CULTURE

生田斗真とヤン・イクチュンが極限のサヴァイヴァルに挑む 山下敦弘監督の映画『告白 コンフェッション』

MAY. 27 2024, 11:00AM

撮影 / 新保勇樹
文 / 岡田麻美

親友のジヨン(ヤン・イクチュン)と雪山で遭難し、かつての殺人を告白された浅井(生田斗真)。死を覚悟したからこそ懺悔したはずが、直後に山小屋を発見し、2人は助かってしまう。明らかになった罪を抱えて一夜を過ごすうち、徐々に募っていく互いの猜疑心は爆発し、一線を超えた攻防を繰り広げる。

 

アクションでもどんな芝居でも圧倒的な存在感をスクリーンに放つ生田斗真と、映画『息もできない』では監督・主演などを自ら手掛けて国際的な注目を集めたヤン・イクチュン。2人のタッグだけでもどんな映画になるのだろうかと期待が高まるが、さらに、監督は珠玉の日本映画を生み出してきた山下敦弘で、原作は福本伸行作、かわぐちかいじ作画の漫画『告白 コンフェッション』。

 

極限の精神状態に陥る浅井とジヨンの感情に揺さぶられ続ける、スピード感のある表現は、「監督にとっても、僕らにとっても挑戦だった」と生田は言っていた。これだけのキャリアを持っていても、新しい扉を開けようと意欲を燃やし、役柄に対して真摯に悩み考えている。それは2人共、芝居と作品に対して、変わることなく心からピュアな気持ちで打ち込んでいるからだと思う。純粋さを持ち続けられる人は、こんなにも強くたくましい。

 

取材現場での生田斗真とヤン・イクチュンは、たまに冗談を言い合いつつ和やかな雰囲気。役の上であっても強烈にぶつかり合った間柄にはとても見えない様子で、対談では互いを称えながら、アイデンティティに関わる話まで色々と聞いた。

ヤン・イクチュンさんは、こちらの想像する感情のマックスを、2つも3つも超えていく(生田)

   本作はW主演で、ほぼ2人だけのシーンという内容です。相手役を知った時の感想は?

生田 日本の映画でヤン・イクチュンさんと共演できるなんて想像もしてなかったので、すごく嬉しかったです。『かぞくのくに』や『あゝ、荒野』などの出演作品から、ワイルドな印象を持っていました。でもお会いしたらすごく優しくて可愛らしい方で、わーっ!て明るく挨拶をしてくれて(笑)。ご一緒するのがより楽しみになりましたね。

ヤン 最初に生田さんを知った時は、まずは格好良い人だなと思いました(笑)。それから、すごく強靭なイメージを受けました。作品では浅井よりもジヨンの方が強いイメージを持たなくてはいけないのに、それを果たして自分は上手く表現できるかな?と思ったくらいです。実際に生田さんという人は、普段からとても堂々としていて、精神的にたくましい方なんですね。だけどいざ現場に入って浅井の役になると、恐怖のジレンマに陥っている人物を体現してくださったので、自然とそれに応じて演技をすることができました。この映画は、僕たち2人の役が孤立した環境に置かれて、激しく追い詰められていくので、自分たちの持っている感情表現すべてを出し尽くさなくてはいけないと思っていました。本当に生田さんにたくさん助けていただいて、僕の先生です!

生田 (笑)「先生」というのは、日本語の台詞がたくさんあって苦労されていた時に、「ここのニュアンスは少し上げた方がいいんじゃない?」とちょっとしたアドヴァイスをしたら、「先生〜」と呼んでくれるようになって(笑)。

ヤン 同じ俳優の立場として、指摘をするというのは決して簡単なことではないと思うんです。それをちゃんとしてくれたという意味でも、本当に感謝しています。スタッフさんには時々ニュアンスを確認しますが、実際にニュアンスの違いを一番理解しているのは、やっぱり同じ俳優だと思います。生田さんは僕よりも年下ですが、先輩のような感覚で、すごく現場でリードしてくれました。

   生田さんはヤン・イクチュンさんとお芝居を合わせて、どのような印象を持ちましたか?

