CULTURE

歌手デビュー30周年を迎える坂本真綾が、5月21日にシングル『Drops』をリリース

MAY. 21 2025, 11:00AM

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文 / 上野綾子

今年、歌手デビュー30周年を迎える坂本真綾。本日、30周年イヤーの幕開けとなる、ニュー・シングル『Drops』がリリースされた。同名の表題曲は、放送中のアニメ『ある魔女が死ぬまで』のオープニング主題歌でもある。

 

メモリアルな作品で坂本が作詞を託したのは、デビュー曲『約束はいらない』から長い関係を築いてきた岩里祐穂。プライヴェートでも折々で互いの近況を共有し合い、(冗談も交えてと坂本は話すが)時に“先生”と呼び作品の制作の相談もしてきた。それぞれの道で数々の名曲を生み出してきた2人が、坂本の節目のタイミングでまた交錯することになる。背中をそっと押すような優しさと未来へと続く光を感じさせる歌詞は、長年にわたり物語を紡いできた坂本へのメッセージにも感じられ、深い愛情が滲んでいた。一方で新たな縁も。作曲は、初タッグとなる気鋭の作曲家・清田直人が担当。馴染みある響きに新たな風が吹き込み、彼女の表現の幅をさらに押し広げる。

 

カップリング曲「Twilight」では、坂本と岩里が28年ぶりに共作詞を手掛け、川崎智哉が作編曲を担当。エレクトロなサウンドが印象的なこの楽曲には、これまでとは違う彼女の一面が詰まっている。

 

発売中のバァフアウト!5月号本誌に続き、WEBでは、30周年イヤーに突入した坂本の、これまでの軌跡についても伺った。

活動している期間が長いからこその縁もあって、今すごく面白いです

   『Drops』の制作の始まりはアニメのタイアップのお話を受けてからですか?

坂本 そうです。濁川 敦監督から、こういうオープニングのイメージがあるというお話を伺って、それから曲を集めました。その後、歌詞は自分で書くか誰かに書いてもらうかを考えて、今回は岩里さんに書いていただきたいなとお願いしたんです。デビュー曲からお世話になっているので、節目節目でお願いしたい方なんです。私にとっては師匠のような存在で。

   過去のイヴェントでは“先生”と呼ばれていましたよね。

坂本 (笑)それはちょっとおふざけなところもありますが、作詞家として大巨匠でもある岩里さんは、若い時からご一緒してきて、もう親戚のお姉さんくらいの距離感なんです。事あるごとに食事に行って近況報告をして。岩里さんが作詞をするにあたって考えていることや、最近気になっていることを聞いたりする中で触発される部分ってすごくあって。公私共に本当に大切な存在です。私が書くものも、常に見てほしい相手でもあります。そんな方に作詞をお願いしたのも、自分が16歳でデビューした時から知ってくださっている方であり、年月とともに変わったり変わらなかったりする私を見て、今の私にどんな歌詞を書いてくださるのかなという興味もあって。もちろん、アニメのオープニングですから、作品に寄り添っていただく部分もありますし、実際岩里さんから「脚本を読みたい」というお声もあったので、読んでいただきました。そんな岩里さんに書いていただいた歌詞を読むと、想像以上に力強くて。私が想像していたパーソナルなものより壮大で、包み込むような歌詞に感動しました。

   今回のアーティスト写真やジャケット写真もそうですが、坂本さんには青色のイメージがあって。坂本さんがまず歌詞を書き、岩里さんに一部アドヴァイスをもらいながら共詞したというカップリング曲「Twilight」の歌詞も〈空色 水色〉と始まり、青にまつわる言葉がたくさん出てきます。青には思い入れがあるのでしょうか?

坂本 好きな色ではあるかもしれないですね(笑)。グラフィックやグッズなど、ブルー系の寒色を選びがちだなという自覚はあって。歌詞の青色はたまたまなんです。あの時期、変な時間に起きちゃうことが多くて、起きても「まだ夜か」みたいな。そんな眠れない時に羊を数える代わりに、無限にありそうな青色を思い出しながら眠れない自分をごまかしていく感じで。実体験をただ書いているだけなんです(笑)。詞に書き起こすと、青って本当にいろんな呼び方があるんだなと気付かされましたね。

   そこで色が浮かぶっていうのが面白いですよね。

坂本 「カタカナ呼びもあるな〜!」と発見したり、楽しくなっちゃって逆に眠れない日もあったくらいで(笑)。鎮静効果というか、興奮を鎮める色だと聞いたこともあるので、眠れない時に包まれた方がいい色なのかなとも思ったりしますね。

   この曲はどんな流れで岩里さんと作詞を一緒にとなったのですか?

