選曲家、DJの橋本 徹が、コンパイラー・キャリア30周年を迎え、今年『Blessing~Free Soul×Cafe Apres-midi×Mellow Beats×Jazz Supreme』、『Gratitude~Free Soul Treasure』、『Merci~Cafe Apres-midi Revue』と3枚のコンピレーションCDをリリースした。思い返せば90年代、彼が編集発行するディスク・ガイド・マガジン『Suburbia Suite』の刊行は衝撃だった。ソフト・ロック、ジャズ、サントラ、ボサノヴァと、従来のリスニング形式とは違って、音楽が持つときめき、分かり合えた際のよろこびが、詰まっていたから。それを現場で体現できたのが同名パーティ。初夏の木漏れ日のように、どこまでも楽天的で自由で。次なるアクションは、教条的でないソウル・ミュージックの提案「Free Soul」(コンピレーションCD&イヴェント)。今ではスタンダードとなったが、30年前、喝采とともに、ややもすると上の世代からは批判もされた。が、JOYの背景にあったのは反骨。レべル・ミュージックとパーティ・チューンの絶妙なバランスのムーヴメントだったのだ。「こんなことができたら素敵だよね」というシンプルな想いは、真夜中のダンス・フロアを越えて、昼へ。渋谷・公園通りに〈カフェ・アプレミディ〉をオープン。グッド・ミュージックに心地よいインテリアと、こちらも今ではスタンダードになったカフェ・スタイルは橋本が個人レヴェルで牽引していた。さらにダイニング・サロン〈アプレミディ・グラン・クリュ〉を別フロアにオープン。時を同じくして、近くの渋谷〈パルコ〉にセレクト・ショップの〈アプレミディ・セレソン〉もオープンと、橋本の提案はライフスタイル全般へと及んだ。そこで鳴っている音楽というコンセプトの「Cafe Apres-midi」コンピレーション・シリーズも提案。が、そこに留まらないのが真骨頂。アップデイトなヒップホップからメロウな心地よさを抽出した「Mellow Beats」コンピレーション・シリーズで新時代のドアを開けたのだ。さらに、年齢が成熟することで得た新しい視点で「Jazz Supreme」、「音楽のある風景」、「Good Mellows」シリーズも展開。選曲したコンピレーションCDは350枚を越え、世界一にまで行き着いた。30年経った2023年、周りを見渡してみたら、チェーン店カフェで、地方のモールで、身近のスーパーマーケットで流れている曲は、30年間、橋本が提示してきた音楽になっているではないか。初めは一部の感度の高い新世代がキャッチした感覚は、今や、メインストリームを侵食しているという事実。これこそ、無血革命と言っていい。橋本 徹はこの国の音楽、そしてカフェのスタンダードを作ったのだ。音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」、「usen for Free Soul」の監修・制作もおこない、定期的にごきげんなパーティを続けている。ぜひ、〈カフェ・アプレミディ〉には土曜の午後に赴いてほしい。かつて感じた、どこまでも楽天的で終わらない夏の感覚を思い出すはずだから。
時代の移り変わりが激しい中、音楽の世界もいろんなことが変わってきた中で、選曲家、コンパイラーの先駆者である橋本さんが30年、ずっと現役で走り続けているってすごいことです。
橋本 30年間で360枚近くのコンピレーションを出したとなると、ほぼ、ひと月1枚ぐらいのペースですけど、実際にはコンスタントに笑顔でコンピを作ってこられた訳ではなくて、まさに山あり谷ありだったかなと。
そんなにもリリースされてきましたが、決して、マーケティング的におこなった上で活動してきた訳ではないじゃないですか?
