CULTURE

加藤弘士と、山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」第2回

AUG. 14 2023, 11:00AM

構成/吉里颯洋
イラスト/早乙女道春

『スポーツ報知』編集委員で、ベストセラーとなった『砂まみれの名将―野村克也の1140日―』著者の加藤弘士と、『ステッピンアウト!』編集長の山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」がスタートです!

やっぱり、音楽ってマウンドに立つとか打席に向かうっていう場面において、選手や観客のアドレナリンを出すための大きな役割を果たしているんですよね(加藤)

加藤 野球好き同士でお酒を飲んだ時につい話しちゃうトピックとして、「もし自分がプロ野球選手だったら、登場曲を何にするか?」っていうのがあって(笑)。曲が流れる冒頭の数10秒で、自分の個性をいかに出すか?って、ついつい考えちゃいますね。

山崎 加藤さんなら、何を選びますか?

加藤 何だろうな?

山崎 じゃ、僕からいいですか。流したいのは、大滝詠一さんの「恋のナックルボール」。

加藤 あぁ、素晴らしいですね!(笑)。盛り上がりますね。たまらないですね! こういう時の選曲には、その人の思想が宿りますよね。僕は何だろうな? インストですけど、1975年に公開された『県警対組織暴力』っていう深作欣二監督の映画のテーマがあるんですね。今、思いつくのはその曲かな。作曲した音楽監督の津島利章さんは〈パリ音楽院〉で音楽を学ばれた巨匠ですけど、ただ、その曲調、曲の持つ意味と、野球という健全なるスポーツとしての整合性っていうのがなかなかバランス取れない気がして。いざ1曲選ぶとなると、難しいですね。どんな曲なら相応しいのか、あれこれ夢想しますよね。

山崎 「恋のナックルボール」を使うなら、歌じゃない箇所がいいなと思っていて。

加藤 登場曲のことで1つ思い出話があるんですけど、菊池雄星投手(現トロント・ブルージェイズ)が埼玉西武ライオンズ時代に、「矢沢永吉さんの曲、いいぞ!」と勧めたことがあって。そうしたら、本当に気に入ってくれて、「加藤さん、今年は永ちゃんの『止まらないHa~Ha』を自分の登場曲にしたいと思うんですよ」って打ち明けられて。「いいね!」なんてリアクションしていたんですけど、彼いわく、スタジオ・レコーディングのヴァージョンじゃなくて、「行くぜ!行くぜ!行くぜ!行くぜ!」っていうMC入りのライヴ・ヴァージョンを使いたいっていう話をしてくれて。雄星がマウンドに上がる際にライヴ・ヴァージョンの「止まらないHa~Ha」が流れるようになると、ある日から、レフト・スタンドのライオンズ・ファンたちが曲に合わせてタオルを投げ始めたんですよね。それを記者席から見ていたら、僕が雄星くんに永ちゃんを勧めたからこの現象が起きているのかとなかなか感慨深くて。

山崎 しかも、ライヴ・ヴァージョンを選曲したセンスも素晴らしいじゃないですか。

加藤 そこですよね(笑)。ライヴ・ヴァージョンをわざわざ使うって、あんまりないですよね。驚いたことに、球団が永ちゃんのライヴよろしく「雄星のタオルをみんなで飛ばそう」というコンセプトで、新しいデザインのタオルを開発するようなことが実際に起きまして。ささやかながらムーヴメントが起きたことに、喜びがありましたけどね。やっぱり、音楽ってマウンドに立つとか打席に向かうっていう場面において、選手や観客のアドレナリンを出すための大きな役割を果たしているんですよね。

山崎 僕が一際センスを感じる登場曲は、同じくライオンズの栗山 巧選手が使っているクレイジーケンバンドの「あ、やるときゃやらなきゃダメなのよ。」ですね。

加藤 あれはいいですよね! なんか栗山選手の野球に対する姿勢があの曲に出ていますよね。歌詞を聴いていると、「あぁ、そうだな」と思って、納得してしまうところがあって。

山崎 あとキャプテンシーというか、ご本人の責任感が見事に〈やらなきゃ、ダメなのよ〉というフレーズに重なるところがあって。

加藤 おっしゃる通りですね。ジャイアンツ総合コーチの川相昌弘さんが現役の時に、浜田省吾さんの「BASEBALL KID’S ROCK」をすごく気に入って登場曲に使っていて、「浜省、〈東京ドーム〉に鳴り響く」っていうのはなかなかいいシチュエーションだと思っていましたね。

山崎 この話題、いいですね。僕が登場曲を選ぶなら何だろうな?って、確かに夢想しました。ちらっと脳裏をよぎった曲が実は他にもありまして、ジェームス・ブラウンの「Sex Machine」の〈チャッチャッチャッチャッ〉って盛り上がるフレーズ(笑)。

加藤 いいですね! 急に上がって、〈ゲロッパ!ゲロッパ!〉ていう(笑)。ただこれもまた、いざ実現となると、曲名が曲名なだけに、コンプライアンスの問題が浮上してくるのかと(苦笑)。ただ、選手それぞれが自分のテーマ・ソングを流して打席に向かう、マウンドに上がるっていうのは、学生野球や社会人野球ではできない、プロならではの演出ですし。

山崎 歌モノを普通に流しても中途半端な箇所でプツッと切れちゃうじゃないですか。あれはちょっといただけない気がしていて。どうせ使うならフェードイン、フェードアウトに適するような箇所だと思うので、間奏の部分なり、インストの部分だなと思って、自分が選ぶならそこにこだわりたいですね。

加藤 確かにそうかもしれないですね。かつて、長渕 剛さんの「とんぼ」が流れて、清原和博さんが打席に入ってくると、登場曲が流れ終わった後でもジャイアンツの応援団がその続きのコーラス部分を合唱していましたよね。その合唱が終わらないので、清原さんは初球に手を出せないみたいな話があって(笑)。当時痛感したのは、音楽って、あれだけ多くの人たちに一体感を生むんだな、すごいパワーだなってことでしたね。

INFORMATION OF HIROSHI KATO

『スポーツ報知』編集委員。『スポーツ報知』公式『YouTube 報知プロ野球チャンネル』のメインMCも務める。

 

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