JUL. 21 2024, 11:00AM
写真家・映像作家のHIRO KIMURAにとって、被写体が持つ哲学、バックグラウンドにまで敬意を払い、向き合うのは至極当然のことだ。ゆえに、人物から放たれる温度、エナジー、生き様を捉えた、時代の潮流に左右されることのないポートレイトの数々がその手から生まれてきた。
日本を代表する著名人男性をモノクロの世界で写したポートレイト展『HERO』シリーズをはじめ、グローバル・ブランドのヴィジュアル・ディレクション、さらにはテレビCMの監督も手掛けるなどその仕事は多岐に渡る。幾多の現場を経験してきた彼を以ってしても「ハイ・プレッシャーだった」と振り返るのが、今回の〈Yohji Yamamoto POUR HOMME(ヨウジヤマモト プールオム)〉と〈ISAMU KATAYAMA BACKLASH(イサム・カタヤマ・バックラッシュ)〉によるコラボレーション・コレクションの撮影だ。被写体に迎えたのは、加藤雅也、佐藤タイジ、中村達也、花田裕之、谷中 敦。当初は、至高のコレクションを纏う彼らを写したイメージ写真のみだったが、HIROの発案により、ムーヴィー、写真集、さらには写真展『HEROES』の開催と大きく発展していった。唯一無二の独創的なコラボレーションにいかに立ち向かい、どのような可能性を見出したのか 。
20代でスタイリストとしてキャリアをスタートさせ、30代でフォトグラファーに転身。『バァフアウト!』、『ステッピンアウト!』でも長きに渡り関係性を積み上げてきた、編集長の山崎が訊いた。
今回の企画はどういう経緯で始まったのでしょうか?
HIRO 〈Yohji Yamamoto POUR HOMME〉と〈ISAMU KATAYAMA BACKLASH〉がコラボレーションするコレクションの、イメージ写真の撮影をしてみないか?とお話をいただいたのが始まりでした。5名の登場人物をアサインすると聞き、これはかなり熱いものになるだろうと思いましたし、自分が得意とするストレートな男性の表現というものをぶつけさせていただくことで、1つのスタイルになるだろうと確信があったので、「全力で受けさせていただきます」とお返事をして。加えて、僕はムーヴィー制作も積極的に取り組んでいるので、そちらもご提案したところ、5名それぞれのムーヴィーも撮らせていただく形となりました。 合わせて写真集も1冊作り、(取材時)ちょうど今はヴォリューム2を作っている状況です。1冊目の写真集がかなり高評価をいただきまして。これはチャンスかなと思い、模型を作って〈ISAMU KATAYAMA BACKLASH〉の片山(勇)さんと共に〈Yohji Yamamoto〉に写真展のプレゼンにも行きました。「ぜひやっていただいて構いません」とご快諾いただけたことで、このプロジェクトがさらに大きく広がっていった形です。
〈Yohji Yamamoto〉も〈ISAMU KATAYAMA BACKLASH〉も、昔から親交がおありだと思いますけれど、ブランドの魅力はどういったところに感じていらっしゃいますか?
HIRO 90年代後半、僕は20歳の頃にスタイリストとしてスタートを切っていまして、〈Yohji Yamamoto〉に関しては、その頃からずっと見上げている憧れの存在でした。世界で指折りの素晴らしいブランドですから。その特徴というとやはり男性らしさ、エレガンス、それからロックンロールという部分を非常に感じます。〈ISAMU KATAYAMA BACKLASH〉はシャープさ、エッジ、そして何より忘れちゃいけないのは、男らしいロックンロールの部分。そういったところが両者は共鳴していて。
僕はお仕事をいただく9割くらいが男性の被写体なので ありがたいことに夏木マリさんはずっとお付き合いをさせていただいておりますけれど やはり自分の特徴と言うと、男らしさ、ストレートな男性の色気、セクシュアリティをポイントに撮ってきていますから。今回は、2つの素晴らしいブランドと自分の特徴が、上手くバランスが取れて良いものになるんじゃないか?というところで始まった企画。素晴らしいブランドの名前を自分が背負わせていただくのは2度とない機会ですし、本当に光栄な出来事だったなと思います。
HIROさんと年齢も近い片山さんの魅力と言いますと?
