チェコの国民的作家・劇作家のカレル・チャペックが発表した戯曲『ロボット』を、ノゾエ征爾の潤色・演出で上演する。チャペックは、労働を意味するチェコ語のrobota(ロボタ)から「ロボット」という言葉を新たに生み出したと言われており、本作の舞台は、ロボットと人間の共存が始まりつつある現代。ロボットの進化と共に労働から解放された人間たちが、ロボットの反乱によって撲滅の危機に瀕するというストーリーには、そう遠くはないであろう我々の未来を想像してしまい、ヒヤリとした気持ちが湧き上がる。
作品のテーマに「私も身につまされました」と話すのは、社長令嬢で人権同盟の代表・ヘレナを演じる朝夏まなと。ロボットを単なる労働の道具にするのではなく、人間と同じように心を与え敬うべきだと、ロボットの地位向上を訴える人物だ。ヘレナが投げかける疑問には、人間の人間たる所以や価値を見つめ直す問いが込められており、どれだけテクノロジーが発展しようとも人間らしさは失わずにいたいというギリギリの抵抗心を掻き立てられる。終演後に観客は、一体何を想うだろうか。
ヴィジュアル撮影から5ヵ月ほど空いた10月、稽古前の朝夏に再び会い、話を訊いた。
バァフ ヴィジュアルを撮影させていただいた5月の時点では、「何がどうなるかまだ分からないけれど楽しみ」と仰っていましたよね。(取材時)本読みとお稽古が始まった今のご心境はいかがですか?
朝夏 一番最初の本読みの時、もうありえないくらい緊張しまして。というのも、アウェイ感と言いますか、初めてご一緒するキャストの方々ばかりだったので緊張がすごかったんです。ただ、本読みが始まった途端に作品の世界観が一気に浮き立って、物語の面白さを感じましたし、同時に皆さんのお芝居にも圧倒されました。ちょうど昨日で本読みが1周したんですけど、自分の足りないところを突き詰めていかなきゃいけないなと思いつつ、悩む時間さえも楽しんでいます。辛いけど楽しい。ちょっと不思議ですが、両極の感情を味わっています。
バァフ 特に悩まれているのは、どんなところでしょうか?
朝夏 台本だけで言えば、ヘレナは天真爛漫であまり擦れていないお嬢様、そしてロボットを人間と同じように扱ってほしいと訴えかける、人権同盟の代表としての一面があります。だけど突然ヒステリックになり、大切な文書を暖炉で燃やしてしまう突発的な激しさを持つ女性でもあって。激しい部分をどれだけ作るのか、1人の人物としてのバランスは特に悩んでいて……抽象的な言い方にはなってしまいますが。「どのようにでも作れるよね」というお話を演出家のノゾエ征爾さんともしています。振る舞いにしても、お嬢様と言ったら優雅な雰囲気をイメージするかもしれませんが、今回はもっと人間の描き方がリアルになってくるので、あまりお嬢様感を意識しすぎてもおかしなことになるのかなと思っていて。
バァフ 題材的に難しいお話なのかなと思いましたが、台本を少し拝見したところ内容が咀嚼しやすく、私たちの生活とも地続きのようなリアリティを感じさせる物語に惹き込まれました。笑いどころも結構ありますよね。渡辺いっけいさん演じるドミンがヘレナに求愛するシーンは、台詞のやり取りだけを見ても笑ってしまいました(笑)。
朝夏 あのシーン、面白いですよね(笑)。お稽古でも笑いのシーンでは皆さんいろんな変化球を投げてこられるので、毎回すごく楽しいです。かと思えば、シリアスなシーンでは「これは何を言わんとしているのだろう?」と理解がまだ追いつけていない、深読みする部分もありますし 台本を読んだ時、ロボットが人間に代わってしまうような世の中になったら怖いなと思ったんです。どんどん便利さを求めている私たちの現実の世界が、まさにその過程を辿っている気がして。携帯電話が出始めた頃、この1台で音楽を聴いたり映像を観られるなんて考えもしなかったじゃないですか。セルフ・レジやレストランの配膳ロボットなど、急速にテクノロジーが発展しているのを見ると、『ロボット』で描かれる未来はそう遠くないのだろうなと感じてしまいます。実際にロボットが反乱を起こして人間を虐殺することになったらものすごく怖いですが、「そういう未来がくるかもしれないよ」と注意喚起をしてくれている。楽を追い求めてばかりではダメだし、人間らしさを失わずに生きていかなければいけないよ、と。
