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短期連載 PENTAXフィルム・プロジェクト部日誌 vol.9 Guest 名越啓介

JUL. 19 2024, 12:00PM

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撮影&文 / 多田メラニー

「フィルムカメラの新規製造」を目指す〈PENTAX〉「フィルムカメラ・プロジェクト」の過程を追う本連載。ついに、21年ぶりとなる新作フィルムカメラ『PENTAX 17』が誕生しました! 〈PENTAX〉事業部・開発統括部・第1推進部・部長の飯川 誠、同第1推進部・商品企画・デザイナーの鈴木タケオとの鼎談に迎えるのは、本連載の初回ゲストでもある、写真家の名越啓介。さらに今回は連載拡大版として、これまで登場いただいた4名の写真家による『PENTAX 17』を使用した作品も掲載します。

名越 〈Prism Lab KICHIJOJI〉運営の西村 康さんと共に初回のゲストに呼んでいただいた時は、「昔の設計図を解読できるかどうか」というお話しをされていましたよね。1年半ほどの時を経て、目の前に完成品が存在していることに驚きです。本当におめでとうございます!

飯川 ありがとうございます。ようやくご報告ができました。ぜひ手に取ってみてください。

名越 あまり見たことのないヴィジュアルでカッコ良いですね。「17」のロゴも効いていて。

鈴木 『PENTAX 17』のネーミングは、35mmフィルム(36x24mm)の約半分の17×24mm、ハーフサイズフォーマットに由来しています。写真家の皆さんにも愛用いただいている『PENTAX 67(通称・ロクナナ)』のように、ぜひ「イチナナ」と呼んでいただきたいなと。このロゴを使いたかったというのもありますが(笑)、名前はかなり早い段階から決まっていました。

名越 なるほど。音の響きも可愛いし、「イチナナ」というジャンルが確立されそうです。レンズは交換できるんですか?

鈴木 レンズ一体型のカメラになります。ファインダーを覗くと下の方に人物や花などのアイコンが見えると思いますが、被写体に合わせてピントの合う距離を選択する、ゾーンフォーカス方式です。基本的に露出やシャッタースピードはカメラがおこなって、距離はご自身で測っていただきます。例えばマクロ撮影の場合、付属のストラップを撮影する方向にピンと伸ばしてもらうと、ちょうど25cmの距離になっていて。

名越 これはすごい、ストラップの意味合いがしっかりあるんですね。慣れていない方だと、目測が分からず不安もあるでしょうからとても便利だと思います。

飯川 光学系は、1994年に発売した『PENTAX エスピオ ミニ』のオマージュなんですね。今回のハーフサイズフォーマット用に新規設計した3枚構成にしていて。今ある硝材(光学ガラス)、加工技術を使うとどんなカメラができるんだろう?というチャレンジで、レンズ設計者がかなり力を入れた部分です。3枚構成以外にもいろんなレンズタイプを試して、シミュレーションを繰り返しおこなった上で最終的に残ったのが、一番シンプルなものでした。解像性能重視のしっかりエッジを出す描写ではなく、収差を少し残し、丸い点像でふわっとした描写に。豪華で見栄えの良い設計はいくらでもできますが、今回はあえて狙いませんでした。開放F値も、本当はF2.8の方が見た目にも良いけれどあえてF3.5にしたり。設計的には実に不思議なカメラかもしれません(笑)。大抵はその時の最新技術を製品設計に入れるので、例えば手巻き機構は採用しませんし、現代ならデジタルカメラの最新技術を導入する選択肢もあります。でも今回は、若いユーザーさんや今後フィルムカメラを使いたいと思っている方々の生の声をたくさんお聞きして、1つずつ取捨選択して取り入れていったので、スペック重視ではないんですよね。使う時の楽しさをとことん追求しました。

鈴木 手巻き機構も昔の一眼レフの設計図から起こしていて、かなり忠実に設計の基本としています。巻き上げ時の音もこだわりました。最初に組み上がった時はもう少し賑やかな音だったんですけど、担当に「昔のカメラはもう少し静かな音だったよね」と言ったらニヤっと笑って、「できますよ。今研究していますから」と(笑)。最終的には本当に小さい音に進化していました。

名越 確かに、音はフィルムが中で噛んでいるかどうかも判断できる重要な部分ですが、動作の流れで軽やかな音が鳴ると心地良いですよね。伝統と今の技術のミックスが素晴らしいです。得意とする撮影シーンはありますか?

