CULTURE

田中知之(FPM)が映画『アイスクリームフィーバー』音楽監督を手掛け、サウンドトラック・アルバムをリリース

AUG. 31 2023, 11:00AM

対話/山崎二郎 構成/吉里颯洋

アート・ディレクター、千原徹也が初監督をおこない、吉岡里帆・主演、川上未映子・原案で7月に公開された映画『アイスクリームフィーバー』。その音楽を田中知之(FPM)が担当した。田中と千原は元々、ユニット、トーキョーベートーヴェンを結成し、4枚のシングルをリリースしてきただけに必然の組み合わせ。が、田中は90年代初頭、サウンド・イムポッシブルとして、地元・京都のクラブで映画のサウンドトラック盤をDJプレイすることが活動の最初だっただけに、30数年経ち、自身が丸々一本の映画の音楽を務めるということが、ずっと、キャリアを追ってきた者としては、非常に嬉しいアクション。さらにオープニング・テーマ曲「THEME(PIANO)」、タイトル曲「ICE CREAM FEVER」、出演した詩羽(水曜日のカンパネラ)をヴォーカリストに迎えた「LA LA LA LA feat. 詩羽」他、2020年4月、FPMでない、初の本名名義で配信リリースの「Alone」、トーキョーベートーヴェン名義の未発表ヴァージョンと全17曲を収録のサウンドトラック・アルバム『SOUNDTRACKS FOR ICE CREAM FEVER』もリリースされたのだ。

まさに、今の自分が作れる音楽のショー・ケースみたいなアルバムに仕上がっていますよね

   キャリアのスタート時点でサウンドトラックを書けるスキルがあった田中知之が、ついに正式に映画のサントラを手掛けることになったというニュースがすごく嬉しくて。

田中 選曲も含めた映画関連の仕事は実は一番やりたかったことだし、ずっと前から「やりたい」と言ってきたこともあって、すごく嬉しいですね。過去『オースティン・パワーズ:デラックス』や『セックス・アンド・ザ・シティ』など様々な映画やらドラマに楽曲を提供してきたことはあったのですが、アート・ディレクターの千原徹也くんから、「僕がこれから撮る映画のためのサウンドトラックを作ってください」というオファーをいただいて。彼の念願だった映画作りの夢をサポートしたい気持ちも当然あって、「僕ができることなら何でもやるよ」と、彼と再会してからはそう伝えていたんですね。「再会」と言ったのは、実は2001年とか2002年頃に、彼が京都のレコード屋さんで僕に声をかけたのが初対面だったみたいなんです。その時にちょうどカヒミ・カリィさんが僕の曲を歌ってくれた「すべてをゆらして(On A Chair)feat. Kahimi Karie」の10インチ盤を差し出されて、それにサインをしたらしいのです。そこから20年近く経って、千原君ととある現場で会って、僕が「はじめまして」と挨拶したら「いや、初めてじゃないんですよ」と。そんな原点があるもんですから、すぐに意気投合して、2020年に、彼とトーキョーベートーヴェンっていうユニットを始めたんですけど、今にして思えば、それも彼の映画で僕が音楽を担当するイントロダクションみたいな出来事だったなと。実は千原くんも重箱の隅を突くようなマニアックなセンスでアナログ盤のサントラを買い集めていて、映画音楽には彼も一家言あるんですよね。だから、そういう部分では、このサントラをどうしても盤として形に残したいなっていう想いがあったので、僕が関与してない主題歌や挿入歌以外の、楽曲全17トラックをまとめてCDとしてリリースできたのは大きなことでしたね。

   サウンドトラックに対して造詣が深い千原監督からは、どんなスタイルでオファーがあったんでしょうか? 詳細かつ、具体的なオーダーがあったんですか?