現代人は忙しいし、あっという間に1日が終わるじゃないですか。仕事をして、空腹を満たすだけの簡単なご飯を食べて、眠り、そして朝がくる。本来なら美味しいものをゆっくり味わって、美味しさや幸せを実感するのが人間だけど、それもなく、ただお腹が満たされればいいという状況は、人間がロボットに近付いている感もありますよね。人間として持って生まれた感情や心を大切に、愛を持って生きることがどれだけ大切なのか、私も身につまされました。ノゾエさんも仰っていましたが、この作品を観た方が、誰かとディスカッションできる題材になれたらいいなと考えています。
バァフ ロボットやAIを題材にした作品は時代と共に増えていますが、一方でスロー・ライフが再注目されていたり、あえて手間や時間をかける傾向もあると思います。便利さを求める反面、人間らしい生き方を手放したくない想いがまだ残っているのだなと感じました。
朝夏 分かります。私も年々、「今日も夕日が綺麗だな」と思ったり、日々の細やかな変化にも目を向けるようになりました。夕日の綺麗さは30秒もあれば感じられるわけで、忙しさは単なる言い訳だったなと(笑)。1日に1回思うか思わないかで心の潤いが違いますし、自分の癒しにもなっている気がします。これまではオン・オフの切り替えがなかなか上手くできないタイプで、それこそお腹が満たされればなんでもいい考えだったんですけど、自分の年齢もあるし、ちゃんと人間らしい生活をしなくちゃいけないと思うようになりました。いろんなことを気にしはじめたら、自然と食事の内容も気にするようになったり、食事中はお仕事について考えないなど以前よりもメリハリがつきました。
バァフ メリハリ、大事ですよね。本当は良くないなと思いながら、眠るギリギリまで考えごとをしてしまうのが私も癖になっています。
朝夏 私もありましたが、そういう時は頭の中にぐるぐる回っているものを全部書き出すといいと言われました。1つひとつ綺麗にタスク化する必要はなくて、適当な紙に、例えば「マジで面倒だなぁ」とか浮かんだ言葉のままを書くとスッキリするんです。気持ちを一度アウトプットすることで、想いも整理できておすすめです。
バァフ 気楽に書けるのがいいですね。特にお稽古中はインプットする内容も多いと思いますが、ちょっとしたメモなどは台本に書き込むのですか?
朝夏 私はいつも台本とは別にノートを作って、それを読み返しながら整理しています。疑問や自分がその日に浮かんだものとかもとりあえず書いておいて。
バァフ 映像の現場だと、撮影当日に動きや台詞が変わることもありますよね。そういう場合は用意してきたものを一度捨てて、その場を楽しむ方にスイッチングしていくのでしょうか。
朝夏 そこまで語れるほど映像についての経験はまだないのですが ある現場で私の台詞がめちゃくちゃ増えて、監督さんから「ここでこう言ってみましょうか」とリクエストがきた時に、こんなに台本から変化することがあるんだとすごく驚きました。お稽古を重ねて作り上げる舞台作品ではまずない状況ですし、それはそれでスリルもあって、瞬時に対応する力が鍛えられるなと思いながらお芝居させていただきました。その時はかなり必死でしたけど(笑)。
バァフ 瞬発力で思い出したのですが、5月の撮影の際に初めて朝夏さんにお会いして、カメラを向けた瞬間の表情の切り替えや空気を一変させる力が素晴らしいなと感じたんですよね。談笑している時とのギャップがすごくて。あと、撮影した写真をモニターで確認する際に、ふと隣を見たら朝夏さんがピッタリ真横にいらっしゃって、「素敵な写真!」と満面の笑みを向けてくださったんです。距離感にキュンとしたのと、何より、チームの一員として参加してくださる朝夏さんの心遣いにも感動しました。
朝夏 そんな近くに!? 無意識だったなぁ(笑)。人と一緒に何かを作るのがすごく好きなんですよね。舞台であれば何ヵ月も一緒にお稽古をして、みんなで素敵な作品を作ろうと一丸となりますし、もちろん写真撮影もそうです。プロフェッショナルな方たちに囲まれて、自分はどのように参加できるか、どう調理していただけるのかなという楽しみが強いので。(5月の)撮影も楽しかったですし、自分の大好きな世界観だったので特に覚えていますよ。お花を持ったり色々撮りましたよね。
バァフ お忙しいのにそこまで詳細に覚えていらっしゃることに驚きです……。
朝夏 いえ全然、普段は昨日の夜に何を食べたかも覚えていません(笑)。食べるものを気にしているとか言っておきながらね、結構適当なところがあるんです(笑)。でも、印象的な出来事や自分の心が動いたことはしっかり覚えていて。宝塚を退団する前の作品もそうですし、ターニング・ポイントと言われる作品は特に大事に残っています。
バァフ ちなみに、朝夏さんのストレート・プレイへのご出演は久しぶりかと思うのですが、ストレート・プレイはどんなところが魅力ですか?
