JUN. 28 2024, 11:00AM
自身のルーツであるネオ・ソウルやR&Bをベースに、経験してきた事柄や感情、ひいては社会性を伴うメッセージを含んだ楽曲を多くリリースしてきたSIRUP。デビューから7年目となる現在、新曲「Roller Coaster」がドラマ『RoOT / ルート』に起用された。恋愛模様や人間関係の不安定さをローラー・コースターに重ねた本楽曲は、ソウル出身のシンガー・ソングライターSUMINとレーベル・メイトのA.G.Oとともに制作したR&Bナンバー。ミステリアスなドラマの雰囲気にマッチしたダークでソリッドなビートから、お洒落で都会的な印象を与える1曲となっている。
世相や情勢、その環境が取り巻く人々の精神を繊細かつ敏感に感じ取り、ジャンルに囚われない洗練されたサウンドへと昇華するスタイルで音楽を発信してきたSIRUP。将来への不安や苦悩、葛藤、恐怖を拭い、「音楽ってこんなに自由でエンパワーメントされるものなんだ」とポジティヴ・マインドへ浄化される感覚になるのは、音楽に対する淀みのない真っ直ぐな姿勢にあることは明白だろう。ネガティヴになった時は是非、彼の音楽を聴いて最高の気分になってほしい。きっと、自然と踊ってしまうようなグッド・ヴァイブスな気持ちになれるに違いない。今回のインタヴューでは新曲「Roller Coaster」を軸に、彼の音楽性や音楽を通じて届けたいメッセージの原点を紐解いていく。
バァフ 今回、どのような流れで『RoOT / ルート』の主題歌に起用されたのですか?
SIRUP 実は書き下ろしではなくて、SUMINちゃんと新曲として「Roller Coaster」を出そうと話していたタイミングでオファーいただいたんです。『RoOT / ルート』がアニメ『オッドタクシー』の裏テーマということで、「歌詞にタクシーが出ていたのでこの曲どうですか?」とマネージャーさんからお話をいただいて。
バァフ そのような経緯があったのですね! 以前、「Keep In Touch feat. SUMIN」で制作をともにしたSUMINさんと本楽曲も制作していますが、どのような経緯だったのでしょうか?
SIRUP SUMINちゃんのことは個人的にずっとファンだし天才やと思っていて、もっと一緒に曲を作りたいという想いを抱いていたんです。SUMINちゃんの作る楽曲のパワーや個性、SUMINちゃんにしかできない曲の感じがあって。音楽のルーツがしっかりしていますし、コーラスの積み方やコード感にネオ・ソウルを感じるところも好きですね。日本のカルチャーも結構好きでいてくれて、シティ・ポップっぽさも含まれているんです。
バァフ セッションも韓国で始まったと伺っています。モダン・ディスコ調で少ない音数ながらもお洒落なサウンドに構築されている印象ですが、サウンド面の制作はどのようなディスカッションを経て進めていきましたか?
SIRUP その時のSUMINちゃんのヴァイブスもあると思うんですけど、SUMINちゃんの作るトラックがめっちゃ好きなんです。セッションのアイデア・データを作ってきてくれて、それがほぼ「Roller Coaster」のトラックの感じでめちゃくちゃカッコ良くて。みんなでそこにアイデアを足して進めていきましたね。
バァフ 楽曲に関して「人生の中でコントロールできることなんてほとんどないし、みんな人生一周目、そんなもんでしょ」という前向きなコメントが記されています。歌詞を書く際の着想部分はどこにありましたか?
SIRUP 赤裸々に語ると、「Roller Coaster」は僕自身がかなり疲弊していたタイミングで制作したものでした。多忙過ぎたりセッションが続き過ぎたりしていて「何を歌おうかな?」と思った時に やっぱり自分がアーティストとして曲をリリースしていく中で、色々とコントロールしないといけないことがあったりするんですけど、この時、ちょうど韓国に向かっていた最中だったので、「そんないちいち考えんと勢いで(飛行機に)乗ってもうたし、わざわざ韓国まで来てじっとしておく必要もない。半分旅行くらいの気持ちで楽しもう」というスイッチになって、それをそのまま曲にした感じでしたね。海外でセッションをやっていると(自分自身を)コントロールできなくなることがめちゃくちゃ多くて。完璧主義なところがあるので、やりたいと思ったことに対してコントールできないことが積み重なって、そのせいで自分の人生がマイナスに動くくらいだったら、楽しい感情に振り切った方がいいなと。
バァフ 「勢い」という点で、まさに「Roller Coaster」のタイトルとリンクする印象を受けました。タイトルはどのように決まったのでしょうか?
