クニモンド瀧口を中心にバンドとして結成されたRYUSENKEI。今年、新ヴォーカルにシンガー・ソングライターのSincereを迎えたことを機に、かつての表記流線形からアルファベット表記に改め、満を辞しての再スタートを切った。新体制初のリリースとなるニュー・アルバム『イリュージョン』は、〈アルファミュージック〉創立55周年プロジェクトの第1弾。全10曲のうち2曲の作詞をSincereが英詞で書いたことが象徴する、シティ・ポップの概念に新たな風を吹き込んだ。
というのも、シティ・ポップとは70年代後半から80年代にかけて確立した、都会的で洗練されたメロディや歌詞を持つ日本の音楽ジャンルのこと。近年の世界的なリヴァイヴァルにおいて、再びその音楽性やカルチャーにスポットライトが当たっている。が、本作はSincereをはじめとする新世代アーティストも制作に関わっていることで、従来のシティ・ポップのテイストに、メッセージ性と新鮮さがプラスされていることが新しい。
クニモンド瀧口とSincereの世代を超えた感覚が巧妙に交じり合った1枚について、新生デュオとして生まれ変わった経緯から制作に至るまでを訊いた。
RYUSENKEIと表記も変わり、レーベルとして復活した〈アルファミュージック〉からの第1弾。新ヴォーカルを迎えるまでにはどういった経緯が?
クニモンド 2022年に堀込泰行さんをゲスト・ヴォーカルに迎えた『インコンプリート』というアルバムを出した後、どうしようかと思っていて。その時、『City Music Tokyo』というコンピレーション・
Sincereさんのどういうところに魅力を感じたのでしょうか?
クニモンド 今までのヴォーカリストは、声にクセのある方が多かったんです。その人のアーティスト性が出過ぎていたので、「もうちょっとフラットにしたいな」という想いがあった中で彼女の声を聴いて。リンダ・ルイスとか、ヤング・ソウル系の感じを受け取ったんです。「次、(作品を)出すんだったら新鮮な形で出したい」と、その時に思わせてくれたところですね。
Sincereさんはこれまでの流線形の楽曲を聴いて、どんな印象を持ちましたか?
Sincere あまりシティ・ポップを聴いていなかったのですが、コンタクトをいただいたのをきっかけに聴くようになりまして。これまで自分が聴いてきたものとはまた違う世界観で、素敵だなと思いました。
クニモンド 彼女はプリンスやアレステッド・ディベロップメントなどがルーツで、シティ・ポップとはジャンルが違うというのがまずあって。
Sincere そうですね。
クニモンド RYUSENKEIとしてやりましょうというのは彼女のソロ活動に対して副業みたいな……(笑)。
Sincere 副業(笑)。でも、歌詞も女の子目線の繊細な部分を引き出してくれると言いますか。自分のソロ活動では意識を向けないピュアなところを表現することが多くて……自分にもこういう部分があるんやという発見が大きかったですね。
今回の第1弾はどのようなアルバムにしたいと?
クニモンド 最初、担当ディレクターとはドナルド・バードのような、フュージョンみたいなことをやりたいと話していたんですよ。ところがどんどん変わり、Sincereのヴォーカルが決まった時にはチャールズ・ステップニーがやっているような感じがいいと思って。彼女が参加してくれたことで、メッセージ性の持ったものを作りたいと方向転換をしました。
まさにそれには驚きまして。時代に対してのステイトメントなフレーズが入っていて。これにはどういった意識が?
クニモンド シティ・ポップって80年代は大人への憧れだったりとか……例えば、週末に彼女と一緒にドライヴで海沿いを走るような開かれたイメージがあったと思うんですよ。そういうイマジネーションの膨らむ曲が多かったんですけど、今、そもそも何かに憧れを抱くような時代じゃなくなってきているじゃないですか? 内戦や戦争、日本国内では政治不信だったりといろんな事が起こり過ぎていて、夢や憧れを持てないというか。80年代の気分とは少し違うと感じたんですね。それなら僕は作品として、そしてSincereみたいなフロントマンが歌うということで、メッセージ性のあるものを作りたいと思ったんです。大好きなアルバム『What’s Going On』(マーヴィン・ゲイ)や、カーティス・メイフィールドも社会性を帯びたアルバムを作っているので、そういう作品を残したいという想いが『イリュージョン』には込められていますね。
今回、Sincereさんは「月のパルス」と「静かな恋のメロディ」の歌詞を書かれていますが、クニモンドさんとはどのようなやりとりがありましたか?