HIRO 片山さんは非常にカリスマ性を感じる方ですよね。生き方もそうですし、バイク、旧車、そういったファッションから派生していく片山さんが持っていらっしゃるカルチャーや考え方。そして片山さんの周りに集まってこられる方たちも皆さん特徴的で、スタイル、エッジのある方々ばかり。この独特な空気感をお持ちの方は日本国内にはなかなかいらっしゃらない。古くを言えばヘルズ・エンジェルスのようなスタイルを持っていて。
もしくは高橋吾郎さんのような。
HIRO まさにそうですね。そういうスタイルを持ったお方だなと思います。
2つのブランドが融合することによって、どういった化学反応が起きましたか?
HIRO 〈Yohji Yamamoto〉が持つロックンロール、エレガンスに、〈ISAMU KATAYAMA BACKLASH〉の、ここまで尖ったものは入っていかないであろうエッジがプラスアルファされていて、このコラボレーションは唯一無二だと思います。〈Yohji Yamamoto〉のパターンに片山さんの思想が乗っかっているし、革の質感や縫製が掛け合わさっていて、そのバランスはすごくエネルギッシュなものになっている。それでいてモダン。って、僕の意見はなんだかスタイリストみたいですね(笑)。
いえ、そういうお話もすごく大事で。プロダクトは一見ワイルドなんですけど、繊細さも醸し出されているなと勝手ながら感じておりました。
HIRO そうですよね。片山さんも非常に繊細な方ではありますが、やはり〈Yohji Yamamoto〉のパターンの計算と繊細さというものが相まっているのだと思います。
今回の5人の被写体はどのように決められたのでしょうか?
HIRO キャスティングは、〈Yohji Yamamoto〉の久保 正さんと片山さんが相談されて決めていらっしゃると思います。5名とも片山さんと非常に親交がある方たちですが、まさか花田(裕之)さんまでご登場になるとは考えてもおらず。撮影は別々でしたが、素晴らしいレジェンドがこうやって相見えるのはすごいことですよね。
5名の被写体とセッションをされてみて、どんなインパクトがあったかそれぞれ教えてください。
HIRO まず花田さんは、深い愛情を感じる方でした。そして、ご自分が業界をリードしてきた誇りと自信、それからご本人の優しさや柔らかさを撮りながら感じていました。その裏側にある強さといった部分ももちろん。花田さん、とても優しいので、表情が柔らかいんですよ。普段の撮影中は(相手を)プッシュする言葉はなかなか言えないのですが、セッションをさせてもらいながら、強さを引き出させていただきました。
谷中 敦さんは、以前から片山さんの服を愛用されていますよね。
HIRO あの方々は本当に仲が良くて。谷中さんも優しい人ですよね。細やかで繊細、柔らかくて優しくて誠実。先ほど申し上げたのと似てしまいますが、その裏側に隠れた狂気、絶対に素敵なものを作るだとか、負けない強い気持ちというものを切り取れたらなと。感覚やリズムに非常に優れた方なので、ムーヴィー、スチールにも表れていたかなと思います。
佐藤タイジさんは?
HIRO タイジさんはユーモアと平和の人です。責任感、ピース、愛、ユーモア、これに尽きるなと。この方がどれだけ周りから愛されているのかがすごく伝わってくるんです。自分から発した愛情によって、周りの人からも愛情が返ってきている。その愛情を受けているから明るくいられるし、優しさを感じます。
5名とも、もちろん尖っているんですけど、そのエッジが段々と丸くなってきて、エッジを残しつつ色気もあるんですよ。強さと色気のどちらも持っているので、たまらないと思います。これは女性に限ったことではなく、男性の僕らが見ていても非常にカッコ良さを感じますから。実は僕、タイジさんの「パープルレイン」が本当に好きで、酒を飲むとよく聴くんですけど(笑)。今回は曲を弾いてもらいながらのセッションだったのですが、ジャズじゃないけれど、脱線しながらもまた戻ってくる、伸びやかさや強さを感じていました。
中村達也さんはいかがでしたか?
HIRO もう、ファンタジーですよね。一線を超えている方ですし、その一線を超えている特別な部分をしっかり撮ろうと。狂気でもありますが、ファンタジーって言葉が合うのかな。
その2つが共存している?
