2023年、俳優活動25周年、音楽活動20周年記念アルバム 『ACTOR’S THE BEST ~Melodies of Screens~』 が11月29日にリリースされた。映画『バトル・ロワイアル』、『世界の中心で、愛をさけぶ』、連続ドラマ『オレンジデイズ』、『GOOD LUCK!!』、『Dr. コトー診療所』、大河ドラマ『おんな城主 直虎』他、主演・ヒロインを演じたが、それらの主題歌、挿入歌を1枚に集めたのが今作。俳優として確固たる地位を築いた彼女だけに、ややもするとシンガーとしての評価が小さいように感じるのは自分だけだろうか? ワン&オンリーのスモーキーな声質、揺蕩うように表現されるライヴ・パフォーマンス、そして、凛とした佇まいから綴られる、作詞表現も。攻めたダンス・サウンドから、王道のバラードまで共存するという懐の広さ。この1枚を聴けば、自分が感じた想いも杞憂に終わるだろう。日本の音楽シーンのトップを走るアーティスト、プロデューサーとともに作り上げた名曲の数々。誰もがそれらの曲に、そして、彼女が演じた主人公に自らの思い出を重ね合わせることだろう。嬉しいことに、12月より約4年半ぶりとなる全国ツアー『柴咲コウ CONCERT TOUR 2023 ACTOR’S THE BEST』開催が決定。神奈川、札幌、京都、福岡、東京、静岡と全国6都市7公演。2023年の最後、静かに、ときに厳かな気持ちで柴咲コウの歌声に聴き入りたい。
選曲を改めて見ると、本当に豪華ですね。
柴咲 振り返るとね、そうですよね。
こんなにいろんな曲をシンガー柴咲さんは歌ってきたんだなと、そういうことがパッと選曲で分かります。
柴咲 (過去の)出演作品を観てくださっていた人たちはピンとくると思いますが、そうでなくとも、1曲1曲が名曲ですし、知っている方が多い曲たちが集まったのではと思います。
下の世代の方は、楽曲から「この曲を歌っていたのって柴咲さんだったんだ」と気付く方もいるんじゃないでしょうか。
柴咲 プロデューサー陣や、作曲者の方々も豪華なんですよ。レジェンドというか、もう、日本を代表する方ばかりですごいですよね(笑)。自分では、細々とアーティスト活動をしてきたと言っていますが、それでも続けられたのは奇跡だと思いますし、芸能活動を25年も続けてこられたということもそうで。1つひとつの作品や歌が支えてくれたからこそだと感じています。歌を聴いてくれたり、作品を観てくれた人のおかげで今がある。それをないがしろにしてはいけない、感謝の気持ちをアニヴァーサリー・イヤーでは伝えていきたいなと計画していたんです。だから、今回はカヴァーも含めたベスト・アルバムに仕上げました。節目だからこそ、「振り切って自分のしたい音楽を並べました!」というのではなく、自分で言うのも恐縮ですが、集大成的な位置付けになるような、そして新しい幕開けになったらと。
音楽活動20周年と聞いて思い出したのですが かつてインタヴューをさせていただいた時に、「“女優の課外活動だ”みたいな言い方をされているのが、忸怩たる想いだ」とおっしゃっていたんですよ。今もちょっとご謙遜されていましたが、20年もの間、続けてきたという素晴らしい歴史があるわけで。今じゃもう、アクターであるけれども、シンガーのイーヴンであるということが魅力だと、多くの方が受け止めています。
柴咲 こういう活動をずっとしている身としては、そういった葛藤や悩みがあっても時代は流れていくので、それこそどっちが先かなんてどうでも良い人の方が圧倒的に多いですし、どんな活動をしているか、詳しく知らない人も当然増えてくるわけで。移り変わっていく時代の中で、自分がやりたいことを貫き通しながら、自分自身、やっていることに飽きずに、提示したり関わっていくことが大切だと思っています。だからこそ、今回はこういった(これまで自分がしてこなかった)振り返り的なものだったり、役者として関わったものに対して、あえて歌の方向から飛び込んでいくアプローチになったのかなと思います。
柴咲さんの書く詞が好きな僕としては、「silence」(WOWOW『連続ドラマ W 坂の途中の家』主題歌)が入っているのが嬉しくて。この曲は絶対外せないなと。
柴咲 嬉しいです。このドラマは色々な賞を獲った作品で、内容も切実なものでした。子を持つ親と、夫婦のリレーションと。かなりディープでダークなものを描いていたんですよね。当時は、野崎(良太)さんと曲作りをしている時期だったので、私の持っていたイメージを共有させていただいて。「訥々としたピアノの旋律で、でも心の奥底に迷い込んでいくような感じ」みたいな、そんなニュアンスを、セッションしながら作ってもらったのを覚えています。歌詞もこういうものにしたいというイメージがあって。「否定を重ねる」ことをテーマに作っていました。
ドラマが扱っているテーマがテーマなだけに、どんな主題歌を作るか?がすごく難しいことだと思ったんです。でも「こうきたか!」と、当時衝撃を受けたのを覚えています。
柴咲 主題歌だと作品をぎゅっと凝縮したものになるじゃないですか。その歌までもが作品の世界観の1つになるので、制作に於いても、日本語と英語ヴァージョンを作るなど、実験・挑戦をしていた時期でした。
今回こうやって曲として並んだら、1つひとつの曲と密接に繋がっている作品とが、分かりやすく伝わってきます。アルバム・タイトルからまずそうですが。
柴咲 そうですよね(笑)。タイトルはスタッフに提案してもらったんです。私、自分だと、難解なものが好きというか、あまりにも「自分はこうです」とストレート過ぎるものは避けがちで。
絶対、ご本人発案ではないだろうなと思っていました(笑)。
柴咲 あはは(笑)。
ジャケ写も王道なポートレートですし。
