CULTURE

大沢伸一とRHYMEのユニット、RHYME SOが批評性溢れる1stアルバムをリリース

FEB. 15 2024, 11:00AM

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対話/山崎二郎 

DJ、音楽プロデューサー、MONDO GROSSOを主宰する大沢伸一と、オーストラリア人の詩人、パフォーマー、DJ、トラックメーカー、RHYMEとのダンス・ミュージック・デュオ、RHYME SO。2019年のデビュー・シングル『Just Used Music Again』以降、RHYMEが綴る批評性溢れるリリックが大沢の作るトラックに乗ることで、さらに圧倒的なライヴ・パフォーマンスにより、ひたすら気持ち良いだけでなく、リリックが個人個人に突き刺さるという非常に高度かつ緻密なアクションがおこなわれてきている。そして、今、待望の1stアルバム『IAFB』がリリース。インターネット、SNSから侵食され、距離を置きたくてもできず、さらにハマっていくという、全世界共通のアンビヴァレントな感覚に疑問を呈する楽曲は、自分と向き合わざるを得ず、時にはイタい思いもするのだが、ひたすらハイになるトラック、メロディに、センス・オブ・ユーモアが注入することで、極上のダンス・ミュージックに仕上がっているのは流石の一語。ジャケットのアートワークで表現されているように、外から見たニッポンという視点もパイの生地のようにいくつもの層に織り込まれ、あっと言う間に終わり、またリピートしたくなるのだ。今回、RHYMEが帰省中とのことで、大沢との取材となった。

どんな時代に僕らは生かされているのか?っていうことを、改めて認識する必要があると思うんです

   大沢伸一と言うと、MONDO GROSSOだというイメージをお持ちの方が多くいると思うので、RHYME SOというユニットの説明から入れればと。どういう経緯で結成されたのですか?

大沢 2017年にMONDO GROSSOが『何度でも新しく生まれる』というアルバムをリリースした後に、『FUJI ROCK FESTIVAL ’17』に出演したんです。その直後くらいにRHYMEとクラブでパフォーマンスするための音源を作ったのが始まりでした。色々と作っているうちに、2曲、3曲と塊になってきて。「1つのプロジェクトにするのも面白いかもね」というところからスタートしたんです。

    RHYMEさんについては、どんな魅力のある方だと感じられていましたか?

大沢 彼女の歌っている内容やメッセージが、いわゆるラヴ・ソングなどとは、少し距離があるように感じたんです。僕と一緒にやっているプロジェクトで言うと、社会風刺とか問題提起とか、今僕らが置かれている、インターネットを中心にした生活がありますよね? そういうものに対しても、アンチではなく、“ちょっと難しい時代に生かされていることに対する問題提起みたいなことをする”っていう姿勢で。RHYMEが元々持っているアイロニックな精神と、僕が始めたことがマッチしたというか。「これ面白いよね。しかも誰も着眼点としていないんじゃないの?」とハマって。

   だからでしょうか、大沢さんは、今までのキャリアの中でも、女性ヴォーカルの方と一緒に作品をリリースしてこられましたが、それらとはまったく違っていて。

大沢 まったく違いますね。山崎さんはよくご存じだと思うんですけど、僕自身は、音楽にメッセージ性を込めることをずっと拒んできた人間なんです。やっぱり、アートはアートで、受け取り方は人の自由だと思いながらずっとやってきていて。なので、問題提起という、ある意味メッセージみたいなことを、音楽に乗せたのはおそらく初めてです。今おっしゃっていただいたように、自分のプロジェクトであれ、他のアーティストのプロデュースをさせていただく時であれ、そういうものとはもう完全に一線を画しているというか。

    違いますね。そして、映像も観ると、年齢も違うのにイーヴンな感じが伝わってくるんですよ。

大沢 そうですね。彼女に対しては、僕の方が「こんな考え方があるんだね」と驚かされるところもあって。ある意味、イーヴン以上に彼女が侵食してきている部分もありますし、それは僕のキャリアの中でも非常に稀なケースだと思います。

