CULTURE

フジファブリック、アジカン&くるりと3マンライヴ開催。再確認した3組の深い絆とバンドへの愛

JAN. 19 2025, 12:00PM

Twitterでツイート Facebookでシェア
撮影 / 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)
文 / 宇佐美裕世

2024年11月10日、〈大阪城ホール〉にて開催された『フジファブリック20th anniversary 3マンSPECIAL LIVE at OSAKA-JO HALL 2024 「ノンフィクション」』をレポート。

フジファブリックは今年2月をもって活動休止に入る。発表されたのは昨年7月。それ以前から決まっていたライヴはいくつかあり、そのうちの1本が『フジファブリック20th anniversary 3マンSPECIAL LIVE at OSAKA-JO HALL 2024 「ノンフィクション」』と題された3マンライヴだった。

会場は大阪城ホールで、ゲストはASIAN KUNG-FU GENERATIONとくるり。公演名にもある通りフジファブリックは昨年デビュー20周年を迎えたが、15周年を迎えたタイミングでもこの場所でワンマンライヴをおこなっていた。そもそも大阪は山内総一郎(V / G)の故郷であり、彼は10代の頃からこの場所に立つことを夢見ていた。念願叶って実現した憧れの舞台でのライヴは、このバンドの確かな未来を感じさせてくれた。これからもフジファブリックは、その幅広い音楽性をもって変幻自在な楽曲を届けてくれるのだろう。そして、彼らの関係性は、どれだけ歳を重ねても変わらないのだろうと。そんな風にフジファブリックは続いていくものだと勝手に思い込んでいたので、活動休止のことは未だに受け止めきれていないのが本音だ。

2009年12月24日、フジファブリックはバンドの発起人である志村正彦(V / G)が急逝し、2011年より山内、加藤慎一(B)、金澤ダイスケ(Key)の新体制で活動を再開した。再始動に至るまでの間、奥田民生や吉井和哉を筆頭に、多くのアーティストが音楽を通じて3人のことを支えていたが、特に深い関係性にあったのが、アジカンとくるりだった。山内はくるり、そして金澤はアジカンのツアーにサポート・メンバーとして帯同していたが、混乱や悲しみを抱えながら音楽に向き合っていた当時の彼らにとって、アジカンとくるりの存在や、2組と共にした時間はとてつもなく大きなものであったはず。この3組の関係性を知っている人であれば、今回の3マンがいかに特別なものであるかが分かるだろう。

トップバッターはアジカン。フジファブリックの「茜色の夕日」のカヴァーで幕を開けたが、演奏も歌声もかなり原曲に沿ったものだったので、フジファブリックやこの楽曲を生み出した志村への敬意がありありと伝わってきた。その後は「君という花」、「リライト」、「ソラニン」、「君の街まで」などが披露されたが、見事に聴き馴染みのあるものばかり。誰もが一度は耳にしたことのある楽曲を通じて、この場所にいる人を誰1人置いていくことなく、熱気がさらに高まるようなライヴを展開していく。それはまるで、活動休止に対してさまざまな想いを抱えているファンに、「フジファブリックのためにも悲しみは一旦置いて盛り上がろう」と語りかけているようにも感じられた。終盤、後藤正文(V / G)は金澤について「バンドの関係性がカサカサしていて、行き詰まっていた時期があったんです。関節痛で言うと、ヒアルロン酸が足りていないような状態で……その時に潤いを与えてくれた」と語り、その紹介を受けて金澤が登場すると、しばし仲の良さが伺えるトークを繰り広げたのち、金澤が選曲したという「迷子犬と雨のビート」をセッション。息の合ったパフォーマンスから、強固な絆が透けて見えるようだった。ラストはアジカンだけで「今を生きて」を披露し、白熱のステージはあっという間にフィナーレを迎えた。

続いて登場したのは、くるり。「東京」を1曲目に持ってくるところが何とも粋だ。どんな意図で選曲したのかは分からないけれど、故郷への想いを抱えながら上京し、こうして地元で凱旋ライヴをおこなっている山内と曲中の主人公を重ね合わせずにはいられない。その後は「Morning Paper」、「ばらの花」、「ブレーメン」、「琥珀色の街、上海蟹の朝」といった新旧の名曲のオンパレードで熱狂の空間を創り上げていく。剥き出しのロックンロールに酔いしれていた中、岸田 繁(V / G)がフジファブリックについて「活動休止と聞いて、最初はおいおい……と思いましたけど、それぞれの活躍にご期待して、これからもお付き合いしていきたいと思っています」と言及。活動休止を残念に思いつつも3人の未来に期待を寄せる真っ直ぐな言葉は、自分の気持ちを代弁してくれているようでもあり、救われた気持ちになった。アジカンが金澤を紹介したタイミングで予想はしていたが、くるりのステージでは山内を招いてセッションをおこなうことに。楽曲は山内が選曲した「ロックンロール」。向かい合ってギターを掻き鳴らす彼らはあまりにも楽しそうで、ついこちらの心も踊ってしまう。セッション中、特に印象的だったのは、山内の姿を見つめる岸田や佐藤征史(B)の眼差しがとにかく温かいこと。山内に敬意を抱きつつも、無邪気に音を鳴らす彼が愛おしくてたまらないという心情も伝わってくるようで、フジファブリックが音楽仲間から愛されていることを再確認できる瞬間でもあった。

