『ハゲタカ』シリーズで知られる小説家の真山 仁が脚本を手掛け、女方最高峰かつ現役の歌舞伎俳優でありながら、数多の作品の演出やプロデュースも精力的におこなう人間国宝・坂東玉三郎が演出と補綴を担う音楽劇『星列車で行こう』が間もなく幕を開ける。本作は、悩める青年たちが“夢を見つけられる”という伝説の「星列車」に乗り込み、夢や新たな自分を追い求めていくオリジナル・ストーリー。舞台などで着実に経験を重ねてきた影山拓也(IMP.)が、満を持して単独初主演を飾る。
恵まれた環境で育つも自分がないことに悩み、自らの力で運命を切り開こうと行動する太郎(影山)。孤独な過去に囚われ、お金とスマートフォンが唯一の安らぎだと信じている次郎(松田悟志)。歌舞伎俳優を志すも叶わず、列車に辿り着いた五郎(松村龍之介) 星列車に乗車する3人は生まれも境遇も異なるが、それぞれのキャラクターが抱える想いは決して現実離れしたものではなく、観客が心を重ねる瞬間もありそうだ。何より、主演の影山のスタンスがとても信頼できる。華やかなオーラを纏い、こちらまでつられるような大きな笑顔がとても魅力的なのだけど、自身のクリエイティヴに於いては、広く物事を捉える冷静さと妥協を許さない熱が一気に顔を出す。どんな質問を投げかけても、時に熟考し必ず答えてくれる理由には、「相手の気持ちに応えたい」という想いがあるから。本作で演じる太郎、さらには座長としてこれほどの適任はいないだろう。
バァフ (取材時)歌稽古と、お芝居のお稽古も数回されたと伺ったのですが、初共演の皆さんとお芝居を合わせた感想はいかがでしたか? 台本をご覧になった時と実際にお稽古に入られてからの感触も全然違うと思うのですが。
影山 台本を読み、「太郎をこういう風に演じてみよう」と何となくのイメージを持って芝居稽古の初日を迎えたのですが、当日は緊張の方が勝ってしまったせいか思い通りに演じることができず悔しい気持ちが残りました。皆さんのお芝居にも圧倒されて。近いうちに次回の稽古があるので、あの時の悔しさも生かしながらしっかり準備をしていきたいです。
バァフ 太郎の役説明に「育ちが良く天性の善良さを持つ」とありましたが、影山さんが最初に思い描いていた太郎像はどういうものでしたか?
影山 彼は優等生と言いますか、何不自由なく育ち、大学に進学し就職も決まっている。さらに彼女と婚約もしていて、まさに順風満帆、ザ・エリートなイメージを持っていました。性格面など僕自身とも少し似ている部分があるものの、歩んできた人生や環境は全く違いますね。育ちの良さから培われたであろう上品さ、常に誠実でいようとする姿などは、自分が演じていく上でも出していこうと考えています。
だけどきっと、太郎が歩む人生だからこその悩みもたくさんあって……ネタバレにならないラインでお話しするのが難しいですが(笑)、親が敷いてくれたレールに乗り続けるのが嫌だったのだろうなと思います。本当は自分の理想の生き方があるのに本音を言えないし、「今この場所でこういう人生を送っているけど、果たして本当の俺は何がしたいんだ?」という葛藤がすごく強い。不自由がないゆえの悩み、そこと太郎は戦っているのだろうなと感じました。
バァフ 作品で描かれる「夢」は、時代を問わず人々が追い求めるテーマかと思います。脚本・真山 仁さんのオリジナル・ストーリーに、坂東玉三郎さんの演出が入ることで、ファンタジックな世界観と人間模様がどのように融合し、描かれるのか楽しみでならないです。
影山 玉三郎さんならではの世界観だなと思いますし、台本を読んで、今この時代に生きている青年たちに向けてのメッセージもしっかりと込められているなと感じました。僕もそうだったんですけど、「夢は何ですか?」と聞かれて即答できる人って、そう多くはないじゃないですか。夢を見つけようとするのではなくて、自分らしく生きていけば自ずと好きなことが見つかるし、それが未来の自分の夢へと変わっていく。無理に着飾ろうとせずに、自分らしく、若さ溢れる今を思い切り謳歌しようよ!みたいなメッセージが込められているんですよね。
バァフ 自分らしさを問われたら、影山さんは何と答えますか?
