CULTURE

加藤弘士と、山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」第1回

AUG. 7 2023, 11:00AM

構成/吉里颯洋
イラスト/早乙女道春

『スポーツ報知』編集委員で、ベストセラーとなった『砂まみれの名将―野村克也の1140日―』著者の加藤弘士と、『ステッピンアウト!』編集長の山崎二郎が、ベースボールとミュージックを語り合う連載「我らベンチウォーマーズ」がスタートです!

思ったのは、ブラスバンドによる応援っていうのは単なる球場のサブ的な演出ではなくて、本当に野球という文化を形づくる大事なファクターなんだなっていうことですよね(加藤)

山崎 今年のプロ野球が開幕してからだいぶ経ちましたけど、現場はいかがですか?

加藤 やっぱり明らかに違うのは、球場での声出しが解禁されたことですよね。2020年から昨年までの3年間は声を出しての応援ができなかったので、いざ解禁されるとこうも違うんだなみたいな感慨があって。歓声とか声援っていうのはスタジアムの雰囲気を織りなす大切な要素の1つですけど、3年間、それがない状況が続いていましたから。スタジアムに行くと、いよいよもって、かつての雰囲気が帰ってきたなっていうのは痛感しますね。

山崎 以前は日常だったものが、実はプレシャスなものだったと再認識されたということですね。

加藤 改めて、こんな貴重なものなのかと思いましたね。まず、3月の『センバツ高校野球』が先んじて解禁して、プロ野球もそれに続いた形です。だから、選手たちが「スタンドの歓声、声援のおかげで打てました」とか(ヒーロー・インタヴューなどで)よく言うんですけど、今季は特にその種のコメントが多い気がしますね。

山崎 声援のヴォリュームなり、ヴォルテージって、以前と変わらないですか?

加藤 いや、最初はみんな恐る恐るだったんですけど、『WBC』で一気に盛り上がって、声援のマックスを振り切っちゃうような状況があって。あれでもう、以前と同じスタンスで応援していいんだなという雰囲気になってきたところはありますね。あとやっぱり、歓声とか声援って、思わず出ちゃうものですよね。出そうと思って出すというよりも、気付いたら「ワー!」って盛り上がるのが自然な訳で。〈甲子園球場〉での高校野球のプレイなんか、特にそれがありますし、今はやっとその辺がようやくコロナ前に戻ったかなっていう気はしますよね。

山崎 ベイスターズのトレバー・バウワー投手が『YouTube』にアップしている動画で話題になっていますけど、やっぱり日本の応援スタイルはすごくファンタスティックだと。外国の方がよくおっしゃっていますけど、選手ごとの応援歌をみんなで唱和するっていうのは、まさに日本独自の文化ですよね。

加藤 一長一短ですよね。二郎さんはどっち派ですか? 例えばメジャー・リーグの場合、鳴り物入りの応援がない代わりに、比較的静かな環境で球音を楽しむ観戦スタイルになりますけど。

山崎 僕はやっぱり、メジャー・リーグのスタイルが好みですね。とは言え、日本ならではの応援合戦という部分は否定できないところで。日本におけるベースボールの歴史を紐解けば、古くは一高三高の定期戦、その後の早慶戦から始まり、野球というゲームの1つのエレメンツとして、応援合戦の伝統が現代に至るまで脈々と続いているという事実にはリスペクトを感じますよね。

加藤 確かにメジャー・リーグの一球一球の音を楽しむのもいいんですけど、改めて思うのは、日本独自の応援合戦のスタイル、ラッパの音色なり応援歌にしても、僕らからすると元からあるものじゃないですか? だから、野球発祥の地から来たバウワーの目には奇異に映るみたいで、彼は驚いていますけど、それによって、「ベースボール」と「野球」のカルチャーの差異のようなものを再認識したところはありますね。高校野球の話をすると、今の高校生たちは入学してからブラスバンドの応援の中でプレイしたことがないんですよ。いわゆる夏の〈甲子園球場〉のフル・ヴォリュームの応援を全く経ないで、いきなりこの春の『選抜大会』でブラバンの応援を経験したんで、エラーしちゃったとか、パニックになっちゃったとか、選手にしたら想定外のプレーが起きて。取材時に「何で?」って訊いたら、「いや、あまりに応援がすごくて(平常心が保てなかった)」みたいな話を選手たちから聞いたんですよ。思ったのは、ブラスバンドによる応援っていうのは、単なる球場のサブ的な演出ではなくて、本当に野球という文化を形作る大事なファクターなんだなっていうことですよね。今春の『センバツ高校野球』を観ていても、洋楽ロックをブラスバンド用にアレンジして演るケースが結構増えてきていて。

山崎 応援歌の洋楽志向が新しい潮流だとすると、どんな曲がポピュラーなんですか?

