Homecomingsが約1年半ぶりのニュー・アルバム『see you, frail angel. sea adore you.』をリリースした。社会が抱える問題から、個人が持つ痛みまで、あらゆる感情を取りこぼさずに優しさを持って表現された彼らの音楽に救われてきた人も多いだろう。孤独や寂しさを感じてしまう瞬間に、手を繋ぎ共に歩いてくれるバンドだ。
福富優樹(G)が「安心の匂いがする、明るい場所についてのレコード」とコメントしている今作でHomecomingsが歌っていることとは? 12月からスタートするワンマン・ライヴ・ツアーへの想いと一緒に、福富と畳野彩加(V)が語ってくれた。
バァフ アルバムについてのコメントの中に「育った街の海岸線と、一面の稲穂の海」とありましたが、今作は福富さんのルーツである町がテーマとなっているのでしょうか。
福富 そうですね。1月の能登半島地震で、育った町の海岸に警報が出て、自分のすごく大事な場所の危険な表情を見たことが大きなきっかけになりました。それまでは自分が住んでいた町をテーマにすることはあまりなかったんですけど、考え直すものがあったというか。
バァフ アルバムのタイトルや楽曲から“天使”も今回1つのテーマになっていると感じました。
福富 前作の『New Neighbors』では、人と人が繋がってできる社会の中の“ケア”について描いていました。今回はそれと同じことを歌いつつ、角度が違うというか。社会的なものより、個人的な痛みや悩み、寂しさにフォーカスしています。そこで、自分の中のイマジナリーな存在としての天使や、自分の写し鏡のような傷付きやすい存在との繋がりによってケアできるというイメージで、天使をテーマにしました。
バァフ 今作は作詞が福富さん、作曲を畳野さんが担当されていますが、畳野さんは歌詞を読んでどんな印象を受けましたか?
畳野 2人で相談しながらコンセプトを作っていたので、その印象が最初にありました。それぞれ歌詞の中でも共通するテーマで繋がっている部分があるので、それをなるべく掬い取って作曲することを意識しています。今回はトミ(福富)の強い意志があったのでお任せしましたね。
福富 歌詞とかは任せてもらって、メロディの部分は(畳野)彩加さんにお任せするという感じでした。
バァフ 「angel near you」はまさに“天使”という言葉がタイトルにも入っていて、アルバム全体を象徴するような楽曲だと感じました。
福富 アルバム制作の初期段階から歌詞だけはあって、大事な曲になるイメージで作っていました。アルバム制作の灯台のような立ち位置にはあったのですが、楽曲としては最後の方にできた感じで。
畳野 アルバムの色を表す曲として、自分の中での正解を見つけるのにすごく時間がかかったかなと思います。
バァフ 「slowboat」はアルバムのリード曲で、優しさの中に、背中を押してくれるような強さも感じる楽曲でした。
福富 この曲は旅立つ、漕ぎ出す人と、それを見守る人の2つの視点で書いてみたくて。過去の自分は、田舎にいて「どこにも行けへん」という感覚が強かったんです。そう思っているところから1歩漕ぎ出す自分と、それを見ている今の自分という立ち位置もあります。
バァフ 歌詞のイメージなどは福富さんから畳野さんにお話されましたか?