    今まではプロデューサーという立場的にも、距離感的にも、大沢さんの方がインスパイアするスタンスだったと思うんです。

大沢 僕にもいろんなフェーズがあって、そうじゃない時期もあったのかもしれないですけど、どちらかというと先導することが僕の使命みたいなところもあったので、そうかもしれないです。それが今回は本当に、むしろ僕が受け身になるような瞬間も多分にありましたね。

    すごく新鮮に感じました。2人のバランスが素晴らしいなと、今回のアルバムを聴いて思いまして。

大沢 あぁ、山崎さんにその辺を見つけてもらって、こういうインタヴューを組んでいただいているということが、僕としては非常に大きな意味があります。「面白いことをやってるね」、「RHYME SO可愛いね」と聴いていただける方は結構いるんですけども、僕の音楽キャリアの中で、この特異性とか、“角度も違えば温度感も違う”みたいなことにきちんと気付いていただいて、インタヴューをオファーしていただいたこと、強く感じていたので、非常に嬉しいです。

    音楽に対して、メッセージ性や政治性も含め、一切排除してきた大沢さんが、彼女にインスパイアされた部分もあるとはいえ、大きいラインを超えたというのは、どういうことからなんだろう?と興味深くて。

大沢 徐々にそういう方向に行った感じですが、おそらく、彼女と一緒にやっていなかったらこうはなっていなかったと思うんですよね。1つ、ずっと考えていたことがあって。ほとんどの事柄に良い面と悪い面があるのは当然なんですが  インターネットって、一体どっちなんだろう?と考えていて。僕、2000年を境に、音楽に対する集中力が、どんどん減っていった時期があったんです。インターネットにまつわることに時間を食われてしまったり、自分の興味や集中力、注意を逸らされるようなことが多々あって。 一時期は抗おうとして、スタジオのコンピューターをネットワークから遮断したりもしました(笑)。あと、携帯電話も  当時はそう呼んでいましたからね  家に置いて外に出るようにしたりして。要するに音楽に没頭して、頭の中がフロウするような状態を取り戻す作業をしたんです。インターネットに1回侵食されてしまったその意識、なかなかそこから出られないって致命的じゃないですか? 皆さんもよく分かっていると思いますが。そこに気付いた時に、どうやってコントロールするのか?を本気で考えないといけないと思った時期があったんです。そこから、23年くらいずっと、いわゆるテクノロジーと人間の付き合い方はどうしていくのがいいのか? みんな、いろんな努力をするじゃないですか? デジタル・デトックスをしたりとか色々と。でも完全に排除して生きていくことはなかなか難しいわけで。だとすると、このことに対して問題提起だったらできるかな?と思ったんです。今は、それを楽しく面白く、どこまで音楽に乗せられるのか?という実験をしている感じですね。

    おっしゃったような深く思考を重ね、試行錯誤されていたことを、RHYMEさんが強引にグーっと突破しちゃうような感じがRHYME SOのプロジェクトに感じます。

大沢 はい、まさにその通りです(笑)。あとは、自分が前に出てパフォーマンスするなど、特に辞めてはいなかったんですが「この部分は、まぁ、これでいいか」っていう納得をしてしまっていたようなところを、もう1回アクティヴェートするきっかけになったり。彼女のおかげで、そういう作業もなされた感じがありました(笑)。

    10代の頃、京都で、ニュー・ウェーヴをはじめ、尖ったものにハマっていた初期衝動を取り戻させてくれたというか、そういう存在でもあるのかなと。

大沢 まさにそうですね。僕の激しい衝動の部分を、自分自身でも、年を取っていくことで、なんとなく丸くなって当たり前みたいに思っていたんですけれども、そうじゃないと思い出させてくれたというか。

    そうですよね。ですから大沢さんがいきなり違うところ行っちゃったとか、違うことをやっているよってことじゃなく、元々持っている資質が表出していると言いますか。

大沢 本当、再アクティヴェートですね。今、この取材を受けているのは、RHYME SOに関してのことですけれども  SHINICHI OSAWAという、再稼働させている僕のソロ・プロジェクトの方でも、彼女の影響を大きく受けています。

    今回、聴き方によってはコンセプチュアルな作品になっているなとも思いまして。そこについては、ディスカッションしていく中で方向性が定まっていったのでしょうか?

