CULTURE

加藤弘士と、山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」第6回

NOV. 28 2023, 11:00AM

構成/吉里颯洋
イラスト/早乙女道春

『スポーツ報知』編集委員で、ベストセラーとなった『砂まみれの名将―野村克也の1140日―』著者の加藤弘士と、『ステッピンアウト!』編集長の山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」がスタートです!

この大会での世界一が初めてだったので、感慨深さもひとしおで。強豪アメリカの壁や開催国・台湾の奮闘もあったんですけど、敵地で戦うというハンデも乗り越えての世界一達成は興奮する瞬間でしたね(加藤)

山崎 甲子園大会に続いて、台湾で取材された『第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ』について伺いたいのですが、スタジアムの雰囲気はどうでしたか?

加藤 国民性みたいなものもあると思うんですけど、台湾のスタジアムは雰囲気が独特で、お祭り感が日本とは全然違いますよね。日本にも独自の応援文化があるんですけど、台湾の場合は、高校野球なのに、へそ出しのチアリーダー、綺麗なお姉さんたちがベンチの上で踊っていて、ブラス・バンドの演奏はなぜかマイクで拾ってスピーカーから流れ、お調子者のMCがそれを煽るみたいなスタイルが定着していて……。

山崎 プロ野球のみならず、高校野球でもそのスタイルで?

加藤 高校野球も、プロ野球同様ですね。日本チームは、その応援に面食らった感がありました。決勝の前日に前哨戦で台湾との試合があったんですけど、もう完全にスタジアムの異様な雰囲気に圧倒されて、負けちゃったんですね。翌日の決勝戦は大阪桐蔭高校の前田悠伍投手が登板して、「僕は台湾チームへの熱烈な応援なんて何とも思わない」とばかりに快投して日本が勝ったんですけど、応援合戦の盛り上がりなら日本ではマックスの甲子園の決勝まで行った選手たちが「あのマイクはないですよ」みたいなこともこぼしていて(苦笑)。だから、各国それぞれに、応援も含め、いろんな野球のスタイルがあって、それぞれが思い思いに盛り上がるのを目の当たりにできたのは、すごく楽しかったですね。まさに、野球文化の多様性じゃないですけど、応援にもプレイにもお国柄が出ていましたから。

山崎 各国のプレイ・スタイルはどうでしたか?

加藤 感じたのは、パワーですね。台湾は特にメジャー寄りで、「スピード+パワー」みたいなスタイルで、それを日本が「柔よく剛を制す」じゃないですけど、スモール・ベースボールでいなしていくような試合展開でしたね。

山崎 それが実践できるタイプの選手を集めたチーム編成だったという……。

加藤 まさにそうですね。だから、『WBC』での大谷翔平や村上宗隆や吉田正尚たちの活躍を見て、日本もついにパワーでメジャーリーグはじめ、海外のベースボールに対抗できる時代が来たなと思ったんですけど、高校野球においてはやっぱりフォアボールで出たランナーをバントで二塁に、さらに進塁打で三塁に進めて犠牲フライで1点取るみたいな、スモール・ベースボールをやっていましたね。何しろ、この大会での世界一が初めてだったので、感慨深さもひとしおで。強豪アメリカの壁や開催国・台湾の奮闘もあったんですけど、敵地で戦うというハンデも乗り越えての世界一達成は興奮する瞬間でしたね。

山崎 記者というスタンスでありながら、やっぱり、「頑張れ、日本!」という気持ちが自然に盛り上がるようなシチュエーションですよね。

加藤 恥ずかしながら、俺は違う、そうはならないと思っていたんですけど(笑)。ただやっぱり、『オリンピック』の取材に行く記者に訊くと、やっぱり、(意識せずとも)国際大会では自国を応援しちゃうって言うんですよね。そこに至るまでの選手たちの頑張りも見てきているし、また普段と異なる環境で戦うシチュエーションでは、そんなことを言わないような記者でさえ「君が代」を聴いて泣いちゃうみたいなことを言っていて。それがこういうことなのかなと実感しましたね。甲子園でも活躍を見ていたメンバーが大半でしたから、それらの選手が日の丸をつけて奮闘する姿は、エキサイティングなものがありましたね。この夏、甲子園で3週間、台湾の2週間とずっとホテル暮らしだったんですけど、結構な高揚感の中で帰国しました。

山崎 一野球ファンとしては、大阪桐蔭高校の前田投手といい、横浜高校の緒方 漣選手といい、甲子園に出られなかった選手たちが躍動したのが嬉しかったなと。

加藤 あれは良かったですね。甲子園大会には出られなかった選手たちの頑張りも、特筆すべきものだったと改めて思います。仙台育英高校の須江 航監督が、「人生は敗者復活戦。負けてから、その人の真価が問われるんだ」という名言を常々語っていて。普通なら、甲子園に行けなかった選手って、地方大会で負けた時点で遊んじゃうと思うんですよ。それを誰も責められないし、「今までずっと、ストイックに野球に打ち込んできたんだから、高3の夏休みは遊んでも……」と思って当然なんですけど、彼らはその悔しさをバネに、「今度は日の丸を背負って世界でやるんだ」って、ちゃんとコンディションを整えてきたのは讃えられて然るべきだなと思いますね。実際、彼らは休養十分で、素晴らしいパフォーマンスで世界一に貢献しましたから。一方で、甲子園で戦った選手たちは、この夏が常軌を逸した暑さだったせいもあって、やっぱり疲れがすごかったんですよ。慶應の丸田(湊斗)くんはじめ、仙台育英高校の選手たちも疲労は拭えない中でのプレイでした。

山崎 特に横浜高校の緒方選手は神奈川県大会で物議を醸した審判の判定(4-6-3のダブル・プレイが不成立)に遭っただけに、この大会に賭ける想いも人一倍のものがあったのかなと。

加藤 あれは神奈川大会の決勝戦の慶應高校×横浜高校戦での出来事なんですけど、甲子園にどちらの高校が行くのかを分ける場面でのギリギリのプレイでね。むしろ緒方選手が上手いからこそ、ああいう微妙な判定に繋がった可能性もあって……。僕は〈横浜スタジアム〉の一塁側のカメラ席で見ていたんですけど、普通にアウトと信じて疑わなかったので、なんで揉めているのか分からないぐらいのプレイでしたね。でも、そういう屈辱を自分の力にするところが、緒方くんは本当にすごいなと思って。高校生からエネルギーをもらった夏でしたね。

INFORMATION OF HIROSHI KATO

『スポーツ報知』編集委員。『スポーツ報知』公式『YouTube 報知プロ野球チャンネル』のメインMCも務める。

 

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