生田 今までの作品でも鬼気迫るお芝居を拝見していましたけれど、実際にご一緒して、やっぱりエネルギーに満ち溢れていて、かつ心の機微の表現が繊細で、尊敬できる部分ばかりだと思いました。ヤン・イクチュンさんは、こちらの想像する感情のマックスを、2つも3つも超えていく感じがするんです。だけど、それが決して制御不能になっているわけじゃなくて、自分でちゃんとコントロールしている。それなのに、制御不能に見える。どうしたらそんな風に演じられるのか、僕も見習うべきところがたくさんありました。

   生田さんが「感情のマックスを超えてくる」とおっしゃっていますが、ご自身としてはどう感じていますか?

ヤン いやいや、僕としては自分のベストを尽くしているだけです(笑)。これは私の主観で、異論を唱える方がいるかもしれませんが……僕の場合、自分が子供から大人になっていく時の韓国社会というのは、いろんな意味でハードだったと思っています。社会の中で、言葉や色々な形での暴力が多い時期でもありました。ですから、成長する過程で、様々な怒りが生まれていったように思います。世の中ってどうしてこんなに大変なんだ? どうして1人の人間をないがしろにするのか?と思ったこともありました。だからきっと無意識のうちに、憤怒という感情が内在していったのだろうと思います。そういったものが演技に、何らかの影響を与えているという気がします。私だけではなく、韓国の俳優は怒りを表出させるのが上手いと言われることが多いのですが、特別な能力を持ち合わせているというよりも、役柄にかつての自分と同じような憤怒があるからではないかと思ったりします。

   今作の山下敦弘監督は、たくさんの日本映画を撮っている方です。山下さんの作品をご覧になった感想や、今回一緒に仕事をして印象的だったエピソードを教えてください。

生田 山下監督がこれまで撮られてきた、オフビートと呼ばれるようなテンポ感や、ワンカットでその場の空気感を撮るような作品とは打って変わって、どんどん展開していく新たなチャレンジとなる作品になったと思います。ただ、この映画もある意味で空気を撮ることは大事な作品だったんだなって、出来上がりを見て思ったんですよね。漫画だと吹き出しで、「ナイフはどこだ。こいつは俺を殺そうとしているから逃げなきゃ」というような、浅井の心の声が出てくるけど、映画ではそれをなるべく言葉ではなく表情や動作で表現している。だからこそ、緊迫した状況がよりあぶり出されるので、張り詰めた緊張感みたいなのを監督は丁寧に捉えていたんだなって、仕上がりを見て改めて感じました。

ヤン 現場において山下監督は、俳優をうまくリードしてくださいましたし、何よりもコミュニケーションを気さくに取って、僕たちのことを理解してくれて合わせてくださいました。私はそれ自体が、立派な演出の1つだと思っています。また、私と監督は喫煙者でタバコ仲間でもあるので、撮影の合間に外に出て一緒に吸うこともありました。喫煙者同士だからこそ分かるのは、タバコを吸いながらボーッとしているようで、いろんなことを考えているんですよ。言葉を交わしてアレコレ言ったり、何かを考えているなと感じたらそっと離れたり。お互いを思いやって、現場は上手く進んでいたと思います。

   本作は、映画ならではの部分も多いと思います。浅井は漫画と違い心のうちが分からないので最初は率直な男性のような印象を受けましたし、ジヨンの役柄は原作だと韓国人留学生ではなく日本人の設定で。それぞれの役柄については、どのように捉えていましたか?

生田 どこまでお話して良いかのせめぎ合いですが(笑)、台本を読んで、率直な男に見えれば見えるほど結末に驚きがあるだろうとは思っていました。色々な側面があるというのは浅井だけではなく、人間誰しもが多かれ少なかれ表と裏を持っていると思うんです。お芝居をする時はいつも考えることです。浅井は常識人のフリをしているけど、腹に一物持ったキャラクターだから、人間の暗い影みたいなものが出るように意識していました。ただ、漫画だと描かれている心の声を、映画ではあえて言葉にしないと決めて表現した部分もあると思うので、そこは僕たちの芝居やその場の空気感で見せていかなきゃいけない。この先に恐ろしいことが待っているかもしれない切迫感を、台詞ではなく表情や動作で表現しなければいけなかったのは、僕にとっても挑戦だったと思います。

