パラパラと小雨が飛んでいた取材当日、支度を整えた黒崎レイナが現れた時には、雲を一蹴するかのような夏らしい太陽が顔を出していた。「晴れて良かったですね!」と人懐こい笑顔で話しかけてくれる彼女もまた眩しい。だが一度カメラを向けると、大きな瞳が真っ直ぐ心に迫ってくる。根っからの負けず嫌いであること、決意したことは貫き通す意志の強固さを示すようだった。黒崎が地上波初主演を果たしたドラマ『無限オーディション』で演じた凛、映画『先生!口裂け女です!』のアヤカ、いずれもキャラクター性は異なるものの、役柄と黒崎自身に通底しているのは揺らぐことのない自意識。「芯が強い」と言葉にしてしまうのは簡単だが、黒崎に至っては自己としっかり向き合った上でのそれなので、肝の据わり方というか心構えが違うのだ。こちらの言葉の隅々まで理解しようと真正面から向けられる黒崎の眼差しに魅了されながら、ゆっくりと話を訊いた。
バァフ 『無限オーディション』は映画プロデューサーの凛が、配信映画に出演する候補者を選定するオーディション会場で何度もタイムリープを繰り返す物語です。タイムリープ系はメジャーな題材だと思うのですが、ドラマの台本を拝見すると意外にも人の本質を問うような深いテーマが隠されていて、うなりながら読み込んでしまいました。凛自身がタイムリープの渦中にいることに気付いてからは、同じ瞬間を繰り返しながらも少しずつ変化していきますが、お芝居する上で難しさは感じられましたか?
黒崎 そうですね。順撮りではなくバラバラに撮影していたので、私としても、今は18回目なのか、20回目なのか?と集中して頭に入れながらお芝居をさせていただいたのですが、なかなか複雑で(笑)。凛は憧れの映画監督と一緒に仕事ができることが嬉しくて、熱い気持ちを持って頑張ろうと決意した矢先にタイムリープをしはじめるのですが……挫折ではないけれど、ちょっと心が弱ってしまう部分や、逆に自分を奮い立たせようと前向きに考えるシーンもあって。そういった変化を表現する時に考えていたのは、オーディションを受ける10人の候補者の方々と共に凛も成長していく姿を視聴者の皆さんにも観ていただき、背中を押せたらということでした。実際に私自身も凛を通して、勇気をもらえた作品でもあります。
バァフ タイムリープで同じオーディションの場面を繰り返すわけですが、凛の素敵なところって、一度芝居を見てNGだった人を諦めるのではなく、今度は違う視点から相手を捉えてみようと積極的に行動したり、発想を転換させられることだと思うんですよね。なにより、大切な作品を成功させたいプロデューサーとしての信念が最後までブレない。凛がその姿勢を貫いているからこそ周囲の人たちも変わっていきますし、結果的に良い方向へと流れていって。
黒崎 同じことを何回も繰り返していくと、途中から弱音を吐いて諦めてしまう時もあるのかなと思うんです。自分に置き換えた時、同じ行動ができるのか?というと難しいだろうなと感じますし。でも凛は、繰り返しながらも周りを導いていく力があって。その行動をするには相当な熱も必要ですし、タイムリープしていることを誰にも知られていない分、自分1人で戦い続けているような感じなんですよね。
バァフ 凛の熱量の配分というか、バランスはどのように取られていたのですか?