影山 えっ僕ですか、そう言われると案外難しいですね(笑)。「人生楽しそう」と言っていただくことは多いですが 周りの人からすると、あまり悩んだり考えない人に見えるのか、考え込んでいると「影山らしくないね」と言われることもあります。実際はすごく心配性だし、些細なことでも考えすぎてしまう性格なので……今も自分らしさについて考え始めてしまっていますし(笑)。でも1つ言えるのは、損得感情では動かないですし、見返りを求めて相手に何かをしてあげることはないです。純粋に、人が喜んでくれる顔を見たい、人のために何かをすることがすごく好きです。
バァフ そういった想いは、今日スタジオで影山さんにお会いした時から感じるものがありました。快活で温かく、その場の士気をグッと上げてくれて。
影山 本当ですか? そうなれていたら嬉しいです。周りの皆さんのおかげで自分が成り立っているなと思いますし、特に今回、数々の舞台を経験された大先輩方の中で座長を務めさせていただくので、その気持ちは強いです。良い意味で、先輩方にたくさん甘えちゃおうかなとも思っていて。座長だからあれもこれも頑張らなきゃと空回りするよりかは、分からないことは素直に先輩に頼るのが大事かなと。
バァフ 歌稽古に関してもお聞きしたいです。以前会見で、「玉三郎さんに声の出し方などを厳しく指導していただいた」と仰っていましたが、歌唱表現に於いて何か新しい発見はありましたか?
影山 やっぱり、自分たちのライヴで歌っている時の発声の仕方とは違うんだなと感じました。初めて玉三郎さんに歌稽古を付けていただいた時、このままではダメだなという焦りじゃないですけど、もっとストイックに詰めていかなきゃと痛感することばかりで。でも、ご指導をしていただく環境が僕はとても嬉しかったです。年齢を重ねていくと細かく言ってもらえる機会も少なくなってきますよね。僕は今年27歳になりましたが、玉三郎さんに厳しくも1つひとつ丁寧にご指導いただけたことが本当にありがたくて。自分に足りないところを言葉にしてもらえるのって、 やっぱり嬉しいですね。特に自分は歌が好きだからこそ、玉三郎さんの言葉にハッとしましたし心に響きました。
バァフ 特に印象深く残っている玉三郎さんのお言葉はありますか?
影山 「しっかり歌詞をイメージして歌いなさい」と言っていただきました。頭では分かっていても忘れかけている自分もいたので、確かにただただ歌詞を声にしていただけだなと。改めて楽曲に向き合うきっかけをいただきました。
バァフ 今や年末の風物詩となっている『密着!中村屋ファミリー』という中村屋一門を追い続けたドキュメンタリー番組があるのですが、昨年の放送では、玉三郎さんが中村七之助さんら役者の皆さんに、表現のニュアンスなど繰り返し丁寧にご指導されていました。わずかな差でこれほど役の見え方が変わるのかと、素人ながら見入ってしまいまして。
影山 まさに僕も、そのようなご指導をしていただきました。回数を重ねているのにむしろ集中力が上がっていくと言いますか、玉三郎さんの求めるレヴェルにいきたい、もっと食らいついてやるぞ、みたいな気持ちになるんです。
バァフ 逆に、完璧だ、最高だねと言われても気分は上がらないですか?