飯川 夜景や朝もやの雰囲気は結構綺麗だと思います。ハーフで撮影した時の少し粒子が粗い感じに朝もやの光が柔らかく出るので、個人的には好きですね。低速シンクロモードを使えば、ほぼお任せで撮れますし。

名越 低速シンクロモードで撮る緊張感も良さそうです。しかもデジタルは、意外と長時間露光に弱くないですか? 一度トライしてみたらノイズでガビガビになってしまって。

飯川 フィルムだとそういったノイズは乗りづらいです。背面ジャックに電子式のレリーズケーブルをセットしてもらって、正位置で三脚を立てれば、縦構図で花火を撮ることもできちゃいます。

バァフ 夏にぴったりですね。今回は名越さん含む4名の写真家の皆さんに試作機をお渡しして、作例撮影をお願いしています(後半に掲載)。現時点ではどんな写真を撮ってみたいと思われましたか?

名越 お話を聞いて、夜から朝にかけて段々と明るくなる瞬間の光を狙ってみたいなと思いました。スナップも楽しそう。ちなみに、先日撮影でサハラ砂漠に行ってきたんですけど、『17』は細かい砂もイケますか?(笑)。

鈴木 今はまだ難しいかなぁ(笑)。写真家の皆さんが『17』を普段使いされた時にどういう写真を撮られるのかというのは、我々もとても興味があります。

名越 『17』は手に馴染むし操作もしやすいから、良い意味で誰でも気軽に撮れる印象です。昔もあったけど、例えば難民の子にカメラを渡して、そこからいろんな人の手に伝わっていくみたいなのも面白そう。1人1カット、36枚フィルムなら72枚の画が撮れますし。

飯川 良いですね。それぞれの個性が出そう。

名越 その中に大巨匠がいるかもしれない(笑)。撮影したらデータのやり取りも良いですが、やっぱりプリントするのがフィルムの面白さで着地点だと思うから、そこもぜひ楽しんでほしいです。自分が撮影した写真が手の平に乗る感触、静けさがあってすごく素敵じゃないですか。

鈴木 そうですね。ここから少しでもアナログの世界が広がっていけば、僕らも次のモデル開発に進んでいけますし  今回手巻きを入れた理由は若いユーザーさんに楽しんでもらいたかった想いと、僕らが手巻きを作れる技術を備えていなければいけないと考えていて。技術者が手巻き技術をマスターしていれば次へと展開していけるんですよね。21年ぶりにフィルムカメラを作るのは想像以上に大変な道のりでしたが、たくさんの方にお力添えいただいて、僕らも楽しみながら作ることができました。今ようやく1つの答えが出来上がったので、ここから先へさらに繋げていきたいなと考えています。

『PENTAX 17』で撮影




①『PENTAX 17』は継承した伝統技術を込めるだけでなく、過去の名機へのリスペクトも細部に溢れている。例えば化粧箱のデザインには、名越も愛用する『PENTAX 67』の発売当時の箱のデザインをオマージュ。

②カメラ前後面に配置されたマイナスネジは鈴木のこだわり。「時計や楽器などに使われるネジなのですが、プラスネジよりも汚れが付着しづらく、何より精密機器であるカメラの美しさを表現できると思いました」。シルバーの部分はマグネシウム合金でできており剛性も高い。

③「グリップが握りやすく手にフィットしますね」と、会話をしながら終始カメラの感触を楽しんでくれた名越。

【4名の写真家によるPENTAX 17の作例】

KEISUKE NAGOSHI
名越啓介

  『PENTAX 17』の第一印象、使用感などはいかがでしたか?

