MAR. 7 2025, 6:00PM
繊細でありながらも力強い歌声と巧妙なアレンジ・スタイル。1stアルバム『分離派の夏』で、小袋成彬の類まれな才能を十二分に感じた人も多いだろう。今回インタヴューをおこなったバァフアウト!編集長・山崎二郎もその1人。芸術的とも言えるオリジナリティに心を奪われ、彼の楽曲が日本の音楽シーンに衝撃と新鮮さを与えていることを確信。その確信を裏打ちするかのように、『分離派の夏』は「第11回CDショップ大賞2019」にノミネートされ、以降の作品もリリースされる毎に大きな話題を呼んだ。
日本で着実にキャリアを積んでいた小袋だが、2019年にロンドンへ移住。活動拠点を完全に海外へと移した。4thアルバム『Zatto』は実に3年ぶりのリリースであり、デビュー以来、J-R&Bのフロントラインを押し進めてきた彼の意欲作でもある。ロンドンでの生活を通じて得たインスピレーションの集大成と言える今作で、小袋が表現する“雑踏”とはどのようなものなのだろうか。現地で活躍する多数のミュージシャンを交えての制作について、そして近年影響を受けた音楽まで幅広く訊いた。
バァフ 小袋さんの作品はずっと追いかけていますが、今作の『Zatto』はさらに好きだと感じました。
小袋 ありがとうございます。
バァフ 現地のミュージシャンの方々とセッションする中で、日本語メインのソングライティングに正直驚きまして。どのような意図があったのでしょうか?
小袋 海外に行くと、日本語で歌うこと自体がユニークなんです。だから無理をして頑張って英語で歌わなくても、ナチュラルに出てきた日本語で歌えばいいじゃんと思って。でも実は、全楽曲とも英語詞はあるんです。
バァフ 日本語で書いた歌詞を英語に直しているんですか?
小袋 そうですね。ミュージシャンたちに歌詞の意味を説明するために、英語に直したんです。それでもなお、日本語で歌うということがカッコ良いと思っている人たちが集まっていて。そもそも、僕がロンドンにいる意味についても考えました。やっぱり現地の人たちにとって、馴染みのある固有名詞や価値観が歌詞に反映されないと、“本物のロンドンの音楽”にならないんですよ。だから今回、日本語で歌ったのもロンドンに住んでいる日本人の僕だから紡げる歌であり、どちらの言語で歌うかはあまり関係ないのかもしれないなと思いました。
バァフ リリックに関して言うと、前作のアルバム『Strides』よりさらに言葉が削ぎ落とされていて、洗練された印象を受けました。
小袋 曖昧なまま使っている言葉がたくさんあるので、常に辞典で言葉の意味を調べているんです。スマートフォンのトップページに英英辞典や日日辞典を入れていて、気になったらすぐに調べられるようにしていて。言葉の定義にはすごく敏感ですし、英語を話すことで日本語が研ぎ澄まされたようにも感じます。
バァフ サウンド面でいうと、全体的に和的な要素を感じましたが、現地の方からオリエンタルな雰囲気があるとは言われませんでしたか?
小袋 言われたことは一度もないですね。でも、演奏するのはかなり難しいと思います。日本にいたらこのサウンドはできなかったかな……。レイドバック具合やギターのフレーズも日本にいたら絶対に出てこないなと。ロンドンで過ごした僕のリアルな楽曲だからこそ現地の人たちは受け入れてくれますし、1stアルバム、2ndアルバム、3rdアルバムを聴かせてもあまり響かないと思うんです。でも、『Zatto』は響くという自信があります。実際に、素敵なミュージシャンに集まっていただいて作っていますし。
バァフ 今回一緒にセッションしたミュージシャンたちは、どのような経緯で繋がったのですか?
小袋 6年間の中で出会った人たちプラス、今回ギターを弾いてくれている親友のTjoe Man Cheungがいろんな人を集めてくれたんです。
バァフ 曲によって参加しているミュージシャンも変えていますよね。そこは楽曲のテイストで決めていったのでしょうか?
