劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ×緒川たまきによるユニット「ケムリ研究室」が、待望の新作舞台『眠くなっちゃった』をこの10月から上演する。現代よりも前の時代の人々が考えた“未来の姿”をベースにほろ苦いSF劇が描かれるそうで、公開されているわずかなトピックから様々な想像を巡らせられるのも、「ケムリ研究室」作品の魅力の1つ。彼らの舞台は初参加となる奈緒も、物語にゆっくりと身体を預けている最中だ。実験的に進められる稽古は新感覚であり、「日々自分が変われている」実感があるのだと言う。
そびえる舞台セットが存在感を放つ稽古場の一角にておこなったインタヴューでは、穏やかなトーンながら、沸き立つ衝動を感じさせていた奈緒。瞳を目一杯輝かせながら語ってくれた。
バァフ 作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)さんと緒川たまきさんのコメント動画を拝見したのですが、「(出演者の皆さんには)いろんなことができそうな場だなと感じてほしい」といったお話をされていました。現時点ではお稽古が始まって1週間ほど経ったタイミングですが、体感としていかがでしょうか?
奈緒 まさに研究室のような稽古場です。KERAさんと緒川さんが仰ったように、「みんなでいろんなことにチャレンジして一緒に作っていく」ことが、どこまでどういう風になるのか、稽古が始まる前まであまり想像がついていなかったんですけど、実際に始まってKERAさんの台本が日々少しずつ手元に届く中で……例えば3ページいただくとしたら、その3ページの中だけでも何個挑戦できることがあるだろう?と想像できるくらい、広がるものが本当にたくさんあって。KERAさんが書かれたものを具現化するために何ができるのかをみんなで一緒に考える稽古場なので、時には「これは違ったね」などと言いながら、とりあえずトライしている毎日です。
「ケムリ研究室」の舞台への参加は初めてですし、最初は緊張やどこか遠慮もあって、自分の思っていることや感じていること、疑問などをどれだけ話していいのかなと考えていたのですが、今はどんどん口にすることで日々自分が変われている感覚があります。ケラさんと緒川さんをはじめ、先輩たちの背中を見ることで姿勢を変えていけたところでもありますし、きっとこの先も本番までいろんなことを試しながら変わっていけるのだろうなとワクワク感で溢れています。
バァフ 台本を一部拝見したのですが、SF劇ながらも現代を生きる私たちとも密接な感情や情景が浮かんでいて。とはいえ、当たり前ですが一言では言い表せられないKERAさんが描く不可思議さみたいなものも多く散りばめられている印象でした。
奈緒 『眠くなっちゃった』で描かれる世界は私たちが今生きる世界とは少し違う場所にあると認識しているので、そういう意味で言うと、自分たちの常識をどこまで『眠くなっちゃった』の世界に落とし込むのか?が必要になってきて。もちろん必要であればKERAさんに相談しますし、逆に、「ここが不透明でも届くものなんじゃないかな」と感じる部分は、今の段階ではあまり決めずにいます。正直まだ自分のシーンでいっぱいいっぱいだったり、今回のステージングもとても素敵なのですが、自分がそのステージングの足を引っ張らないようにやらなければいけない、1つひとつに責任感を持たなければと心構えをしている最中でして。ただその中でも、出演者の皆さんと同じ世界を共有したい想いがあります。今一番目指しているところは、キャラクターそれぞれのシーンでも「この人たちは同じ世界に生きているんだ」と観てくれるお客さんが信頼できるような、1つの大きな空気感を出演者の皆さんと共有できたらいいなと思っています。
バァフ それから、ヴィジュアル撮影の様子を映したメイキング映像も印象的だったのですが、椅子に座る奈緒さんが微妙に斜めに傾いていたり、手も綺麗に整えるのではなくもぞもぞする様子で。何か物言いたげな表情もそうですし。最小限の動きの中から様々な情報をキャッチできて、奈緒さん演じるナスカはどんな人物なのか気になったのですが、あの時はどういったディレクションがあったのでしょう?
奈緒 あの時はナスカを演じることも私は知らない段階でした。KERAさんからお話しいただいたのは「この人たち(登場するキャラクター)は何かにすごく疲弊していて、そういう世界を多分共有している人たちなのだ」と。具体的な動きの指示もいただいて、例えば普通にしゃんと立つのではなく、何時間経っても何かを待ち続けている極限状態の人たち、といったイメージをいただいたので、そこに合わせて動いていたんです。きっと皆さん同じようなディレクションがあったのかなと思いますが、出来上がったヴィジュアルを見た時、みんなで同じ世界を作れているというか入口を見ることができた感覚になりました。KERAさんと緒川さんの頭の中ではすでに構想が膨らんでいらっしゃったと思うので、その世界を少し教えていただけた1日でした。
バァフ その時間とお稽古を経て、現在のナスカはまた大きく変化を?