手の中に収まりやすく、ボディは重厚感があるのに非常に軽く感じました。静かなシャッター音で、コンパクトカメラならではの自由な発想力が生まれるカメラだと思います。「ペンタ ロクナナ(『PENTAX 67』)」を想像させる「ペンタ イチナナ」という響きにも耳馴染みを感じました。夜のストリート・スナップ、三脚を立てた本格的な長時間露光撮影、ポートレート、「BOKEH」モードを活かした撮影もしてみたいです。ファインダーを覗くとピントのモードが分かり、ストラップの長さがマクロ撮影の距離になるのも便利でした。フィルム交換時のツメがひっかけやすく、フィルムも巻き上げやすい。

   『PENTAX 17』で撮影いただいた作品について教えてください。

長い連休中の夜のシーンで、観光地を目指す人々とは逆の方面に向かう列車に乗り込み、電車の運転手を窓越しに撮影しました。人気のない車内に静かなシャッター音が心地良く響き、手に収まるカメラで窓を見ていると、カメラと共に旅をしている感覚を与えてくれます。真夜中のスナップでもしっかり撮影でき、初心に戻って写真を純粋に楽しむ事ができました。

街中のオブジェを使い撮影しました。フィルターがなくとも、街中には、撮影時に工夫すれば想像を超える写真の仕上がりを与えてくれるものがたくさんあります。軽量なコンパクトカメラならではの「色々試したくなる」感覚によって、次々に新しい発想が生まれるカメラだなと感じられた1枚です。

  『PENTAX 17』の写真の仕上がりはいかがでしたか?

とても綺麗でした。様々なシチュエーションに対応できる、綺麗な仕上がりを約束したレンズもまた素晴らしい。

 

ITTETSU MATSUOKA
松岡一哲

   『PENTAX 17』の第一印象、使用感などはいかがでしたか?

カメラを愛している、心底好きな人たちが作ったカメラだと思いました。『PENTAX 17』でどのような写真を撮ろうかなと考えた時、自分にしては珍しく景色を撮りたくなりました。ピントの調整をするのが少し難しいかなと感じましたが、完全なオートにすると初めての操作でも使いやすかったです。

  『PENTAX 17』で撮影いただいた作品について教えてください。

仕事で訪れた、ドイツ・フランクフルトの湖の写真です。天気の悪い曇天ならではの雰囲気が好きだったのと、トーンの美しさに惹かれました。道中たくさん撮影した中でも、特にお気に入りです。『PENTAX 17』で撮影する時、動作自体は通常と同じでしたが、いつも以上に「全体を冷静に見る」という感覚が強かったです。

13歳になる、犬のタマ。とても大切な家族です。日に日に美しく、愛おしくなります。

  『PENTAX 17』の写真の仕上がりはいかがでしたか?

粗さとシャープさのバランスが良く、とても綺麗だと思いました。『PENTAX 17』は撮る楽しさが詰まっているのに、感覚だけで撮影することもできる。まるでカメラ2つ分のような楽しさを感じました。


MASUMI ISHIDA
石田真澄

   『PENTAX 17』の第一印象、使用感などはいかがでしたか?

コンパクトで軽い。フィルムカメラは小さくても重いことが多いのですが、とても軽くて使いやすそうだなという印象でした。ハーフカメラなので枚数も気にしなくて良いですし、気軽に持ち歩いて普段の生活の中で写真を撮るだけでなく、旅行先に持っていくのにもちょうど良さそうです。撮りはじめるまでの動作も簡単で、普段と同じように撮影できました。「ゾーンフォーカスリング」に撮影の目的に合わせた絵柄が描かれているので、焦点距離も分かりやすいし、自由な選択が可能。感覚的に使えるだけでなく、初心者でも安心して撮影できるフィルムカメラだと思いました。

  『PENTAX 17』で撮影いただいた作品について教えてください。

夜の歩道橋からの景色と、持っていたバッグのチャック部分が太陽光で輝いていたところを見付けた時の写真。夜と昼間の光のコントラストが良いと感じたのと、どちらも縦のラインが印象的な並びです。

公園でピクニックをしている時に歩いていた子供と、ピクニック中に手元を怪我した友人。緑&ピンクのコントラストや手元のボケが綺麗だと思いました。

  『PENTAX 17』の写真の仕上がりはいかがでしたか?