大沢 3曲、4曲作っているあたりから、「RHYME SOのコンセプトって間違いなくこれだよね」というものができていました。中でも一番僕が積極的に、このテーマについて「これじゃん」と思ったのは、「Fashion Blogger」という曲です。これは、僕が知り合いの美容室で髪の毛を切ってもらっている途中の話で  最近美容室ってタブレットが置いてあって、色々なものが観られるじゃないですか? それで、何となく観ていたらインフルエンサーと呼ばれているような人たちの、日常が紹介されていて。外国の方が、インタヴューに答える形式でファッションを紹介するものだったんですけど、職業を聞かれた時に「ファッション・ブロガーよ」と答えていたんです。それに軽くショックを受けて。「ファッション・ブロガーって、職業なんや」って思ったんですよね。もう6、7年前の話になるんですが、その頃すでに『Instagram』はSNSの中でもトップだったので、確かに、企業からのサポートを受けながら、ファッションのことをポストすることで生活している人はいるよなと、もちろん日本人でもいましたから、そう感じつつも、「職業」と表現していることが衝撃で。「職業」って結構重い言葉じゃないですか? 生業と考えると「どうなの?」と正直思いまして。その時に「これは問題提起だよね」と感じたんです。これについては未だに僕は正直分からなくて。例えば、彼ら・彼女らは『Instagram』を投稿している時に「働いている!」という実感があるのか?も含めて疑問なんですよね。当然、マーケティングだとか調べて何かをするという、いろんな努力は必要だと思います。僕らミュージシャンでさえ、それに晒されていますから。そのことも含めて問題提起なんです。「これって本当に仕事か? 俺にとって」なんて思いながらやっていますし。ただ、今、音楽だけを作って広めていく努力をしない人が勝てるような世の中ではないじゃないですか?

    おっしゃる通りです。

大沢 そこも含めて問題提起だなと。昔が良かったなんて単純に言っているわけではなく。どんな時代に僕らは生かされているのか?っていうことを、改めて認識する必要があると思うんです。そのようなことが、プロジェクトのテーマを考える一番大きなきっかけでした。人によっては、SNSにまつわることで生計を立てている人のことを、虚業だと言う方もいますよね。金銭は得られているけれども、実態のないことだと思っている人もいる。僕はそこがまだ疑問なんです。「これって何なんだ?」と。時間は拘束されていそう、時間を費やし金銭を得ているんだと思うし、経済も生み出していると思うんですけど、僕が古い人間なのかどうかは別問題ですが、新たな業種ですよね。そこも踏まえて僕らはどうやって付き合っていけばいいのか。そして奇しくもこの3年くらいは、Web3やNFTなど、今までの中央集権から逃れるための対抗勢力が出始めた頃じゃないですか? でも、SNSに関しても、未だに中央集権を主体にして物事がおこなわれているわけで、彼ら以上に儲かる1人のインフルエンサーはいないわけですよね。だとすると、やはりシステムの中で生かされているに変わりはないわけで。どうやって生きていくのか?、どうやってここから逃れるのか? もしくはまた違うものを作るのか?ということを常に考えています。

    アルバム・タイトル『IAFB』がプリントされたTシャツを着ている写真をSNSでポストされているのは、非常にアイロニーかつクリティックな行為ですよね。

大沢 確かに。ポイントはみんなが欲しければ欲しいほど売らないっていう。昨日もそんな話になっていて、誰かの「欲しい」が溜まれば、作って共有するんですけれども、たくさん売って何かをしようとは思っていなくて。アイデアを広めたいんですよね。今回の『IAFB』って、元々は“I AM FASHION BLOGGER”なのですが、“I AM FUCKIN’ BRILLIANT”など、このアクロニムを使ってみんなで遊んでほしい。で、なんとなく問題に気付いた時「ちょっと待てよ、何なんだろう?この時代」と考えるきっかけになってもらえたらなと思うくらいで。壮大な悪ふざけでもありますから(笑)。

    ですが、リリックにしてもサウンドにしても、ユーモアがちゃんと注入されているように聴こえます。ユーモアゆえに伝わる回路もあるということで。そこにも意識がありましたか?