橋本 そうですね。ただ自分の好きなことや好きなものを伝えるために、どうやったら、そういう環境が整うかな?っていうことは自然に考えてはいましたけど、別にお金だけが欲しいならこんな仕事やってないですしね(笑)。
若い時なら、誰しもパッションはありますよ。でも、それをキープし続けたっていうことが何よりすごいことであって。
橋本 コンピレーションに関して言えば聴いてくださる方がいたおかげで、これまで断続的に続けてこられたなと思います。それに関しては、本当にリスナーの方たちに感謝の想いしかないですね。
「どうして活動を続けてこられたんですか? モチヴェーションをどうやってキープできたんですか?」と、若い世代の方が訊きたいことだと思うんですけど、どう答えますか?
橋本 それはやっぱり、ひとえに音楽が好きだからじゃないですかね。音楽そのものが好きだっていうことと、好きな音楽と共に仲間と楽しんだり、盛り上がったりする時間が好きだからっていうことに尽きるのかな?と。あとは何とか(活動する)現場を失わないでやってこられたから、続けられたのかな?っていう想いはありますね。完全に止まらないで済んだというか。時速5キロぐらいまでスピードは落ちているんだけど(笑)、止まらないで済んだっていうところが真実に近いのかもしれないですね(苦笑)。今思えば、90年代って、僕らにとって華やかな時代だったじゃないですか? ああいう時代を一度経験してしまうと、それが特別だってことに気付くのにどうしても時間がかかってしまって。でも、ある時期から、本当に緩やかな右上がりで、いや右上がりでさえなくて水平でもいいんですけど、緩やかにでも続けていけたらいいなって思うようになっていったんですよ。それっていつぐらいだったのかな? 00年代末とかに、精神的なことも含め、自分を取り巻くいろんな状況が結構ダウナーな感じになっていた頃だったのかもしれないなぁ。
自分のこととして、すごく分かります(苦笑)。ちょうど、音楽の流通形態が変わって、CDからダウンロードが主流になっていった頃ですよね。ところがですよ。今や、サブスクの時代が到来して、本で見た名盤を欲しいと思っても入手できずに諦めるしかなかった状況も変わり、ずっと愛読してきた橋本さんの名書のディスク・ガイド『Suburbia Suite; Evergreen Review』、『Suburbia Suite; Future Antiques』の2冊が再びバイブルになっています。
橋本 そう言っていただけるのは初めてかも。中古盤屋さんでみんなが名盤を探して競争率が激しかった時代には、市場価格が上がったりすることもありましたよね。かつてはリアルな店舗で奪い合いになったレアな名盤も、今となってはほぼほぼサブスクで聴けるでしょうし。
常に「コレ、いいですよ。あなたに合っていますよ」っていうアルゴリズムの半ば強制的なレコメンに晒されて育ってきた受動態な今の若い世代が「本当に良い音楽って何? いったい何を聴けばいいですか?」と迷う時に、橋本さんのような信頼できる目利きが選んだディスク・ガイドの価値が増してくると思うんです。情報過多な時代をサヴァイヴしている若い世代に、長い時間をかけて培った橋本さんの音楽に対する造詣、智慧が求められていると感じています。
橋本 そう言っていただけると、コンピCDがあまり作れなくなっても、サブスク世代のキュレーターとして頑張っていきたいなと思いますね(笑)。自分もカッコ良いなと憧れていた方たちも、誰かのレコメンであったり、好きなミュージシャンのルーツを辿って、自分の音楽の地図や年表を広げてアップデイトしていたと思うから、若い世代にとって自分がそういうナヴィゲーター的な存在になれたらいいですよね。ちょうど僕自身が高校時代に佐野元春さんのラジオ番組『サウンドストリート』を月曜日の夜に毎週聴いていて、そこで気に入った曲のレコードを買いに行ったりしていたように。割とここに来て、30周年ということもあって、音楽の仕事を始めた30年ぐらい前と、あと音楽を好きになった40年ぐらい前のことを思い出すような機会が多くて。そうした振り返りのひとときが、日々、いろんなことに追われつつも音楽にまつわる仕事をしている自分に、情緒的にすごくプラスになっているんですよね。毎週末、サブスクにアップされる様々な新曲を聴くのと並行して、30年前、40年前のことを当時の思い出の音楽と共に思い出すことが活力に繋がっているのかな?っていう気はしていますね。
