CULTURE

加藤弘士と、山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」第3回

AUG. 21 2023, 6:00PM

構成/吉里颯洋
イラスト/早乙女道春

『スポーツ報知』編集委員で、ベストセラーとなった『砂まみれの名将―野村克也の1140日―』著者の加藤弘士と、『ステッピンアウト!』編集長の山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」がスタートです!

欲しいCDを買いたいがために、塾講師と家庭教師のアルバイトに費やした夏休みまるまるの時間は何だったのか?っていう気持ちになりますよね(加藤)

加藤 二郎さん、この話、聞いてください。この春、ついに我が家のCDを全部捨てたんです!

山崎 それは大きな決断でしたね。

加藤 3階建ての一戸建てで家が狭いこともあるんですけど、結局、サブスクで聴ける曲はサブスクで聴くみたいなところがあって。それを考えると、CDを所有し続けるのは場所を取るかなというところで決断に至りました。例えばジャックスのボックス・セットとか早川義夫さんのサブスクで聴けない作品は残したんですけど、あとは全部捨てたんですよ。これは自分にとって本当に大きな出来事で。多分、二郎さんもそうだと思うんですけど、我々の時代って、学生時代にバイトするのはCDを買うためだったじゃないですか? それからの歴史を思えば、思い出は尽きなくて。例えば、ポール・ウェラーの2ndアルバム『Wild Wood』は、1993年、大学1年の時に六本木の〈WAVE〉で紙ジャケで買ったんですが、そういう思い出が、1枚1枚にあるんですよね。でも、この先ずっと、ノスタルジーに引っ張られ続ける自分もどうなんだろう?と思って、ついにCDと決別しました。ただ、あれほど苦労して集めたCDを処分した俺って、これから先、音楽を語る資格があるのか?っていうジレンマもありまして。確かにサブスクは便利なんですけど、大きく物事を変えてしまった感じがしますよね。

山崎 結局、CDを捨てるってことは、音楽というコンテンツをCDというモノとして所有することから決別するってことですよね。

加藤 そうなんですよね。例えば、これまでは、友達が遊びに来たときにCDの棚って「これが僕です」みたいに示せる、アイデンティティそのものだった訳ですよね。利便性重視で決断したとは言え、コレクションのすべてを結構な量の燃えるごみとしてごみ捨て場に出したら、翌日には収集車が来て綺麗になくなっているんですよ。「あぁ、俺の青春の宝物が消えるのは一瞬なのか」と。この決断は果たして正しかったのかどうかっていうのは考えるところで、「みんな、どうしてんのかな?」みたいなことは脳裏をよぎりましたね。

山崎 僕はもう、ほぼ捨てました(笑)。欲しい人にあげたりとかして。

加藤 えー、本当ですか! 二郎さんは絶対捨てない人だと思っていました。捨てましたか! そこに至る葛藤はありませんでした?

山崎 結局、CDからダビングして「iPod」に音源を入れるような時期を経て、今はサブスク時代になって、結局、CDで聴く機会は全くないんですよね。サブスクでCDの音源はほとんど聴けるっていう状況になったので、データに取り込んで、捨てようと決断しました。

加藤 とにかく、サブスクが超便利で、あの頃、お金との兼ね合いで〈タワレコ〉で買い逃したアルバムがたやすく聴けちゃう訳じゃないですか? と考えると、欲しいCDを買いたいがために、塾講師と家庭教師のアルバイトに費やした夏休みまるまるの時間は何だったのか?っていう気持ちになりますよね。テクノロジーの進化と自分の郷愁との折り合いの付け方に、揺れ動いた2023年の春でしたね。せっせとCDを買い集めていた当時を思い出すと、ライナー・ノーツが読みたくてCDを買う、みたいな気持ちもありましたね。

山崎 洋楽のアルバムなら、歌詞の日本語訳をどうしても読みたい気持ちもありましたよね。

加藤 日本語訳、日本語訳、日本語訳!(笑)。これまた、おっちゃん談義になっちゃいますけど、今もそういう歌詞を読みたい若者っているんですかね?

山崎 日本語訳ではないですけど、サブスクで聴けば、スマホの画面に歌詞が表示されるじゃないですか。

加藤 なるほど、印刷された歌詞カードすら必要ない訳ですね。うわぁ、今どきの若者って、下敷きに歌詞を書いたりしないんですかね?

山崎 下敷きすら使っていなかったりして(笑)。かつては貸しレコード屋で借りて、歌詞カードをコピーしたりとか、そういう時代もありましたけど(笑)。

加藤 音楽との向き合い方も変わってきている中、若い世代の側に立って言うと、サブスクを通じて、あらゆるジャンルの音楽のアーカイヴに瞬時にアクセスできて、旧譜や新譜の区別なく楽しめる状況は豊かな時代になったとも言えるってところですよね。ただ僕は、時代は変われど、やっぱりミュージシャンには儲かっていて欲しいんですよ。プロ野球選手は高収入だからこそ、みんな目指すじゃないですか? アマチュアの青少年に、プロ野球選手になりたいっていう夢を与えていますし。やっぱり、ロック・ミュージシャンがブレイクできたら「キャデラックに乗れる」みたいな夢の部分が残っていて欲しいっていうか、プロとして音楽を生業にするっていうことは、一攫千金のシステムであって欲しいなって。

山崎 浜田省吾さんの表現を借りるなら、〈最高の女と ベッドでドン・ペリニヨン〉と(笑)。

加藤 まさに、「MONEY」っていう(笑)。

山崎 聴いた当時、〈ドン・ペリニヨン〉って何なのか分からず、調べました(笑)。

加藤 今みたいに検索できないですからね。そう言えば、川本真琴さんのサブスクに関するコメントが話題になったのがきっかけで、川本さんの曲を聴いたんですよ。今さらながら、彼女、天才だなと思って。こういう才能のある方がミリオン・ヒットを出して売れていた時代って、やっぱり良かったなって思うんですよね。

INFORMATION OF HIROSHI KATO

『スポーツ報知』編集委員。『スポーツ報知』公式『YouTube 報知プロ野球チャンネル』のメインMCも務める。

 

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