CULTURE

ゴリゴリのヒップホップから、切ない王道J-POPまで縦横にソングライティングする甲田まひるという22歳の才能

SEP. 26 2023, 11:00AM

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対話/山崎二郎

22歳のシンガー・ソングライター、甲田まひるが7月にリリースした1stフル・アルバム『22』が素晴らし過ぎる仕上がりでヘビロテ。英語と日本語が交互に入ってくる、スキルの高いフロウで披露される強気なヒップホップ楽曲で引き込まれたと思ったら、切なくて繊細で弱気な内面を掬い上げたJ-POP王道楽曲が続いてくる。さらには、元々ピアニストであった彼女のキャリアの原点と言えるジャズやラテン・フレイヴァーがトッピングされてくる。だが、どの曲も細かいところまで音色は練りに練られている。俳優、ファッション・モデルをおこなっているだけに、ややもすると本質が届きにくい状況もあるかもしれないが、とてつもなく高いレヴェルのソングライターであり、すべてを独力で作り上げるサウンド・クリエイターであることがこの1枚を聴けば、瞬時に理解できることだろう。そんな甲田が、9月13日、
「One More Time feat.Gottz」、
「M feat.SANTAWORLDVIEW」、「Ame Ame Za Za feat.YINYO」の新曲3曲を含めた『22 Deluxe Edition』をリリースした。9月16日〜10月1日〈天王洲 銀河劇場〉、10月6日〜10月9日〈京都劇場〉で上演の出演舞台『チェンソーマン ザ・ステージ』のリハーサルで多忙な中、話を訊いた。

日本語にしかない表現もたくさんありますし、まだまだ知らない言葉もたくさんあって、日本語への興味は尽きないです

バァフ 甲田さんは元々ジャズ・ピアニストだったのですよね。今はシンガー・ソングライターでもありますが、「歌いたい」という気持ちが生まれたのと同時に「こういうことを伝えたい」という言葉そのものが出てきたのでしょうか?

甲田 そうではなかったんです。

バァフ ということは、「歌いたい」という衝動がまずあったと?

甲田 はい。歌詞も、それまで書いたことはまったくなくて。むしろ文章を書いたこともなく、純粋な「歌いたい」という気持ちが先行していました。

バァフ 元々言葉を書いている人だったら、歌詞としても自然と自己表現できるのかと思いますが、「歌いたい」という気持ちから始まった方がリリックを書く時、まず何を書こうと思われました?

甲田 どう思っていたんだろう……。(シンガー・ソングライターとして)最初に出した『California』まで準備期間が3年くらいあり、その色々なデモを作っていた頃が初めてだったと思うのですが、何を書いていたのかまったく思い出せない(笑)。でも、誰か聴いてくれる人を想定して、そこに向けての言葉というよりは、自分が好きなこと、嫌なことしか最初は出なかった気がします。あとは恋愛っぽい曲とかを書いてみたり。自分の世界の中で書いていた感じでしたね。

バァフ 今おっしゃったような、聴き手を意識する  誰かに伝えたいという想いで曲を作り始めたのはいつ頃でしたか?

甲田 正直今もまだ、みんなにこれを伝えたいというところまではいけていないと思います。

バァフ 今歌いたいものを歌っていると。

甲田 そうですね。その結果、共感してくれる人もいればいいなくらいでいます。

バァフ しかし甲田さんって、表現する時のコントラストがはっきりしているところが魅力的ですよね。ヒップホップでフロウする時の強気で無敵な感じと、メロディのある、特にバラードの曲、繊細でちょっと弱気な部分がある。その振り幅みたいなものが、そして揺れ動いている感じが素敵だなと思いまして。

甲田 ありがとうございます。例えばファッションも、昔から統一していなくて。その時々で好きなことが違うから、ジャンルをあまり決めないで服を着てきたんです。飽き性だということもあるんですけど(笑)。髪型もコロコロ変えるし、そういうのは音楽にも出ているなと感じます。「気分で好きなことをやる」ことが自分の好きなことなので。調子の良い時と落ち込んでいる時の差があるので、いつ作るかによって全然違う曲になっちゃうところもハッキリ出ていると思います。

バァフ ご自分の弱いところや繊細な部分を出すのに躊躇はないですか?

