突然罵倒され、おまけにコーヒーをかけられたというエピソードがありました。結局面接には落ちてしまったけど、「罵倒に救われたのかも」という言葉も書いてあって、とてもポジティヴな考え方をされるのだなと思ったんですけども。

モリス そうなんです。周囲からは写真家として生きていくことに猛反対されましたが、どうしても写真を続けたい意思があったので面接に臨みました。面接の募集要項に「スマートな服装で来てください」とあったので、母に新しいスーツを買ってもらって当日も意気揚々と面接に向かいましたが、急に誰かが差別用語を叫びながらコーヒーをかけてきて。仕方なくビショビショのまま面接に行ったら、案の定面接官も「スマートな服装のアシスタントを探しているんだけど……」みたいな反応で。残念ながら面接はダメでしたが、そこからより行動的になれましたし様々な出会いへと繋がったので、落ちたことで逆に救われたのかなとも思います。
当時、簡易的な名刺を作っては人に配っていたのですが、自宅に電話がなかったので、家の前にあったテレフォン・ボックスの電話番号を名刺に書き込んでいたんです。電話が鳴ると急いで外に出て行き、「デニス・モリス、スタジオです」と返事をする、そんな毎日でした(笑)。昔は自分のキャリアを想像して夢ばかり見ていたので、まさかここまで音楽と関わりを持つことになるとは思いもしませんでしたよ。ある時、ボブ・マーリーがイギリスでライヴをすると聞いたので、彼の写真を撮るために学校も休み、彼が訪れていたクラブへと走りました。本人が現れたので写真を撮っていいか聞くと「もちろん良いよ」と答えてくれ、さらにはジャマイカの話、「イギリスに住んでいる黒人の暮らしはどうなのか?」など色々と質問してくれたんです。するとボブは興味を持ってくれたのか、「良かったら一緒にツアーに来ないか」と誘ってくれて。急いでスポーツ・バッグに荷物を詰め込んで4週間ほどのツアーに同行しました。ツアー・メンバーたちとバンにみんな乗り、助手席のボブ・マーリーが、「Are you ready?」と振り返った瞬間に撮った写真は、色々なシーンで使われているので皆さんもご存知かもしれません。

—— その写真がきっかけでセックス・ビストルズのジョニー・ロットンからも熱いリクエストを受け、ピストルズの黄金時代の写真を数多く撮られています。ボブ・マーリーのレゲエ畑から、いきなりパンクの写真を撮ることになったわけですが、どう思われましたか?

モリス それほど違いは感じていませんでした。自分の人生に対して「親と同じ道は進んでいきたくない」という強い想いがあったので、パンクからは目の前の扉を突き飛ばす力、レゲエからは扉を突き飛ばした後に自分の精神を信じてキープすることを学んでいたと思います。

—— そして意外だったのが、写真家の活動とは別に、1980年デビューのBasement 5(レゲエ・ダブとパンクを融合させたロンドンのポストパンク・バンド)のヴォーカルとしてメンバーに加入されていますよね。

モリス すでに(初代ヴォーカルの)ドン・レッツがいたんですけどもそんなに長くは続かず、私が入ることになって。音楽も芸術の1つですし、私にとっては表現方法の1つでもあるので、写真も音楽も繋がっているんですよね。音楽のおかげで色々な経験もできて——今思い浮かんだのですが楽しいエピソードがありますよ(笑)。当時、パリのクラブに毎週通ってはシャンパンを飲み、遊んでいたんですが、帰ろうとしたある日、クラブのオーナーが近寄ってきて「今までの分です」と豪遊したツケの請求書を手渡してきたんです。とんでもない金額だったのと、請求されたことに驚いていたら、「自分のことをミック・ジャガーだとでも思っているのか?」と言われて(笑)。僕らは支払えるだけのお金を持っていなかったので、「アチョー!」と空手の型のような動きをして走って逃げました。これが、Basement 5です(笑)。
当時は黒人だけのパンク・バンドはいなかったので、U2が私たちをサポートしてくれましてね。結構人気だったんですよ? でも結局、U2のようにビッグにはなれませんでしたね(笑)。

—— 写真集のお話に戻るのですが、デニスさんが育ったロンドン北東部のダルストンは今でこそトレンディなエリアになりましたが、1970年代は最貧困地区の1つで。
写真集の中には、子供たちの笑顔や無邪気に遊んでいる姿などが映っていて非常に印象的だったのですが、当時の治安はどうだったのでしょう?

モリス 確かにそういう側面もあったのですが、私が撮っていたのは友達や知り合いなどが多かったので、個人的にはそこまで危険を感じたことはありませんでした。
せっかくなので、いくつか写真を紹介しますね。(スライドを指差して)まずこちらは、『My boy lollipop』というタイトルなんですけども、子供がロリポップ(棒付きキャンディ)を舐めている姿を逆光で捉えています(写真上から2枚目)。その次は、近所にいた4人の子供たちが無邪気に遊んでいるところを撮った写真です(写真上から3枚目)。
それから、この家族写真(写真上から4枚目)。私自身もジャマイカからイギリスに移民した第一世代ですが、当時は家を借りるのがすごく難しくて。物件の前には、「黒人NG、アイリッシュNG、犬NG」の注意書きがあるので住む場所も限られていましたし、別の家族同士でキッチンやトイレなどをシェアしながら、1家族につき1部屋ずつ暮らすのがスタンダードでした。で、写真をご覧いただくと、やかんが3つありますよね。それはなぜかというと、キッチンを利用する時間はどこの家庭も同じなので、ちょっとでも遅れてしまうとバッティングしてしまいご飯を作ることができないんです。だから予め部屋でお湯を沸かし、キッチンが空くまでに料理の準備を始めていました。1部屋しかないので、部屋の真ん中にカーテンを付けて、半分はリビング、半分は寝室と分ける工夫もして。そうした素朴な暮らしの中でも、私たちは常にスマートな格好をしていましたし、自分に誇りを持ち生きていました。

—— 最後にシンプルな質問ですが、デニスさんにとって写真とはなんでしょうか。

モリス 人生そのものです。写真にはとてもパワーがあって、10年前に撮ったものだとしても、見返した時に当時の匂いや空気、様々なものを感じ取ることができます。写真についてよく言うことですが、(額を指差し)第3の目、自分のマインドから撮り抜く世界、その瞬間や時間を取り込めるそのものが写真ということなんです。その第3の目のおかげで、私はここにいます。それから皆さんにお伝えしたいのですが、自信を持ってください。私が今ここにいるのも、自分に自信を持ち、自分を信じて行動してきたからこそ。自信を持てば自分の想像をも超えた所へ行くことができます。社会や周りの人たちはいつも「No,No,No」ばかり言うけれど、どうか自分には「Yes. I can. I will」と言い続けて。私だって自信を持っていなければ、ボブ・マーリーにも出会えなかったし、セックス・ピストルズのためにも仕事をしていなかった。コーヒーをかけられた時も、何も行動せずそのまま過ごしていたでしょう。自信は絶対に私たちが前へと進むための大きな力になってくれますよ。

『Colored Black』
発売中
〈HeHe〉
©DennisMorris

INFORMATION OF DENNIS MORRIS

写真展『Colored Black』が5月14日まで〈世界倉庫〉にて開催中

【WEB SITE】
http://www.dennismorris.com
【facebook】
https://www.facebook.com/dennis.morris.73
【Instagram】
@dennismcevoymorris
【twitter】
@_DennisMorris

 

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