影山 嬉しいですけど、「自分が完璧なはずがない、まだそこまでの立場にいないです」と思ってしまうので、厳しい意見を言ってもらいたくなってしまいますね。もちろん自分の中では100%以上の力を出して何事も挑んでいますが、 自分で自分のことを認めていないですし、周りの人に心から言ってもらえたら勝ちだなというマインドなので、あまり自分のことは評価しないですかね。というか、評価したくないです。評価したらこれ以上伸びないと考えているので、自分には常に厳しくいたいです。でもこれは、小さい頃からの僕の性格でもあります。
バァフ ちなみに本作は、往年の名曲も物語に織り交ぜられるそうですが、影山さんにとって馴染みのある楽曲はありましたか?
影山 はい。僕もですし、世の中で知らない人はいないんじゃないかな?というくらい有名な曲もありますね。本来は英詞だったものをオリジナルで日本詞に変えていたりもするので、作品の内容に沿った歌詞も注目していただきたいです。あとこれは個人的な話になってしまいますが、僕はカラオケが大好きで、80、90年代など昔の楽曲を歌うことが多いんです。そういった点では、今回も誰もが知る往年の楽曲もたくさん含まれているので、歌っていてすごく楽しいです。
バァフ その年代の楽曲の魅力は何でしょう?
影山 たくさんありますが、1つにはメロディが歌いやすいこと。それから、僕がよく歌う「最後の雨」や、尾崎 豊さんの楽曲の歌詞などは、自分の中で解釈してストーリーを想像すると、曲に描かれている男性像がとても男らしいです。憧れますし好きな理由の1つですね。
バァフ 玉三郎さんのお話じゃないですが、歌詞を読み解いていくことも楽しまれているんですね。
影山 はい。でも今は正直、発声の練習でいっぱいいっぱいなので、歌詞の意味まではしっかり考えきれていない自分がいます。これからの稽古までに、自分なりに解釈して歌っていきたいです。
バァフ 最後に、IMP.としては昨年のデビューから間もなく1周年を迎えますが、今のグループに根付いているのはどういうものでしょうか?
影山 抽象的にはなってしまいますが、7人が目指す場所、向いている方向は何も変わっていないので、そこかなと思います。これまで7人で活動をしてきて、誰1人として違う方向を向いているなと感じたことがないですし、がむしゃらに1つのものを目指そうとする強さがある。もちろん仲も良いですが、時にはメンバー間で厳しい意見も言いますし、単純に仲良しこよしだけではやっていないです。そこは僕たちの核でありブレていない部分ですね。
バァフ しかも影山さんは、リーダーとして積極的にご意見を伝えたり、グループ全体の方向を指し示していかれる立場かと思います。
影山 基本的に「これはメンバーで共有しておいた方が良いな」と思ったことに関しては、僕からメンバーに話しかけます。「実はこう考えているんだけど、みんなはどう思う?」と提案して、7人で話し合いながら道筋を決めていくパターンで。でも今は、段々と言う必要がなくなってきているように思います。それぞれがお互いを理解しているし、IMP.はどうあるべきか、どうしていくべきかの共通認識ができた上で行動しているので、以前ほどみんなに細かく言うこともなくなりました。昔は、リーダーの自分があれもこれもやらなきゃいけないと勝手に背負っていましたけど、 実は助けてもらっていたし、1人で焦ってばかりだったなと。メンバーのことをとても頼りにしていますし、今は良い意味で力を抜いて楽しく活動できています。
カーディガン(35,200yen)、シャツ(22,000yen)、パンツ(37,400yen)、ローファー(36,300yen) / 以上、ラッド ミュージシャン(ラッド ミュージシャン 新宿 tel.03-6457-7957) ※すべて税込
『星列車で行こう』
演出・補綴/坂東玉三郎
出演/影山拓也(IMP.)、松田悟志、松村龍之介、石井一孝、他
7月27日〜8月19日〈南座〉、8月23日〜26日〈御園座〉にて上演
【WEB SITE】
www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/202407hoshiressha
INFORMATION OF TAKUYA KAGEYAMA
IMP.として、7月7日にタイ・バンコクで開催される『MIXEDROP BANGKOK 2024』に出演。また、2025年にはグループ初のライヴ・ツアーを開催予定。
【WEB SITE】
tobe-official.jp/artists/imp
【Instagram】
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