やっぱり、今回リリースされた3枚のコンピを聴くと、リアルタイムで聴いていた当時の思い出が鮮やかにフラッシュバックして。思い出や記憶を今、此処に持ってこられるすごさに今さらながら感嘆しました。
橋本 それは本当に音楽の力だなと思うし、自分のコンピレーションであるとか、携わったディスク・ガイドやフリーペーパーを通じてリスナーの皆さんが知った音楽が、そういう役割を果たしてくれていたら嬉しいなっていうのはありますね。ただ、現状の音楽の聴かれ方を考えた時に、色々と難しい状況にあるのは事実ですよね。音楽の魅力にまだそれほど気付いてない人とか、普段は音楽に縁遠いけど関心はあるという人に対してアプローチしていけたらという想いが常にあって活動してきて、それが90年代はある程度成功したなっていう手応えもあったんだけど、自分が油断している間に時代との距離感ができて、気付いたら、そういう中間層の人たちを見失っちゃっていた感覚があるんですよね。リアルにリスナー層を考えた時に、最近は全くのビギナーかマニアのどっちかに寄るしかない現実があって。「Free Soul」シリーズのコンピのシェアを分析すると、ダントツでそこ(中間層)が強かったんだけど、時代の流れの中で、本当にここ15年ぐらい、日本の音楽シーンではそこが失われちゃっているなっていうのをすごく感じていますね。無念というか。
それはちょい違うとあえて言わせてください! 元々はメインストリームではないカウンターカルチャーの立ち位置で、しかも、レべル・ミュージックとして「SUBURBIA」、「Free Soul」、「Cafe Apres-midi」はシーンに出てきました。ところが、この30年間の間に、橋本さんが提示したコンセプトやテイストがメインストリームに侵食したんですよ。今となっては、「SUBURBIA」、「Free Soul」、「Cafe Apres-midi」的な音楽がどこのカフェでも流れてますよね。「Free Soul」、「SUBURBIA」、「Cafe Apres-midi」的な音がメインストリームをいつの間にか塗り替えちゃったんですよ。多くの人の価値観を変えたってことは、まさに静かな革命だと思います。一部の耳が良い人だけでなく、全体の底上げ、センス・アップをおこなったことが、橋本さんの功績だと思うんですよ。
橋本 それはもちろん嬉しい結果ですよね。そうなっているのであれば嬉しいし、そうなったらいいなって気持ちはもちろんずっとあって、自分たちの好きな音楽がもっと自然に流れていたら、自然に手に入るようになったらいいなっていう気持ちは、始めた頃にとても思っていたことですから。もちろん、そういうふうに状況が変わったのは僕らだけの力じゃなくて、そこからいろんなことが派生して、お店の人たちの意識が上がったりとか、レコード・ショップやCDショップの品揃えに始まり、昨今であればサブスクリプションといった音楽の流通システムが整備されたことも大きいでしょうし。要はインフラが整備されたから「SUBURBIA」、「Free Soul」、「Cafe Apres-midi」的なカルチャーがそこまで広がって、そういうことの結果として、(人々のセンスの)基準値が上がったのはもちろん間違いないと思います。ただ、(そうした諸々の変革の根源であった)コンピCDというフィジカルのものを買ってもらおうとすると、かつての中間層がCDは買わないどころか、もう既にCDが気軽に聴けないような時代になってしまったから、そこに関しては、ちょっと残念な気持ちもありますね。CDの全盛期がほぼ平成の時代と重なる意識が僕にはありますけど、その時代にこの仕事を始めて30年続けているから、今となっては、コンピレーションCDは、自分の選曲や編集っていう行為の落としどころのフォーマットとして最も有効だったのかな?