CULTURE

加藤弘士と、山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」第5回

NOV. 21 2023, 11:00AM

構成/吉里颯洋
イラスト/早乙女道春

『スポーツ報知』編集委員で、ベストセラーとなった『砂まみれの名将―野村克也の1140日―』著者の加藤弘士と、『ステッピンアウト!』編集長の山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」がスタートです!

メンバーそれぞれが自分で判断していくというチーム・カラーの慶應高校が優勝したという事実に(価値観の多様化が謳われるようになった)社会の変化が如実に反映されているような、何か大きな意味がそこにあったんじゃないかなと感じましたね(加藤)

山崎 『第105回全国高等学校野球選手権記念大会』(以下、夏の甲子園大会)から台湾での『第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ』(以下、世界高校野球大会)まで取材続きで、長期出張だったと伺いました。今夏の甲子園大会を取材した感想を聞かせてください。

加藤 〈甲子園球場〉での取材が3週間で、それから台湾が2週間。デスクを9年やった後、今年から久しぶりに現場に戻って取材をしたんですけど、台湾も行ってみたらやっぱり面白かったです。今夏の甲子園大会で象徴的だったのは、神奈川県代表の慶應高校が優勝したことに尽きますね。そこには何か大きな価値転換というか、高校野球の歴史が変わる瞬間があったような気がしていて。今までの上から「やれ」と言われたことを必死にやる選手がレギュラーになるという高校野球のスタイルから一転して、メンバーそれぞれが自分で判断していくというチーム・カラーの慶應高校が優勝したという事実に(価値観の多様化が謳われるようになった)社会の変化が如実に反映されているような、何か大きな意味がそこにあったんじゃないかなと感じましたね。

山崎 すべてにおいて、賛否両論ありましたよね。

加藤 確かにありましたね。その1つが、例えば頭髪のルールであったり。実は、ベスト4のうち、2チームが髪型自由だったんですよね。「土浦日大×慶応」の準決勝を「サラサラヘア対決」って書いたんですけど、冷静に考えれば、これがニュースになること自体がちょっと特殊なことですよね。別に丸刈りはダメだと慶応高校が言っている訳じゃなくて、(高校球児と言えども)ベストな髪型を自分で選んでいいんじゃないか?という問題提起ですよね。こうなってくると、そもそも、これまでの高校野球の選手は何で丸刈りだったんだろう?という議論も出てくるというか。そもそも、高校生って一番見た目を気にする年代ですよね。僕も高校時代に『ホットドックプレス』みたいな雑誌を買って「髪型、どうしたらいいのかな?」みたいなことで悩んでいたことを思えば、今更ながら、野球部だけ何で坊主なの?みたいな議論になった大会だった気がしますね。

面白かったのが、決勝戦で初の先頭打者ホームランを打った慶應高校の躍進の象徴的存在である丸田湊斗くんがOfficial髭男dismの大ファンなんですよ。甲子園のベンチでもヒゲダンのロゴ入りタオルで汗を拭いていて「僕は本当にヒゲダンに元気をもらって、今まで野球に打ち込めた」という彼なりの意思表示をしていて。それがヒゲダンファンの間でも話題になったんですが、そのヒゲダンのメンバーの方がパーソナリティをやっているラジオ番組に丸田くんが「慶應義塾高校野球部の丸田です。この夏、本当にありがとうございました。おかげで甲子園で優勝できました!」みたいなメッセージを投稿したらしく、これ本物かな?と番組内で話題になっていたんですよ。台湾での世界高校野球大会の取材時に、本人に「話題になってるけど、あれ、丸田くん?」って尋ねたら、「そうなんですよ!」という回答で。だから今夏の甲子園の優勝メンバーにして慶應高校快進撃の象徴たる丸田くんが、昔で言うハガキ職人だった!?みたいな感じで(笑)。先日、娘の小学校の運動会があったんですけど、ヒゲダンの「ミックスナッツ」に合わせてみんなで踊るシーンがあって、丸田くんのおかげでヒゲダンを聴くようになった私も大変親しみを感じましたね。そんな感じで、野球と音楽を行ったり来たりする2023年の夏だったのかなと。

山崎 やぁ、いい話ですね。まさしく、この連載にふさわしいトピックというか……。

加藤 我々が語り合いたいメッセージを象徴する出来事だったなと思いましたね。さらに技術的な面で言うと、甲子園での取材を総括して思ったのは、とにかく、出場校のピッチャーの球速が急激に速くなっています。かつては、140キロを投げる高校生ってほとんどいなかったですよね。それが今や、140キロを投げるピッチャーがごく普通にいて、それがほぼアヴェレージでしかないという高校球界になってきているのが現実で……。

山崎 かの江川 卓投手でさえ、高校時代の平均球速は140kmぐらいだったかと……。

加藤 そうですよね。確かにスピード感がすべてではないと言っても、昨今は最新のトレーニング方法が昔みたいに強豪校に行かなきゃ学べないものでもなくなっていて。情報は『YouTube』経由で手軽に入手できるので、誰に教わるでもなく最新のトレーニングを実践して、適切なサプリメントを摂って食生活に気を付けてみたいな感じで鍛えていくと、誰しも球速は出るんですよね。そういう意味では(ネット社会の恩恵で)フィジカル面は身体が大きくなってきたり、強いボールを放れるようになってきたりみたいなメリットも増す一方で、野球の競技人口の中間層が減ってきているような感じもしていて。やっぱり、地方大会の1回戦、2回戦で負ける学校が多いこと、出場する選手が多くて出場するチームが多いことが、日本の野球文化の豊かさの象徴だったと思うんですよね。それこそ二郎さんがその歳になっても現役で草野球をやられていることに繋がると思うんですけど、下手でもグラブを買ってユニホームを着たいなという「野球やろうぜ!」的な気持ちが尊い訳ですから。昨今では野球が一部のうまい選手たちの習い事になっている感があるのは、ちょっと寂しいかなという気もしますね。

山崎 残念ですけど、どんどん野球人口が減っている数字に現況が現れていますよね。

加藤 バットにカキーン!と当たってライナー性の打球が飛んだりとか、それこそ二盗を決めたりとかって、野球をやっていてすごく楽しい瞬間じゃないですか? 下手な子が野球に憧れて、俺もやろう!と思い立って野球ができるカルチャーが途絶えつつある事実には一抹の寂しさも感じていて。すごく上手いプレイヤーが増えて、メジャー・リーグにも挑戦できそうなハイクラスなプレイヤーたちのレヴェルは年々上がっているんですけど、野球文化を下支えする下手な野球選手がもっと増えてほしいなみたいなことを、この夏の甲子園大会を取材して感じましたね。

INFORMATION OF HIROSHI KATO

『スポーツ報知』編集委員。『スポーツ報知』公式『YouTube 報知プロ野球チャンネル』のメインMCも務める。

 

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