CULTURE

移りゆく時代に山口祐一郎と浦井健治が“家族”を問いかける、舞台『家族モドキ』

JUL. 28 2023, 11:00AM

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撮影 / You Ishii 文 / 多田メラニー

ミュージカル界を牽引する山口祐一郎と浦井健治が、『オトコ・フタリ』以来約3年振りのストレート・プレイで再共演を果たす、舞台『家族モドキ』(今作も引き続き山田和也による演出と田渕久美子が脚本を手掛ける)。普遍的なテーマながら、時代と共に変容し、その在り様や答えが限定されないところが“家族”の面白さなのだろう。作品や役柄について真摯に柔軟性を持って語る山口と浦井の言葉からも、一般的な家族という枠組みに囚われない深い想いを受け取り、人と繋がり生きることへの豊かさを感じた。

 

なにより、2人の心地良い空気感は本作の物語を描く上では肝要になるのではないかと思う。20年以上の付き合いで、山口がチャーミングに振る舞えば浦井がすぐさま乗っかり、その場をワッと盛り立てる。人間的にも表現者としても厚い信頼とリスペクトで結びついた2人の関係性を表すのであれば、彼らもまた、家族と言えるのかもしれない。

完璧、完全といったフレーズは、その瞬間にはありえても、過ぎた時点でなくなる(山口) 命の尊さを含めて、受け手も発信する側も、生きている感覚を共有している(浦井)

   お2人は、作品とそれぞれ演じられる役に対してどのような魅力を感じていらっしゃいますか?

山口 先ほど取材前に話していたのですが、コロナが蔓延し始めた3年前は、例えば田舎から東京に集まってきた学生さんたちが「さあ、これから学校に行こう、アルバイトをしよう」と希望を持っていたけれど、コロナで何もできなくなってしまって。仕方なく実家に帰ろうにも、「東京に行ったことを知られているから今は帰るな」と言われてね。通学できず、劇場などのエンタメも中止が多かったし、1人狭いワンルームの部屋に引きこもるしかない。「私は一体どうすれば良いのだろう」と考えていた人が大勢いたでしょう。それから3年ほど経って、この間、舞台『キングダム』の公演のために北海道に行ったのですが、2020、21年はガラガラだった新幹線や飛行機が満席で  ただし、窓からとても綺麗な白樺が見えるのに、皆さんスマホに夢中でね。「皆さん! 今、外がとても綺麗ですよ」と言いたかったですが(笑)  なるほど、完璧に同じではないものの、あの頃の日常に戻ったのだなと。そんな時、『家族モドキ』のお話がやってきて。みんなが忘れかけていた1番大事なファミリーというか、仲間というか、友達というか、同級生というか、恋人というかね。そんな人たちともう一度巡り合える。それがこの作品だと思います。僕が演じる大学教授の高梨次郎は、21世紀の多様性の時代、かっちり定義付けられたフィールドをほどき、それぞれが違うからこそ助け合って生きていきましょうと叫ばれる時代になっているにも関わらず、「家族とはこういうものだ!」、「父親とはこういうものだ!」と、ただ1人で言い張っている頑固な親父です。でも心の中では、そういったものを越えた温かな親子間の想いやりを持っていたり、言ってしまえば楽なことも「自分の娘を守るため」と、墓場まで秘密を持っていくような人。笑いながら、そしてお客様とご一緒に共感しながら、楽しめるキャラクターになっていると思います。

浦井 僕は(山口)祐さん扮する次郎の娘・民子(大塚千弘)の大学の先輩・渉を演じます。とあるきっかけで、父娘のご家庭に参入していく役所でして、いろんな関わり方をしていく中で……「家族とは何だろう?」っていうところも、お客様と一緒に考えていける役割になっていくのかなと思います。人の優しさや、お父さんと娘さんの関係性に自分も触発されるような。渉自身の環境もちょっと大変ではあるのですが、学びが多い役といいますか。保坂知寿さんとは夫婦を演じさせていただくのですが、この夫婦間にも、人生に於いて人々がいろんなことを感じ得る状況、誰しもが通る可能性があって物語のポイントになりそうです。祐さんが変わりゆく時代のお話をされていましたが、次郎さんが変化していく姿も描かれていて、すごく感動的な台本だなと思いました。

