CULTURE

独自の眼差しで役に命を吹き込む 俳優・毎熊克哉としての矜持

APR. 1 2023, 12:02AM

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撮影 / 柘植美咲 ヘア&メイクアップ / 板谷博美 クリエイティヴ・ディレクション&文 / 多田メラニー

社会や人々の在り方を懐疑し将来への希望を見出そうとするテーマの作品は数多く存在するが、紀里谷和明監督の映画『世界の終わりから』は現在、過去、未来の時空を交錯させるアプローチで、絶望と希望を鋭く深くストーリーに落とし込んでいた。両親を亡くし学校でも所在がなく、常に不安と隣り合わせの日々を送る女子高生のハナ(伊東 蒼)。突如として自分の見た“夢”が人類存亡の行方に懸かっていることを告げられ、戸惑いながらも未来を変えるべく奔走するが——運命に抗おうと策略する者、一筋の光を信じる者——同時に人間の本質を目の当たりにする。毎熊克哉が演じるのは、政府の特別機関の人間で、ハナの保護及び彼女の夢の中での行動を把握しようとする江崎。未熟で不安定なハナの心情は映画を観る者にも伝播するが、次第に江崎に心を解放していくハナの姿には、信じられる人が身近に存在する喜びや幸せをひしひしと感じ、希望が湧き上がる。それはふと感情を零した江崎からも同様に受け取れるものがあった。相手を拒絶するのではなく想像する、そしてほんの少しでも歩み寄れたなら。「誰もが持つちょっとした希望を掬い上げてくれる作品」と毎熊が話すように、我々の普遍的かつ人間的な願いが本作には詰まっている。

捨て身で行くならせめて良い終わり方ができたらなとは思います

バァフ 紀里谷監督はこれまでの作品でも現代社会への警鐘や、1人ひとりが考えることの大切さを訴えてきました。そして、“最後の監督作”となる本作でもやはり根源的な問いを投げかけていかれたのだなと熱量の高い映像から感じて。毎熊さんは、撮影を経て作品をご覧になった時の想いはいかがでしたか?

毎熊 紀里谷さんにとって本当に最後の映画になるかどうか、分からないと言えば分からないし、もしかしたら10年後にまた作品を手掛ける可能性もあるのかなとは思いながらも——僕が撮影現場で感じたのは、「本当に最後なんだ」という紀里谷さんの気持ち、鬼気迫る強さみたいなものでした。この作品へと真っ直ぐに向かう背中をずっと見ていて。たくさんの俳優がいる中、自分が江崎役を演じさせてもらえることになったからには、微力ながらも一生懸命その背中についていこうと。完成した映画からもその想いというか、脚本を読んだ時に感じたメッセージの強さよりも出来上がった映像の方がやはり色濃く出ているなと感じましたね。スピード感もあるし、2時間ちょっとの映画なのにあっという間に観る人の心へと押し寄せてくるような、他のことを考える隙を与えない映画でした。

バァフ 江崎は「任務遂行のため」と目的が明確にあるから、表情も変えず淡々とハナに接しますが、密やかな佇まいや瞳の奥の感情が読み取れないゆえに最初はハナ同様、恐怖や不信感を抱きながら観ていました。だけど物語が進むにつれ、彼自身も未来を憂いている1人なのだと分かってきて。江崎から零れ落ちる僅かな人間味に、なんだか救われる瞬間もありました。

毎熊 そのあたりは一番、紀里谷さんと打ち合わせをした部分でしたね。「世界が終わるかもしれない時に人間たちは何を想うのか?」というテーマを見せる際、最終的にハナと江崎が何かしら心を通わせていく意味でも、特に江崎は存在していないとまずいキャラクターだと思うんですよ。だから、人間味がなくただ仕事をしている人に映ってしまうのは避けたい。けれどエモーショナルにも寄りたくないなと。紀里谷さんもかなり悩まれていたんですが、相談の結果、なるべくドライな印象の中に人間味を出す方向にして。細かなニュアンスはこの役で一番苦労したところでした。ドライすぎたら何も残らないしウエットすぎても嘘臭くなってしまうので。