柴咲 そうなんですよ! それもスタッフさんが提案してくれて。それこそ20年前だったら言うこと聞いていなかったかもしれないけど(笑)。よく“中庸”と言っているんですけど、自分軸に振り過ぎてもいない、媚びるわけでもない、だけど「聴いてくれる人がいてこそじゃん」という想いがあって。今作は、感謝の気持ちを込めたいということを優先しながら、中庸を選んでいきました。1曲1曲自分でセレクトし、どういうラインナップが良いか? 時系列で並べようか?など、細部にまでこだわった面もありつつ、タイトルのように、時に周りの意見も取り入れて、シンプルに潔く進めていったところもありました。
そう、時系列になっているのがポイントなんですよね! ヒストリーが伝わってきます。
柴咲 1曲目の「静かな日々の階段を」(映画『バトル・ロワイアル』主題歌)は、殺戮的な内容が衝撃的な作品でしたが、私自身、「こんなにちゃんとメロディだったんだ」と再認識したところがあって。この曲の持つ救世主的な側面に、当時は気付けませんでした。当然ではありますが、作品を加味しつつも、自分がその時描きたいもの、語りかけたいものを凝縮して降谷(建志)さんは作られたんだなということを改めて感じましたね。(降谷さんの描く)歌詞の中の人物は、「俺もなんとかここで」とすごく実直に頑張っている方なんですよね。虚勢を張ったり、自慢げに振る舞っている人では決してなくて。弱い部分を持ちながら、「なんとか」とやりくりして生きていて。明日、より良い1日になると良いなと、どこか自分のことを救いたいと願っている。でもそこはかとない弱さも見える感じが、すごく共感できるなと思いました。
今歌うと、感じ取る言葉の意味合いもまったく違ってくるのではと想像します。
柴咲 全然違いますね。だって23歳の私は「銀の龍の背に乗って」(映画『Dr. コトー診療所』主題歌)を初めて聴いた時、「ワオ!」って思いましたもん。「銀の龍の背に乗ってどこ行くの!?」って(笑)。しかもあのコブシじゃないですか。今では曲の深さ ドラマをああいう風に、比喩的に表現されて、奥深いものに仕上げていらっしゃる中島みゆきさんはすごいなと、感嘆するばかりです。それを今歌うとなると、自分の歴史が乗ってくるだけじゃなく、年齢的なものも相まって、当然、感情移入はしてしまいますよね。演じていた当時の記憶や思い出も浮かんできたりして。年齢を重ねて、1つひとつの楽曲をちゃんと理解でき、さらに噛み砕いて歌としてアウトプットできるようになったことは、また1つ自信になると思います。
「月のしずく」(映画『黄泉がえり』主題歌)も、改めて、素晴らしい名曲です。
柴咲 自分が歌を歌っていく上で、セールス的な意味でも、看板となるような曲を持てたことは本当に光栄なことだなと思う1曲です。特に最近は、新しいものが注目され、過去に作ったものは使い古されてしまうような懸念を、アーティストさんは結構持っていらっしゃると思うんですけど、 そういった意味でも、ブレない自分軸になり得る1曲があることはありがたいなと思います。なので、この曲は歌い直したりせず、あえて当時の音源のまま収録しました。曲は自分が出演してきた作品順に並べていますが、当時の音源を入れているものもあるので、ある意味デコボコになっているんですよね。1曲目はカヴァーなので最近の私の声、2曲目の「月のしずく」は当時の声、と。そういう行ったり来たりする違いも、楽しんでもらえたら嬉しいです。
全国6都市を周るツアーも開催されますが、これをきっかけにまたコンスタントにライヴ活動を観たいというファンの方の声も多く届いているんじゃないですか?
柴咲 誕生日ライヴは、メンバーシップ限定で〈ビルボードライブ東京〉などでおこなっているのですが、歌だけじゃなく、トークが聞きたい、近況を知りたい、それこそ何を食べているのか聞きたいとか、そういうのもあったりして(笑)。今年はみなさんの要望に応えたくてイヴェント性の強いものをやっていたんですが、実は年末にツアーができるからだったんですよね。ツアーでは、純粋に歌を楽しんでほしいので、そのためにどういう演出をするか? それを考えるのが楽しかったです。
え!? 演出も考えられているんですか?
柴咲 今回はコンセプトが重要なんですよ。『ACTOR’S THE BEST ~Melodies of Screens~』と、演じてきた作品と縁のある曲を出すからには、演出はしっかりしたいなと思いまして。「今までの曲を並べて歌いました」だけではない、奥深さを如何に出していけるかだと思っています。私にとっては25周年というアニヴァーサリーですが、観てくださる人の中にはそこまで想い入れのない人もいるかもしれない。そんな人にもちゃんと伝わるものをどうしたら届けられるかというと、やっぱり自分ごとにしてもらうことなのかなと。時代の変遷を感じたり、「あ、この曲知ってる」、「その時私何々してたわ」、「こんな仕事をして、こういう人と付き合っていたな」みたいな、自分史のようなものを振り返られる時間にしてほしいなと思っています。
それは素敵です。それぞれの思い出がありますからね。
柴咲 そうそう。そういうものに浸ってもらえたら。ドラマや映画にも思い出や自分なりの解釈があるでしょうから。楽曲を通して、色々なことを思い出していただけたら嬉しいです。
『ACTOR’S THE BEST ~Melodies of Screens~』
発売中
〈ユニバーサルミュージック〉
INFORMATION OF KO SHIBASAKI
全国6都市を周る『柴咲コウ CONCERT TOUR 2023 ACTOR’S THE BEST』が、12月9日よりスタート。
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