   2020年の舞台『オトコ・フタリ』と同じ座組みで、ナレーションで参加されていた大塚さんが今回は娘役でご一緒されます。

山口 大塚さんと初めてお会いしたのは彼女が高校生の頃でした。ご両親から「娘をよろしくお願いします」と言われたので、お母様に「僕で宜しいんですか?」と冗談で言ったんですよ。そしたらお母様が「は?」と戸惑われて、その横でお父様がゲラゲラ笑ってくださったことでようやくお母様も気付き笑ってくださって。よかった、僕の冗談が通じたと安心しました(笑)。それからもう20数年、変わらないですね。保坂さんも同じく彼女が劇団に来た研究生の頃から観ています。そして、この『家族モドキ』の座組みがあるのですが、単純にこのお仕事のためだけに集まりました、前後左右誰も分かりません、そして、お仕事が終わったら「はい、さようなら」ではなくてね。タイトルにある“もどき”は、お肉を食べるのが大変だった江戸時代などに鳥の雁のお肉に見立てたこんにゃくを油揚げで包んで、一般庶民もお肉を食べたように感じられることから“がんもどき”の名が付いた説もありますが、つまりこの作品で言うならば“家族のような”という意味合いですよね。こういった作品、お芝居をする時には、いろんなことをお互いが経験して、またそれぞれ離れた別のところでも経験して、再会した時に自分の体験を持ち寄れることが大切で。それこそ浦井さんとも20年ほどのお付き合いですが、どれだけ彼の存在が魅力的なことか、 そしてその魅力をお客様は劇場で体験できるわけですからとても幸運なことだと思います。殺陣にしても浦井さんに敵う人はいないです。芸事を生活の糧にするのならそれなりに汗をかいて自分で努力しなければいけませんが、浦井さんは常に一生懸命であり、舞台上で生きることを見せてくださるんですよね。

浦井 ありがとうございます。でも、まだまだです。ミュージカル界のキングであり第一線を走り続けていらっしゃる祐さんと、改めてこういった作品でご一緒できるのはとても幸せなことですし、祐さんが仰ったように、色々な場所で活動をしながらも地続きで共演の前後をずっと見守ってくださっている事実は、自分が板の上に乗る時にも絶対的な支えになっていて。喜びと共に期待に応えていかなければとも思います。『家族モドキ』の中で学びながら、次に繋げていけたらと思っています。

   山口さんも仰っていたように「もどき」の言葉は、「本物に似せて作ったまがい物」の意味がありますが、俳優も、特に実在する人物を演じる場合は実像に近づく作業をしていくなど、似通った部分があるのかなと想像します。お2人がお芝居をする際は、演じる人物を理解し限りなく擬態しようという意識で臨まれていますか?

山口 僕の場合、キャラクターと自分の違いを理解した上で演じることに於いては、自分が知る範囲ですが、すべて理解できるように努力しているつもりです。ただ、これは毎回のことですが、役に取り組み、皆さんと一緒に稽古をし始めて気付くことが出てきますよね。ちょっとした相手のリアクションなどによって、「あ、自分はこうなんだ」と気付く。その時点で分かっている範囲では役のことを理解しているけれど、あるタイミングではそれが過去の話になり、また新たに「なるほどな」と感じられるタイミングがくるわけです。ですからそういう意味では、完全に理解できたと思っても、その“完全”は、常に過去になる。アスリートの方もよく言いますよね。「今日のこの動きがいいんだと思っても、次に実践するとなかなか記録が出ない」とか。その時自分にできることはすべてトライしますが、すぐにそれは裏切られて過去のデータになってしまう。

浦井 その通りだと思います。感覚は掴めても日々変化しますよね。

山口 そうなんです。それで、告白します。今の話だと物事が前進していますよね。時としてそれが後退することもあって、そのこと自体は次がこないと分からないんです。例えば、「力が抜けてリラックスできているな」と自分では感じながら芝居をしているけれど、 あるタイミングで、それは力の抜けた芝居ではなく後退しているのだと気付く。だから下手すると、マイナスに動いている時もあります。そんなことを繰り返しながら、といった感じです。完璧、完全といったフレーズは、その瞬間にはありえても、過ぎた時点でなくなる。とても儚く切ないけれど、それゆえに、時間軸としてふっと芝居が広がる時もあるんですよ。相手がいて、やり取りができて、その中で芝居が動く。おそらく俳優によって感覚は違いますが、日によっては1日1回、舞台全体にそれが広がる時もあって。もうね、最高。それを求めてやり過ぎてしまうこともあるんです。けれどそういう日に限って、演出家が観に来ていたりするんですよ。「今日の芝居は観ていられない」と批評されたりね(笑)。

浦井 (笑)。

   話の腰を折るようで恐縮ですが、その演出家さんも山口さんのお芝居を捉えきれていないっていうことはないのでしょうか?