バァフ 江崎の言葉の響きにも緊張感がありましたが、そこの変化も仰ったようなさじ加減で随分印象が違ってしまいますよね。

毎熊 そうですね。あとは、江崎が生きてきた表面上の……仕事をしている時の顔の保ち方、と言いますか。人間味に寄せすぎてもゆるくなってしまうから、どれくらい江崎という役の設定で、そこに立つべきなのかを考えていました。ちょっとしたところでの課題が今回は多くて。台詞のスピード感もそうです。他の現場で同じ風に演ったらOKをもらえそうな、自分的には普通だと感じるスピードよりも江崎は早口のイメージだったので、息継ぎなしで早口で喋る練習をしたり。

それから、どの作品でも役の表側と裏側のことに考えを巡らせて演じているのですが、今回は特に、表と裏のどちらが強めに出ているのかを慎重に作っていきました。脚本に書かれているキャラクターは何かしらの役割を持って存在しているので、つまりその通りに見えなければいけないんですけど、プラスアルファ他の見え方もできるというのはきっと(脚本に)書かれていないところにも要素があるはずで。そういう部分を埋めていく作業。埋めたくても埋められないのならば、何かを練習するのか、研究するのか。それは僕が役作り的に毎回おこなっていることでもあります。

バァフ 現場で話し合う中で新たに生まれるものもあると思いますが、 お互いの想いが一致しない場合などはどうされていますか?

毎熊 目標は一緒だけど行きたい道が違う場合、自分が考えていない方を選ぶことが多いかもしれないです。自分が絶対に正しいとも思わないし、半分は自分自身を疑ってもいるので。一応「こう思ったけど、どうでしょうか?」とは意見してみますけどね。でもやっぱり、他人同士が何かを作るってそういうやり取りの連続だと思います。俳優に限らず難しいことじゃないですか。相手が「ここは赤にしましょう」と言って、自分が思う赤を用意したら、「え、この赤?」みたいに言われたり。感覚の話になってくる。そういうことも考えると、何がなんでも我を貫き通すよりは、人が提案したプランを選んだ方が良い時も結構あるよなと思います。

バァフ そういったセッションの積み重ねも作品作りの醍醐味だと仰る俳優さんもいらっしゃいますが、相手へのリスペクトがある上で意思交換できなければ、本作のハナの台詞じゃないですけど「何でみんな、そんなに勝手なんだ」とストレスでしかないですよね……。

毎熊  一方的にならないためにもコミュニケーション能力はめちゃくちゃ必要ですよね(笑)。圧倒的なカリスマ性を持つ人だったらその能力はいらないのかもしれないですが、僕自身はそういうタイプじゃないと思うので——まぁセッションと言うか、他人同士が出会い同じ場所へ向かいたい時にどう進めるかって、ストレスでもあり楽しさもありますよね。むしろ、そこで意思交換ができない方がもっとストレスかもしれないです。提案に対して「いいっすね、それでいきましょう!」とか、あまりにもさらりと承諾されてしまうと、「本当に良いのか?」と不安を感じる時もありますし(笑)。あくまで印象の話にはなりますが、1回目は俳優の思った通りに芝居をさせて、2回目に演出家が考えた芝居をさせる、そういう手法を取られる演出家が多い気がします。もし自分も演出家だったならば、自分が良いと感じた芝居とは何か?を考え、そこに俳優の意見も混ぜていくだろうし、それは俳優側にも言える話だと思う。紀里谷さんはそういうようなことを海の外でも実践して戦ってきた人じゃないですか。 だからこそ、今回の現場はすごく緊張感があったんだなと感じます。

バァフ 本作は壮大な世界観の中にも、例えばヤング・ケアラーの側面や私欲に囚われた争いなど、現実的な問題を美化せず映し出しています。映画から発信される熱が、社会を動かすきっかけになればいいなと個人的にも願うところで。