黒崎 バランスは……そもそも凛と同じく私もかなりの負けず嫌いなので、台本をいただいた時から感情移入しやすくて(笑)。なので、あまり熱の緩急とかは突き詰めずに、現場で皆さんのお芝居を受けて、純粋な気持ちで返していきました。同じシーンを繰り返すうちに凛がどんどん前のめりになっていく姿勢も、タイムリープ前後のお芝居だと気持ちの入り方も全然違う風に変わっていく感覚があったんです。それから、(長尾くみこ)監督ご自身もどことなく凛に似ていらっしゃって。1日にたくさんのシーンを撮影するような目まぐるしい状況でも俳優陣を常に気にかけてくださるし、「絶対に下のアングルからは撮らない」などといったこだわり、妥協せずに物作りに熱を込める姿勢、そこは私も強く影響されていた気がします。
バァフ 一番近くにお手本がいらっしゃった。
黒崎 はい。凛は自分の憧れとする女性像でもあったので、緊張しながらも覚悟を決めて「私がやらなきゃ誰がやる!」精神でお芝居しました(笑)。
バァフ 負けず嫌い感も顔を出して(笑)。そういうことで言うと、『無限オーディション』はまだ映像を拝見していないので分からないですが、映画『先生!口裂け女です!』で演じられたアヤカは、とてものびのびとお芝居されていた印象で。黒崎さんの瞬発力や、先ほど仰ったような相手のお芝居を受けた瑞々しい表現が、アヤカの姿に反映されていたのだろうなと。
黒崎 ありがとうございます。この作品に限らずですが、自分の中でイメージを固めずに現場に行くことが多くて、今回もアヤカのマイペースさだったりバイクに興味があるという私との共通点、ベースの部分は意識したまま現場に行きました。そこから、(ナカモトユウ)監督や、(不良仲間のタケシ役)木戸(大聖)さん、(F1役)上野(凱)さんと「このシーンはこういう風にできたらいいよね」などディスカッションをさせていただきながら、アヤカのキャラクターもそうですし、3人の関係性を作っていって。男子2人に女子1人の組み合わせなので、割と男まさりというか、男女の壁を感じさせない関係性を意識しました。不良だけど喧嘩が弱い設定だったので、少しコミカルな可愛らしい方にも寄せてみるなど。アヤカの台詞で「がってん承知の助」とか、昭和のギャグのような言葉があったじゃないですか。元々台本には「がってん」だけ書かれていたのですが私は馴染みがなかったので、父に「“がってん”って本当に言うの?」とリサーチをして(笑)。「“承知の助”も付けて言うよ」とのことだったので、それなら「“がってん承知の助”の方が可愛いかもしれないな」と思い、台詞をアレンジしてみました(笑)。
バァフ 風貌は今時っぽいのに台詞とのギャップがあるので面白かったです。映画は都市伝説である口裂け女(屋敷紘子)と出会ってしまった高校生のホラー・ムヴィーかと思いきや、まさかの青春感、ハートウォーミングな要素も出てきて。後半にかけては痛快なアクションが展開される中、正義や人との繋がりを描いたりと……非常に複雑な映画ですよね(笑)。
黒崎 そうなんです。1つのジャンルに当てはめられないほど、いろんな要素が入った映画になっていて。もちろん、ホラー映画ではあるので、血飛沫や腸が露になるシーンなども……。
バァフ 腸のシーン、思わず笑っちゃいました。カンフーの使い手のようにキリリとした表情で演じられていた屋敷さんも素敵で。口裂け女ってカッコ良いんだなと(笑)。
黒崎 (笑)怖いシーンですけど、監督やスタッフの方々のこだわりの演出でちょっとポップになっているので、笑いながら観ていただけると思います。
バァフ 最後に、今の黒崎さんにとってお芝居や表現の源になっていることがあれば教えてください。
黒崎 色々な作品を観て自分の表現の参考にさせていただくこともあるのですが、私はアートから影響を受けていると思います。幼少期からイラスト制作をするのが好きで、展示会や美術館へ行って絵に触れるようにしたり、感情を色で表現することも普段からおこなっていて 例えば台本に書かれた文字から、役の言葉や感情を読み解いて自分の中に入れていく時に、その言葉をイラスト化したり、色で表現しています。一度ノートに書くとイメージしやすくなりますし、整理できるんですよね。不思議なのですが、ただ台本を読むよりも頑張ろうという気持ちが湧いてきて、その時に感じた自分自身の感情もイラストに書くことが多いので、後からそれを見返すと気持ちも保てるというか。
バァフ どういうものを描かれるのでしょう?
黒崎 抽象的なものが多いです。色だけを大胆につけたり、手形をバーンと載せたり。あとは、細かい線をいくつも重ねたものも。最近は幾何学模様をよく書いています。台本に沿った1つひとつのシーンをイラストに起こしていくので、役の感情を作る過程や台詞を覚える作業も楽しくて、より自分の中に吸収できます。
バァフ マネージャーさんが、「黒崎は『小さい頃に抱いた女優になりたいという夢、その気持ちだけで必死に頑張ってきたから、そこだけは絶対にブレないんです』と以前話していたから、それが源なのかと思っていました」と仰っていますが……。
黒崎 もちろんそこは変わらないです!(笑)。このお仕事を始める前に家族に相談して「最後までやり通す覚悟はできているのか」と聞かれた時、「一生のお仕事にするんだ」と腹を括ったので。イラストや色での表現が仕事の方にも広がってきて、良い影響になっていることに気付いたのは、本当にここ数年だと思います。お芝居は自分自身との戦いですし、一度覚悟を決めたからには、何があろうともめげずに折れずに頑張るしかない。その上で悔しさや嬉しかったこと、自分のその時々の気持ちのすべてを大切に、前へと進んでいきたいです。
©mysta
『無限オーディション』
監督/長尾くみこ
出演/黒崎レイナ、得丸伸二、川野快晴、他
7月17日、24日の夜10時より〈TOKYO MX〉にて2週連続放送
INFORMATION OF REINA KUROSAKI
出演する映画『先生!口裂け女です!』が全国公開中、映画『Gメン』が8月25日に全国公開予定。
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