CULTURE

90年続いた劇場を守り続けた人々の物語に出演した峯田和伸。峯田にとって「別れ」と「映画館」とは?

MAR. 14 2025, 11:00AM

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撮影 / 林 将平
スタイリング / 入山浩章
ヘア&メイクアップ / 嵯峨千陽
文 / 當山直花

今はもうなくなってしまった人や場所を、こんな風に晴れやかな気持ちで思い返すことができたらどんなに素敵だろう。そう感じられたのは、映画『BAUS 映画から船出した映画館』。登場人物の台詞や映像の温度から、劇中の様々な「別れ」に対して敬意と愛情を感じられ、心が温かくなった。少しの悲しみと寂しさを抱えながら、変化や別れの先にある希望を見つけることができるのだと教えてくれる。

 

舞台は1927年。活動写真に憧れ青森から上京したサネオ(染谷将太)と兄のハジメ(峯田和伸)は、吉祥寺初の映画館である〈井の頭会館〉で働くことを決意。ハジメは活弁士、サネオは社長として劇場のさらなる発展を目指すも、時代は戦争へと流れていく。1951年には〈吉祥寺バウスシアター〉の前身となる〈ムサシノ映画劇場〉が誕生し、30年の歴史を築いた。本作は時代の変化に流されず人々に娯楽を提供し続けた劇場、そしてそれを守り続けた人々の物語である。原作は、〈吉祥寺バウスシアター〉の元館主・本田拓夫による著書『吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記』。同書をもとに映画監督・青山真治(2022年に逝去)が執筆した脚本を、バンド・Bialystocksのヴォーカルとしても活動する甫⽊元 空が引き継ぎ、監督を務めた。また、劇中の⾳楽は〈吉祥寺バウスシアター〉や青山とも縁の深い⼤友良英が担当している。

 

ハジメを演じたのはロック・バンド銀杏BOYZの峯田和伸。スクリーンの中で生きるハジメは飄々としているように見えて、繊細でどこか寂しげで、峯田自身に思えてならなかった。それは、ミュージシャンとしても活動している彼の楽曲にはいつも生と死、そして寂しさがつきまとっているように見えるからだと思う。ハジメの人生を生きた峯田に、作品のこと、そして別れや喪失について訊いた。

またどこかで会える感覚っていうのはどうしても消えないんです

バァフ 映画への出演は5年ぶりとなりますが、出演のお話を聞いた時の心境はいかがでしたか?

峯田 最初は青山真治さんからオファーがありました。僕は面識がなかったんですけど、青山さんの作品が大好きなので「嬉しいです」とオファーを受けて。でもそこからすぐに亡くなってしまったんです。

バァフ 2022年ですね。

峯田 でも、(映画の)企画は残すと聞いていて。いつ撮るのかなと思っていたら甫木元監督が撮ることになり、撮影が始まったのがちょうど1年前(取材時)。

バァフ 台本を読んだ時、まずどのような印象でしたか?

峯田 青山さんらしさも感じつつ、この作品を音楽で例えるとノイズや現代音楽のような、ポップ・ミュージックとは違う難解さもあると思いました。

バァフ 青山さんの過去作はもっと抽象的な印象があったのですが、今作は説明的な分かりやすさも感じられて。峯田さんの中で違いは感じられましたか?

峯田 甫木元さんの意向もあると思うんですけど、リアルとファンタジーのバランスが面白いなと。井の頭公園のシーンは現代だし写実的で。でも、戦争が終わるくらいのシーンまではちょっと寓話っぽい。映画館の外観も書き割りだし。

バァフ 演じられたハジメはどんな人物だと思いましたか?

峯田 新しいもの好きでもあるし、実験の精神も、野心もある。サネオを連れて東京に行くんですけど、時流がどんどん戦争の方に向かっていくのに、ちゃんとそこにも飛び乗っていて。敏感すぎるがゆえに、自分自身も混乱して飲み込まれていってしまう人なので、すごく人間臭いと思います。

バァフ 楽観的に見えて、本当は繊細で芯のある部分がハジメの台詞の中から見えました。

峯田 ああいうキャラクターは演じていて楽しいんですよ。

バァフ どういうところが楽しいですか?

峯田 (劇中の台詞の)「いまいくら持ってる?」の、あの言い方とかも楽しいんです。聖人君子じゃない人というか。

バァフ あの台詞はハジメのすべてが詰まっていますよね。ハジメを演じる上で手掛かりになったことはありましたか?

峯田 そうですね……。台本を読んで、自分だったらこう演じようかなと考えていたこともあったのですが、台本に全部の答えがあったような気がして。なので、無理せずに自分が台本を読んで受け取った印象のままに演じれば、なんとかいけるんじゃないかと思いました。

バァフ 脚本の力が強かったのですね。

峯田 はい。物理的に、染谷くんと夏帆さんとも撮影に入る1ヶ月前から本読みとリハーサルをしてっていうのができなかったので、現場で初めてお会いしたんですよ。だから(役について)練り込むことができない中で、自分の中で「ここはこうだな」と、一応固めてはいたんです。現場でもその通りにやってみたら他の役者さんも同じだったみたいで、スムーズに進みました。

バァフ 役や物語について監督とはどんなお話をされましたか?

