CULTURE

出産、育児を経て、BONNIE PINK が11年ぶりのニュー・アルバムをリリース。〈ビルボードライブ〉での公演も決定

SEP. 20 2023, 11:00AM

対話/山崎二郎 構成/吉里颯洋

1995年、いきなり、アルバム『BLUE JAM』で登場したBONNIE PINK。当時、ソングライティングのレヴェルの高さに驚いた記憶は未だに鮮明だ。以来、12枚のオリジナル・アルバムをリリースしてきたが、2015年に開催されたデビュー20周年スペシャル・ライヴ『BONNIE PINK 20th Anniversary Live “Glorious Kitchen”』以降、シーンから姿を消した。それは、出産という大きなターニングポイント。以来、子育てに専念してきた彼女が、2022年、鮮やかなカムバックを果たした。シングル『宝さがし』、『エレジー』を発表。2023年に入っても、「Like a Tattoo」、そして、「A Perfect Sky」始め、数々の名曲を共に作り上げてきたスウェーデンのプロデューサー・チーム、バーニング・チキンと組んだ「HANABI Delight」をリリース。次はいよいよニュー・アルバムのリリースを待ちわびていたが、この9月6日、「待望」という言葉はこのためにあると言うべき、新作『Infinity』がリリースされた。そこには休み前に制作された楽曲と、子供としっかりと向き合ってきたこの6年間を反映した日々から生まれた楽曲で構成されている。成熟さと新鮮さ。相反する2つが絶妙なバランスで成り立っていることが、今のBONNIE PINK。8年ぶりとなる全国コンサート・ツアー『BONNIE PINK LIVE 2023 “Infinity”』も開催。新しいBONNIE PINKに逢った。

子育てを経て、歌のテーマは明らかに変わってきていますね。子供ができる前の自分は自分の人生で手一杯だったんですけど、子供ができたら逆にパワーをもらって、何かできることが増えているような気もしているんです

   いつくらいから、音楽活動のリスタートを考えていたのですか?

BONNIE PINK(以下BP) アルバムのリリースとなると前作から11年空いちゃったんですけど、13枚目のアルバムを作ろうとミーティングしたのが3年前ですね。結果、それ以前に書きためていたストックの曲と、子育てがひと段落してリスタートしてから書いた曲と半分ずつぐらいの構成になりました。活動休止前の2015年当時は結婚直後で子供も欲しくて、妊活に本気で取り組まないと年齢的に実現しないかもっていう年齢だったので、1回きちんと休もうと音楽活動に一区切りをつけて。その後、出産、子育ての期間に感じていたのは、自分の想像をはるかに超える幼児期の育児の大変さと楽しさでした。とにかく何もかもが面白いし、日々成長する子供をずっと見ていたい気持ちもあって、当時は自分のフォーカスが完全に子育てに傾きました。そうやって何年か過ごして、子供の成長と共に徐々に余力が出てきて、タイミングを見てライヴ活動を復活させつつ、そろそろ、お待たせしているアルバム作りをやらないとっていう話になって、やっと3年前に動き出した感じですね。その後は1曲ずつやっつけていこうと進めてきて。動き出してから数年かかりましたけど、育児の合間を縫って取り組んできてやっと形になったところです。

   察するに、ファンの方も、「ここまで待っているから、気長に待ちますよ」というスタンスだったのかなと……。活動を再開してくれることが何より嬉しい訳ですから。

BP 自分のキャリアは終わった訳じゃないっていう事実をこのタイミングで示しておく必要があったなと思っていて。実際のところ、「BONNIEは子育てに専念して、もう帰ってこないんじゃない?」と諦めかけていた方もいたのかなと……。