と思ったりもします。それを作品として多く世に出せる時代に生きたってことは、幸せだったなって思っているんですよね。そういう時代じゃなくなるこれからは、どういう形で活動を続けていったらいいのかな?って、そろそろ考えなきゃいけない気もしていますが。いや、とっくに考えてなきゃいけないんだけど、あまりにも楽天的な人間なんで、考えずにここまで来てしまったんですけどね(笑)。自分の原点を振り返ると、僕は音楽に夢中になった高校生の頃からやっぱり、ある種の青臭さみたいなものっていうのがすごく好きだったから、山崎さんにも同じ遺伝子を感じていましたよ。同じ時代に佐野元春さんやポール・ウェラーを聴いていたという原体験も共通していて。佐野さんが出した雑誌で、最初の『THIS』4冊(1983~1984に刊行された、佐野元春責任編集のカルチャー・マガジンの1期)からの影響は、今でも自分の中にすごくあるなって、昨今のキャリアを総括するようなインタヴューを受ける中で思い出したり。あと、ポール・ウェラーがスタイル・カウンシルを始めた頃の感じ、そのアティチュードと時代感っていうのは自分にすごく影響を与えたんだなっていう事実を、改めて感じる今日この頃ですね。僕にとってのスタイル・カウンシルの存在意義って、単にポール・ウェラーとミック・タルボットの音楽ユニットってことだけじゃなくて、サイモン・ハルフォンが手がけるジャケットや諸々のグラフィック・デザインであったり、(ライナーに記された)カプチーノ・キッドことパオロ・ヒューイットの文章や、広告までも全て含めたトータルのプレゼンテーションやムーヴメントとしての魅力なので。それってやっぱり、「SUBURBIA」の名のもとにおこなってきたさまざまな活動において、常に意識してきたことで。例えば、コンピCDがあれだけヒットしたのは、NANA(小野英作)のデザインがあったからだと思うしね。
青臭さが背景にあるスタイリッシュさ、理想を追求するアティチュード、初夏のような楽観性に、勝手ながらシンパシーを感じてきました。
橋本 スタイルを究めることで表現が洗練されていくというか、一番好きだったもの、自分のルーツからもういろんな枝葉が広がってはいるんだけど、やっぱり30年経って振り返ると、自分の原点で得たカッコ良さというか、熱い想いや怒りみたいなものとスマートなプレゼンテーションは共存できるんだよってところに影響を受けて、自分の仕事の中でも、その理想をずっと貫いてきたのかな?とは思いますね。
20代の方にレクチャーするなら、今でこそカフェって当たり前ですけど、カフェ・ブームを牽引したのは、橋本さんなんです。大資本でなく個人が。
橋本 (苦笑)僕がブームを作った訳じゃ全くないですけど、以前は音楽の世界だけにいた僕がたまたま渋谷に〈カフェ・アプレミディ〉を立ち上げてから、いろんなメディアの取材も増えて、カフェ・ミュージックも含めて、いわゆるカフェ・ブームが来たのが2001年前後ぐらいかな? かつては薄暗い喫茶店の店内でタバコの煙が立ち込める中でコーヒーを飲むという世界から、一定のセンスでセレクトされた家具や雑貨が演出するインテリア、音楽も含めた、トータルで心地よい空間で食事やドリンクを楽しめるカフェがあちこちにできていったっていう一連の流れが生まれて。
今や、それがデフォルトなんだけど、最初にその価値を作ったのが橋本さんなんで。
橋本 自分にとっては21世紀の始まりは、甘酸っぱい夢のような時間だったんですけど(笑)、渋谷みたいな家賃の高いところで個人の趣味嗜好を大切にしながら飲食店を経営していくことは、かなり現在は難しい状況になってしまいましたよね。でも、東京以外の街だったり、あるいは東京でも郊外であれば、個人ですごいセンスが良いお店をやっている人たちは今でもたくさんいて。加えて、チェーン店のコーヒー・ショップの基準値ももちろん上がっていて。コーヒーも美味しくなっているし、かかる音楽も良くなっていて(店内放送として)「usen for Cafe Apres-midi」を使ってくれている店も多くて。その音源の、よりソフト・ロックやシンガー・ソングライター寄りに絞ったセレクションを〈ドトールコーヒー〉では流していたりとか、「usen for Free Soul」は〈西友〉が全国の店舗のBGMとして使ってくれていたりとか、そういうことが現実になりましたね。
