CULTURE

東出昌大が、80年代の若松プロダクションを描いた映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』に出演。映画人と喧々諤々に語り合ったこととは?

MAR. 11 2024, 11:00AM

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撮影 / 河西 遼
文 / 岡田麻美

東出昌大が山で暮らしてから初めて撮影現場に入ったという、昨年公開の映画『福田村事件』(森 達也監督作)。演じた船頭の田中倉蔵は集団の中で孤独だけれども、川面を眺めながら人間の尊厳を慮る、野生的な魅力のある男で、強く印象に残った。『福田村事件』で脚本を担った井上淳一はその制作途中で、構想中だった映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』への出演を東出にオファーする。

 

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』の脚本・監督の井上淳一は、2012年に亡くなった若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクション出身で、2018年公開の映画『止められるか、俺たちを』(白石和彌監督作)では脚本を執筆。好評を博した『止め俺』の公開時、1983年に若松孝二が立ち上げた名古屋の映画館〈シネマスコーレ〉でも「続編は作らないのか?」と聞かれたが、「『止め俺』で描かれた70年代の若松プロに勝る時代はないから難しい」と話していた。ただその後、映画館がコロナ禍を乗り越える様に密着したドキュメンタリー映画『シネマスコーレを解剖する。〜コロナなんかぶっ飛ばせ〜』(菅原竜太監督作)が公開されたり、時間を経たことで、「〈シネマスコーレ〉の黎明期を描いたら続編になるんじゃないか」と思い至ったという。東出が演じる、〈シネマスコーレ〉支配人の木全純治を基軸とした80年代の若松プロの物語で、若松孝二役を前作に引き続き井浦 新が演じている。

 

東出はインタヴュー中、上の世代の映画人たちとのよもやま話を心底楽しそうに話していた。山でも地元の年長者の方々に可愛がられていると聞く。色々なことがあっても、それでも人が好きだという言葉通り、できる限り人と自分と向き合って、思慮を重ね悔いながらも人を想う生き方が滲み出ていて、えもいわれぬ魅力を放っているのだと思う。そうした自身のすべてを注ぎ込んでいる芝居だからこそ、役に惹きつけられてしまうのだろう。

溢れる映画愛と熱量で押し通す、この作品自体が青春

バァフ 本作は『止められるか、俺たちを』の続編ではありますが、映画としてのトーンは前作と違う作品になっていると思います。脚本を読んだ時、東出さんはどういういう印象を持ちましたか?

東出 まず井上さんから出演のお声掛けをいただいた時に、映画人の情熱やミニシアターにかける想いを色々とお聞きしたんです。それから脚本の準備稿を読ませていただいて、『止められるか、俺たちを』のファンだからこそ、ドラマとしての密度が全然違うし、監督もお話も違うんだから続編とは銘打たない方が良いんじゃないですか?と伝えたんです。前作は(門脇)麦ちゃんが演じた主役もすごかったけど、作品自体の熱量がとんでもなくあったと感じていたんですよね。でも今回の脚本には、木全さんの中にある葛藤や逆境というものも描かれていないし、どう演じるのか悩みますと率直にお話しして。でもその後に、80年代に大学生だった井上さんご自身の役柄(杉田雷麟)と映画監督を目指す女子大生(芋生 悠)が登場して、映画の背骨というか群像劇としての主軸が生まれてから、自分の中でも少しずつ理解が深まっていきました。ただ一方で、木全さんご本人からは「逆境を跳ね返す物語は今までにやり尽くされているから、そういう形じゃなくていいんじゃない?」というお話もあったりして、喧々諤々の議論を直前までしていた脚本だったんです。

バァフ 木全さんは実在の方ですが、台本に描かれている役として、どのように立ち上げていきましたか? 観る側としては、首を前に出す癖だったり腰の低さだったり、東出さんのお芝居で人懐っこさと底知れない感じも受けました。