奈緒 そうだと思います。ただ、今の時代のリアリティで演じればいいわけでもなくて、「これは1つのお伽話なんだよね」っていうキーワードをKERAさんからいただいているので、まだまだ試行錯誤の手探り状態で。ナスカの相手役・アーチーを演じる永田(崇人)さん、ナスカ自身の家族との関係性にもどんどん変化がありますし。
バァフ アーチーと彼の母親・アルマ(平田敦子)のやり取りをナスカが見るシーンが出てきますが、笑っていいのか分からないんですけど台本を読んだ時にふふっと笑ってしまいまして。奈緒さんはここでどんな表情をされるのか、ナスカの腹の内には何があるのかを想像しましたし、KERAさん特有のシニカルさを含んだ描写にもなるのかなと。額面通りに受け取ってはいけないような面白さを感じたんですよね。
奈緒 ちょうど今日、そのシーンの稽古をしています(笑)。KERAさんの台本って、面白いなと思う瞬間がたくさん散りばめられていますし、私も「この動きをあの方がやるのか、自分が客席にいたら笑っちゃうかもしれない」など想像しながら読んでいました。でもいざ稽古場に入ると、KERAさんは笑わせたくないわけではないけれど、だからと言って緩ませたいわけでもない、ストレートに演じればすごく面白いシーンになるものをどうにかお客さんが受け取ったことのないような形にできないだろうかと深く探って、稽古されるんです。なので、台本を読んで面白さを感じたシーンは、つまりは演者にとっても勝負になるなと実感しています。自分たちがおこなうことを時には疑いながら作っている最中なので、お客さんも「ここは笑っていいのかな?」と疑問を持つ瞬間が出てくるかもしれませんが、そういった新しいものと出会えた時、幸せな気持ちで劇場を後にしていただけるのかなと。 そこを作れるようになるのはとても難しいし、かなりの試練ですが(笑)、私は特に「この世界にナスカが存在している」ことをどうすれば説得力を持って伝えられるのかを考えながら色々とチャレンジしていきたいです。
バァフ 昨年上演の、奈緒さん、風間俊介さんをメインに展開した舞台『恭しき娼婦』は、説得力という意味でもお2人だから成し得た作品だったのではないかなと感じました。プレーンなセットの中で躍動する、心地良さと不穏さが同居するようなお芝居は観賞後もずっと後を引いてしまって。説得力は十二分にお持ちだと感じますが、説得力を持たせるための表現を追い求める上で、奈緒さんは何を一番信念とされているんですか?
奈緒 私は映像と舞台のお仕事、どちらも行き来するので、感覚的にちょっと変わる部分があるなとは思っていて。映像はその時の気持ち、例えばナスカがアーチーのことを好きな気持ちがあったとしたら、「この人が好きなんだ」って気持ちを抱いて、ただそこに居るだけでも絶対に滲み出るものはあると信じているんです。映画のスクリーン、ドラマの画面には絶対に映るだろうなと。なので、作風にもよりますが、極力(芝居的に)説明していくことを省く瞬間もたくさんあって。ただ舞台の場合は物理的にもお客さんと距離が離れるので、想っているものが客席まで届かなければ想っていないことと同じになってしまう怖さがありますし、どこまで出力するのか? 自分が抱いた気持ちをどこまで身体に乗せるのか?みたいなところは、まだまだ未熟さを感じる部分でもあるんです。今回の稽古でも毎回映像を撮っているので、家に帰って自分の映像を観返しながら「ああ、こうやって思ってやっていたけど、まだ全然届いていないな」みたいなことを感じながら自分の芝居を振り返り、未熟なところを鍛えています。一番大事なのは嘘がないことですね。舞台をやる時でも映像をやる時でも、根本的な嘘は極力減らしたいですし、どこまで身体と連動させるかがとても重要。でもそういう意味で言うと、舞台は舞台上の大きさは決まっていますが、映像のように「ここからここまでは顔の寄りなので、あまり動かないでください」と言われて、力の匙加減や身体との連動の調整をする必要がほとんどないので、リミッターを外して思いきり動いてみた方がいいのかなと感じますし、思いきり気持ちを乗せられるという意味でもより挑戦できる場所だと感じます。反省点はたくさんありますけどね。
バァフ 今作を経てさらなる創造性を手にした奈緒さんが、この先どのように歩まれるのかとても楽しみです。それにしても、奈緒さんでもまだ反省されますか……。
奈緒 (笑)全然しますよ、反省しなきゃと感じる日々です。反省によって作られるものは大きいよなって。後ろ向きの反省じゃなく、限りなく前向きに反省していけたらいいですよね。
オールインワン(47,300yen) / エンフォルド(tel.03-6730-9191) イヤーカフ(24,970yen) / テイクアップ(tel.03-3462-4771) ※共に税込
ケムリ研究室no.3『眠くなっちゃった』
作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演/緒川たまき、北村有起哉、音尾琢真、奈緒、水野美紀、近藤公園、松永玲子、福田転球、平田敦子、永田崇人、小野寺修二、斉藤 悠、藤田桃子、依田朋子/山内圭哉、野間口 徹、犬山イヌコ、篠井英介、木野 花
10月1日〜15日〈世田谷パブリックシアター〉、10月20日〜22日〈J:COM北九州芸術劇場 中劇場〉、10月26日〜29日〈兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール〉、11月4日〜5日〈りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場〉にて上演
【WEB SITE】
www.cubeinc.co.jp/archives/theater/kemuri_no3
INFORMATION OF NAO
主演ドラマ『あなたがしてくれなくても』のBlu-ray&DVD-BOXが11月22日発売。出演する映画『スイート・マイホーム』が全国公開中。
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