CULTURE

セカンド・バースとも言うべき、新たなグルーヴを獲得したクレイジーケンバンド。横山 剣に訊く

OCT. 2 2023, 11:00AM

対話/山崎二郎 

かれこれ20年以上聴き込んできたが、9月にリリースされたクレイジーケンバンドの23rdアルバム『世界』を聴いて驚いた。これだけ長いキャリアを積み、メンバーの年齢もヴェテランの域に達しているのに、新たな扉、新たなグルーヴ、新たなサウンドを獲得することに成功しているのだから! それには近年サウンド・メイキングに参加し、前作からサウンド・プロデューサーとしてクレジットしているgurasanparkと、今作から加入したドラマー、白川玄大という2人の貢献度の大きさが明らか。生演奏で一発録音されているのはバンドならではだが、明らかに他のメンバーのポテンシャルが引き出されているのだ。先行シングルとなったミドル&メロウな「SHHH!」、TVでも披露されたオリエンタル・フレイヴァーがトッピングされた「観光」の2曲を何も知らずに聴けば、新しいバンド?と錯覚することであろう。伸び代感溢れる今のクレイジーケンバンドについて、横山 剣に訊いた。

Parkくん、玄大くんが年下で良かったです。年上の言うことは聞けないけど、年下の言うことは聞けるっていう(笑)

   新加入の白川玄大さんのドラムがすごくいい感じで。

横山 そうなんですよ。親子ほど歳が離れているんですけど。以前からセッションを何度かしていて。で、今回、サウンド・プロデューサーに任命したPark(gurasanpark)くん  彼も親子ぐらい歳が離れていますが  彼と6年ぐらいの付き合いで。Parkくんのソロプロジェクトのメンバーでもあります。

   良い流れですね。

横山 ええ。以前、何度かセッションしたことがあったから、既に音が分かっていて、モロ、自分の求めるサウンド、タイトなドラムだったんで。急遽、ライヴに参加してもらったこともありました。

   そんな奇跡があったんですか。

横山 当日のお願いだったんですけど、飲み込みがめちゃくちゃ早くて。

   もともとどういったバックグラウンドの方なんですか?

横山 あいみょんさんとか、いろんな方のバッキングもやったりしていて。本人は割と雑食系で色んな音楽が好きみたいです。

   思い出したのが、かつて、オリジナル・ラヴのドラムに佐野康夫さんが加入して、田島貴男さんがやっとイメージしていた音が作れると感じ、名盤『風の歌を聴け』が生まれたというエピソード。

横山 そうですよね。確かにドラムから潜在的ポテンシャルが引き出されることってありまして。今まで、ちょっと諦めていたタイプの曲ができるようになりましたね。前のドラムスの廣石(惠一)さんとはスタイルが違うということで、2人とも素敵なんですけど。例えば山下達郎さんのバッキングで、(村上)“ポンタ”(秀一)さん、青山 純さんという全く個性の異なるドラマーがそれぞれのグルーヴを展開するというね。

   1人の加入でこんなにも景色が変わるんだと思いました。

横山 めちゃくちゃ相性が良いですね。これまでのレパートリーで、知らない曲もいっぱいあるはずですが、ライヴの恒例リクエスト・コーナーでも、その場で説明したら、その通りにできちゃうので。

   煽られちゃったりとかも?

横山 そうそう(笑)。で、意見もちゃんと言えて、自分の考えをしっかり持っているところも良いんですよね。Parkくんも自分の意見をしっかり持っていて、しかも、食い合わせがいいので「待ってました!」という意見ばっかりなので嬉しくて。

   前作でもParkさんの貢献度を語っていましたが、今作は、さらに密に時間を使えたのかと感じました。一緒にいる時間がさらに長くなったような。

横山 一番長いですね。どのメンバーよりも、家族よりも長いぐらい(笑)。デモ音源の制作からレコーディングまで全部いてくれるんで、彼自身の活動ができなくなってしまうという弊害も(苦笑)。なるべくイニシアティヴを取ってもらおうと、サウンド・プロデューサーに格上げしました。僕の通訳でもありまして。僕がイニシアティヴを取りたくても、言語化できず、「ワーワー」という感じで言っても伝わりにくいじゃないですか。