東出 木全さんにお話を伺いたいとお願いしてクランクイン前にお会いしたんですが、それ以前にドキュメンタリー映画を拝見したり、昔の映像を見て準備はしていて。ただ、だいぶ前から、例えば『福田村事件』脚本の荒井晴彦さん、プロデューサーの小林三四郎さん、今作でもプロデューサーの片嶋一貴さんなどに、若松さんと木全さんの関係性は聞いて調べていました。ある時、片嶋さんが「いや、木全さんは老獪な人だよ」とおっしゃっていて、その言葉がすごく印象的だったんです。のらりくらりしていなかったら、あの若松孝二と一緒にやってこられなかっただろうと(笑)。それにドキュメンタリー映画で描かれていた、コロナ禍の真っ只中に副支配人とマスクを付けるか付けないかで揉めているシーンも、非常に参考になりました。当時、劇場という場は集団感染に敏感だったし騒がれていたけど、そうじゃなくて、人間の尊厳に関わることだから選択の自由があるべきだと意見をされていて。あの時にそういう主張を持たれるって、社会の風潮としてはかなり強硬な姿勢だと僕は思ったんです。なぜここまで独立独歩にこだわったり、自主自立するお気持ちだったのかと木全さんにお聞きしたら、同志社大学に入った時に、横を見れば学生運動に熱心な連中がいて、みんな徒党を組んでゲバとか言っていたけど、ご自身は思想家のライヒに傾倒し、人間の尊厳とか、本当の自由とは何か?を考えていたそうなんです。哲学や思想が根底にある上で生きている方なので、ヘラヘラしているように見えてもそれはその時の処世術だったり、他人に苦しい姿を見せてもしょうがないじゃない?っていう覚悟の上での、“お芝居”なんだなと僕は思ったんですよね。葛藤がないように見えても、この日常で実はお芝居をなさっている木全さんご自身を、形態模写して、そのまんま表現したところもあります。ただ、ポロっと本音が漏れるのが、「映画って本当に難しい」という台詞だったと思ったので、そこに木全さんの映画人として歩んできた想いを乗せられればなと思いました……っていうとすごく美談っぽくなるんですけど(笑)。

バァフ (笑)本作には井浦さんやコムアイさん、杉田さんなど、『福田村事件』で共演されたキャストの方もいて、特にコムアイさんとの夫婦役の空気感がすごく自然で素敵でした。コムアイさんはどういうお芝居をする方だと感じていますか?

東出 コムアイさんは表現に対しての渇望があって、経験を重ねることに囚われない活動をされているイメージなんです。水曜日のカンパネラというアーティストとして一躍脚光を浴びてから、いろんな表現の仕方をされていると思うんですけど、彼女は人前に出て何かを表現しながら、自分に跳ね返ってくるもので、人生や社会というものに対してまで考えているように僕は思います。『福田村事件』の撮影時に現場で「芝居っていうものをまだ表現しちゃっている、それが悔しい」とおっしゃっていたんですよね。役者って演技をする仕事ではあるけど、「表現じゃなく、ただそこにいることがまだ私はできない」と真剣に悩んでいたんですよ。それってやっつけ仕事の人間からは絶対に出てくる言葉ではないし、もうすっかり女優業にはまっているけど、彼女の良い意味での多彩さを考えると、役者だけに限定できないほど、表現の中に人生を込めていらっしゃるんだなと思うんです。だから今後は、音楽も俳優業もそうだけど、どう生きていくか。もし彼女がお芝居を今後も続けてくれるなら、替えのきかない人になるだろうなと、いち映画ファンとしては勝手に思っています。

バァフ その、表現に対する考え方というのは、東出さんにも表現をする想いがあるから、共鳴したり感じるものなのでしょうか。

東出 いや、僕は表現したがらないタイプなんです。僕は色々な巡り合わせで俳優という仕事をさせてもらうようになって、もちろん、この仕事をやっていくんだと腹は決まっているんですけど、一生この仕事をすることに対する難しさも感じています。芝居には熱中しているけど、コムアイさんの表現の考え方とはまたちょっと種類が違うように思いますね。彼女の方がアンテナがデカいというか、拾える周波数が多い。僕はすごく短い周波数でアマチュア無線をやっている、それしかできないみたいな、そういう感じです(笑)。

バァフ そんなことはないと思います(笑)。東出さんが印象に残っているシーンはありますか?

