CULTURE

ドラマ『RoOT / ルート』のオープニング・テーマ「近頃」から見えた、Bialystocksの音楽との向き合い方とは

JUL. 8 2024, 11:00AM

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文 / 白土華乃子

映画『オッドタクシー』の完全オリジナル続編として放送された、ドラマ『RoOT / ルート』のオープニング・テーマ「近頃」を手掛けたBialystocks。本ドラマは、小さな探偵事務所で働く若い探偵2人が、奇妙なタクシー運転手の素行調査から次第に大きな事件へと巻き込まれていくヒューマン・ミステリー。その物語の幕開けを、アコースティック・ギターと耳元で囁くような優しい歌声で華やかに立ち上げた。「物語がどんな佳境を迎えていたとしても、その世界観にそっと寄り添うような楽曲にしたかった」と話すように、日常のどんなシチュエーションにも自然に溶け込んでしまう、形容し難い不思議な魅力を持つ楽曲だ。

 

先日、ホール・ツアー『Bialystocks Tour 2024』を終え、今秋に3rdアルバムのリリースも控えている彼らは結成から5年が経った今もお互いの関係性は変わらず、直向きに音楽と向き合っている。楽曲の制作に至っては、それぞれの良さを引き出し合い、その時の最適解を導き出すスタイル。今回のインタヴューではヴォーカル・甫木元 空の視点でBialystocksの音楽性について深掘りしたが、肩肘はらず自然体で生み出される音楽だからこそ、底知れぬ魅力が彼らには詰まっているようだ。

自分が思ってもみない方向に進んでいくことに面白さを感じるのは、映画も音楽も似たようなところかもしれないです

バァフ 「近頃」はどのような流れで制作していきましたか?

甫木元 「オープニングでどうですか?」とお話をいただいてから1話を観させてもらい、曲作りに入っていきました。楽曲の使い方は後々知ったんですけど、ラジオから流れてきたり、その環境に合わせて、その場で役者さんが聴いているかのように使われるのが面白いなと思って。

あと、今回は探偵ものの作品で、各話でストーリーも変わりますが、オープニングとエンディングはどんな状況でも変わらずに流れ続けるじゃないですか? 物語の大枠を捉えられたら良いなと思いながら、夜の街をひたすらドライヴするようなイメージで、世界観を壊さずスッと入れるように菊池(剛)(Key)と作っていきました。

バァフ 甫木元さんが作詞をされていますが、着想はどこから得ましたか?

甫木元 主人公の若い探偵が当てもなく彷徨っている感じや、言っていることも皮肉っぽく聞こえると良いのかなと……。というのも、若者だからこそ視野が狭くてもどこまででも行けるというか、夜の街に迷い込んでしまったイメージをざっくりと考えていました。作詞の流れとしては、菊池が作曲して英語で歌入れをしたデモをもらって、それを日本語に変換して書いていくんですけど。なので、歌詞の意味というよりは英語の音の響きも重要な要素として、最初に菊池が入れていた音のオイシイところは損なわないように、響きを優先させたところも結構あります。あと、音をハメていく中で偶然この歌詞になったのを面白がりながら進めていったところもありますし。聴く人がいろんなことを想像できる余白を作れると良いのかな?と、書いていきました。

バァフ 日本語で歌詞入れをしていく中で、英詞との意味合いはかなり変わったのでしょうか?

甫木元 意味は全然違うことになっていますね。日本語をハメていくと、どうしても失速した感じになってしまうんですけど、今回はビートがちゃんとしている曲なので、ドライヴしながら進んでいく軽快さを損なわないようにというのは意識しました。

バァフ 普段も英詞から日本語詞に戻していく流れで作詞をしているのでしょうか?