小袋 そうですね。それぞれ得意な分野、不得意な分野がありますし、ルーツも違うんです。ジャマイカにルーツがある人にはレゲエを弾かせたいし、アフリカにルーツがある人にはファンクを弾かせたい。各々の関係性もあるうえで決めていきました。
バァフ 和的な要素の他に、ジャズのテイストも感じました。
小袋 ジャズはここ3、4年でめちゃくちゃ聴くようになったんです。元々好きではあったんですけど、聴き方を分かっていなくて……。確実にハマったきっかけは、2020年にリイシュー・レーベル〈Melodies International〉のDJたちと日本ツアーをした時。セオというフランス人のカッコ良いDJがいるのですが、彼が帰り際に『ダイレクトステップ』(ハービー・ハンコック)の日本限定盤レコードをくれたんです。で、ロンドンに帰って針を落としたらあまりの凄さにくらってしまって。ここ10年で一番くらった瞬間かもしれない。そこからジャズって面白いかも、分かってきたかも、という感覚になりました。ちゃんとマイルス・デイヴィスを聴くようになりましたし、もちろんジョン・コルトレーンやキース・ジャレットも。ジャズのレコードも集め出したんです。DJをする時、繋ぐのが難しいから、みんなジャズはかけないんですけど、僕はかけたくて(笑)。自分の役割も見つけたような気がします。
バァフ マイルスでいうと、どの作品から一番影響を受けましたか?
小袋 名作中の名作『カインド・オブ・ブルー』は言わずもがなですが、『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『スケッチ・オブ・スペイン』などですね。少しアンビエントな感じが好きなんです。
バァフ 歳を重ねてからは日本人デザイナーの服も着ていましたけど、ファッションも含めてカッコ良いですよね。
小袋 本当にリスペクトしています。僕もジャズ・ピアノに挑戦しようと思って、電子ピアノを買ったんです。ピアノ自体は全然弾けないんですけど、家でずっと練習して。『ザ・ソング・ブック』というジャズの名曲をまとめた本を買って、片っ端から弾いていきました。『Zatto』にもその成果は出ている気がします。
バァフ 素晴らしい! そしてもう1つ、哲学的な要素も今作で強く感じたポイントで。“雑踏”というコンセプト自体はどこから浮かび上がってきたのでしょうか?
小袋 “雑踏”というと、いろんな人の足音や考えが入り組んでいるイメージで。なので、それぞれのリズムや考え方など、日常生活を通して色々と吸収していきました。その中で自分の哲学が揺らぐこともあるし、価値観が変わることも多くて。その変化は楽曲全体に醸し出されているような気がするんです。なので、わざわざ言葉にしなくても、音楽にすることで変化は伝わっているのかなと思います。
バァフ 人の持つ弱さを衒いなく楽曲に出す感じは、マーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイとも共通するなぁと思いました。
小袋 マーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイはここ2年でめちゃくちゃ響きました。というのも、ブラックの友達が増えて、受けてきた差別背景も含めて「フリーダム」の本当の意味を聞いたんです。だからこそ、彼らの言葉が今まで以上に沁みてきたのかなと。
バァフ 弱さやセックス、哲学や、抑圧されている中で希求するフリーダムから生まれる楽曲。それはサウンド、スタイルだけでなく、ソウル・ミュージックの本質に到達していることに、素晴らしさと、すごさ、そして、同時に、気持ち良さを感じずにいられません。
小袋 そうですね。本質を噛み砕かないと曲を作る気がしないというか……。3年間、本質とは何か?という問題に向き合いました。
バァフ そして今作を引っ提げてのツアー、『Nariaki Obukuro Japan Tour 2025 “Zatto”』もまもなくスタートします。今回は日本人のアーティストと廻るんですよね。
小袋 そうですね。アレンジなどはこれから決めていくのですが、ステージにいる全員が輝ける場所を作りたくて。インプロ・タイムはそれぞれにスポットライトを当てられたらと考えているところです。
『Zatto』
発売中
〈ソニー・ミュージックレーベルズ〉
INFORMATION OF NARIAKI OBUKURO
全国5都市7公演からなる『Zatto』を引っ提げたツアー『Nariaki Obukuro Japan Tour 2025 “Zatto”』が3月15日からスタート。
【WEB SITE】
www.sonymusic.co.jp
【X】
@nariaki0296
【Instagram】
@nariaki0296
【YouTube】
@Nariarki.Obukuro