   ミスター(長嶋茂雄)みたいな。

横山 そうそう。「腰をガッ、ガッみたいに」みたいな。それをちゃんと言語に置き換えてくれるので、非常にありがたいんです。

   ありがたいですねぇ。「観光」、TVでも演奏していましたが、ヤバいですね。

横山 最後にできた曲でした。3月にカンボジア旅行に行って、バンコク経由で帰ってきたんですけど、それらの土地のニュアンスが全部混じっちゃって、羽田空港に着く寸前に浮かんだんですよね。

   かといって、ネイティヴの方にいき過ぎないという。いい塩梅にトッピングとして入っていますもんね。

横山 昔、ドクター・ドレーがプロデュースした、トゥルース・ハーツの「Addictive (feat. Rakim)」がインド歌謡をネタ使いしていましたが、ちゃんとヒップな感じに仕上げていて。ワールド・ミュージックにならないようにというのが重要なところですよね。

   そのせめぎ合いのところですよね。でも、入ることで引っかかりが生まれるという。横山さんの脳内で鳴っている音は、Parkさんへすぐに伝わりましたか?

横山 「なんで分かるんだ!」ってくらい、以心伝心でした。多分、好きなものが一緒なので、放っておいてもその音になるんでしょうね。ウィスパーズの「In The Mood」に謎のコードがあって。どうしても使いたかったんです。なので、Parkくんに解明してもらって、はめ込んで完成させました。同じメロディなんだけど、後ろのコードが変わることで、メロディまでブリッジしていい感じになるので、そのコードじゃなきゃダメなんですけど、弾けないですね、自分では。Parkくんのおかげでそれが分かったのはデカかったです。80年代の終わりからずっと解明できなくて気持ち悪かったんですけど、やっと使えたっていう。時間かかり過ぎ(笑)。30年以上かかりましたね。

   最初はクールな感じで始まるんですけど、後半のグイっとくる展開がまた素晴らしくて。

横山 やっぱり「せーの」で一発で演奏していることが大きかったですね。「クリックなんか気にしないでいいや」みたいな感じで。

   デモの打ち込みから差し替えじゃなく?

横山 はい。みんな一緒に。ライヴでも玄大くんはスタートだけはクリック通りに叩くんですけど、途中で外して、どんどんワイルドに行くんで。一緒に皆でドライブしている感じが、もう、最高です。Parkくんのアレンジに生演奏が入ることによって魂が注ぎ込まれる感じもあるし、ベースの(洞口)信也くんもParkくんに感化されて、なんとも言えないプレイが生まれて(笑)。

   今作、ベースがすごくブリブリ唸っているんです。

横山 信也くんのポテンシャルが引き出されて、ベーシストとして最高の時期を迎えていると、この歳で(笑)。だから、僕も含めメンバー全員、今が一番良いんですよね。

   この歳で、伸び代感! 嬉しいですね。

横山 もっと早くParkくんが参加していたらよかったのにって。まぁ、まだ小学生とかか(笑)。

   機を熟した感じですね。

横山 そうですね。延命できた感じ。

   いやいや、むしろ1stアルバムのような。

横山 はい。シン・ゴジラっていう気分で。

   長年、毎作作った後に残尿感(笑)があるとおっしゃっていましたが。

横山 前作でだいぶなくなったんですけど、まだまだいけるだろうと。なので、Parkくんにもっと「なんかない?」って言って、12人目のメンバーという感じでレコーディングにも入ってもらいました。次回はどうなるか分からないですけど、今回は。P-FUNKとかも、アルバムごとにパーソンが違ったりしていますし。先のことは考えないで(笑)、今できることをやる。

   この歳でこのキャリアのバンドで、この音が鳴ってるってないですよ。「SHHH!」もまたいいトラックで。

横山 これはトラック先行でParkくんがいくつもトラックを持ってきてくれて。聴いたら、メロディがどんどん浮かんで押し出された感じですね。気付け薬のような感じで。この曲と、「マンダリン・パレス」とAyesha ちゃんが歌っている「残り香」はトラックを貰ってから作りました。

   長年、独りでトラック仕込んでいたわけじゃないですか。そうすると、職人作業のようにもなってくるんじゃないですか?

横山 自分でやっていると、どうしても癖みたいなものがあって。もう、その癖から脱却したいっていうのが大きいですね。自分への興味よりも音楽への興味を追求していくと、「自分だったらこうするけど、そうじゃないのもイイね」という感じになるんですね。

   今、さらっと言いましたけど、これだけの長いキャリアでしたら、定番サウンドをファンの方も求め、「それで良いじゃないか」ってなりがちですけど、むしろ、親子ほど離れたParkさんをサウンド・プロデューサーとして迎え入れるっていう。

横山 で、そのプロデューサーをプロデュースするみたいな感じで。例えば、Ayeshaちゃんに歌ってもらった「残り香」は、自分でメロディを作ろうと思ったんですけど、Parkくんが作った方がいいんじゃないかと思って、全部作ってもらいました。

   こういうケースありましたっけ?