峯田 このシーンは感情的になってもいいのかなと思って演じてみるんですけど、監督からは「ここは逆にサラッと言った方がいいんじゃないですか?」という提案もあって。監督の求めているものに発見があったシーンはいくつかありました。他には、自分だったらもっと距離を詰めて、バーって台詞を言おうと考えていたシーンも、染谷くんの表情を見て、近付かなくていいやと思ったり。

バァフ 感情の出し具合を監督と調整されていったのですね。染谷さんとの兄弟役のバランスも絶妙で見入ってしまったのですが、染谷さんとの共演はいかがでしたか?

峯田 もちろんこれまでに染谷くんが出ていた映画とかは観ていたのですが、やっぱり現場で思ったのは、目に表情があるんですよ。それがグッときましたね……。この台詞を言う時に、そういう目をするんだ、みたいな。色気とはまた違うんですけど、言葉が無くても目でちゃんと表情を作っていたので、それによって僕も動くことができました。

バァフ 物語では亡くなってしまう人物がたくさんいて、〈吉祥寺バウスシアター〉自体もなくなってしまうことから、別れや喪失について考えさせられました。色々な形の別れがあると思いますが、別れに対してどんなふうに向き合ったり、感じることがありますか?

峯田 ちょうど最近友達が亡くなったと連絡がきて。寂しくはなったんですけど、でもまたどこかで会える感覚っていうのはどうしても消えないんです。ずっとそばにいる気もして。〈吉祥寺バウスシアター〉もなくなりましたけど、いまだに井の頭線に乗ったり、劇場があった場所の近くに行くと思い出す。ないんだけど、自分の中にはある感覚があって。それさえ大事にしていたら、寂しくない気がするんですよね。

バァフ 先ほどおっしゃっていたまた会える感覚は作品からも感じられました。過去と現在が一直線で繋がっているのではなく、それぞれがバラバラに存在していると思えて。亡くなった人やものもあるけど、そのすべてが今でも自分の近くに点在しているような気がするなと。

峯田 そうですね。例えばレコードって針を落とすと、ずっと回って曲が流れるじゃないですか。歴史年表で言うと、左から古代で、飛鳥時代と江戸時代を通って現代に、右に向かって進んでいて。でもそうではなくて、実は回っていると思うんです。いつか未来も過去と繋がるし、ずっと昔のものが、後々また思わぬ形で巡り会ったりして繋がっていくことは、この映画からも感じることで。

バァフ 映画を通して、過去の記憶を思い出すこともありますよね。峯田さんにとって映画とはどんな存在ですか?

峯田 誰かになれる感覚はあります。映画は自分ではないのに、主人公に自身を投影できて、全く違う価値観も体験できるもの。本だったら言葉だけで想像させるものですが、映画は画と言葉、音楽も流れて、たった90分、120分の中にいろんな情報が詰まっている。それを2時間ちょっとで味わえるのは劇的な娯楽だと思うんです。芸術の最たるものというか。あと、映画館は真っ暗闇の空間で、見ず知らずの人たちと1個の作品を共有する特別な空間ですよね。あのシーンで3列目のあの人が泣いているとか、このシーンでこんなにみんな笑うんだとか、自分じゃない人と一緒にそれを感じられる体験は貴重だと思います。

ニット(15,000yen)(税込)/ MIMIC SHIMOKITAZAWA(instagram.com/mimic_shimokitazawa)

©本田プロモーションBAUS/boid

 

『BAUS 映画から船出した映画館』

監督/甫木元 空

出演/染谷将太、峯田和伸、夏帆、渋谷そらじ、伊藤かれん、斉藤陽一郎、川瀬陽太、井手健介、吉岡睦雄、奥野瑛太、黒田大輔、テイ龍進、新井美羽、金田静奈、松田弘子、とよた真帆、光石 研、橋本 愛、鈴木慶一、他

3月21日より〈テアトル新宿〉他、全国公開

 

【WEB SITE】

bausmovie.com

INFORMATION OF KAZUNOBU MINETA

銀杏BOYZ初のアメリカ西海岸5ヶ所を周るツアー『銀杏BOYZ アメリカ西海岸ツアー ~YOU & I VS.THE WORLD 2025~』が3月28日〈ワシントン州・シアトル Black Lodge〉よりスタート。EP『ぶるぶる』がUS盤12インチレコードとカセット盤にて発売中。

 

【WEB SITE】

gingnangboyz.com

【X】

@ GingNangBoyz_MV

【Instagram】

@ mine.minet

【YouTube】

@ GINGNANGBOYZofficial

PRESENT

峯田和伸 サイン入りチェキ(1名様)

 

①お名前②年齢③性別④職業⑤ご住所⑥お電話番号⑦この記事を読んだご感想⑧BARFOUT!WEBに登場してほしい俳優、女優、ミュージシャン⑨よく読まれる雑誌、WEBマガジン⑩プレゼント名「峯田和伸 サイン入りチェキ」を郵便はがきにご記入の上、以下の住所までご応募下さい。抽選でプレゼントをお送りします。(発表は発送をもって代えさせていただきます)。

締切/2025年4月14日消印有効

 

応募先
〒155-0032 東京都世田谷区代沢5-32-13-5F
バァフアウト! /ステッピンアウト!  WEB プレゼント係 宛

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