東出 杉田くんと芋生さんが演じた、若者2人の屋上のシーンですね。僕は特に不器用な役者なので、頭でっかちに考えながらも、何が映画の魅力なんだろうってずっと考えてきたんです。今も考え続けていますけど、2人を見ていてそういう青い気持ちを改めて思い返しました。今回の役や物語に対しても、またお芝居っていうものに対しても、もっと良くしたい、でもどうやったら良くなるんだ?って、その鬱屈とするような、マグマのようなエネルギーを抱えながら、頑張りたいともがいている2人が現場ですごく輝いていたと思っていて。用意されている台詞がまたすごく素敵なんですけど、それを上回る良さがあって。僕が演じた木全さんが主軸の作品ではあるけれど、群像劇としてはあの2人の葛藤が描かれた映画だと思うし、僕はとても好きなシーンでした。

バァフ 木全さん役を演じるに当たって、井上監督から言われて印象に残っていることは?

東出 井上さんは僕に対して良い方に拡大解釈なさっていて、前に取材を受けている時も「東出はすごく役作りを頑張って、ある1日で名古屋弁を習得したんだ」とか言うんですよ。いやいやそんなことないし、僕、その日はホテルでゴロゴロしてたよ!と思ったり、いろんな話を美談にされています(笑)。それにしても井上さんは、現場では映画少年でした。すごく感情的でムキになりやすくもあったし、腹を抱えて笑ったり、涙ながらに今のシーンは良かったと言っていたり。もしかしたら、雷麟くんが演じた井上青年の方が大人じゃん?というくらい(笑)。……そうだ、唐突に思い出したんですけど、井上さんや撮影の蔦井孝洋さん、照明技師の石田健司さん、木全さんも一緒に、もうクランクイン前々日頃、名古屋の中華屋で脚本について話したんですよ。井上さんは「この脚本で行くんだ!」って頑とした姿勢だったけど、みんなはこのままで大丈夫か?と切羽詰まっていて、内容について思い思いのことを言ったんです。その時に、井上さんと付き合いの長い蔦井さんが、「いや井上、屋上でキスを迫られて、キスを拒むお前じゃないだろ!そんなのホイホイいくだろ!カッコ付けるな!」と言っていて、なるほど、そういう視点もあるんだなと(笑)。みんな大体50代のおっさんですけど、大物映画人たちが「映画ってこういうもんだろ」と信じながら撮っていた、作品自体が青春でしたね。まぁ、僕ももう36歳のおじさんですけど(笑)。

バァフ 良い話ですねぇ。縁を大事にしてほしいと勝手に思いつつ、改めて東出さん、年長者にもめっちゃモテますね(笑)。そして、井上監督は本作に対して、『当時は豊かではないけど、間違いなく「幅」や「余白」があったのではないか。そして、失敗が許された。この映画には、何度も何度も転ぶ若者が描かれる。でも、彼らは諦めない。だからこそ、今に繋がる何かがあると思う』とコメントされています。現代に対しての色々な想いも伝わってきたのですが、東出さんご自身は本作をご覧になって一番感じたのはどういうことでしたか?