横山 以前一度、(菅原)愛子ちゃん時代にバックトラックを作って自分で歌ってみたら、なんか嫌になっちゃって(笑)。もったいないから「愛子ちゃん使わない?」って言ったら、彼女が作詞・作曲に参加してくれて、「SUMMER TIME」になったという前例がありましたね。

   プロデューサーをプロデュースするという俯瞰感。

横山 ジョージ・クリントンとか割とそんな感じもありましたよね。

   「Sweet Soul Train」ではスモーキー・テツニさんが作詞されています。

横山 本来の彼は、柳 ジョージさん的な渋めな曲が得意なんですけど、今回、あえて可愛い曲を歌ってほしいと思って。意外と内面は凄いナイーヴなんで、クヨクヨしているところを出したらいいなと思って。『アメリカン・グラフィティ』のテリー・フィールズのムードで作ったんです。

   のっさん(小野瀬雅生)に続いて、Ayeshaさん、テツニさんの曲が入ってくるフォーメーションって、ニュー・エラと言いますか。

横山 ニュー・エラですね。なのでもう、ここからまた始まりましたっていう感じです。

   その「残り香」のトラックもめっちゃカッコ良くて。

横山 打ち込みでやろうか、生でやろうかって考えていた時に、もう、玄大くんが勝手に叩き始めちゃって。頼もしいなぁと。ここ10数年、エディット、エディット、ループって作っていて、一発の生演奏ってあまりしてこなかったんですけど、年々「生でも演りたい」という気持ちになってきて、それができるようになって嬉しいですね。

   でも、それは「オヤジ・バンドは生でいいじゃん」じゃなくて、綿密に作ったプリ・プロダクションがあった上でと。

横山 その上でなんですよね。玄大くんは、クエストラヴみたいに、ピップホップのちょっと拍を後ろにずらすヒップな叩き方もできるのがすごい魅力で。同時に、和な感じにも対応できるというのも、なかなかいないですから。

   そして、バート・バカラックの名曲と同じタイトルが引用されている「Do it!世界は愛を求めている」。

横山 ZAZOUをやる前からあった曲で。当時、〈ITALIAN GARDEN〉で「ソウル・トルエン」っていうイヴェントやってまして。

   ヤバいタイトル!

横山 ヤバい(笑)。そこでよくバカラックの「What the World Needs Now Is Love」をかけていて。その頃に、途中まで作った曲だったんですけど、ずっと忘れていて。それを思い出して、完成させてみようという気持ちになったんです。

   それだけ昔の曲を今、完成して披露するというソングライターというのもレアな存在です。

横山 「Sweet Vibration – CKB tune -」も89年に作った曲ですし。

   普通、捨てちゃうところなのに「今、フレッシュ」という感覚でピックするところがまた素晴らしく。

横山 今のバンドならできるって思ってですね。ZAZOUでやる予定だったんですけど、メンバーが「うーん」って悩んじゃってできなくて。で、ジャミロクワイが出てきて「ほらー!」ってなっても、もう手遅れで(笑)。その後、みんなやり始めちゃったんで、恥ずかしくなってできなくて。まぁ、あの時やってなかったから、今があるんですよね。

   今、新鮮ですね。あと、毎回楽しみな温泉シリーズ!の「お湯」。

横山 温泉シリーズ第4弾ですね。和テイストにちょっとスイート・ソウルも入れたくて。玄大くんは、ネオ・ソウルっぽくも叩けるので。

   ハイブリッドな感じで。

横山 オヤジ・バンドのソウル・ミュージックと一線を画すことができたかなと。時代を映し出すのって、スネアとかドラムなんだなと思いましたね。

   サンプルした音を聞いて。

横山 それを叩くみたいな。Parkくん、玄大くんが年下で良かったです。年上の言うことは聞けないけど、年下の言うことは聞けるっていう(笑)。

『世界』
発売中
〈doublejoy international / ユニバーサルミュージック〉

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10月7日より全国コンサート・ツアー『CRAZY KEN BAND TOUR World Tour 2023-2024』がスタート。

 

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