大沢 僕がこのことに対して、本気で何かメッセージを伝えたいとなると、それはまた別の話になってしまうんです。シリアスに捉えられると、僕の意思とは違うところに行ってしまうんですよね。僕は、楽しんでほしいんです。「あれ、何だろう、この変な感じ」、「この人たち言ってることもふざけてるし、めちゃくちゃ面白いけど、確かに一理あるよね。でもやっぱりこの映像自体ふざけてるよね、馬鹿げてるよね」と思ってもらえたら大成功ですね。

   あと、これらの曲を、RHYMEさんがパフォーマンスすることによって、全然違う回路から言葉が入ってくるなとも思いました。気持ちがハイになって楽しい。でもリリックはDNAレヴェルで心に入ってくるという。

大沢 嬉しいです。今もまさに、先日から『Instagram』にポストし始めたものがあって。モキュメンタリーなんですけれども、街中で彼女が撮影している最中に、ある通行人たちがぶつかって、喧嘩が始まるんです。で、その様をたまたま撮ってしまったがために絡まれるというようなストーリーで。プライヴァシーの侵害とか、そんなことに対して言及している曲なんですけど「いろんなところに行って写真撮りたいんだったらこれ撮りなよ」みたいな話をしているんですよね(笑)。本当にみんな撮るのが好きですよね。もはや、写真が好きなのかどうかも分からなくなっていると思います。何か新しいもの、自分の持っていないものが画角として目に入ったら、反射的に撮るみたいになっている気がする。そんなパブロフの犬みたいな状態も1回疑ってみるべきなんじゃないでしょうか。

    その映像で流れる「PICTURESQUE」は、誰もがどこかイタいなと思っていてもスルーしているところをあぶり出している楽曲ですよね。そして、RHYMEさんの視点でもあると思うんですけど、外から見た日本がジャケットはじめ全篇に注入されているなと。

大沢 その通りで、彼女が見せてくれるのは、僕らが知っているようで知らない日本。気付いているようで全く気付いていなかった日本の魅力、彼女からしたら「何でこんなにカッコ良いのにこれ使わないの?」、「何でこんなに美しいのにもっと認められていないの?」と感じていたものを具現化したところでもあります。

   「SILENT」のようなメロディも、その視点がないと出てこなかったんじゃないかなと思いました。

大沢 そうですね。本当にそれは彼女のインフルエンスで僕とやっている中で出てきたものなので。そこに大森靖子ちゃんのクレイジーなアイデアも入って。最高で大好きな1曲です。

   背景を聞くと色々なものが見えてくるんですけども、単純にパッと楽曲を聴いただけだと、非常にキャッチーなんですよ。これがアンビヴァレントな感じになっていて。リリックは問いかけてくるから自分に向き合わざるを得ないんですけども、サウンドと歌が気持ち良くさせてくれるという。RHYME SO、もっともっと色々な展開を見てみたいです!

大沢 アクセスを増やしてもっと広げていきたいなと思うんですけれども、結局、問題提起をしているインターネットやSNSの力を借りないと広げていけないというのも、また面白いコンフリクトですよね(苦笑)。

    この先、今年はどのようなスケジュールが?

大沢 もう1枚アルバムをリリースできればと思いつつ、『IAFB』もさらに枠の外に広げていくような活動をしていくつもりです。フォロー・アップのリリースも含め、リミックスなども進めていきたいと思っています。

『IAFB』
発売中
〈A.S.A.B〉

 

【配信サイト】
fanlink.to/RHYME_SO_IAFB

INFORMATION OF RHYME SO

【WEB SITE】
www.rhymeso.tokyo

【Instagram】
@rhyme.so

【X】
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【Facebook】
www.facebook.com/RHYME.SO

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