甲田 躊躇はないですね。むしろそういうアーティストの音楽が好きなので。自分も良いところだと思って書くようにしています。

バァフ 日本語の曲、特に清水翔太さんや青山テルマさんが好きだという記事を拝見しました。

甲田 そうなんです。「Snowdome」を書いた時は、青山テルマさんの「そばにいるね」など、2000年代初期のJ-POPを意識していました。あの頃の曲は歌詞もそうですが、メロディが強いじゃないですか? そこが魅力だなと思っていて。

バァフ 当時の曲にある切なさみたいな、日本人特有の感覚がちゃんと注入されているのがすごいところで。

甲田 自分の曲の中でも多いかもしれません。デモの中でも、明るい曲は少なめです。ビバップを好きになったのも、どこか寂しさを感じるところに惹かれたんですよね。

バァフ バド・パウエルがお好きなんですよね。

甲田 はい。それこそパウエルなんか、晩年のもう弾けなくなっている時が一番好きなんです。

バァフ そこなんですね! 甲田さんの曲の時折ラテンが入ってくる感じも、僕好きです。

甲田 本当ですか? 私、ラテンが大好きなんです! 今までもラテンの曲を作ろう作ろうと思って作っていて、「ごめんなさい」もラテンっぽくしています。

バァフ ラテンでも、ブラジルなものは聴きますか?

甲田 聴きます! ブエナ・ビスタ(ソシアル・クラブ)など。あとはキューバ系も。ベリー・ダンスを昔何度か観に行っていたので、そういうのも好んで聴くようになりました。

バァフ 今回の『22 Deluxe Edition』では、3曲、男性ラッパーとのフィーチュアリングが入っています。人選はご自分で?

甲田 はい。初のフィーチュアリング作品なので、まずは仲の良い方にお願いして。

バァフ みなさんのどういうところに魅力を感じられていますか?

甲田 (「One More Time feat. Gottz」)Gottzさんは、KANDYTOWNの中でも「Gottz & MUD」というユニットで曲を出されているんですね。そのお2人の曲がすごく良くて。MUDさんも好きで、ずっとリスナーだったんです。Gottzさんが参加されている曲は、どれも彼のヴァースになると一気に曲の世界観が引き締まるなと思っていて。声の力もある方ですよね。ブーン・バップで渋くラップしてもらえたらカッコ良いだろうなと思い、「One More Time」でお願いしました。(「M feat. SANTAWORLDVIEW」でコラボした)SANTA(WORLDVIEW)くんと(「Ame Ame Za Za feat. YINYO」でコラボした)YINYOくんは2人とも年が近くて。同世代のミュージシャンと一緒に、何かやりたいなとずっと思っていたので、実現したのが本当に嬉しかったです。

バァフ 曲を作る時、特にこういうヒップホップを作る時は、先にBPMを決めますか?

甲田 ブーン・バップを作りたい時は、例えばBPM96あたりに設定してみて、そこから曲の雰囲気に合わせて速くしたり遅くしたりするという感じで、進めています。

バァフ その後はリリックが出てくるじゃないですか。それでまた音色とかを変えていく流れで?

甲田 はい。音色はレコーディングの前日くらいまで変えます。

バァフ すごい(笑)。

甲田 決まらないんです(笑)。スネア違いとかで全部書き出すので、いつもパターンが10個くらいできてしまうんです。

バァフ 締め切りがなかったらずっと作っていたりして……。

甲田 ずっと作っています。逆に言うと、締め切りが早くても大丈夫というか。締め切りに合わせて進められるんです。

バァフ 『22』では、時間がかかったトラックはなかったですか?

甲田 今作は作る時間が結構あったので、バーっと作った曲が他にもあって、それを選別してまとめていたんです。全部で20曲くらい作っていました。なので「One More Time」と「in the air」は、2年前くらいにはもう完成していましたね。

バァフ 僕が今好きなのが「in the air」です。終盤に入ってくるピアノの流れがスムージーで。

甲田 嬉しいです。グランド・ピアノで録音しまして。自分と向き合った曲だったんです。夜、眠れなくて3時頃諦めて起きて、そこから作った曲なので、日記のような曲になりました。深夜にパッと作った感じで、そのままの気分でできています。