ラストはフジファブリックが登場。1曲目は最新アルバム『PORTRAIT』の表題曲「Portrait」で、歌詞がやけに刺さった。〈空っぽな僕が 何者かになれたのは/同じ景色を 見てきたからさ/映るものが 全てじゃないけど/清濁携えて 刻まれていくよ〉  自分自身も、フジファブリックの音楽に出会ったからこそ今があると思っている。彼らの音楽が自分を「何者か」にさせてくれた。このバンドに出会わなければ、雑誌の編集者になってロックバンドの新譜の魅力を伝えたいだとか、ライヴ・レポートを書く人になりたいとか、そんなことは思いもしなかっただろう。きっと、形は違えどみんな同じだ。フジファブリックの音楽や彼らの存在が、聴き手の人生をより彩り豊かなものにしてくれたり、人によっては人生が一変するほどの影響を与えてくれたのだと思う。そして、それを一番実感しているのはきっとフジファブリック自身。バンドは「音楽が好き」という共通項のもと出会った奇跡的な集合体だと思っているが、家族でも友達でもないケースがほとんどだからこそ、壊れやすくもある。その分、短命に終わるバンドもいるが、フジファブリックは20年間歩みを止めなかった。こちらが計り知れないほどのプレッシャーや覚悟を背負うことだってあったはずだが、彼らはフジファブリックで在り続けた。それは、自分を何者かにしてくれたバンド、そしてメンバーを大切に思い続けてきた証でもあるのだろう。

そんな想いを抱えながら観ていた彼らのステージは、見どころを挙げろと言われても正直選びきれない。アンコールの「若者のすべて」は、アジカンの後藤とくるりの2人を迎えての特別ヴァージョンで、そうそう観ることができない貴重なセッションに、まるで夢を見ているような感覚になった。ただ、その中でもフジファブリックがカヴァーした「魔法のじゅうたん」(くるりの楽曲)は圧巻だった。〈出会ったことが全てだったんだ〉という一節が、今ここにいられること、フジファブリックと出会えた喜びを改めて大切にしようと思わせてくれたのだ。あと、山内の「活動を休止してもバンドはなくならないので」という言葉も印象に残っている。聞いた瞬間に思い出したのは、初めての大阪城ホール・ワンマンでの金澤の言葉。金澤は志村について語った際、「志村の音楽性や才能は今も尊敬しているし、音楽にDNAがあるとするなら、それは僕の中にも刻まれている」と言葉を残していた。バンドとして表立って活動しなくなっても、フジファブリックの音楽は消えない。聴き手1人ひとりの心の中には残っているし、それが日々を生きる原動力や喜びにもなるのだろう。だから、悲しみに暮れず、活動休止を受け止めていこう  今回の3マンライヴは、そんな気付きを与えてくれたライヴでもあった。

なんて明るい形で締めくくろうと思ったが、無理だった。やっぱりどうしたって活動休止は悲しい。今だって、あの7月の発表が嘘であってほしいと思ってしまう自分がいる。こんな風に後ろ向きなことを書くのは、考えた末に活動休止という決断をしたバンドにとっても、彼らを支えるスタッフにとっても、恐らくまったくプラスにならないことは分かっている。だが、嘘でも前向きな言葉を綴ることができない。公演から時間が経てばそれなりに気持ちが変わるかもしれない、なんて期待もしてみたが無駄だった。新しい年を迎えたところで一向に気持ちが晴れない。それだけ、フジファブリックというバンドは自分にとって特別な存在なんだと思う。

一度耳にしたら忘れられない変態的なメロディに、叙情的な日本語詞。今となってはこういう組み合わせをするバンドはたくさんいるが、自分がフジファブリックを初めて聴いた時はそこまで多くなかった気もする。単に自分が幅広くいろんなアーティストを聴いていなかっただけかもしれないが、とにかく彼らの楽曲を初めて聴いた時は衝撃だった。瞬く間にこのバンドに夢中になって、過去作を一気に遡った日のことは今でも鮮明に憶えているし、それは宝物のように大切にしておきたい記憶の1つでもある。冒頭にも書いたが、フジファブリックは音楽性の幅が広いので、新曲がリリースされる度にいろんな感情を湧き上がらせてくれた。ユニークなものから憂いを帯びたもの、そして驚くほどピュアに未来を歌った眩い曲だってある。そんな彼らの代わりなんて、世界中どこを探したっていない。彼らが活動休止に入った後のことを考えるだけで、心に大きな穴が空いた感覚になるし、それはそう簡単に癒えるものではないのだろうなと思う。でも、彼らが選んだ未来はあくまで「活動休止」で「解散」じゃない。それなら、いつかまたどこかで出会えると信じていてもいいだろうか。我ながら往生際が悪いが、今回の3マンで、いかに自分にとってこのバンドが特別であるかを知ってしまった。分かってはいたけど、やっぱり他のバンドで代えがきくわけない。

フジファブリックは2月6日にワンマン・ライヴ『フジファブリック LIVE at NHKホール』を控えている。それが活動休止前最後のライヴとされているが、このライヴがどんなものになるのか、そもそもどんな気持ちで観るべきなのかは分からない。でも、公演終了後には何とか活動休止を受け止められる自分であってほしいと思っている。せめて最後だけは、前向きな形で、メンバーの明るい未来と今後の音楽人生を願いたいから。

『フジファブリック20th anniversary 3マンSPECIAL LIVE at OSAKA-JO HALL 2024 「ノンフィクション」』
11月10日〈大阪城ホール〉にて上演終了

INFORMATION OF FUJIFABRIC

『フジファブリック LIVE at NHKホール』が2月6日〈NHKホール〉にて開催。

【WEB SITE】
fujifabric.com

【X】
@Fujifabric_info

【YouTube】
@fujifabricSMEJ

TOP