加藤 実際、ここ10年ぐらいで、洋楽曲が演奏される割合がやたら増えていて、定番で言うと、クイーンの「We Will Rock You」ですね。あとは、ディープ・パープルの「Smoke On The Water」も人気があって。今一番流行っているのは、オフスプリングの「Pretty Fly」なんですよ。

山崎 そうなんですか! へぇ、面白い。

加藤 1998年のリリース当時はクラブでみんなで盛り上がるような曲だったのが、今やブラバン応援の花形として「魔曲」なんて言われていて。高松商業高校とか特に、チャンス・テーマみたいな扱いで演奏していて、1曲で球場の雰囲気が変わって応援席が盛り上がるんです。たぶん、こんな事実を、オフスプリングのメンバーは知らないと思うんですよ。日本の高校野球の試合で自分たちの曲にそんなニーズがあることを知ったら、さぞかしびっくりするんじゃないかと思って。

山崎 彼らに知らせたいですね(笑)。

加藤 知らせたいですよね。「君らの曲が『魔曲』って言われてるぞ」みたいに(笑)。そんなこんなで、洋楽ロックが〈甲子園球場〉で応援歌として当たり前に演奏されるという流れができつつありますね。

山崎 曲名が挙がったどの曲も、今の高校生たちはリアルタイムでは知らないですよね。

加藤 全く知らないですね。「We Will Rock You」なんかは、映画の『ボヘミアン・ラプソディ」がヒットした余波で高校生がクイーンを聴くようになって、またちょっと、採用校が増えた事情もあって。

山崎 面白いですね。日本の曲だと、何か流行りとかあるんですか?

加藤 邦楽に関してはヒットするとすぐに、ブラスバンド用のアレンジで譜面を起こす高校も中にはあって。特に大阪桐蔭高校は、その春に流行った曲を夏の大会で演奏する、冬に流行った曲は春の大会で演奏するぐらいのレスポンスの速さがあるんですよね。そのあたりの潮流を分析すると、ここ5年ぐらいの間に常連校が選曲にめっちゃ力入れてきた流れを感じますね。

山崎 要は、共通のスタンダード・ナンバーをどの高校も演奏するんじゃなくて、独自の選曲でオリジナリティを競い合うようになってきた感じですか?

加藤 そうですね。それまでは、ピンクレディの「サウスポー」なり、アントニオ猪木さんのテーマ曲「炎のファイター 〜INOKI BOM-BA-YE〜」なり、定番曲を各校がシェアしている感じだったんですけど、ここ5年ぐらいで各校が独自の選曲に力を入れ始めて、他校との差別化を図るような流れはありますね。ちょっと懐メロのような曲が使われていると、「あれ、この曲、リアルタイムで知ってるのかな?」という疑問を感じていたんですけど、話を聞くと「サブスクで聴いてるんで」という回答で、時代を超えた選曲の妙で個性を競う流れも面白いなとは思いますね。

山崎 選曲に地域性ってあるんですか? 地元出身のミュージシャンの曲を採り上げるケースって、実際にありますか?

加藤 地域性は確かにありますね。T.M.Revolutionの曲は、出身地である滋賀県の近江高校が採用していますし。北海道のチームが「北の国から」のテーマ曲を使うのはおなじみですけど、細川たかしさんの「北酒場」とかも採用されていて。歌詞がすごく素敵ですよね。〈今夜の恋は煙草の先に 火をつけてくれた人〉なんて、高校生がやっちゃいけないことが全部歌詞に入っているみたいな(笑)。そういう意味では、数ある応援歌の中で、「北酒場」はなかなかインパクトありますね。今春の選抜大会も、全試合、〈甲子園球場〉で取材したんですけど、やっぱり音楽と野球っていうのは切っても切り離せないなっていうことを再認識しましたね。

INFORMATION OF HIROSHI KATO

『スポーツ報知』編集委員。『スポーツ報知』公式『YouTube 報知プロ野球チャンネル』のメインMCも務める。

 

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