田中 実情を打ち明けると、台本をもらってすぐに、まだ撮影も開始してない状況の中で、僕はもう音楽制作を始めたんですよね。言わば「先出しじゃんけん」ですね。自分で想定したいろいろなシチュエーションに合わせた曲作りをしていって、最終的には千原くんがそれを自由にそれぞれのシーンにはめたのが本作のサントラ制作の作り方で。つまり、「こういうシーンがあるから、それに合わせてこういう音楽を作ってください」っていう具体的なオーダーをもらうより先に、自分がこの映画の中で鳴るべき音楽を想定して、考えうる様々なシチュエーションを限定せずに、多種多様なタイプの音楽を作っていったんですよ。時系列の話をすると、撮影もほぼ終わって、いざ音楽を映像にはめていく編集作業が始まる時期には僕はもう全ての楽曲を送り終えていたので、彼はそれを自由に映像にはめていくというスタイルでしたね。そのエディットの手腕がもう実に見事で、どうしても彼の中でここだけはうまく曲がはまらないとか、このシーンにこういう新たな楽曲をつけたいといったリクエストは1ヶ所か2ヶ所だけだったんです。それが実現したのは、ひとえに彼のセンスだと思うんですよ。もちろん、いくつかの修正依頼に対応したり、「どうしてもここに別の曲が欲しい」っていうリクエストがあれば新たに曲を作ったりもして、多少の衝突もありつつも、最終的にはちゃんと着地できました。試写のタイミングで、自分で作った音楽が初めてちゃんと大きな画面の映像にハマった状態を目の当たりにしたんですけど、完成した映画の実像に触れた時には自分が音楽を作った事実を忘れるぐらいの衝撃があって。音楽担当として言うなら、この映画の音楽は、単にスタイリッシュであるとか、90’sのオマージュであるとか、そういうものを超えたものにしたかったんですね。だから僕は(映画の舞台である)90年代っぽいテイストにこだわらず、自分の中では全く新しい音響を目指したところはあって。「女性のスキャットで」とか、「ホーンが入るキメを入れて」といった、曲ごとの細かいリクエストには応えつつ、「あ、オマージュね」っていう感じで捉えてもらいたくなかったので、そういう部分では、完全に2023年の音響、音楽というところにあえてこだわって作りました。仕上がった『アイスクリームフィーバー』は単なる渋谷系オマージュとか焼き直しみたいなことではないところに着地していて、大画面で初めて観た時に映画として本当に良い作品だと思いました。

   そうすると、通常の映画音楽の制作とは逆のプロセスで、先に田中さんが作った音から千原さんがインスパイアされて、カット割りとか映像の編集作業を進んでいったということですよね。かなりレアな、面白い手法ですよね。

田中 実はこの「先出しじゃんけん」のメリットを『東京2020オリンピック』開会式/閉会式、『東京2020パラリンピック』開会式の音楽監督の仕事の際に覚えて。「後からいろいろとやかく言われるより、まずは先に音楽を作って渡しちゃった方が望む方向に誘導できるんじゃないか? そっちの方が自分のやりたいこと、真意って伝わりやすいのでは?」という考えに至って。もちろんそれが奏功する場合と全く功を奏さない場合があるんですけど、クライアントからオーダーをもらうより先に、自分のアイデアを出す方法論は、そこそこ有効なのかなとは未だに思ってますね。

   『アイスクリームフィーバー』の映画を観ていて、音楽のグルーヴ感が途切れずにずっと続いてる感じがあったんですけど、先に音楽ができていたというお話を訊いて、合点がいきました。

田中 本作のように、音楽にリスペクトのある映像作家の人たちとの仕事では、我々音楽家に自由に音楽を作るための作業の余白みたいなものを与えてくれることもあって。ただ、これまで携わってきたCM音楽だと、どうしても映像ありきの前提があって、映像に音楽が極力寄り添っていくスタンスで作るのがスタンダードなんですよね。ただ、今回の仕事とは真逆のスタイルになりますけど、クライアントから完全な状態の音楽をストリクトリーに要求される仕事のスタイルも、今となっては全然嫌じゃなくて、それはそれで面白いと思うんです。

   日本で一番ハードルの高い仕事を完遂したからこそのコメントですね。台本に合わせて曲を書けば各々のシーンにフィットする音楽を作れるスキルはあるのに、それぞれの曲がどの場面で使われるのか分からないまま、あれだけの曲を作ったことがすごいなと。

田中 この方法論を選んだ理由として、「自分が台本から読み解いたものが正解とは限らない」という考えがあるんですよね。なぜなら、僕の中ではものすごくシリアスなピアノが鳴っているけど、千原くんの中では陽気なチャールストンが鳴っている可能性もある訳で。だから、必要とされる楽曲がどんなものなのか何も分からない状況で、ただ、「この映画の中で鳴って欲しい、サントラ盤になった時にこんな楽曲が詰まっていたらすごいんじゃないか」みたいなことを想像しつつ、ヴァラエティに富んだ楽曲を闇雲に作ったっていう感じです。それを彼が拾い上げて、いろんなトライ&エラーを繰り返しながら映像とフィットさせていったのが、この映画ならではの制作プロセスだったのかなと。