Sincere クニモンドさんに漫画を用意していただいて、それを読んで自由に思ったことを歌詞にしていったんです。ただ、読んでいる私視点なのかキャラクター視点なのか、どの視点で歌詞を書くべきなのか結構悩んで。もっと言うと、クニモンドさんがどういう意図でこの漫画をチョイスして私に渡したのか? 考えて考えて色々と書き出したりもしました。でも結局は、あまり考え過ぎず純粋に思ったことを書くべきなのかなと、一番印象的だったところを歌詞にしましたね。
クニモンド 親子ほど年齢が離れていて言葉で伝えるのも難しいと思ったので、昔よくやった漫画の貸し借りみたいなノリで渡して。バイアスをかけてしまうとどうしても引っ張られてしまうので、あくまでも視点はSincereの視点で、彼女の世代感で書いていただけたら良いと思ったんですよ。
「月のパルス」の詞が上がってきた時はどのように感じましたか?
クニモンド 月をテーマにした少し捻った表現や、ポエトリーな言葉を入れてもらったのが新鮮で。レコーディングの時には「こういう意味があって」、「ここはこうで」という話を聞きながら読み解いて進めていきましたね。
Sincere 英語でどれだけ少女漫画っぽさを出せるか?を工夫しまして。普通の歌詞というよりは“詩”のような、重みのあるものにしたいなと。あえてベタな言い方を使ってみたりもしました。
もう1曲の「静かな恋のメロディ」はどのようなインスパイアがありましたか?
クニモンド こちらは、あきの香奈さんという、80年代に『デラックスマーガレット』や『別冊マーガレット』を読んでいた方はご存知なショート・ショートを描く方の作品を読んでいただいて。あきのさんの作品って、割と寡黙な男性が登場しがちなんですよ。だけど、なんか気にかけてくれているみたいな……そういうのを彼女がどう受け取るかな?と思い、何も先入観を入れないで書いてもらった歌詞です。でも、英語の曲が入っていてびっくりされたんじゃないですか?
びっくりしました。新しいことをやっていらっしゃると。
クニモンド 例えば山下達郎さんのアルバム『FOR YOU』。最後の「YOUR EYES」で英語が入ってきたりするのも、実は面白いなと思っていて。ここ10年くらい、RYUSENKEIは日本よりも海外の方に聴かれているので、海外にも発信したいという気持ちがあったんです。Sincereのようなネイティヴ・スピーカーの方がせっかく入るんだからと思って英語の曲を入れました。
今回、「スーパー・ジェネレイション」のMVも新しい世代、新しいセンスを感じたのですが、それは意図的にでしょうか?
クニモンド そうですね。Sincereのソロ活動もそうなのですが、次の世代が何か新しいことやクリエティヴにやっていくことって、すごく新鮮で良いなと思っていて。新しい世代が否定されながらもとんがって何かをやっていくことが、次に繋がると思っています。そういう意味で、MVもSincereが自転車で先頭に立ってみんなを牽引しているような映像を撮っていますね。
シティ・ポップもすっかり定着してきた中で、この新鮮さを出してきたということにクニモンドさんへの信頼を改めて感じました。
クニモンド シティ・ポップって日本では「懐メロ」みたいな感じが出てしまっていますけど、そうではなくて。世界では新鮮に聴かれているし若者が聴いている。これからもっと新しい音楽がシティ・ポップとして出てきたら、それはそれで次に繋がっていくものなのかなと思っています。
『イリュージョン』
4月24日発売
〈アルファミュージック / ソニー・ミュージックレーベルズ〉
INFORMATION OF RYUSENKEI
4月26日に、RYUSENKEIとして初のインストア・イベントが決定! 19時から、〈タワーレコード渋谷店〉6F TOWER VINYL SHIBUYAにて開催。
【WEB SITE】
www.ryusenkei.com
【Instagram】
@ryusenkei_official
クニモンド瀧口
@cunimondo
Sincere
@sinceretanyaa
【X】
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Sincere
@sincere_tanya
【YouTube】
「スーパー・ジェネレイション」MV
www.youtube.com/watch?v=OkyZpnGjBZY