SIRUP セッションの時にノリで出てきた言葉ですね。やっぱり、乗ってもうたら止まらないじゃないですか? なんでもそうなんですけど、“人生山あり谷あり”という歌詞の意味が「Roller Coaster」と合っているなと。
バァフ 楽曲制作時は自ら負の感情を振り切ったとのことですが、普段、メンタルが疲弊したりマイナスな感情になった時、どういう方法でポジティヴに立て直しますか?
SIRUP あまり無理に立て直そうと思ったりしないかもしれないです。「Roller Coaster」の時は目の前にやらないといけないことがあったので、クリエイティヴとして形を変えただけなんですけど……すべて上手くいくわけではなく、後でネガティヴな感情はくるので。それをなかったことにはできないから、ネガティヴの解像度を上げていくというのはよくやりますね。なぜこういう気持ちになっているのか?、なぜこういうことになったのか?ということを、1つひとつちゃんと解像度を上げて分析していく。それはメンタル・ヘルス的にめっちゃ大事やなと思っています。
バァフ ネガティヴでいうと、リリック中に恋愛模様や人間関係に関する不安定さが表現されているのも注目すべきポイントですよね。そのような不安定さをSIRUPさん自身はどのように捉えていますか?
SIRUP そうですね……「不安定さ=ネガティヴ」と捉えなくなったかもしれないです。実際に人間関係に関しての辛い経験というのはめちゃくちゃいっぱいあって。例えば、自分の友達と意見のすれ違いが起きる時点で、揉めている感覚になってしまうという、日本の議論慣れしてない感じが、コロナ禍で明るみになったと思うんです。誰かと何かがあった時、どちらの問題かを明確にせなあかんと考えるんですけど、その場合、自分の問題だったら、自分が成長しなければいけない。でも、逆の場合、その努力というのは向こうがするべきだなと思う出来事が実際にあって。その人と仲良くなりたいけど、何かを我慢したり、なかったことにして一緒に付き合う人間関係って、長い目で見たらすごくストレスだから関係をバッサリ切りました。でも、人生って“線”で続いているから、人間関係が切れた出来事は“点”なだけで、誰かと縁が切れても、その時の自分のメンタルや環境を守れたらそれで良くて。10年後にまた会えたらそれでいいじゃんみたいな、怪訝にはしないけど、連絡は取らない関係を作るようになったんです。嫌いになったわけではなく、それぞれ人生の製図があるから、人間関係が不安定なことって普通なんだなと、コロナが始まったこの4年くらいで思いました。それまでは僕も、仲間には変わらず居心地の良いままでいてほしいと思っていたんです。でも、そういう考えに至ったからこそ、今のバンド・メンバーが当時から変わってないのも、本当に素敵なことだなと改めて自覚するようになりましたね。
バァフ では、SIRUPさんにとって、コロナ禍の4年間は人間関係においてのターニング・ポイントだったと言いますか。思考も変化していって、今回の「Roller Coaster」の歌詞にも通ずるようなマインドが形成されていったのでしょうか?
SIRUP そうですね。仕事でもコロナのせいでコントロールできないことが増えたじゃないですか? ライヴや音楽は準備がいるものですけど、「あの人が濃厚接触になった」や「コロナに罹った」とかで、急に何かができなくなってしまったり。そんな中で生活が不安定になった人もいたと思うし、みんな人と関わることで自分のメンタルをコントロールしていたと思うんですよ。そういう関わりがなくなったことによって、ストレスを感じ、不安になってしまった人が多かったなというのがあって。そこで人間関係が変わったなというのはありましたね。
バァフ そのような環境やマインドの変化がSIRUPさん自身の音楽や「Roller Coaster」のリリックに反映されたのですね。SIRUPさんの音楽の原点についてもお聞きできたらと。影響を受けたアーティストや音楽はありますか?
