CULTURE

55歳にして、ヴァラエティ溢れるサウンド、共演者と、初のソロ・アルバムを制作した島袋 優(BEGIN)

APR. 25 2024, 11:00AM

対話 / 山崎二郎

1990年に「恋しくて」でデビューして以降、「島人ぬ宝」や「島唄」など数々のヒット・ソングを世に出してきたBEGIN。メンバーの島袋 優(G)はそんな世代問わず愛されている楽曲を手掛けてきた1人だが、55歳の節目となる今年2月、自身初のソロ・アルバムをリリースした。タイトルは自身の年齢とレコードの回転数45rpmから着想を得た『55rpm』。制作には島袋と親交のある豪華アーティスト陣が集結し、収録曲の1曲1曲を違うアーティストと共に手掛けていることで、BEGINのテイストを残しつつも島袋が創造する音楽に新たな可能性を感じさせる1枚になっている。また、学生時代、美大を目指していた島袋。10年前、沖縄に居を戻してから「沖縄の暮らしと音楽」を主題に、本格的に絵画制作に取り組み、2023年3月に沖縄で開催された初の個展『NEIRO〜暮らしに音と色彩を〜』に続いて、今年3月、東京にて個展『Guitart Islandart』も開催された(今作のアルバム・ジャケットも本人が描いた自画像)。

 

余談にはなるが、実は島袋と『バァフアウト!』編集長・山崎二郎は20代の頃、同じレストランでバイトをしていた者同士。インタヴューでは思い出話に花が咲きつつも、青春時代を共にした者同士、そして音楽を愛する者同士だからこそ引き出せるトークが垣間見られた。今回は、古くからの友人である山崎が制作の経緯から収録曲について深掘っていく。

 

このソロ・アルバムは栄昇の「優が歌え」という一言から始まったかもしれないですね

   どのような流れでアルバムを作ろうと?

島袋 最初はORANGE RANGEのNAOTOとHIROKIと家でお酒を飲んでいた時に、「優さん、ソロ・アルバムを作れば良いのに」と言ってもらったことがきっかけで。なんならもうすでに(ソロ・アルバムを)出していると思っていたらしいんですけど、「ORANGE RANGEがプロデュースしてくれるんだったらやるよ」みたいな軽い流れから始まったんです。当時、2021年でコロナ禍だったのですが、「いろんなミュージシャンに声を掛けて、1曲1曲違う人にプロデュースしてもらったら面白いんじゃないですか?」という話の流れで良いなと思う人に連絡したら、ほとんどの人が二つ返事で「やります」と言ってくれて。

   なぜ今までソロ・アルバムを出してこなかったんでしょうか?

島袋 今まで自分が歌うことをあまり考えたことがなかったんですよ。2016年に「海の声」が出て、BEGINヴァージョンを作ろうとなった時に(比嘉)栄昇(V)が「優が歌え」と言ってきて。「いやいや、絶対無理」と思っていたのですが、「どうしても優に歌ってほしい。ライヴの流れも変わるから」と。断り続けていた中、たまたま長野のミュージック・バーでイーグルスのライヴ映像を観ながら飲んでいたんですけど、イーグルスってヴォーカルがたくさんいて、それぞれがヒット曲を持っているじゃないですか? あれを観た時に、「もしかしたら俺も歌って良いのかな?」と自分の中で腑に落ちて、栄昇に「歌うよ」と連絡したんです。

   それが、声質に蒼さがあるというか。すごく新鮮なヴォーカルに聴こえるんですよ。

島袋 楽曲提供をさせてもらう時にしても、今まではヴォーカルがいる前提でしか曲を書いたことがなかったんです。BEGINだったら、栄昇が歌うことを想定してというか。自分で自分のために曲を書くとか、ましてや誰かが自分のために曲を書いてくれるという経験がなかったので、どうやったら曲にできるんだろう?ということを一番悩んでいたんですね。例えば、Kiroroの(玉城)千春やスキマスイッチの大橋卓弥とかが歌っているデモ・テープを聴いて、「あれ? 俺どうやって表現したら良いんだろう」と急にプレッシャーを感じて。でも、自分なりに、こういう音域やアレンジで作ったら聴いてくれる方にはちゃんと届くかな?というのを一番考えて。なので、蒼さという意味では、もしかしたら千春や卓弥の歌声に引っ張られていた部分もあるのかもしれないですね。