毎熊 日本に暮らし日々色々な出来事がありますが、誰しもがそれなりに「未来が暗いな」と感じたことがあると思うんですよね。映画は、「この現実から続く未来をまだ見て生きていきたいのか?」、そんな問いな気がしていて。ハナとかも切実じゃないですか。そういう意味でも「世界を変える」とか大きい話よりも、誰もが持つちょっとした希望を掬い上げてくれる作品になれるのではないかなと思います。これは僕の勝手な想像で紀里谷さんに聞いた話でもないですが、紀里谷さんご自身が感じた生き辛さなどが、この映画に反映されている気がするんですよね。とてもパワフルな人だけどナイーヴな面もお持ちだから。 その一面が主人公のハナに投影されている気がして。だからこそ作品自体のパワーも強いのかもしれません。

バァフ 希望が持てないと感じる時、毎熊さんだったらどのようにご自身を鼓舞されますか?

毎熊 ……目をつぶる……(笑)。

バァフ 現実を見ないぞと(笑)。

毎熊 (笑)どうしているんでしょう。今持っているものだけは握り締めておこうって感じですかね。でも僕は、どちらかと言えば捨て身かもしれないです。鼓舞したところで所詮自分の武器はこんなものなのだと、手持ちが少なすぎることも理解しているから。捨て身で行くならせめて良い終わり方ができたらなとは思います。

バァフ でも毎熊さんって全く武器が少なく見えないですよね。領域が限定されていない存在ですし、むしろどれだけ隠し持っているのだろう?と底知れなさを感じます。後輩の方など、アドヴァイスを求められたりしませんか?

毎熊 う〜ん、後輩があまりいないですね(笑)。それに、友達なら良いんですけど“後輩”というのがどうもね。自分のことを先輩だと思われるのも苦手でして。年上なりの気遣いはするけどそれはあくまでも気遣いでしかないし……。

バァフ 関係性に名前が付くことでの居心地の悪さってありますよね。それから、今回の江崎もそうですし、キー・パーソンだったり物語を展開させる、動機を担う役を毎熊さんは多く演じられている印象がありまして。昨今のドラマも含め重要なポジションに配役されることや俳優としての広がりをどのように感じていますか?

毎熊 30歳まではバイトをしてなんとか生活してきたので、俳優の仕事がないところからスタートしているんですよね。で、いざ仕事ができるとなったら、出会った作品に一生懸命取り組むことを今も変わらず続けてきたつもりではいて。自分を客観的に見るのはすごく難しいのですが——イメージが出来上がってしまう商売だからこそ、楽をしない。そこは一貫してきました。キー・パーソン的な立ち位置に抜擢していただけるのはとても嬉しいですし期待に応えられる俳優ではいたいですが、どこか自分というイメージが浮遊していて掴みどころのない存在でいられるのが理想ではありますかね。

バァフ 例えばラヴ・コメと親和性の高い方とかは同系色の作品が続いたりしますが、毎熊さんは、重厚な役を演じたかと思いきやドラマ・シリーズで映画化もされた『妖怪シェアハウス』でポップに振り切ったお芝居をされていたり。それこそ武器がいくつあるんだっていう(笑)。

毎熊 (笑)僕はどちらかと言うとヴァイオレンス系の作品がこれまで多かったので、『妖怪シェアハウス』でちょっと違う方向の役ができたのはすごく良かったと思います。「この役と言えば毎熊」みたいな存在にはなりたくないし、得意なジャンルとか、いわゆる“お家芸”みたいなものは持たずに勝負していきたいですね。

『世界の終わりから』
原作・脚本・監督/紀里谷和明
出演/伊東 蒼、毎熊克哉、朝比奈 彩、増田光桜、岩井俊二、市川由衣、又吉直樹、冨永 愛、高橋克典、北村一輝、夏木マリ、他
4月7日より全国公開
©2023 KIRIYA PICTURES

【WEB SITE】
https://sekainoowarikara-movie.jp/

INFORMATION OF KATSUYA MAIGUMA

出演する大河ドラマ『どうする家康』〈NHK総合〉が毎週日曜、夜8時より放送中。また、Netflixシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』が〈Netflix〉にて5月4日より世界独占配信スタート。

【WEB SITE】
https://alpha-agency.com/artist/maiguma/
【Instagram】
@kmaiguma
【twitter】
@kmaiguma

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