東出 映画好きって、1人ひとりの人生を通して、「映画とはこうあるべき」という哲学を持っている人たちがごまんといるんですよね。脚本家、映画監督としての井上さんのフィルモグラフィーを見ても、今までずっと映画に真摯に熱を注力して人生を過ごしてきたと分かります。でも、キャリアの途中で映画評論家になってからは、批評して誰かと喧嘩をしたりもする。お前は映画を分かっていない!とか言いながらも、ある意味で自伝的な本作を不安を抱えつつ書き、みんなから賛否を受けても映画1本を作る想いが叶うっていうは、非常に夢のある話だと思うんです。撮影の蔦井さんが先ほどお話しした中華屋で言っていたんですけど、蔦井さんの仕事が順調でメジャー作品を撮るようになったら、井上さんが急に映画雑誌の中で蔦井さんの撮影のことをディスり始めたと(笑)。で、「この野郎〜!」と思っていたんだけど、井上さんの正念場でもある今作で声を掛けられて、一緒にやるのは仲違いして以来らしいんですよ。それも良い話だなと思って。参加しているみんなが良い映画を撮りたいっていう想いがある現場でしたし、予算も撮影期間もあらゆることが少なくても、溢れる映画愛と熱量で押し通す。こういう作品が生まれるのは、1人の映画人の愛が決実した形だと思うと、それが一番の魅力かなと思います。

バァフ 東出さんのドキュメンタリー映画『WILL』も拝見しました。山で狩猟をしながら暮らし始めて、今どういう風にお芝居に対して考えていらっしゃるのかを知りたくて観に行ったんですけど、いつの間にか映画を観る側も、自分自身を顧みて人生について考えていたり、色々なことを感じました。『福田村事件』が山に住んでから最初のお芝居だったそうですが、自然に身を置いたことで、より役が肉厚になっているような感じを受けていて。それにドキュメンタリーの途中では、プライヴェートや山の生活で日々色々とあっても、「芝居は良い芝居をするから」とおっしゃったのが印象的だったんです。今、ご自身の中ではお芝居に対して、どんなことが矜持や軸になっていますか?

東出 役者になってからずっと芝居だけを考える日々を送ってきて、勉強したつもりになっていたし、たくさん時間をさいて準備はしていたんですけど、それだけが人生のように感じていたんです。ただ、どうやらそれって僕の実人生っていう木の幹から生えた枝であって、俳優業という枝だけが自分の人生じゃないのでは?と思い始めて。どうしたって枝は枝なので、どんなに着飾っても容易に折れたりするんです。それに、僕の実人生という木の幹がもっとしっかりしていけば、また枝ぶりの良いものがいつか生えてくるとも思うんですよね。だから、狩猟や釣り、畑、山での人間関係を大事にして、酒やタバコも好きな自分のままで、この実人生をまず豊かにしたいと思うし、今は木の幹を育てる生活が送れています。でも、そうした気持ちでもどこかで、僕、役者業は大丈夫、自分は良い芝居をする、できるって信じているんです。そもそも、なんでそんなに良い芝居をしたいのか?とも考えるんですけど、枝だと言いながら、良い芝居を観客に見せたい。それって回り回って、臭いことを言うようだけど、本心では人が好きなんでしょうね。色々なことがあっても、お会いしたこともない大衆という方々にも、良いものを届けたいって思う人間愛みたいなのはあって。それに気付いて「いや、めんどくせぇな、俺!」って思いながら、でも芝居のバッターボックスに立つんだったら、ホームランをかっ飛ばしてやるっていう気持ちで、今、仕事に向き合っています。

©若松プロダクション

 

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』
脚本・監督/井上淳一
出演/井浦 新、東出昌大、芋生 悠、杉田雷麟、コムアイ、田中俊介、有森也実、田中要次、田口トモロヲ、門脇 麦、田中麗奈、竹中直人、他
3月15日より〈テアトル新宿〉ほか全国順次公開

 

【WEB SITE】
www.wakamatsukoji.org/seishunjack

【X】
@tomeore2

INFORMATION OF MASAHIRO HIGASHIDE

俳優・東出昌大が狩猟をする姿を追ったドキュメンタリー映画『WILL』が公開中。映画『次元を超える TRANSCENDING DIMENSIONS』(豊田利晃監督作)が2024年公開予定。今年3月より自身の〈YouTube〉チャンネルを開設した。

 

【WEB SITE】
masahirohigashide.com
【YouTube】
@higashide.masahiro

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