バァフ 福地さんはいつ頃からフィルムカメラを使われていますか？

福地 写真を撮るのは元々好きでしたが、18歳の頃にお仕事でトルコに行く機会があって、姉から借りたフィルムカメラをその時初めて使いました。今も借りたままの状態で使わせてもらっています（笑）。部品を失くしたり、カメラのボディが剥がれたら似たようなシルバーのテープで補強してみたりと昔のものを使い続ける大変さはありますが、古い中にも新しさを感じますし、全部が新しいと心が寂しくなる感覚が自分の中にはあって。新旧どちらが良い、悪い、ではなく、フィルムカメラを使う時は、モノ対自分の間で好きな時間が生まれるように思います。

飯川 普段はどのようなタイミングでカメラを使うことが多いですか？

福地 旅先には必ずカメラを持っていきます。お仕事で行ったトルコでは引き画で撮ることを心掛けていたのですが、トルコで有名な「シミット」というパンがたくさん入った大きなプレートを頭に乗せて運ぶおじさんに出会った時、思わずシャッターを切りました。（写真を見せて）この写真です。フィルムで撮った人生初めての写真だったと思います。

飯川 すごく良い表情。雰囲気が伝わりますし、色味も鮮明に写っています。

田部井 引きで撮る意識をされているから、構図も面白いですね。

福地 言葉は分からないのに喋りかけて撮らせてもらった写真で、今も気に入っています。初対面の人に積極的に話しかけた自分に驚きましたし、その時にたまたまカメラを持っていて生まれたコミュニケーションだったなと感じます。トルコは、地中海に面したアンタルヤに行きました。釣りをしたり、決まりがあったのは最終的に辿り着く目的地だけ。地図を広げ、乗り物を一切使わずに自分が好きな道をひたすら歩いていって。お仕事ではありましたがトルコで出会った人たちの温かさを肌で感じた旅でしたし、日本に帰って写真を現像した時は、自分へのお土産ができたようで喜びがわっと込み上げてきました。

鈴木 現像した写真って、その時の想いが一気に噴き出てくる感覚がありますよね。僕、昔バックパッカーをやっていたんですけど、それこそトルコも大好きで9回ほど行っていて。「こんにちは」程度の挨拶をしても現地の人は「トルコ語を話せるのか!?」って感激して迎え入れてくれるし、みんな優しいからカメラを向けてもすごく嬉しそうに笑ってくれて。初対面なのに家に泊めてもらったり、別れの際は寂しさで泣いてしまうほど密な時間を過ごしました（笑）。それにしても福地さん、バックパッカーに向いていますよ！

福地 とても興味があります（笑）。当時はデジタルカメラも母から借りていましたが、その時は圧倒的にフィルムで撮った写真の方が多くて。その街や撮るものに似合うカメラで撮りたい想いがいつもあります。街の豊かな色彩は歩いているだけでも元気をもらえるような場所だったので、写真を見るたびに「また行きたいな」と想い出に浸っています。

田部井 フィルムで撮った後はデータ化されますか？  それともプリントを？

福地 プリントすることも多いです。私が小さい頃、母がよく写真を撮ってアルバムに残してくれていたからか、私も写真を現像してアルバムに詰めていく作業が好きで。そこは母に似たのかもしれないけれど、自分が少し大人になって写真を撮りはじめてからは、より形として残していきたい気持ちが出てきました。

飯川 新しいフィルムカメラを手に入れるとしたらどんなものが欲しいですか？　例えば、服装や気分によって色を合わせられるものだったり、カメラらしいカメラなのか。

福地 今使っているカメラ（『FUJIFILM KLASSE W』）が機能的で使いやすいものだと思うのですが、古いものの中に新しいものを取り入れているカッコ良さのあるカメラだなぁと思います。どちらの良さも尊重してくれているところが素敵！  不便に思うこと、面倒なことというのは新しいものを知っているからストレスに感じるだけで、高機能なものを知らなかった時を想像するとそんなに大したことではなかったと気が付けるので。デジタルでもいいのにその場の空気に合うものを選んであえてフィルムを使うことで、その手間を楽しむ時間が生まれます。それはこの先も失われずに残ることを個人的には願っています。お答えになっているか分からないですが……カメラを手に持った時の安心感だったり、シャッター音が気持ち良いとか、握った時の素材が好きだとか、実際に使いながら1つひとつ実感していけるカメラと出会いたいです。好きなポイントを見つけようとしなくても自然と見つかる、それが良いものなのかなと思うので。

田部井 そう言ってもらえるのは非常に嬉しいです。便利な世の中だけど、あえて1世代前のものにチャレンジすることによって、達成感だとか今までとは違った感情を得られる。それがフィルムカメラの良いところですよね。

福地 あと今日、〈PENTAX〉の実機を触らせていただきましたが、手巻きの音も素敵だなと思いました。私のカメラは自動巻きなのですが、手巻きならではの雰囲気がありますね。

鈴木 新しいカメラにも手巻きを搭載することまでは決まっているんです。ただその先が、なかなか一筋縄ではいかなくて（笑）。性能だけをぐんぐん追い詰めると、扱いが難しかったり手に取りづらい価格帯にもなってしまう。色々な考え方はあるんですけど、僕らが作るフィルムカメラに関しては、持っているだけで嬉しいし撮らない時も触っているだけで楽しくなる、使う人がワクワクできるカメラを目指しています。

飯川 単純な性能だけじゃなく、例えば旅行に向けてパッキングをする時に、「カメラの場所は作っておかなきゃ」みたいにスペースを空けておいてもらえるカメラになったら最高ですよね。

鈴木 手間も含め、フィルムカメラを使う楽しさをもう一度考えて、何を入れたら便利になるのか？　何をすればフィルムカメラを使っている実感が湧くのか？と若い世代の方たちにもたくさん話を聞いていて。それを1つずつチョイスしたら、今の時代にぴったりな楽しいカメラができちゃうんじゃないかなと考えています。

福地 カメラってとても高級だし繊細で、特にフィルムカメラは替えが効かない分、「大事に使わなきゃ」という緊張感が常にどこかにあると思います。その緊張は良い緊張でもあると思うのですが、どこへでも気軽に持って行きたい気持ちとは対比しているなと感じます。だからこそ、丈夫なカメラは需要が高いと思います。洋服にしても同じで、例えば母が若い頃に購入してからずっと大切にしているコートを私に躊躇なく貸してくれるのですが、「そんな場所に着て行かないで」と言わずにどんどん使わせてくれるので大切に使うという緊張感を経験させてもらっているように思います。良いものを使うことや、その価値を共有できている嬉しさがありますし、自分が着て行きたいと思った場所に自然と身に付けられるような……そんなカメラがとても理想です。私は旅の相棒として一緒に冒険したいので、ガシガシ使える丈夫な子をぜひお願いします（笑）。

PHOTOGRAPHS BY MOMOKO FUKUCHI

①いつかの旅の写真。背の高い木はいいなぁと思って、それ以上、何も目的がなくてもここに居られる風のような軽さがあって居心地がとても良かったです。

②初めてフィルムカメラを持って行ったトルコでの、旅の記録。お昼ご飯を食べている様子を遠くから撮影させてもらいました。食べているのはワンプレートのお皿に乗った豆を煮込んだ料理。机の上にはおかわり自由のパンが入っている大きなボックスが……他にも生野菜がどっさり。どれも無料で驚きました！

③映画『あの日のオルガン』の撮影でしばらく京都に滞在していた頃、〈高山寺〉へ行きました。そこで出会したおじいさんが撮ってくれた写真です。