   「ラブソングを歌ってみるよ」は島袋さん、玉城千春さん、seven oopsのKEITAさんの3人のクレジットがありますが、どのような流れで歌詞を書いたんでしょうか?

島袋 ちょうど千春に「ソロ・アルバムを作るから1曲作ってほしい」と頼んでいた時、別で千春のレコーディングのアレンジ・プロデュースもさせてもらっていたんですけど。そのレコーディングをしていた時に、急に千春がスタジオに入ってきて、「もう今メロが浮かんだ!」と言って、パッと「ラブソングを歌ってみるよ」の1番のデモ・テープを録ったんです。歌詞の内容はどうしようもない情けない男の歌なので、録り終わった後に「2番は優にぃが書いてね」と言われて(笑)。煮詰まっていた時にたまたまKEITAと会う機会があり、「一緒に歌詞書かないか?」という流れで2番を書いたという感じです。

   いやね、この情けない男の主人公が合うんですよ(笑)。

島袋 合うと思います(笑)。

   というのも、やっぱり年老いていくブルース・マンが、情けないところを出していくというのがむしろカッコ良いじゃないですか。

島袋 HoRookiesという若いバンドの子たちとツーマン・ライヴをやらせてもらった時に、俺の1個下の友達が来てくれて。その友達から「歳を取ってカッコ良いっていうのがあるんだなって。(優が)出てきた瞬間思ったよ」と言われたのが一番嬉しかったんですよね。「歳を取るのも悪くないな」と思ったと同時に「音楽をやっていて良かった」とも思えた瞬間でしたね。

   そして「ドミナント色のレコード」。下地イサムさんが作詞ですが、この曲は先にメロディがあったのでしょうか?

島袋 そうですね。イサムは自分のオリジナルは宮古島の方言で書いているのですが、僕は彼の標準語の世界も好きなんです。「こういうメロディができたんだけど、歌詞書いてくれない?」と連絡をしたら、結構早くに歌詞を書いてくれて。「ドミナント色のレコード」ときた時は、すごく良い言葉だと思いました。ドミナントって音楽用語で言ったら「ルートに戻る、戻りたくなること」なので、すごい表現だなと。やっぱりイサムに頼んで良かったと思いましたね。

   素晴らしい言葉だし、でも、分かるよねという感じで。今回、「太平洋音頭」でのクレイジーケンバンドの横山 剣さんとの共演が一番驚きました。

島袋 剣さんは何度かお会いしたことはあったんですけど、そこまで親しかったわけではなかったんです。ちょうどMONGOL800の『What a Wonderful World!!』の打ち上げでMIGHTY CROWNのSAMI-Tに、「実はソロ・アルバム作りたいと思っていて、1曲プロデュースしてくれない?」と言ったらめっちゃ喜んでくれて。SAMI-Tから「クレイジーケンバンドの剣さんと一緒にデュエットするのはどう?」と言ってくれたんです。剣さんは横浜の方なので、「横浜と沖縄のことを掛けた歌も面白いな」と。

   で、音頭と。このアルバムはいろんな音楽のテイストが入っていますよね。

島袋 そうですね。自分がやりたくてできなかったのはブルースだけです(笑)。ブルースが本当に大好きで最初に書き始めたのもブルースだったんですけど、いざ自分が歌ってみるとダサくなってしまって。ロバート・ジョンソンのような2行くらい歌詞を繰り返す  いわゆる本当のブルース・パターンの曲も一瞬作りかけたのですが自分の録音を聴いて、俺はこれをやったらダメだと。いつかチャレンジしたいなとは思います。