甫木元 菊池が作る曲に関しては、その流れが多いですね。彼が入れる英詞は意味合いというより、「こういう音の感じでやりたいけど、日本語ではどこまでできるんだろう」というガイドのようなイメージなんです。日本語だとこの言葉が自然かな?というのを、お互いに何パターンか投げ合いながら終着点を探っていくんですけど  全部空耳でハメても、日本語だとどうしてもノリ切らないところもあり、逆にまったく違う言葉でハメてみたら僕の声質と合うこともあります。少し空気を含んでいるような声なので、曲を作っていく上で大変だと思うのですが、菊池曲に関してはグルーヴを大事にしている曲もあるので、そこを意識しながら日本語をハメていっています。

バァフ 「近頃」も空耳的な歌詞があるなと感じまして。特に、〈最近二人はビタミン足りない〉の歌詞は、「『ビタミン』と言っているのか『痛み』と言っているのか、どちらなんだろう?」と思いながら聴いていました。

甫木元 菊池デモの段階から「ビタミン」と言っていたかもしれないですね……。「痛み」とかより「ビタミン」と言った方が頭に濁点がついているのでリズムにノってくれるというか、音の1つひとつが粒立ってくれるというか。「面白いから『ビタミン』にしよう」という話をヴォーカル録りの直前までしていました。

バァフ 今までの楽曲の中でも軽快で、BPMも速いので、すごく新鮮に感じました。新たに挑戦するという感覚はあったのでしょうか?

甫木元 「新しいことをやろう」という感じのスタートではなかったかもしれないです。当初は80年代後半のシンセをベースにもう少しチャラい音だったのですが、僕の声が合わなくて。菊池がアナログな感じに変えてくれましたね。

バァフ 楽曲からは「夜」のイメージを受けていたので、開放感のあるMVは良い意味でギャップを感じて。MVの制作はどのように進んでいったのでしょうか?

甫木元 監督をしてくださったミュージシャンの井手健介さんと我々のジャケット周りを手掛けて下さっている潮 杏二さんと3人で、90年代後半のアメリカ映画を観に行って。これをレファレンスとしてどういうMVにするか考えようとしたのですが……全然参考にならなかったんです(笑)。もう1回違う映画を観に行って意見を出し合ったんですけど、ストーリーを考えるというよりは「映画のこのシーンがオマージュになると良いかも」という感じで進めていきました。

バァフ 映画からヒントを得た後は、どのように話を詰めていきましたか?

甫木元 僕が船に乗っているジャケットが先に出来上がっていたので、“最後に船が走っていく”みたいなMVのオチだけをとりあえず決めて。そこに、昔のMVで登場したものが一瞬登場して、今までのMVの世界をループしている感じになると良いね、という話をしました。後日、井手さんが「魔法使いとかRPGゲームとかの職業や道具、いろんな人たちが集まって、最後それぞれの旅に出てくイメージで」と言ってくれて、出来上がったという感じですね。

バァフ アニメーションも可愛くて、見入ってしまいました。

甫木元 実は午前中にとんでもない雨が降って、撮るべきものがいっぱいあったのに、何も撮れなかったんです(笑)。いろんな工程を夜に回さなくてはいけなくて、「(MVの雰囲気が)なんか悲しいね」となってアニメーションを追加することになったというのが本当の理由です(笑)。

バァフ (笑)そうだったのですね。そして、先日、初のホール・ツアー『Bialystocks Tour 2024』で全国3都市公演を完走されました。今回のツアーはどのようなツアーにしたいと考えていましたか?

甫木元 今回のツアーは、演技チックなショーになると良いかもと話をしていました。「夜よ」という曲から始まり、最後「フーテン」で終わるんですけど、「フーテン」ではヴォーカルだけにピンスポットが当たりながら息絶え絶えで歌い切り、その人が死んだかのように照明が消えていく流れを作って。本編を通して起伏がありながら物語が終わっていくんだなと、観ている方が自然と受け取ってもらえるように意識しました。

バァフ 実際に、お客さんの反応はどのように受け取りましたか?

甫木元 ホールだから静かだし分からないんですよね(笑)。お客さんも僕たちと同じ緊張感というのもあると思いますし、「この曲は立った方がいいんだろうか……?」みたいな探り合う感じもあって(笑)。でも、数曲やると「これは静かに観るものなんだな」というのを理解してくれる雰囲気もありました。このツアーを経て、またホールでライヴをする時は映像や構成的なことも含め、都度、変化させられると面白いのかなと思っています。

バァフ ツアーの最後には、今秋にリリースする3rdアルバム、そしてライヴハウス・ツアーも発表されました。

甫木元 (取材時)完成していたらベラベラ話すんですけど、実はまだレコーディングが終わっていない曲があります(笑)。アルバム制作は毎回、最初からコンセプトがある状態で作るというのはしたことがなく、「こういう曲が出揃ってきていて、あとはこういう感じの曲があったらいいかな」という流れで進めていきます。ただ、今回のアルバムは、全体的に何か一言で言い表せられるような感じではないのかなと思っていますね。今までとは違うものを入れられたらなと。

バァフ 制作に対する生みの苦しみは感じますか? それとも、好奇心で進んでいっている感覚のほうが大きいですか?