シャープに写っていて、暗いところでも十分に撮影することができました。

 

TAKAO IWASAWA
岩澤高雄

  『PENTAX 17』の第一印象、使用感などはいかがでしたか?

「17」という数字が入っているところや色々なこだわりが、見た目、機能性にも表れていて感動しました。手馴染みが良いので持ち歩きながらの撮影が合うなと思います。ハーフカメラで枚数も撮れるので、友達と遊びながらたくさん撮りたいですね。撮影時は、距離を測るために付属のストラップをよく活用しました。カメラからストラップを伸ばした長さがちょうどマクロ撮影時の距離になっていて、しかも意識的に作られていた長さだと知り、感動しました。

   『PENTAX 17』で撮影いただいた作品について教えてください。

俳優・芋生 悠さんをファミリー・レストランで撮った1枚。6年前に撮影した芋生さんの写真集『はじめての舞台』のセルフ・オマージュです。時間の経過を楽しんでもらえたらなと。『PENTAX 17』では同じシチュエーションをたくさん撮っていたので、良い表情、良い光をおさえるチャンスも増えました。

ファミリー・レストランの帰り道、スナップ写真です。

  『PENTAX 17』の写真の仕上がりはいかがでしたか?

すごく好みです。 ハーフと言われなかったら35mmで撮ったのと変わらないくらいの解像度かと思います。柔らかさもありつつ、エッジのシャープさも好きでした。

 

INFORMATION OF PENTAX
『PENTAX 17』が現在発売中。詳細はリコーイメージングサイト、公式ECサイトにて(受注状況など変動あり)。また、〈PENTAX〉「フィルムカメラ・プロジェクト」の紹介動画や、『バァフアウト!』掲載記事をまとめたサイトを公開中。

【WEB SITE】
『PENTAX 17』の製品特長について
www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/pentax17/feature
「フィルムカメラ・プロジェクト」について
www.ricoh-imaging.co.jp/japan/pentax/filmproject

【Instagram】
@pentax.jp
@pentax.film.photography

【X】
@ricohimaging_jp

 

INFORMATION OF KEISUKE NAGOSHI

トゥアレグ族と時間を共にサハラ砂漠を撮影した写真を2024年に発表予定。

【WEB SITE】
www.keisukenagoshi.com

【Instagram】
@keisuke_nagoshi

 

INFORMATION OF ITTETSU MATSUOKA

「すべて丁寧に向き合った本にしたい」と意気込みを語る、松岡撮影の写真集を2024年後半に3冊ほど発表予定。続報は公式サイトittetsumatsuoka.comやSNSにてチェックを。

【WEB SITE】
ittetsumatsuoka.com

【Instagram】
@ittetsumatsuoka

 

INFORMATION OF MASUMI ISHIDA

〈市原湖畔美術館〉にて開催される『レイクサイドスペシフィック!—夏休みの美術館観察』に参加。詳細はlsm-ichihara.jp/exhibition/lakesidespecificにて。

【WEB SITE】
masumiishida.com
【Instagram】
@8msmsm8

 

INFORMATION OF TAKAO IWASAWA

15名のフォトグラファーによる写真展『15 PHOTOGRAPHERS EXHIBITION SEASON 2[ TEMPERATURE ]』が7月21日まで〈AL Gallery〉にて開催中。岩澤の作品展『さぁ、さようなら』が7月末〜8月(終了日未定)まで〈NA.N.DE〉にて開催予定。

【WEB SITE】
www.thevoice.jp/takao-iwasawa
【Instagram】
@takaoiwasawa

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