MAR. 17 2023, 12:03PM
撮影&文 / 堂前 茜
鈴木 何年か前から若い方がフィルムカメラを自然発生的に使い始めたものの、環境が良くないのです。
中古市場がメインになりますから値段も上がっていますし、故障で修理が必要なのに保証は当然なかったりして。それとご存じの通りフィルムの価格が上がり、種類も現像するところも減っています。せっかく若いユーザーさんが楽しもうとしているのに。で、僕らが何かをやれるとしたら何なのか?というと、やっぱり、カメラを作ることです。カメラができれば業界や環境が少しでも改善されるのではという期待もあって、このプロジェクトを立ち上げました。
弊社には管理された資料がちゃんと残っているので、昔の青焼きの図面をCAD(コンピューターを用いて設計すること)に落とし3次元にして、設計の参考データを作る作業をしているのですが、我々だけでは分からないことも多いんですね。そのため、開発当時の技術者の方々は定年で辞められていますが、当時の開発内容のアドバイスをもらっています。この技術を次に伝えないと、今始めないと、この後は本当に作れなくなると思ったのです。
西村 若い方が興味を持っているのにどうも業界が盛り上がっていかないなぁと個人的には思っていたので、このニュースを聞いた時、めちゃくちゃ気持ちが明るくなりました。今は写真に特化したコミュニティーなどもあるし、以前に比べてコミュニケーションのツールとしてSNSがさらに発達しているので、そこをもっと業界の人が利用して反響を可視化して反映できないのかなと期待しているのですが。
バァフ 西村さんのところには現像しに来る若いお客さんが多いと聞きました。
西村 若い方は多いです。写真を学んだり、集まった仲間で遊ぶなどの環境が、昔は写真の学校や教室に行かないととか、先生に付いたりスタジオで勉強しないととか、限定的な印象でしたが、今はネットやSNSで使い方も事例もたくさん出ていて便利。会ったことのない人たちがいきなり実際の撮影会などで楽しんでいたりと変わって来た様に思います。
SNSでは現像しているお店の名前などをハッシュタグにして、それを見た方が郵送でフィルムを送ってくれたり、フィルムの魅力を伝えてくれたり、価格高騰でもフィルムを使っていただけているのは、今までのフィルムユーザーに加えこのような広まりに救われていると思っています。カメラを取り巻く環境は、新品カメラは現実的に手が出るものはなく、中古カメラを取り扱う店舗かオークションを利用して手に入れている状況。ただオークションでは動作状況に関わらず転売のみを目的としているものもあり、壊れているカメラを数万で買い、それを「動作未確認」としてさらに高く売っている例も見受けられます。
この状況を変えるために、今の若い世代の方に健全に楽しんでもらうために、自分たちが声をあげ努力するのもそうですが、この業界、企業の方にも力を貸して頂きたいと思っていました。だから今回のプロジェクトの過程をこういった企画を見せることでみんなで盛り上がり、それが広まっていけばと思いますし、僕も協力できたらと。
鈴木 本当にありがたいです。初めてこの企画を会社の会議室で出した時、全員が固まったところから始まっていますから(笑)。フィルムの世界は今はこういう風だ、悲しい想いをしている人もいる。そういったことをパワポ100枚くらいで伝えているうちに、(横を見て)飯川さんのような仲間が増えていって、「いけるんじゃないの?」という空気が生まれ、トップも巻き込みました。
赤羽(昇・社長)も、「〈PENTAX〉、また変なことをやっているけどしょうがないな」くらいの気持ちで見守っていただける可愛い企業になるのがいいよねと口癖で言ってはいたんです。
名越 今のお話を聞いていて思ったのが――例えば僕の場合、海外の辺境の地に行くことが多いのですが、スラム街の少年たちもデジタルに慣れちゃっているから、撮ったらその場で確認させてくれと言われる。まぁ僕は見せませんが(笑)、後日会いに行った時、プリントしたのを見せると、「あぁ、あの時こうだったよね」という感じで思い返せる想いがあって、コミュニケーションが広がっていく。
元々僕はカメラがないと被写体に近付けないし、カメラがあるから人とコミュニケーションをかろうじて取れる人間なので写真をやっているのもあるんですけど。開発に関わっている方の熱意や想いを今聞いていると、やっぱりコミュニケーションがどんどん生まれていくんだなぁと思いました。例えば写真集を出しますとなったら、デザイナーの人と現像した写真を見ながら、ああでもないこうでもないと延々話したり、西村さんに色味などを調節してもらったりと、いろんな人の手を借りているんですね。デジタルだと極論やろうと思えば1人で出力まで全部できちゃいます。で、ラボの方って、失敗作も成功作も、写真を全部見ている人たちなので、カメラマンからすると丸裸の状態のものをお見せしている分、他の人にはない信頼関係が生まれてくるんですよね。
西村 でも僕らはご本人の写真にあまり思い入れを込めるわけにはいかないので……以前名越さんにカメラをお貸しした時、「テストしますね」と名越さんが撮ったのを現像したら、同じカメラなのに全然違ったんですよね。やっぱりその人の思考が焼き付けられるのがフィルムカメラの面白いところじゃないかと思います。
飯川 僕はレンズの開発をやっているので自分で実写もしますが、初めてラージ・フォーマット(大判)、6×7で撮った時、135(フィルムの1種)では全然見えなかったものが見えて感動して。「光の筋ってこんなに綺麗に写るの?」と、見えないものが見える感覚を味わいました。Fナンバーと焦点距離で語れない、その子(レンズ)ならではの癖もあって本当に面白いんです。
バァフ どんなカメラが欲しいですか?
名越 1枚でも多く撮れるものとか、やっぱり軽くて丈夫なもの。火山に持っていっても壊れなくて強盗に盗られなそうなカメラも欲しいですが(笑)。ただ、不自由さは残っていてもいいんじゃないかなと思います。押すだけのカメラはあまり好きじゃないので、露出がちゃんと合わせられつつ、多重露光やパノラマも撮れる。軽く連写もできたりとかして(笑)。
鈴木 なるほど。ただ、最初からうちの復刻版、過去の名機に倣ったものを頑張って作ろうとは思っていなくて。まずは若いユーザーさんが楽しむお手伝いができたらと考えているので、コンパクトがいいかなと思っています。だけど名越さんがおっしゃったように、全部オートにしてボタンをポチっと押せば綺麗なのが撮れます、というのもちょっと違うかなと思うんですね。それもあり、フル新規で手巻きを考えています。
西村 え、コンパクトなのに手巻き?
名越 すごいですね!
鈴木 手巻きをやるって本当に大変で、モーターを入れて自動巻きにしちゃった方が作りやすかったりもするのですが、手巻きをする行為はフィルムならではの特別な行為。それを若い人たちにもぜひ味わって欲しいんです。
Film Project / PENTAX | RICOH IMAGING (ricoh-imaging.co.jp)
写真集『Familia 保見団地』(写真・名越啓介 文章・藤野眞功)からインスピレーションを受けた映画『ファミリア』が公開中。
名越啓介写真展『Familia 0565』が4月12日〜29日まで〈Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery〉にて開催(入場無料)。
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フイルム写真の現像やプリント、データ作成、写真展示なども手掛ける〈Prism Lab.KICHIJOJI〉を運営。
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