HIRO 怖さを持っているのだけど、シニカルな部分も持っていて。そういったものも引き出しながら撮っていきましたが、やはりこういう方を目の前にすると、フォトグラファーの皆さんはあまり思い切れないと思います。だけど、僕は中村さんのバックグラウンドを信じているし 僕の世代で言えば、まさにブランキー・ジェット・シティ含め大ファンでしたから 立ち上ってきた素晴らしい経歴を信じるしかないので、真っ向から勝負させていただきました。
ごまかしが利かないですよね。
HIRO はい。余計な算段みたいなものは絶対にいらないです。
こちらの生き方が問われるというか。そうでなければ対峙できないでしょうし。
HIRO やはり「写真は自分」だと。自分の生き方が出る。なので、「お前にならこの顔をしてやろう」、「俺の背中の十字架を見せてやろうじゃないか」と被写体に思ってもらえるような生き方を、僕がしていなければいけないわけです。
まさしくで。最後は、加藤雅也さん。
HIRO 雅也さんは、ご自身も写真を撮られますしディレクションもされる方で。それこそ最初にお会いして撮影のイメージを伝えた時に、「もう少しドキュメントっぽい方が良いと思うで」と仰られたんですよ。実は、そうくるだろうなという予感がありました。なので、「雅也さんと向き合う中で、出てくる表情を撮らせていただきたい。それができれば僕は本望なのでぜひお願いします」とお話ししまして。なぜこの撮影をしたいのか?をしっかりと相手に意思表示することが非常に大事ですし、特にご自身をしっかりと愛してお持ちになっている方たちは主張がありますから。でもそれは当たり前のことだと思うんですよ。なので僕自身も、自分の想いを持って表現しようとする姿勢を見せ、最終的には「分かった。お前はちゃんと(自分を)持っているじゃないか」ということで全てOKになり、雅也さんが心を開いてくれたところからセッションが始まりました。そういう意味では、非常に厳しい方だと思いますし、一番言葉を交わしながら撮影をしたかもしれません。写り方、どういう表情、心持ちでいれば良いんだ?ということを問われながら、セッションの中で僕の意図するところをお伝えしていきました。
とても濃厚ですね。やっぱり、HIROさんにしか実現できないセッションだと感じます。
HIRO ありがとうございます。振り返ると、撮影時は一番、汗や湿度を感じた時間でした。しかも中途半端な場所では立ち向かえませんから、中野や高円寺、音楽を感じられるライヴハウス、〈渋谷氷川神社〉など、5名の被写体に合わせた場所もこだわりながらロケハンをしていって。助手たちと一緒に作り上げましたが、かなりハイ・プレッシャーな現場でした。
冒頭でお話しされていた、写真展についてもお聞きしたいです。『HERO 2』を経て3回目の展示かと思いますが、現状はどのような内容を考えていますか?
HIRO 『HERO』シリーズを21、22年と開催したのですが、2年ぶりとなる今回は本企画のために『HEROES』と銘打って デヴィッド・ボウイが大好きなので、彼の「Heroes」という楽曲から言葉を借りました(笑) 基本的には自分自身が撮る男の色気、セクシュアリティ、エネルギーを感じ取っていただきたい気持ちは変わらないです。今回はそこに、被写体であるカリスマ5名、さらには、片山さん、久保さんといった素晴らしいカリスマの方々がいらっしゃいますから。〈Yohji Yamamoto〉サイドにもお伝えしましたが、今回の肩書きとして背負っている「ファッション」という部分で言うと、(今回の企画は)日本独特のカルチャーだと思うんですよ。例えるなら、イギリスのパンク・ロック・カルチャーのエネルギーにも近いなと僕は思っていて。日本にしかないロックンロール、日本の男のアンダーグラウンドのシーンを世界に発表できる機会はなかなかない。しかも、〈Yohji Yamamoto〉という世界屈指のブランドの看板を引っ提げて表現できるのはすごいことで。今すでに、ニューヨーク、ロンドン、パリのショップで、ムーヴィーを大きなモニターで流してもらっていますが、かなり評価をいただいているそうなんです。多分、皆さん見たことがないのだと思います、こういった日本の男のセクシュアリティというのは。
海外の方から見ると“侍感”を感じるんじゃないですか?
HIRO まさにそうだと思います。侍感、見たことのないカルチャーと言うんでしょうか。で、僕はそこが、モダン・アヴァンギャルドだと思うんですよね。写真展は、今の時代の日本の方たち、それからインバウンドの方たちにも見ていただく良いチャンスじゃないかなと考えているので、どういうリアクションがくるのか非常に楽しみです。2025年には『HERO 3』の開催も決定しましたので、まずは『HEROES』をきちんと成功させて、次にいきたいなという風に思っています。
『HEROES』
7月23日〜28日〈代官山ヒルサイドフォーラム〉にて開催
10時〜20時
※23日のみ10時〜17時30分まで
※入場無料
INFORMATION OF HIRO KIMURA
現代を代表する日本人男性のポートレート展シリーズ『HERO』の第3弾を2025年に開催予定。
【WEB SITE】
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