   僕もそう思っていました(笑)。確かに家庭で子育てに専念するのも、ハッピーな生き方ではありますよね。

BP もちろん、家で子供だけと向き合って、それが私の人生っていう生き方も可能なんですけど、子供に何を残したくて、どういうお母さんを見せたいのか?を考えた時に、私が見せるべき顔ってキッチンに立っている顔だけじゃない気がして。娘も6歳になって、いろんなことが認識できるようになってきたんですね。これからの出来事はきっと彼女の記憶に残っていくので、娘の知らない、お母さんが張り切っていた頃の姿をこれから見せていきたいなという想いもあって。実際、娘はコンサートも観に来てくれますし、ラジオから私の曲が流れると「これ、ママの曲じゃない?」と気付いてくれるんです。びっくりするぐらい、私の曲をよく覚えていて、「宝さがし」を口ずさんでくれたりするのですが、それが嬉しくて。娘の中でも何か別枠に私がいる感じが見て取れるんですよね。巷にいろんな曲があるんだけど、ママの曲は特別枠に入れてくれているように見受けられて、「ママの曲、もっと聴きたい!」と言ってくれると、もっと聴かせようと思って本当にパワーをもらっています。ライヴを観に来たら、「カッコ良かったよ。今日の衣装、素敵だったね!」と感想を言ってくれたり、そういうリアクションが嬉しくて、「もうちょっと頑張らないと」と思ったのもリスタートのきっかけになりましたね。

   いわゆる「育休」の前後で、ソングライティングのスタイルは変わりましたか?

BP 子育てを経て、歌のテーマは明らかに変わってきています。子供ができる前の自分は自分の人生で手一杯だったんですけど、子供ができたら逆にパワーをもらって、何かできることが増えているような気もしているんですよね。使命感とまでいかなくても、親は自然とその子供の未来って考えるじゃないですか。歌を通して、この先の未来は明るいよっていう希望なりメッセージを子供に与えたい自分も生まれてきて。なので、この3年で書いた曲は割と「未来を見据えて……」というか、そういう切り口の歌詞が多いんじゃないかなと思います。

   今回の「世界」とか、こういうリリックがBONNIE PINKさんから生まれたということが、すごく感慨深いなと感じますね。

BP 嬉しい! ありがとうございます。

    「Infinity」にしても同様で、今だからこそ書けるリリックという印象を受けました。同名のアルバム・タイトルはどんな感じで決めたんでしょうか?

BP 実は「Infinity」は最後に書いた曲で、今年になってから書いた曲なんですよ。アルバムの中で最も軸になるなって思える曲のタイトルをそのままアルバム・タイトルにしたりすることも多かったんですけど、今回は12曲を作り終えた段階で、何か1曲に絞れなかったんですよね。それで、収録曲のタイトルをそのままアルバム・タイトルにするプランは、いったんリセットして。悩んだ挙句、「聴いてくれる人がいる限り、音楽はずっと続いていく、楽曲は無限に残っていく」というコンセプトにたどり着いて、そこから「Infinity」っていうワードが自分の中で浮上してきたんです。最後にアルバムを代表するような曲を書きたいって思って書いたのが「Infinity」で、この曲にアルバムのすべてが集約されていると思えたので、最終的にタイトルになったという感じですね。

   サビの〈Smile plus smile equals infinity(笑顔足す笑顔は無限)〉、素晴らしいラインですよね。

BP ありがとうございます。子供が生まれてから、ありとあらゆるいろんなことを子供に教えてもらっている感じがあるんですね。子供を見ているだけで、どこからともなく、力が湧いてきちゃうというか。うちの子はすごく社交的で、めちゃめちゃよく笑うし、知らない人にもどんどん話しかけちゃうんですよ。だから娘を見ていると、「この子にリミットはないんだ」と日々感じます。リミッターをかけ過ぎて自分を窮屈にしている大人に比べて、子供は自由で可能性にあふれていていいなという想いから、この曲が出てきたんですけど。煎じ詰めると、「笑ってりゃ、何とかなる。ポジティヴな人にはポジティヴな人が寄ってくる」というテーマもいいなと思って。悲しいことや落ち込むことももちろんあるんですけど、私は極力笑って生きていきたいし、1日の終わりに無理やりにでも口角を上げて、明日も頑張ろうと思うと、その気になって眠りに就けるので、そんなことを歌で言えたらなと思って作りましたね。最初はサビの冒頭の〈One plus one equals infinity(1足す1は無限)〉っていうフレーズを、私の人生に子供が加わって自分の世界がバーンって広がったというイメージで書いたんですけど、プラス「笑顔が笑顔を呼んで、みんなで高まっていく」みたいなことも伝えたくてこのサビができました。常日頃、これからは極力笑って生きていきたいなって思っているのは、娘に悲しい顔を見せたくないっていう気持ちがあるからでしょうね。日中に娘を怒ることはあっても、1日の終わりに、「明日はこんな楽しいことしようね」とか、「明日は何が楽しみ?」みたいな話をしながら寝かしつけをするようにしていて。この「Infinity」には、そういうメッセージも入っている気がしますね。