だからさっきも僕、ちょっと熱く語りましたけど、まさに、日本全国津々浦々に至るまで橋本さんがエデュテインメントしたんですよ。
橋本 当時よく言っていましたよね、そのワード(笑)。エデュケーション(教育)とエンターテインメントを兼ねて言う造語で。偉そうに言うと、自分がしてきたことはそういうことだったのかもしれないですね。
そうなんですよ。まさに、無血革命したんですよ、日本全国に対して。今でも覚えているのは、〈カフェ・アプレミディ〉に入れない人たちが公園通りに行列を作って並んでいて。それに加えて、「こういう店もあったらいいよね」っていう、ネクスト・レヴェルのプレゼンテーションとして、2002年にはダイニング・サロン〈アプレミディ・グラン・クリュ〉を別フロアにオープンさせて。
橋本 同じ年に、セレクト・ショップの〈アプレミディ・セレソン〉も近くの渋谷〈パルコ〉でやるようになって。やっぱり、当時はちょっと調子に乗っていたと思うんだけど、『ステッピンアウト!』の表紙のメッセージよろしくチャレンジし過ぎて(笑)、足元をすくわれた部分もあったというか(苦笑)。その後5年くらいの自分を例えるなら、スタイル・カウンシル晩年のラスト・アルバムの頃みたいな感じがあって。「ハウスにまで手を出しちゃう?」みたいな(笑)。いいことやっているんだけど、ファンが付いてこられないところまで行っちゃったみたいなさ(笑)。
ですが、当時、いろんなデベロッパーから、都内はもちろん地方のショッピングモールなり、いろんな出店依頼が来ていたと思うんですよ。でも、片っ端から断っていたという(笑)。
橋本 そう、上海やシンガポールの話もありましたからね。でも〈カフェ・アプレミディ〉は結局(運営する)「人」だから。システムとか名前だけ、地方や海外に持って行ってもしょうがない訳で。
とは言え、あの頃、多店舗展開をやろうと思えばやれたんですよ。だけど、やらなかった。この生き方を選んだんですよね。自分の身の丈だったり、個人レヴェルでプロデュースしきれる範囲内でやろうという選択。自分のセンスや美意識が細部まで貫かれた状態で物事を進めたいっていうスタンスですよね。
橋本 そうじゃないと自分は楽しくできないっていうか。今となっては、その選択が本当に重要だったのかなと思いますね。
おいしい想いもできたのに、あえてその道を選ばず、自分の初期衝動、理想、音楽に純粋にアプローチしていく生き方を橋本さんは選んだんだと思います。
橋本 いや、でもあの頃、90年代前半に結構熱かった人たちって、みんなそうじゃないかな? 変わってないっていうか、結局、そういう不器用な生き方しかできないんだよね。
「個」を貫いてきているんですよね、30年も。
橋本 だから、どんなにある時期に人気が出たり名声を博したりしても、(あえてビジネス的な成功を追わず)音楽が好きで生業にしているんだと思いますね。
自分から意識的に好きなジャンルをディグして旧譜にたどり着いていた僕ら世代と違って、今のサブスク世代はあらゆる世代の音楽が情報として並列に入ってくる環境で育っています。
橋本 やっぱり自分なりのセンスで掘り下げる時間があればどこまでも行ける、好きな音楽を好きなだけ追求できる感じは、サブスクリプションやインターネットの時代のありがたさ、メリットなんだろうなって思うから、そこからとんでもないすごい奴が出てきたらいいなとは思いますね。
音楽に出会う入口としてはサブスクなんですけど、もう一歩深くディグする時に、橋本さんのようなしっかりとした目利きのアドヴァイスが求められているというか、さらに価値を帯びてきていると思うんです。