福富 歌詞を細かく説明することはないので、自然と別の角度から見ていることもあれば、同じ角度の時もありますね。
バァフ 「recall(I’m with you)」は他の曲に比べてシンプルなバンド・サウンドが際立つ印象がありました。
畳野 前作に収録されている「Shadow Boxer」が、ギターでオープンDというチューニングを使っていて、同じチューニングでもう1曲作りたいと思っていました。アルバムを作り始める前から小さなデモがあったんですけど、制作段階で足したり広げたりして、アルバムの中では一番オルタナティヴで激しくなるように作った曲です。
福富 だからこの曲は唯一畳野彩加プロデュースみたいな曲。彩加さんらしいメロディだったんで、そこを追いかけながら歌詞を書くのは面白かったです。『ユーフォリア/EUPHORIA』というドラマから影響を受けていて、アイデンティティやジェンダーのことなど、生まれ持ったものではない、人の揺蕩っている部分の揺らぎを肯定する歌詞にしました。
バァフ 先にリリースされていた映画『三日月とネコ』の主題歌「Moon Shaped」もそうですが、Homecomingsは個々が持つアイデンティティをそのまま肯定してくれるような優しさをずっと届けてくれていると思っていて。
福富 この曲は原作があまりに素晴らしかったので、自分の新しい視点を乗せるというよりは、物語の大切だと思った部分を掬い上げて歌にしました。ジェンダーのことに関する知識、理解の差があっても、それをちゃんと教え合って助け合うという関係性が素敵だなと思います。欠けながら、不完全さを持ちながら一緒にいる素晴らしさを曲にしました。
バァフ 「(all the bright places)」は唯一のインスト曲です。
福富 元々サウンドに関して、アルバムを作り始めた時は2000年代初頭のエレクトロニカのイメージもあって。あの時代にしかない感覚、匂いがある気がしてすごく好きなんです。制作を進めていく上で、どうしてもバンドっぽいアルバムになってきたなと思って、スパイスとして急いで作りました。
バァフ 畳野さんは楽曲を聴いてみていかがでしたか?
畳野 インストの曲をアルバムに1曲入れることは以前からやってきたので、コンセプト・アルバムにするための1個の要素として重要な曲だと思います。
バァフ 「Air」もデジタル・サウンドで、キラキラしていて可愛い印象の楽曲でした。
畳野 ハウス・ミュージックに対してのメロディを作るのが難しい曲でした。分かりやすくAメロ、Bメロ、サビとコードが全部変わっていく形ではなくて、徐々にリズムが変化するサウンドに対するアンサーがなかなか見つからなくて。ハウス・ミュージックとはいえ、ロック・バンドが作っている曲にしたいと思ったので、絶妙なラインを狙って考えました。
福富 育った町の海岸で聴いていた音楽が、好きなアーティストのちょっと暗いアルバムというか、沈んだ雰囲気のアルバムで。くるりだったら『THE WORLD IS MINE』、SUPERCARで言うと『HIGHVISION』とか。それを今やりたいという想いがあって、経験がないところから1人でシンセなどを使って作っていきました。本当に血と涙の結晶って感じがします。
バァフ アルバムの最後は「kaigansen」。この曲はピアノのシンプルな構成が映画のサウンド・トラックのように感じました。
福富 これはベースのホナちゃん(福田穂那美)が作ったデモがあって、そのピアノのフレーズがすごく良かったんです。それをサンプリングしてBPMを変えて作りました。でもコードとかもずっと変わらへんから、メロディを付けるには大変やったと思うんですけど。
畳野 いや、私はむしろサウンド・トラックのような音楽が好きなので、こういうアンビエントっぽい音に鼻歌のような歌を付けるのは一番楽しいんです。最後に作ったんですけど、楽しみにとっておいたみたいな感じでしたね(笑)。
バァフ 最後に、12月からスタートする『Homecomings oneman live“angel near you”』はどんなツアーにしたいですか?
福富 「luminous」、「ghostpia」のヘヴィでオルタナティヴなサウンドは、最近のライヴでやっているので、「Air」や「kaigansen」の空気感をうまく出せたらいいなと思っています。バンド・サウンドだけではない思い切ったアルバムを作ったからこそ、普段の(サポート・メンバーを含む)4人の音だけじゃない音や景色が見えたらいいなと。
畳野 このアルバムの曲が今、一番自分の身体に合っている気がするんです。今までの曲はいろんな表情を持つので、それを一緒くたにやると感情があっちに行ったり、こっちに行ったりしてしまって。割と今回は1個の気持ちでいられるというか、1つの想いで歌えそうな気がしています。今回のアルバムの曲が、昔の曲ともイメージとして繋がりそうなので、ライヴとしてのコンセプトをしっかり表現できることがすごく楽しみです。
『see you, frail angel. sea adore you.』
発売中
〈IRORI Records/PONY CANYON INC.〉
INFORMATION OF Homecomings
ワンマン・ライヴ・ツアー『Homecomings oneman live“angel near you”』が12月20日〈京都 MUSE〉よりスタート。
【WEB SITE】
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【YouTube】
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