甫木元 いや、しんどいですね(笑)。でも、編曲は菊池がやってくれるので……自ら新しいものを狙うというよりは、いろんな条件の中での最適解を少しずつ探っていく感覚です。とりあえず、お互いにメロディーを持ち寄って、「そのメロディーを引き立たせるためにはどうすれば良いのか」というのを話し合いながら地味な感じで進めています(笑)。

バァフ 音楽制作をされる中で、甫木元さん自身が影響を受けた音楽はなんでしょうか?

甫木元 「小さい頃からずっと聴いてきました」みたいなものはあまりないんです。ただ、母が家でピアノの先生をやっていて、地元の合唱団のために曲を作っていたので、母が作る合唱曲は自分のルーツになっていると思います。あと、家で1970年〜80年代ぐらいのフォークをよく聴いていたので、それにも影響を受けているかもしれないです。

バァフ ということは、甫木元さんにとっての原点は合唱曲やフォークなのでしょうか?

甫木元 どうなんでしょう……成績も良くなくて、歌も全然褒められたことはなかったですし(笑)。合唱って不思議とクラスの2、3人だけがすごい楽しんでやっている感じですが、僕はどちらかというと、あまり楽しんでいなかった方かもしれないです(笑)。バンドも組んだことがなくて、人と音楽をする喜びを感じるようになったのは、このバンドを組んだ時に「なんか面白いな」と思ったことがきっかけです。

バァフ Bialystocks結成前は、音楽活動はされていたのでしょうか?

甫木元 映画の学校に行っていたので、助監督とかをやりながら、たまにその映画の曲を作ったりはしていました。なので、曲作りは自分の映画のためにという感じでしたね。

バァフ それこそBialystocksも映画『はるねこ』での生演奏をきっかけに結成したと伺っています。菊池さんとは以前から親交はあったのですか?

甫木元 友達の友達という関係性でしたね。僕の友達に呼ばれてスタジオに入った時に、友達が遅刻して僕と菊池だけになったことがあったんですけど、それが初対面でした。その時に菊池のオリジナル曲を数曲聴かせてもらい、「なんかこの人面白いな」と思ったんです。そのバンドは菊池がリーダーではなかったんですけど、この人がバンマスするのを見てみたいなと個人的に感じて。『はるねこ』上映後に、菊池が僕と同世代のメンバーを集めてくれて、その映画の中で鳴った曲の再現ライヴをするイヴェントをやった時に「バンドって楽しいな」と思い、せっかくだしオリジナルを作ってみようとなったのがBialystocksの始まりです。

バァフ 映画監督として作品も手掛けていますが、映画と音楽で共通する部分や異なる部分は何か感じていますか?

甫木元 映画は監督として観ているだけなんですけど(笑)、音楽は歌わなくてはいけないので身体性という点では一番違いを感じていますね。でも、どちらも1人で全部作っているわけではなく、いろんな人が介入しながらやっていく上で、自分が思ってもみない方向に進んでいくことに面白さを感じるのは、映画も音楽も似たようなところかもしれないです。

バァフ 最後になりますが、結成から5年経ちましたが、結成当初より何か変化は感じていますか?

甫木元 菊池はどう思っているか分からないんですけど、僕は何も変わらないです。(お互いの関係性も)本当にびっくりするほど変わっていないんですけど、僕がもう少し色々と進化できたら変わってくるのかもしれないですね。

『近頃』
配信中
〈IRORI Records〉

INFORMATION OF Bialystocks

3rdアルバムを今秋リリース予定。その後、アルバムを引っ提げた自身最大規模となるライヴハウス・ツアー『Bialystocks New Album Tour 2024』が10月20日〈Zepp Nagoya〉よりスタート。

 

【WEB SITE】
bialystocks.com
【X】
@bialymusic
【Instagram】
@bialystocks

@sora.hokimoto (個人アカウント)

【YouTube】
@Bialystocks

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