【EDITORS CHOICE】FILM『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』
監督のジェームズ・グレイが「自分の経験を直接、正直に表現することができれば、それが一番いい。そのために、もう一度自分自身の過去に立ち返ろうと思ったのです」と語る本作は、1980年のニューヨーク・クイーンズ地区が舞台。ウクライナ系ユダヤ人の家庭に生まれ育った11歳の末っ子ポール(バンクス・レペタ)は、アートへの関心は強いものの、勉強は不得意で、家族からも「変わった子」扱いされている。唯一の理解者は祖父のアーロン(アンソニー・ホプキンス)であった。問題児扱いされていた黒人の同級生ジョニー(ジェイリン・ウェッブ)と仲良くなるも、あることをきっかけにポールは私立学校へ転校、両親のいない貧困家庭に育ったジョニーは大人の庇護を受けられないまま、転落していく。
家庭環境の違いによる子供の格差、人種差別、今も大きく社会に横たわるこれらの問題は、果たしてどう変わっただろうか? 自身は配管工の息子ながらエンジニアとして踏ん張り何とか中流家庭に入ることができた父親(ジェレミー・ストロング)は、子を想うがゆえに厳しい躾をするが(今これを観ると残酷さが余計に際立って見える)、本当に子供と向き合えているだろうか?(様々な問題に切り込みつつも、子供が自分たちの力で眩い方へ向かっていけた是枝裕和監督の『怪物』とある意味対極だ) 映画のタイトルにもなった「Armageddon Time」(ザ・クラッシュ)はじめ、ノスタルジックとも言える数々の音楽が流れるが、いつの時代も変わらないテーマを厳しく検証している。
ホプキンスによる、少年の心を開かせる賢者のような温厚な老人という役柄は、『アトランティスのこころ』のテッドを彷彿とさせる。けれどあれはもう20年以上前の作品だ。未だ若者に気付きと励ましを与え続けられるホプキンスのキャリアと役者としての深みと豊かさにも唸ってしまう。