橋本 そうなってくれたら嬉しいですよね。ひとつのセンスとして、これからも曲単位だけでなくプレイリストでコンピレーション的な連なりで音楽の素晴らしさを伝えていければね。もっと言えば、僕が年上の方に対して共感できた人もそうでなかった人もいるように、今の世代の方にも一旦「SUBURBIA」、「Free Soul」、「Cafe Apres-midi」的なものに触れてもらって、それが自分のセンスに合うのか合わないかを感じてもらえるだけでも意味があるのかな?と思います。
誰でもプレイリストが作れちゃう時代だからこそ、目利きの人が作ると違うプレイリストを提示することで、作る人のセンスがはっきりすると。DJ、コンパイルって行為は、音楽の流通形態が変わったとしても普遍のものですし。
橋本 最近は実際、レコード会社からのコンピレーションCDの選曲をしてくださいっていうオファーよりも、国外からのオファーも含めて、いろんな雑誌やWebサイトの企画と連動してプレイリストで選曲したものを納品する仕事が増えてきていますね。アマチュアの方でもすごくいい選曲をする方はいるけど、聴いてもらった時に「なるほど、一味違うよね」ってくらいのレヴェルのものは提示できるかなとは思っていて。選曲をおこなうフォーマットがコンピCDからプレイリストに移り変わっても、腕利きの料理人が良い素材を集めて自分なりのセンスで料理するように、自分にとっての良い曲を素材にして、ある種のコース料理のようなストーリーを作るっていうことは常に考えていますね。
30年の選曲家人生において、時代、年齢ごとに新しい概念を提案してきた橋本さんが次に提案するのは何か?と、すごく期待しています。
橋本 それはね、相変わらずノープランなんですよね(笑)。僕の場合、こうやって話したりしている時に、突然、アイデアを思いついて、動き出すようなことばかりなんで、「次に何しようか? 将来何をしたいかな?」ってプランを綿密には考えていないですね。
例えば人生の秋に味わうのにふさわしいコンセプトですとか。今までの価値観だったら、枯れたり、しんみりした曲になるんでしょうけど、我々の世代ならではの、甘美感もあるような選曲もありなのかなと、勝手ながら思ってしまいました。
橋本 甘酸っぱい青臭さというか、サウダージが香るようなね。切なさや孤独も踏まえたうえで、少し光が見える選曲もいいですよね。
これまでの人生で経験したビター&スウィート感があったうえで、芳醇さ、成熟した部分も漂うような。
橋本 うん、(これからの選曲家人生で)ビター&スウィート、ライズ&フォールを超えたところにある何かが表現できればと思いますね。自分の選曲を聴いても、やっぱり、初期の頃の若さや勢いのある選曲も魅力的だけど、いろんな体験、いろんな想いを味わってこそ出てくる味もあるかな?と感じていて。たまたま今日、パブロ・ピカソのメッセージがプリントされているTシャツを着ていて、「孤独なくしては何も成し遂げられない」っていう文言が書いてあって。個として続けてきた人にしか分からない感覚かもしれないけど、30年間のうちにそういうふうに感じることは、山崎さんにもたくさんあったと思いますし、ひとりでやってきた、我が道を歩いてきた者ならではのリアルさが作品にも滲んだらいいなって思います。
サブスク全盛のこの時代だからこそ、叶うことなら、それはCDで聴きたいです。
橋本 ぜひ、オファーしてください(笑)。
『Blessing~Free Soul×Cafe Apres-midi×Mellow Beats×Jazz Supreme』
〈P-VINE〉
『Gratitude~Free Soul Treasure』
〈ULTRA-VYBE〉
『Merci~Cafe Apres-midi Revue』
〈INPARTMAINT〉
すべて、発売中
INFORMATION OF TORU HASHIMOTO
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〈カフェ・アプレミディ〉
東京都渋谷区神南1-9-11-5F
TEL.03-5428-5121
営業時間/金曜19:00〜24:00、土曜11:30〜23:00、日曜11:30〜19:00(不定期でDJパーティ開催)