ヤン 台本だけでなく原作も読んで現場に入りましたが、ジヨンという人物を立ち上げる時に、彼の感情と物語の流れを自分なりに解釈をすることが必要だと思っていました。それは媒体が絵から映像に変わるからで、180度と言ってもいいくらいの本当に大きな変化です。漫画の絵をコピーして映像化はできないので、どうやって変化をさせたら良い作品になるのか?という部分に頭を悩ませました。僕が演じたジヨンは、原作では韓国人ではなく日本人のキャラクターなので、その人物がどういう気質であったのかをベースには入れておきつつ、光に当たりながら、影もできながら、立体的になった人間として動いてみるような役作りをおこないました。そういう意味では、僕の役はオリジナルに近い役として考えて演じていかなくてはいけないと思って挑みました。

   主題歌「殺意vs殺意(共犯:生田斗真)」はマキシマム ザ ホルモンの新曲で、生田さんは歌で参加されているんですよね。

生田 そうなんです。元々は映画の制作側からホルモンに主題歌をお願いしていたんですけど、僕は彼らの音楽をずっと聴いてきて親交があったので、ある日メンバーに「スタジオで曲を聴いてほしい」と声を掛けていただいて。スタジオにお邪魔したら、「この曲なんだけど、一緒に歌うのはどう?」と提案を受けたんです。そんなの、僕は元々ファンですからね。メンバーが良いのなら絶対にやりますよ!(笑)。レコーディングも楽しかったなぁ。いつも僕が観て聴いているバンドの、楽曲が立ち上がっていく過程を間近で見ることができて、しかも参加しちゃうなんて。もちろん、いただいたデモはかなり聴き込んでから行ったのですが、あんなに叫ぶレコーディングは初めてだったので、もう大変でした。でも、何十回も練習してから臨んだので、録音自体はわりとスムーズだったと思います。メンバーのみんなが優しくて、「今の表現いいね!」とか、いちいち褒めてくれて嬉しかったです(笑)。

   作中、ジヨンが追いかけてくるシーンは、観ていてとても怖かったです。役柄の狂気を保つために、どんな風にテンションを維持していましたか?

ヤン 確かに、短期間で毎日撮影に臨む中、緊張感をキープせざるを得ない状況にはありました。張り詰めたテンションを現場ではずっと保っているので、合間でそれを発散させながら走り続けていたように思います。周りの人やスタッフさんと一緒に冗談を言い合ったり休憩したりして、心の余裕を作ることが自分にとっては大切でしたね。本番に入ってエネルギーを表出していくために、撮影合間には気分を楽にしておくことを意識していました。あとは、レモンサワーですね(笑)。これは韓国でもそうなんですが、お酒が飲みたくてたまらないということではなく、心をリラックスさせてほぐすために軽く1杯飲むことは多いです。感情というものは、ずっと緊張させたままでいてしまうと、いざ本番で出そうとする時に力が抜けてしまいます。そういう状態にしないための工夫は必要かなと思います。

©2024 福本伸行・かわぐちかいじ/講談社/「告白 コンフェッション」製作委員会

 

『告白 コンフェッション』

監督/山下敦弘

原作/福本伸行、かわぐちかいじ『告白 コンフェッション』〈講談社〉「ヤンマガKC」

出演/生田斗真、ヤン・イクチュン、奈緒

5月31日より全国公開

 

【WEB SITE】

gaga.ne.jp/kokuhaku-movie

INFORMATION OF TOMA IKUTA

劇団☆新感線いのうえ歌舞伎『バサラオ』が、7月7日〜8月2日まで〈博多座〉、 8月12日〜9月26日まで〈明治座〉、10月5日〜10月17日まで〈大阪フェスティバルホール〉にて上演。

 

【WEB SITE】

toma-ikuta-fc.com

【Instagram】

@toma.ikuta_official

INFORMATION OF YANG IK-JUNE

出演ドラマ『地獄が呼んでいる』が〈Netflix〉で配信中。

 

【WEB SITE】

www.humanite.co.jp/actor.html

PRESENT

生田斗真×ヤン・イクチュン チェキ(1名様)

 

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