山口 今言ったみたいにプラスに進む時とマイナスに進む時がありますからね。何年か経ち演出家と話す機会があって、「なぜあの時にああいう芝居をしていたんだ?」と言われたので、「僕はしっかりとした根拠があった上でこういう芝居をしました」と話しました。すると「なるほど、そうだったのか」と納得されていましたよ。演出家の話をしたのは、例の中の1つ、気付きの中の1つであって、1番分かりやすいから出した話なので、いつでもそうだということではありません。そして(ライターが)仰ったように、彼、彼女自身が気付かなかった、その事実も何年か経たなければ分からない。俳優に芝居の理由を聞くこともあまりないですし。昨今のコロナや十数年前の大地震と、本来だったら1000年に1度、100年に1度に起こりうるような出来事を、これだけの短い期間に我々は体験したじゃないですか。そういう意味では、共通体験をベースにしながらも各々の違いを話して、お互いが納得し合える落としどころを現代は見つけやすい状況になっていると言えるのでしょうかね。

浦井 我々は日々、様々な事を感じざるを得ない状況下に置かれていて、同様にお客様にも訪れていた。命の尊さを含めて、受け手も発信する側も、生きている感覚を共有しているのだと、祐さんのお話を聞いていて思います。『家族モドキ』でも、お客様から答えを学べるような……そういった瞬間が訪れる時は今までもありましたが、今作でも手にできるように感じますよね。

山口 舞台そのものがその時代の社会を映しているのは、(ウィリアム・)シェイクスピアさん自身も仰っていますし、天災などを経験したことで理屈じゃなく実体験としてみんながそういったものを心から実感できるようになりました。だからこそ、浦井さんの言葉のように、お互いがその刹那、瞬間を慈しみ大事にする。僕らも「さあ、幕を開けるぞ」となった瞬間に「公演中止」を突きつけられる悲しみ、悔しい想いを経験してきました。何ヶ月も稽古をして、本当に「さあ!」と言った時に。

浦井 ありましたね。すべて準備を整えた、開演30分前とか。

山口 いつでもストップをかけられてしまう、いつでも「ノー」と言われてしまうのは、これから人生が始まる人たちにとってはとても厳しい時代になるのではないかなと感じますよね。今まではそんなことを考えず芝居にまっしぐらだったじゃないですか。一生懸命努力して頑張ったら、まずはやる。そして、宜しくなければまた次にベターなものを作ろうと踏ん張るけれど、あるタイミングで、自分たちとは関係のないところからストップをかけられて。だからこそ離れゆく人たちを繋ぎ止めて、この「もどき」から、みんなでもう1回再構築していこうじゃないかと。今回の作品がそういうきっかけになれたならば、この先の未来にとっても楽しみですよね。

『家族モドキ』
演出/山田和也
出演/山口祐一郎、浦井健治、大塚千弘、保坂知寿
8月13日まで〈シアタークリエ〉にて公演中の他、8月18日〜20日〈サンケイホールブリーゼ〉、8月24日〈刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール〉にて上演

 

【WEB SITE】
tohostage.com/kazokumodoki

INFORMATION OF YUICHIRO YAMAGUCHI

出演する舞台『家族モドキ』が8月24日まで上演中。

 

【WEB SITE】
rockriver.co.jp/artist/yuichiro-yamaguchi

INFORMATION OF KENJI URAI

シェイクスピア、ダークコメディ交互上演『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』が10月18日〜11月19日まで〈新国立劇場 中劇場〉にて上演予定。

 

【WEB SITE】
candid-net.jp/artist_infomation/talentDetail.php?id=6

 

【Instagram】
@kenji_urai_staff (スタッフアカウント)

 

【twitter】
@Kenji_Staff (本人&スタッフアカウント)

PRESENT

 

山口祐一郎×浦井健治 サイン入りチェキ(2名様)
山口祐一郎 サイン入りバァフアウト!ステッカー(1名様)
浦井健治 サイン入りバァフアウト!ステッカー(1名様)

 

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