   てっきり何曲もそういう曲が入っているのかなと思っていました(笑)。

島袋 全然。ヴォーカル力が足りなかったという(笑)。

   HoRookiesが携わっている「歓びのブルース」も世代超えたセッションで良いですね。

島袋 和メロというか、ああいう洗練されたソウルみたいなものって自分のヴォーカルでは表現できないなと思って。それこそ「酒と泪と男と女」(河島英五)じゃないですけど、ソウルと和メロの中間あたりのメロを作れないかなという気持ちで書いていたので、個人的には自分の声と合っているのかなと思っています。

   合っています(笑)。そして最後、「からっぽカタツムリ」では山田孝之さんがヴォーカルで。これもまた驚きました。

島袋 元々、仲良くさせてもらっていたんですけど、言ってしまうと飲み仲間で。ちょうど孝之くんと千春とMONGOL800のキヨサクと4人で飲んでいた時に「4人でバンド組もうよ」となり、どうせだったらフェスより『NHKみんなのうた』になったらいいねと冗談も言っていたんですよ。そしたら本当に書き下ろしさせていただける事になって。孝之くんが仮の歌詞で「からっぽカタツムリ」を書いてきてくれたんです。孝之くんの歌も何曲か聴いたことあったので、フランスのミュゼットのようなメロだったら、声質と合うと思って作り始めました。自分のソロのプロジェクトの一環として曲の中に入れたらどうか?と、今回入れさせてもらった感じです。

   このアルバムって、酒場の匂いがするというか。飲みながら「やろうよ」みたいなノリで作った感じがして。

島袋 自分で言うのも変ですが、レコード会社や事務所が企画をしていたら実現しなかったと思います。ミュージシャンへの交渉は会いに行ったりメールしたりと直談判だったので、自分で動いたからこそ実現したのかなと。

   アルバム・タイトル『55rpm』通り、55歳にして何か新しいことをやるっていいなぁと思って。これからもソロ・アルバムを作ってください。

島袋 そうですね。例えば、今度は丸っきりインストルメンタルで、すべて1人でやるというのも面白いと思いました。

   今回のソロ・アルバムの制作を通して、BEGINに対して何か感じたことはありましたか?

島袋 ちょうど来年の35周年に向けてアニヴァーサリーな音源を作れたら良いなと思っていた時だったので、BEGINにお土産がたくさんできたというのは自分の中で一番大きいと感じていて。(歌詞を)書いている時に、うちのヴォーカルはこうやって歌ってくれるよなと無意識だったんですけど、ちゃんと意識して書けるようになったかなと。あと、もっとシンプルなメロディでも、逆にもっと複雑なメロディでも彼らは表現できるなというのを自分で確認できたというのも大きいですね。

   やっぱり「うちのヴォーカルはすごいな」と?

島袋 思っていますね。中学から一緒にバンドやっていますし、それこそバイトも、二郎さんと3人で一緒にやっていましたし(笑)。

   そうでした(笑)。タイ・レストランで。

島袋 ずっと一緒だったので意識して聴いたことはないんですけど、やっぱりすげえなと思いました。ヴォーカル力というか表現力というか。

   でも「やっぱり、優、歌いなよ」と言った一言は、このアルバムの制作に繋がって、すごく大きい言葉となりましたね?

島袋 大きかったと思いますよ。「海の声」を歌ったおかげで、色んなところから声を掛けられるようになって。今までギタリストとして呼ばれることはあったんですけど、ヴォーカルで呼ばれるというのは「海の声」以降にしかないので……そういう意味でもこのソロ・アルバムは栄昇の「優が歌え」という一言から始まったかもしれないですね。

『55rpm』
CD、アナログ・レコード発売中
〈インペリアルレコード / テイチクエンタテインメント〉

INFORMATION OF BEGIN

3月より全国26都市をめぐるBEGIN全国ホールツアー『お天気祭りツアー2024』を開催中。

 

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www.begin1990.com
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【YouTube】
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