   ひょっとしたら、千原監督が生粋の映画監督じゃなく、 アート・ディレクターゆえに、素材がいろいろあった方が自分の中であれこれ組み合わせたりとか、インスピレーションを形にしやすいっていうことがあったのかなと。

田中 確かに、彼にはこのスタイルが合っていたかもしれないですね。結果的に、僕の音楽によって映像のエディットが導かれたのなら嬉しいです。

   サントラ、ずっと仕事をやりながら聴いていましたけど、すごくいいんですよ。全編通して流れるグルーヴ感は一定したものがあるんですけども、これまでのFPMの作品同様、すごくチア・アップしてくれますし、仕事のBGMにもしっくりくるというか。それで思ったのは、やっぱり、このアルバムって2023年の今のFPMの作品なんですよね。「サウンドトラック」っていう枕言葉を付けた上で聴けば確かにその通りなんですけど、今のFPMの作風を1枚のCDにコンパイルした最新作としても楽しめるなと。さらに言うと、サントラならではの隙間感があるゆえに、聴いていて感性がすごく活性化するのがこのアルバムの魅力で。

田中 ありがたいですね。それはまさに言い得て妙で、映像があってこそ完結するサントラの魅力、本質っていうのは、まさにそういうことだと思いますよ。おっしゃる通り、サウンドトラックという外注の仕事であっても、この作品が今の自分が作れる音、作りたい音であることには間違いないと言えますね。外注の仕事をやっていく中では、例えば自分の手札じゃない音っていうのも作ることが多い訳ですよね。このアルバムで言えば、ヘヴィ・メタルみたいな1曲「TAKAKO’S FAVORITE」はまさにシチュエーションに従った音楽ではあったんですけど、それ以外は今の自分が作りたい、作れる音でまとめていますから。完全にアップデートした今の自分のスタイルで、例えばヴォーカル・トラックやもう少し詳細なディレクションをさらに加えていけば、自分の新しいアルバムになり得る「種」みたいなものではありますね。外注のサントラの仕事とは言え、FPM名義の作品と全く違う感性で作られたものではないので、まさに、今の自分が作れる音楽のショー・ケースみたいなアルバムに仕上がっています。さらに言うなら、映画音楽こそが自分のルーツであるだけに、20年越しのご縁が改めて繋がってこの仕事ができたのは、不思議な感じがしていて。20年前に、千原くんと京都のレコード屋の店先で出会って自分のレコードにサインした行為が、20年後に完成する本作のサントラの契約書だったんじゃないかっていう話になっているんですけど。

   一部界隈では有名な、オカルト体質を見事に体現されているという(笑)。

田中 オカルトですよ、まさに。結局、お話した内容を総括すると、僕のキャリアは全部がオカルトなんだなと思っていて(笑)。「音楽なんて」とか、「出会いなんて」とか、いくら語ったところで結局はロジカルな話にはなり得なくて、オカルトとして理解しない限り、そこまで辻褄が合ってしまうことがおかしいですから。だから、自分の音楽人生において、人智を超えた力が何かしら働いていることは常に意識しています。

『アイスクリームフィーバー』
監督/千原徹也
原案/『アイスクリーム熱』川上未映子〈講談社文庫〉(『愛の夢とか』)
音楽/田中知之
出演/吉岡里帆、モトーラ世理奈、詩羽(水曜日のカンパネラ)、安達祐実、南 琴奈、後藤淳平(ジャルジャル)、はっとり(マカロニえんぴつ)、コムアイ、新井郁、もも(チャラン・ポ・ランタン)、藤原麻里菜、ナツ・サマー、MEGUMI、片桐はいり、松本まりか、他
全国公開中

©️2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会

 

【WEB SITE】
icecreamfever-movie.com

『SOUNDTRACKS FOR ICE CREAM FEVER』

発売中
〈Never Ever Recordings〉

INFORMATION OF TOMOYUKI TANAKA

9月8日〈東急プラザ表参道原宿5F〉にて開催のイベント『アイスクリームフィーバー特別上映会』に出演。 チケット情報他、詳細はwww.asoview.com/item/ticket/ticket0000022920まで。

 

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