    2曲目の「世界」から感じるのは、決してポジティヴィティだけじゃないんですよ。シビアでビターな現状と次世代宛のメッセージが表裏一体になっているのが絶妙だなと。〈世紀のヒーローってやつは濁り濁ったコーヒーに浮かぶホイップクリーム〉とか、〈あなたのいる世界は今より少し輝きを取り戻せているかな〉というラインの〈少し〉というフレーズに味わいがあって。

BP コロナ禍の只中で書いていたので、それが反映されています。ミュージシャンに限ったことじゃないですけど、みんながちょっと低迷せざるを得ない時代の中で、どうにか先の光を見つけて何とか生き延びようぜというような気持ちでいたので、ああいう表現になりましたね。さらに言うと、子供たちはこれからの時代を生きていくのだから、私たちはもっと先を見据えて、次の世代のことも考えないと、という使命感も初めて湧いて。何かその辺の感情が相まって、この曲になった気がしますね。

   すごく沁みます。先日、花火を観に行った際に、「HANABI Delight」を聴きつつ、観ていました。

BP 嬉しい! その聴き方、正解です! 記念すべき、正解第1号(笑)。いつか、「HANABI Delight」が花火大会で使ってもらえたらなとは思っているんですけど。

    花火大会のBGMってアッパーな曲が多いんですけど、「もうちょっと、花火はゆったり観たいよ」という感覚があって。僕的には、このBPMで花火が観たいんです、まさに。

BP 嬉しい、そう言ってもらえて。分かってもらえる人がいて、作って良かったなと思えます(笑)。

   今回のアルバムでは、長年の盟友と呼ぶべき、スウェーデンのプロデューサー・チーム、バーニング・チキンとの再会もありました。当然、データをやり取りしつつのレコーディングだった訳ですよね。

BP 彼らと仕事を始めた当初は、スウェーデンまでレコーディングに行っていたんですけど、いつだったか、リモート・レコーディングにせざるを得ないタイミングがあって。もしかしたら「A Perfect Sky」(2006年)のレコーディングの頃だったかも……。

   そんな昔ですか?

BP ちょっとプログラミング要素を増やしたアルバム『Golden Tears』(2005年)をスウェーデン勢と作った後だったので、打ち込み要素と生音の面白さをミックスして曲を作るのが楽しくなってきていたタイミングで、資生堂「ANESSA」のCMソングのお話を頂いて、それが「A Perfect Sky」として結実したんですけど。今思うと、あれはアレンジャーがバーニング・チキンじゃなかったら、あんなスピーディーにトラックが作れなかったなと思いますね。何しろスケジュールがタイトで、物理的にスウェーデンまでレコーディングに飛んで行っている時間がなくて、(他に選択肢はなく)リモートでやっている中で「あ、できた!」という感じでした。だからリモートでデモを先に送ってアレンジを考えておいてもらい、あとでスタジオにヴォーカルのレコーディングをしに行く、という手法は「A Perfect Sky」の頃から始めていたんです。今回のアルバム制作途中にコロナ禍でスタジオに入れない状況になっても、私的には今までと制作プロセスはほぼ一緒だね、という感覚ではあったんですよね。

   僕的には「HANABI Delight」のリリックのポイントは、ブリッジの〈枯れてしまったものは返らないけど〉というフレーズだと思っていて。その上で、〈君となら大輪になって夜空に咲き続けるよ〉といういう締めが味わい深くて素晴らしいなと。これは、今の年齢じゃないと書けないラインですよ。

