CULTURE

ゆりかとホストたちの奮闘が話題のラヴ・コメ『埼玉のホスト』。座長の山本千尋自身にも現れた変化とは?

AUG. 15 2023, 11:00AM

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撮影 / 横家暉晋
文 / 多田メラニー

歌舞伎町随一のホストクラブから買収の危機にある、埼玉のホストクラブ「エーイチ」。接客もキャストの容姿も粒揃い……とは言い難いほど廃れた店の経営再生に乗り込んだのは、業界で名を馳せている超優秀なコンサルタントのゆりか(山本千尋)だった。店のナンバー1になり得る逸材、キセキ(福本大晴/Aぇ! group / 関西ジャニーズJr.)を見つけ改革へと乗り出すが、さまざまな困難に行く手を阻まれてしまう。放送中のドラマ『埼玉のホスト』は先々が気になるストーリー展開と、役者たちの小気味良い芝居のテンポ感が後を引く作品だ。中でも、本作で連続ドラマ初主演となる山本が扮するゆりかは自分以外の人間を信じず、鉄壁という言葉がよく似合う佇まいで、投げかける言葉にも一切ノイズが混じらない。山本の代表作として紹介されることの多い、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、〈Netflix〉『今際の国のアリス』シーズン2では、しなやかでキレのあるアクションを度々披露してきたが、本作ではスーツを身に纏い、感情をほとんど出さず動きも少ない、静の芝居がベースとなっている(ゆえに、取材時も役衣装でカメラ前に現れた途端、「ゆりかの表情になっちゃう!」と本人が吹き出してしまうほど役が染み付いているようだった)。だからこそ回を重ねるごとに見えてくる、ゆりかの義理堅さ、ふとした瞬間の綻びには一気に身近さを感じてしまい、愛らしさすら覚えるのだ。

 

俳優を生業としてから10周年を迎える山本。役を芝居に落とし込む過程を紐解くと、丹念で真摯な人柄が見えてきた。

「これが正解だ」と思ったものを地道に続けていけば、いつからかそれが自分の一番の強みになるんじゃないかなと思っています

バァフ 回を追うごとに無機質だったゆりかに人間味が出てきますが、感情の振れ幅などお芝居のコントラストはどのように意識されていましたか?

山本 ゆりかは最初、「所詮ホストなんて」という気持ちで業務的にコンサルをおこなっていたと思うのですが、「エーイチ」のみんなと過ごす中で心を開ける瞬間があったり、彼らの挫折や成長を目の当たりにすることで段々と彼らに寄り添っていきます。ゆりか自身も1つ大きな成長を遂げ、みんなのおかげで過去の自分のコンプレックスからも救ってもらえたような気がします。そういった部分は、現場でみんなとお芝居を合わせていく上で自然と出せたかなと思います。

バァフ 変化の過程をどう見せるか元々プランニングされていたというよりも、周りのお芝居を受けたことで表出していく方が多かったですか?

山本 一応プランも考えていました。登場人物の1人ひとりにスポットが当たる中で、ゆりかは奥手なところもあるから、「この辺りでちょっと変わるのかな?」と台本を見ながら予想して、徐々に人を信じ始めていく様を出していこうかなと。実際に現場に入ってみると予想と全然違う部分もあったので、そこはチーム全員で作り上げていく楽しさがありました。エーイチのみんなに心を動かされる瞬間があまりにも多かったですし、ゆりかを作っていけたのも素晴らしいメンバーに出会えたおかげだなと感じています。個人的な役作りの準備で言うと本当に業務的なものになってしまいますが、まずはホストクラブに行ったことがなかったので、スタッフさんと一緒にホストクラブに行かせていただきました。 ホストの歴史はどこから始まったのか、あと、コンサルタントの仕事って一体どういう人がしているんだろう?とか、まずは基礎知識を入れるところからスタートして。また、いわゆる連続ドラマでの座長というものを任せていただいたのも、今回が初めてで。これまでは、現場で一番考えていたのは自分自身のことでしたが、今回は自分よりもみんなのことを考える機会の方が多かったです。自分の反省会ばかりしていた帰り道も、「あの子は今日こうだったな、ちょっと連絡してみようかな」といった意識が強くなっていました。いつも以上に考え悩むことが多かったけれど幸せでしたし、同時に、主演をされている方々のすごさを初めて理解できました。私の場合、座長としてみんなを引っ張るよりも、サポートしていただきながら座長で居させてもらっている感覚の方が強くて(笑)。みんなが少しずつアドヴァイスをくれたと思っています。

バァフ 山本さんの細やかなケアも寄与しているのではと思いますが、現場の雰囲気にも変化はありましたか?