バァフ こういうテイストも、振れ幅があって本当に素晴らしいです。甲田さんの場合は、言葉としては英語の方がスルッと出るんじゃないかと思うんですけど。

甲田 日本人なので、やっぱり日本語の方が出るのですが(笑)、メロとなると英語の方が書きやすいです。

バァフ そうですよね。それでも日本語で書かれるのは、日本語にしかできない表現を感じられているからなのかなと。

甲田 日本語が好きなんです。文字のパズルみたいな感覚が楽しくて。あとは、第一言語ですから自分でも細かいところまでニュアンスが分かるじゃないですか。日本語にしかない表現もたくさんありますし、まだまだ知らない言葉もたくさんあって、日本語への興味は尽きないです。

バァフ 「22」で〈距離を取るために覚えた敬語も〉というフレーズがあります。

甲田 その歌詞、その後がなかなか繋がらなくて。元々は〈舵を取らせないために呪文〉がなかったんですよ。思い付かないから「〈距離を取るために〜〉をやめよっかな」みたいな話をしていたら、いしわたり淳治さんが「ここ、めっちゃいいじゃん!」と言ってくれて。

バァフ パワー・ワードですもん。

甲田 (笑)なので絞り出して書きました。

バァフ 良かったです、このラインが削られなくて。いしわたりさんにはトリートメント作業をお願いしているんですか?

甲田 はい。お渡しする時には、メロディと歌詞はほぼフィックスしていました。

バァフ じゃあ、もうアドヴァイスをもらうくらいで。

甲田 そうです。ただ、本当に私がめちゃくちゃ優柔不断なので……。

バァフ パブリック・イメージではハッキリしていると言われそうですが。

甲田 よく言われます(笑)。でも実は、お店で注文するメニューなんて一生決まらないです。コンプレックスに感じているのですが、何も決められなくて、結構人に決めてもらうことが多いです。人に決められて美味しくなかったら我慢できるんだけど、自分で決めて失敗した時が怖いんです。

バァフ ただ、こういう楽曲などのクリエイティヴは、自分で完結したいわけですよね。

甲田 したいです(笑)。

バァフ (笑)。

甲田 音楽は決まらないと終わらないので早い時は早いんですよ。「もうこれしかない」という時はパンと決まりますが、細かいミックスのリヴァーブがかかっているのとかかっていないのとでは、どっちがいいんだろうということをずっと悩んだりしています。そういう時にプロの方と作業するとジャッジが早くて勉強になります。

バァフ 今回、そういう意味でもいろんな方とやっていらっしゃるんですもんね。

甲田 そうなんです。「こういう時はこういう判断なんだな」など、タメになりました。

バァフ この「22」もJ-POPの系譜というか、あるラインにちゃんと則っているなと思ったんです。あんなゴリゴリのフロウも書きながら、王道のラインも書けるってポイントだなと。めちゃくちゃ王道感があるんですよ。それでいて音色は今のものになっていて、良い意味で歪な感じがフックになっているんですよね。

甲田 嬉しいです。年齢をテーマに書いて良かったなと思いました。

バァフ 今しか書けないですよ、これは。甲田さんはキャリアが早いところからスタートされているじゃないですか。周りから常に自分の内面より上に見られる感覚ってなかったですか?

甲田 どうでしょうか……? 昔からずっと自分を客観的に見ている感じはあります。元々大人の方と喋るのが大好きだったので、自分が子どもだという感覚がなくて。幼稚園の頃から早く大人と対等に喋れるようになりたいと思っていたくらいでした。

バァフ そんな幼い時から?(笑)。

甲田 はい。自分よりいろんなことを知っている大人と喋るのが好きで。常に背伸びしている感じだったと思います。でも今は自分の年齢で生きている感じもあって。やっと追い付いてきたというか。

バァフ アルバム・タイトルも、『22』となったのは必然な感じがします。

甲田 本当にそうかもしれません。22という数字が単純に好きなのもありますが、私の中でこの年齢は、何か特別で。22歳を目の前にして「『22』という曲を絶対に書こう」ということは何となく決めていました。それくらい書きたいことがあったということなんだろうなと。10年後くらいに聴いたらどう感じるのか。まだ分からないですが、面白そうだなとすでに思っています。

『22 Deluxe Edition』

発売中
〈ワーナーミュージック・ジャパン〉

INFORMATION OF MAHIRU CODA

9月16日開幕『「チェンソーマン」ザ・ステージ』にパワー役として初の舞台出演が決定。

詳細は、chainsawman-stage.jpまで。

 

10月22日に1stフル・アルバム『22 Deluxe Edition』 mini live eventを〈表参道WALL&WALL〉にて開催。
詳細は、wmg.jp/mahirucoda/news/88964 まで。

 

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