BP ありがとうございます。アレンジの話をすると、ダイナミクスを激しく付けるような曲の方が彼らとやる時はハマる気もしていて。曲調は違えど「HANABI Delight」はその流れを汲んでいるような気がしているんです。だから、「A Perfect Sky」が好きな人には、「HANABI Delight」もしっくりくるんじゃないかなとは感じていますね。

    決めて欲しいところでパーンと決めてくれるという、花火におけるスターマインのような爽快さがあるアレンジというか……。

BP 爆発力のあるサビというか、彼らはああいうのを作るのがやっぱり上手なんですよね。

    ラスト・ナンバーの「エレジー」もお気に入りで。ずっと自分の心の声と向き合ってソングライティングしてきた方が、今の自分と向き合って紡いだリリックのリアルな感じが刺さりました。〈まだまだ出来ることがある。私は私の時代で〉というライン、特に素敵です。

BP ありがとうございます。ミュージシャンに限らず、いろんなジャンルで若手がどんどん出てくるじゃないですか? それを「世代交代」と言う人もいれば、その一方で、40代、50代、60代になって初めて気付けることもあるんじゃないかな?という想いがあって。別に若作りする必要はないけれども、加齢ということも、それに付随した自分の経験も表現の一部にして、発信は続けていきたいなっていう気持ちが強かったので(このリリックに繋がりました)。この曲は、長崎と広島の被爆体験をされた方のドキュメンタリー映画のエンディング・テーマとして書いた曲で、語り継ぐことの大切さが1つのテーマになっていて。実際に被曝を体験した方たちがもう高齢になられて、伝える側の人たちが減っている現状はあるんですけど、被曝体験を聞いた人たちがまた次の世代に伝えることもできる。それを続けていこうというメッセージも感じて、それを自分の人生とも重ねて歌詞のイメージを広げていったんです。私は私でまだまだやりたいこともあるし、若い時みたいに飛び跳ねることはできなくても、今の年齢で表現できることもあるし、それがどこかで誰かに響いてくれたらいいなっていう願いもあって。その誰かは娘なのかもしれないし、それを受け取った娘が自分の子供に何かを伝えてという風にメッセージの連鎖が続いてくれたらいいなと思えたので、そういう色々な感情がないまぜになってこの曲になった感じですね。

   これもまた、今だからこそ書ける歌詞ですよね。ところで、ずっとBONNIE PINKを聴いてきたキャリアの長いファンも多いと思うんですけど、サブスクでBONNIE PINKを発見した新しい世代の方がいっぱい増えていると思うんです。そうすると、リスナーの世代もどんどん幅広くなっている訳で……。

BP まさに、最近それをちょっと感じていますね。全然リアルタイムの世代じゃないはずなのに、「A Perfect Sky」を若い人がカヴァーしてくれたり、そういう話を時々見聞きすることが増えたので。単に古いとか新しいとかじゃなく、いつの時代の音楽もみんな並列に聴ける環境があるのは、今の若い世代の方にはある種良い時代だなと思うんですよ。

   実際、僕の周りでも、最初は「A Perfect Sky」から入った20代のリスナーから、「1stアルバム、最高です。こういうことをやっていたんですね」みたいなリアクションを聞くことがあって……。

BP 私も若い頃に、ハマったアーティストが1人いたら、その人のルーツ・ミュージックを掘り下げて聴いていたのを思い出します。だから、そうやって掘ってもらえたり、どういうルートであれ、若い世代の方がBONNIE PINKにたどり着いてもらえたら嬉しいですね。

『Infinity』
〈Pinxter〉
発売中

INFORMATION OF BONNIE PINK

12月9日〈ビルボードライブ大阪〉、12月13日〈ビルボードライブ東京〉にて、『BONNIE PINK Billboard Live 2023』の開催が決定!

 

【WEB SITE】
www.bonniepink.jp

【Instagram】
@bonniepink_official
@BONNIEPINK_staff(スタッフアカウント)

【X】
@BONNIE_official

【YouTube】
https://www.youtube.com/user/bonniepink

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