坂本 元々、1人で書いていた詞だったんですが、どうも自分の中でしっくりこないなと感じていた時に、普段はないことなんですけど、行き詰まり過ぎて岩里さんに見てもらいまして。岩里さんに「どう思いますか?」と相談したら「全然良いじゃん! このまま進めなよ!」と背中を押してくれて。「こういうことが言いたいんです」と伝えたら「言いたいことは分かるよ」と共感してもらえたので、書けていなかったパーツの部分を共作という形で書いていただいたという経緯で。

   この歌詞を書くに至ったきっかけは別にあったのですね。

坂本 そもそもはカップリング曲として自由に書いて良かったんですけど、曲から受ける都会的でスピードのあるサウンドが高速道路を走っている車のような感じがして。そこに私が最近感じている、急かされている感覚を乗せてみようと思ったのがきっかけです。何もかもが高速な世の中で、今この道を降りたら、ただただ置いていかれるだけかもしれないという恐怖感、みんながあっちが答えだと言っていることに対して、本当にそうかなと思いながらも、ずるずるそっちに向かってしまう自分とか。そういうものを高速道路と重ねて書きたくて。と同時に、この曲はコーラスが重なってくる作りなので、その言葉をはめるのも難しくて。1人の人間の中に、天使と悪魔みたいな相反する存在がいて葛藤している、そういう風になればいいなと思っていました。伝えたい言葉を選ぶ行為って感覚的なもので、共感するのは難しいと思うのですが  ある部分で「ここは、なんかこの言葉じゃないんですよね」と、これかな?あれかな?と5個くらい岩里さんに提案したところがあったんです。「この中だったらこれがいいんじゃない?」と言ってもらえたのですが、翌朝メッセージがきていて。「夜中にこれ思いついた!」とピッタリのフレーズが届いたり、パズルを一緒に解いていくような感じでした。いつも詞を書く時は1人だったので、2人で同じパズルを解けるんだと、それがすごく楽しかったですね。

   『Drops』が36枚目のシングルだと聞いてその歴史の長さに驚きました。今年は30周年イヤーですが、坂本さんはこれまで歩んできた道のりを振り返ったりすることはありますか?

坂本 周年という機会はやはり色々振り返ることになりますよね。「ついこの間25周年をやった気持ちなのにな」とか、なんなら20周年も少し前だという感覚なんですけど(笑)。でも、なんとなく5年おきくらいに振り返ると、25年と30年で現在地はかなり違うなと感じますね。それと、純粋に30周年という年月がすごく感じられて。長い年月続けてきたんだなという実感と、デビューしたのが16歳で特別な体験を色々してきたし、楽しくて一生懸命やったなということと  特に若い頃はみんなそうだと思うんですけど、高校生活の365日を全部覚えているわけではないように  もう思い出せないこともいっぱいあって。記憶が遠くなっているのが少し寂しいですね。

   ふとした瞬間に思い出す時があったり?

坂本 そうですね。私じゃなくて誰かが「あの時ああだったよね」と言ってくれることもあります。そういう時、私が忘れても誰かの記憶に残っているなら、厳密には消えてないのかもしれないな、なんて思いますね。あとはやっぱり岩里さんのように、長くお世話になっている方もいっぱいいて。私なんてもういい歳なのに、そういう方々はいつまでも娘のように可愛がってくれて。それが嬉しいですし、この方たちががっかりしないように、ちゃんといい大人にならなきゃという想いがずっとあったので、頑張っている姿を見てもらえるだけでも恩返しになるかなという気持ちでいます。

   何十年もあることに打ち込むのは並大抵のことではないと思いますが、今振り返って、どうして続けられてきたと思いますか?

坂本 どちらかというと、物事を長く続けられないタイプなんですけど……でも、いろんなことがあったけど“まだ辞めない”という判断をずっと繰り返していることに尽きるんでしょうね(笑)。例えば、もう辞めちゃいたいと思う時って大体何かに躓いている時だったりするんです。その状態で辞めちゃうと、もう一生思い出したくない嫌な記憶になる可能性があるから、ちょっとだけでも克服してからじゃないと後味悪くて辞められないなという意地で続いてきたと思います。あと、先ほどもお話しましたが、歳を取ってからは、関わってくれる方やファンの方に対する恩返しだという部分が大きくて。長く応援してくれている方は「推しは推せるうちに推せ」という言葉を噛みしめてくださっているというか(笑)、私がいつ辞めると言い出すかヒヤヒヤしているみたいで(笑)。でもそういう風に思っていただけるということは、こちらも「推してもらえるうちに推されておけ」じゃないですが、ありがたく推されていたいなと思います(笑)。求めてくれている人がいる限りは、細々とでもやっていきたいですね。ありがたいことに、長いファンの方もいれば、アニメ作品の主題歌をやっているからか、若い人もどんどん知ってくれていて。ライヴでも、お客さんのお顔を見ると、老若男女いろんな方が来てくれているんです。それが今すごく嬉しいですね。学生の時聴いていて、途中ちょっと離れた時期もあったけど最近また聴いてくれていたり、親子でライヴに来てくださっていたり。活動している期間が長いからこその縁もあって、今すごく面白いです。

『Drops』

5月21日発売
〈フライングドッグ〉

INFORMATION OF MAAYA SAKAMOTO

【WEB】
jvcmusic.co.jp

【YouTube】
@maayasakamotoCh

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