SIRUP 一番根深いところで言うと、スティーヴィー・ワンダーやアリシア・キーズ。高校1年生の頃に聴いて、いわゆる、ブラック・ミュージックにめちゃくちゃハマって。その時はカルチャーとか思想の部分はあまり分からない状態で衝撃を受けたんです。その後、大学生くらいの時にネオ・ソウルにどっぷりハマり、そこから黒人差別の歴史や公民権運動のことを知って。マイノリティ性のある音楽なんだとエンパワーメントされて好きになったというのはありますね。
バァフ ご自身の音楽にもその影響が表れているのは感じますか?
SIRUP そうですね。アフリカン・アメリカンの人たちのスタイルをチェックして自分たちのフィルターを通してできるだけ表現しつつ、ルーツをちゃんと持って音楽をやっているという感覚を常に忘れないようにしています。
バァフ ブラック・ミュージックの背景を深掘ることで、その音楽に対しての解像度や理解はどのように深まっていきましたか?
SIRUP 最近では自分のMCでも社会や政治の話をするのは当たり前で。単純に社会をより良くするための行動としておこなっているというのと、話すことで自分が生きていく中で持っている世の中に対する想いやマイノリティ性がリンクしていくのを感じるというか。やはり、(ブラック・ミュージックの)カルチャー的な視点は音楽にとってものすごく大事だというのは教えられましたね。
バァフ 政治やジェンダーについて、ライヴのみならずSNSやイヴェントなどでも発信する機会を多く設けられている印象です。
SIRUP ミュージシャンとして発信する視点というのがあって。音楽は自由であるべきだし、安全な場所であるべきなのに、そこにも大量に差別が蔓延していて、そんな状況では本当に良い音楽は届けられないじゃないですか? だからそれを少しでもなくしたくて発信しているのと、単純に社会を前進させるために意見を持った一市民として発信しているという感じですね。
バァフ 音楽を通じて政治やジェンダーについて発信することで、どのように社会が変化していってほしいと考えていますか?
SIRUP 今は音楽がエンタメとして消費されるだけの割合が多くて。本当はもう少し人をエンパワーメントするものだし、そこには必ずカルチャーがあると思うんです。自分の好きなように解釈してエンパワーメントされるという考え方だと、例えば〈戦う〉と歌詞を書いて「戦って殺してもいい」と思う人は勝手にそう解釈するじゃないですか? でも「戦う」というのは社会をより良くするために、「自分の意見をちゃんと言って抵抗していくことだよ」という意味合いで言っているんだと考えるかどうかは、アーティストが普段どのようなことを発言しているか?ということになると思うんです。曲だけが一人歩きするような時代にもなってきたし、それは良い面もあるけど悪い面も多くて。でも、アーティストがどういう人かを見て、音楽の解像度をより高く楽しむというカルチャーがあれば大丈夫だと思っています。曲が好きでアーティストはどういう人でもいい、もしくはアーティストは自分の消費できるだけの人がいいというのではなく、もっと他の部分で音楽を楽しめることがカルチャーであってほしい。倫理的な部分でリスナーがちゃんと批判できるようなカルチャーになればいいなと思いますね。
バァフ 最後になりますが、SIRUPさんにとってカルチャーとはなんでしょうか?
SIRUP 人生を豊かにするものですね。衣食住だけあればいいと思っている人はほぼいないと思うんです。例えば、音楽や絵、本、映画にまったく興味がなくて自然を眺めるだけでいいと言っても、自然もお金をかけて管理しているものじゃないですか? 結局は守らないといけないし、みんなが好き勝手していたら森もすぐ伐採されるし……。やっぱりそこにも守るべきカルチャーがあって、それは人間の本来あるべき豊かさというところに戻ってくると思います。
『Roller Coaster』
配信中
〈Suppage Records〉
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