山本 みんな終始仲が良くて部活動の仲間みたいな距離感でしたが、要所要所の大事なシーンが出てきた時は、「自分はこうしたい」だとか「あれは良くなかったね」と、率直に意見を言い合う時もありました。そういう話ができる関係性って私の記憶だと学生時代くらいかなと思うと、意外と貴重で。すでに仲が深まっていたのは大きいですが、1人ひとり自分の役にやりがいや愛着を持ち、作品に対する想いが強かったからこそ実現できたのだろうなと思います。“周りの人の環境が自分の環境”じゃないですが、特に今回のようにみんなで作っていく青春群像劇だと、自分が上手くいっていない時は周りも上手くいかないことが必然的に起こっていて。キャスト、スタッフ陣が一体感のあるドラマに出演でき、とても良い経験をさせていただきました。特に印象的だったのは  キセキとの胸キュン・シーンは、お互いそういったシーンが不慣れなので気まずくなるのかなと思ったのですが、俯瞰で考えられたというか、「こういう風にしたら視聴者の方がキュンとしてくれるかもしれないよね」などと意見交換ができて。福本さんはすごく周りのことを見てらっしゃるし、チームのことをとにかく想って盛り上げてくださって。関西弁で明るく振る舞う一方で、お芝居に対してすごく真面目だし、時に繊細で、内に抱えているものがあるのかなと想像できる瞬間もありました。しっかりされているからその姿を見せないだけで、そういった部分はキセキと似ているようにも思えました。福本さんは私より年齢が3つ下なんですけど、彼から学べる姿勢もたくさんあって、彼のおかげでお芝居を作る環境ってこうだよねと初心に戻らせてもらえました。

バァフ 意思決定の場に於いても、ゆりかからは一貫した強さを感じます。お仕事の進め方や俳優としての在り方など、山本さんが貫きたいものと言うと?

山本 報恩謝徳の気持ちは忘れたくないです。私はアスリートの生活(3歳から中国武術を体得し、『世界ジュニア武術選手権大会』では槍術で過去に2度金メダルを獲得)から始まったのでスポーツは1人でできるものではないと実感していますし、優勝した時も自分の喜びより周りの人への感謝を感じたのが正直な気持ちで。同じく女優業も1人だけでは成立しないので、まずは周りの方への感謝、そして時間はかかってしまうかもしれないけれど、お世話になった方々へ何か恩返しができるよう1つでも良い報告ができたらいいなと思っています。大河ドラマ(『鎌倉殿の13人』)に出演した時は、私のデビュー作の撮影地だった太秦の、古き良き時代劇を支えてきたスタッフの皆さんに良い報告ができました。今回連ドラで初主演させていただいたことも、この10年の間、いろんな方たちが「いつか主演をしてね」と言ってくれていたので、自信を持って「ぜひ観てください」とお伝えできますし。なので、報恩謝徳の気持ちはこれからも忘れずに居続けたいです。

バァフ お芝居についてもう少し深くお聞きしたいのですが、山本さんの出演作をいくつか拝見させていただく中で、アクション・シーンはもちろん圧倒的なのですがそれ以外のお芝居も引き込まれる要素がたくさんあって。ご自身の意識下で役に擬態しようとされているからなのか、もしくは役への共感性が高いから、自ずと役柄が滲み出てくるのか。実現できる理由をご本人的にはどう思われますか?

山本 何でしょう、難しいですね……台詞や最低限のルールとして絶対に必要なものは安心材料として事前に考えておきますが、あまり役作り的なことはせず、相手から受け取って表現したいタイプなんです。そうなれたきっかけが大河ドラマで、泣くシーンでもなかったのに、相手のお芝居を見て初めて自然と泣けたんですよね。それまでは泣きのお芝居があっても全然涙が出ずに、「私って本当にお芝居ができないんだ」と落ち込むばかりで。だけど大河で相手のお芝居を目の前でちゃんと見て、受け取れた時に、一気に心が動かされたんです。答えになっているか分からないですが、私のお芝居で良かったと思っていただけるシーンがあったなら、それは多分、周りの方々がすごく素敵なお芝居をしてくださっていて、私も自然と動かされただけだと思うので……私の技術力は、落ち込むくらい何もないんです(笑)。

バァフ 目の動き1つにしても、情感がこもっていて素敵だなと感じましたよ。

山本 ありがとうございます。考えだすと「あれできているかな、これできているかな」って台詞も飛んじゃうくらい余裕がなくなるので、自分にできる精一杯のところで毎回トライしています。

バァフ 心配しないためにもと言うと変ですが、ご自身の表現の蓄えとして、積極的におこなっていることは何かありますか?

山本 映画を観たり作品に触れることです。単純に大好きというのもありますし、プロデューサーさんや監督さんから「○○の作品のアイデアでさ」と振られた時に、「その作品、知っています。観ました」とすぐ答えられるくらいには勉強して把握していたい。不慣れなことをチャレンジすると先々続けていくのも難しくなりますし、特殊なことはせず普段通りの生活を送るのが一番だと思うので  大谷翔平選手も学生時代からおこなっていることは変わらないと仰っていますが、その理由はよく分かるので  「これが正解だ」と思ったものを地道に続けていけば、いつからかそれが自分の一番の強みになるんじゃないかなと思っています。

Ⓒ『埼玉のホスト』製作委員会

 

ドラマストリーム『埼玉のホスト』
演出/古林淳太郎、坂上卓哉
出演/山本千尋、福本大晴 (Aぇ! group / 関西ジャニーズJr.)、楽駆、木村 了、中沢元紀、田中洸希、濱尾ノリタカ、守谷日和、中山咲月、他
毎週火曜深夜25時より〈TBS〉他にて放送中、〈Netflix〉にて最終話まで全話先行配信中

 

【WEB SITE】
www.tbs.co.jp/saitamanohost_tbs

INFORMATION OF CHIHIRO YAMAMOTO

9月14日より開幕する、劇団☆新感線 43周年興行・秋公演 いのうえ歌舞伎 『天號星』に出演。

 

【WEB SITE】
www.stardust.co.jp/talent/section2/yamamotochihiro

 

【Instagram】
@chihirooyamamotoo

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