朝夏 ストレート・プレイは人間剥き出しというか、感情を際限なく表現するので、魂そのものを観ている印象があります。ミュージカルはどちらかと言えばもう少しファンタジー寄りの世界で、役者側からしても、「(台詞の)後に歌わなきゃいけない」と多少構えが出てしまう。例えば、喧嘩のお芝居の後に歌が入るとなると、喧嘩のシーンもしっかり表現したいけれど、ここで力を出し切ったら声が出なくなる、みたいな塩梅もあるんです。ストレート・プレイはそういうペース配分がない分、お芝居の強弱、繊細度に限らず、感情に限度がなく表出できる感じがするんですよね。今も日々お稽古をしながら、いろんな声を出す挑戦をしています。ノゾエさんからは「綺麗な声じゃなくていい」と言われているのですが、それってどんな声?と思いつつ(笑)。綺麗な声を出すために努力をしてきた人生だったので、効果的な声の使い方を模索しているところです。
バァフ なんなら、叫んで枯れてしまってもいいような。
朝夏 そうなんです。声が割れてもいいし、ひっくり返ってもよくて。壁を取っ払わなければ辿り着けない表現なので、今は培ってきたものを出すべき瞬間と壊す瞬間の両方が求められています。むしろ、培ってきたものは使えないぐらいの気持ちですね。「こんな朝夏まなとは見たことない!」と感じてもらえるようにしたい想いもあるから、新たな引き出しを作らないと。
バァフ 20年以上のキャリアを持つ朝夏さんが新たな引き出しを作るというのも、なんだかすごい話ですね。
朝夏 逆に、今までの引き出しから使ったら負けかもと思うようになってきました。苦しいですけどね、(引き出しが)使えないから。「分からん!」って言いながらお稽古しています(笑)。
バァフ (笑)新しい引き出しを作るためには、物事を感じ取る嗅覚や観察力も必要になってくるのかなと思うのですが、朝夏さんはどのように感覚を養われていますか?
朝夏 最近、映像のお仕事で主婦役を演じる機会がありまして。これまでは主婦と真逆の世界にいる役を演じることが多かったので、道行く人々のリアルな生活はどういうものなのか、主婦の方たちの中では何が流行しているのかというのを初めて考えたんです。食材を大量に安く買って冷凍保存する、みたいな生活の知恵的なものも役作りで初めて触れましたし、世の中により溶け込もうとするようになりました。普段観る映画やドラマの趣味も変わったんですよ。外国の方を演じる機会の多さから洋画を積極的に観ていましたが、最近は邦画や日本のドラマを観る生活になって。日常生活でも、何が自分に怒りや喜びをもたらすのかを考えたり、この人のどんなところが好きなんだろう?と深掘りするようになりました。間違いなく引き出しを作る手助けになっていますし、新しい知識や感覚が自分の中に入ってきているなと思います。
バァフ 特にどんな作品に惹かれますか?
朝夏 でも、統一性はないのかも。その時の自分の感性から選んでいますね。そう言えば最近、何十年ぶりかで挑戦したクレーン・ゲームがすごく楽しかったんです。クレーン・ゲームって小銭を入れるイメージだったけど、今は『Suica』が使えるんですよね。時代の流れにびっくりしません? ゲーム特有のドキドキワクワクする感じが久しぶりで楽しかったし、ほしかったアイテムを手に入れた時もめちゃくちゃ喜んじゃって(笑)、自分ってまだこんなに童心に返って喜べるんだなという気付きもありました。忙しいとどうしても家に閉じ籠りがちになってしまうけど、やっぱり外に出ていくことって大事ですね。たかがゲームと思ってもこれだけの収穫があったし、もっとアクティヴに、色々と経験しないといけないなと実感しました。
©︎阪野貴也
『ロボット』
潤色・演出/ノゾエ征爾
原作/『ロボット』カレル・チャペック 栗栖 茜・訳〈海山社〉
出演/水田航生、朝夏まなと/菅原永二、加治将樹、坂田 聡、山本圭祐、小林きな子、内田健司、柴田鷹雄、根本大介/渡辺いっけい
11月16日〜12月1日〈シアタートラム〉、12月14日・15日〈兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール〉にて上演
【WEB SITE】
setagaya-pt.jp/stage/15694
INFORMATION OF MANATO ASAKA
出演するミュージカル『フランケンシュタイン』が2025年4・5月に上演。また、ミュージカル『SPY×FAMILY』が2025年10月より再演決定!(9月にプレヴュー公演あり)
【WEB SITE】
asakamanato.com
【Instagram】
@asaka_manato_official
【X】
@asakamanatomg
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