昨年末の『バァフアウト!』本誌での取材から間をあけず、吉川 愛への取材が叶った。前回のインタヴューでは、舞台『レイディマクベス』から得た経験や苦悩なども明かしてくれたのだが、この度〈Prime Video〉より世界独占配信される『Amazon Originalドラマ「僕の愛しい妖怪ガールフレンド」』に対しても、表現に辿り着くまでの悩みは大小問わず幾多にも折り重なっていたという。子役からスタートした十分なキャリアを持ってしても、安心や充足を得られることはない。どのような作品に於いても吉川が悩み考え続けるのはきっと、芝居に対する純粋な想いがいつまでも色褪せないからではないだろうか。口にするまでは複雑な心の内を微塵も感じさせない、気風の良さもまた魅力的である。
三木孝浩監督が手掛ける『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』は、ゲームオタクの大学生・犬飼忠士(通称・ハチ/佐野勇斗)と、ハチが唱えた呪文によって人間界に舞い降りた妖怪・イジー(吉川)との恋を描く、妖怪ファンタジー・ラヴコメ。500年越しの復讐を果たすためなら殺人も厭わないイジーは、とにかく本能的だ。しかし裏を返せば、駆け引きや打算など人間的な要素がないゆえに、何でも素直に反応し吸収していけるということでもある。吉川はそうした性質を的確に捉え、時になりふり構わず食らいつきながら、濃度高くイジーを立ち上げていた。
バァフ ストーリーの一部を拝見しましたが、制作総指揮、オリジナル脚本を手掛けたヤルン・トゥさん、ザック・ハインズさんによる海外視点から描かれる日本のカルチャーがユニークで、斬新な世界観がとても魅力的でした。台本をご覧になった時点でもワクワクする要素がふんだんにあったのではないのかなと感じましたが、いかがでしたか?
吉川 読み進めていてとても面白かったのですが、自分が演じるイメージや撮影方法、映像になった時のことを考えると、正直想像できなかったところも多々ありました。実際に撮影をしてみて「ここはこういう感じで映像が流れるのかな?」と、少しずつ理解できるようになりました。私が演じた妖怪・イジーの衣装がかなり特徴的だったので、街中でのロケも最初の頃は慣れませんでした。周りのキャストさんたちは、大学生役の方が多くカジュアルな装いなので、イジーだけすごく目立つんですよね。それも途中からは何とも思わなくなってきて、普通に洋服を着ている感覚で歩くようになりました。肌の露出が多い衣装だったので、真冬のロケはかなり寒かったです。
バァフ 寒さを一切感じさせない精悍な佇まいが素敵でした。イジーは一族の復讐を果たすという使命を抱え一心不乱に目的に向かっていきますが、先日最終回を迎えたドラマ『マルス-ゼロの革命-』で演じられた、いわゆる一般的な女子高生・貴城香恋とは全く異なるキャラクター性で、吉川さんの振り幅を実感しました。台本から読み取る難しさをお聞きしましたが、イジーへの理解をどのように深めていかれましたか?
吉川 イジーには復讐心を持った背景と目的がしっかりとあるので、役自体への理解はあまり難しくなくすんなりと入っていけましたが、人間界では使わないような言葉や独特な話し方をする役なので、そこをどう表現すればいいのか苦労しました。自分なりに作っていくしかないと思っていたのですが、結局クランクインの日になってもそこは定めきれなくて。初めて本作の映像を観た時に、「このシーンはクランクインの日に撮影したものだ」と自分の中では分かってしまうくらい、実はちょっとした悔しさも残っています。
バァフ 個人的には、吉川さんが主人公の声優を務めた『ラーヤと龍の王国』のように、一本筋が通ったカッコ良さと強さを携えている役柄の表現がとても好きで。今回のイジーもまさにで、加えて、周りのキャラクターとの掛け合いから生まれる新たな感情や気付きを、丁寧に表現されていると思うんです。妖怪としてのポリシーと人間的な反応のバランスを上手く取りながら。
吉川 ありがとうございます。仰ってくださったように、どこまで妖怪っぽくするべきなのか、どこまで人間味を出していいのかが分からなくて、安定させるまでは結構大変でした。でも改めて今振り返ってみると、ある意味では、例に出していただいた『マルス』の方が(キャラクターの)掴みづらさはあったかもしれません。(取材時)今も撮影中ですが、4話あたりからようやく掴めてきたような感覚なので……『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』は1週間もかからないくらいで役が定着してきた印象でした。とはいえ、何が一番大変だったかと聞かれたら、やっぱり台詞覚えかなと思います。私は難しい言葉が本当に苦手でなかなか頭に入ってこなかったので、お芝居云々の前にきちんと覚えられるのかがとにかく不安でした。
バァフ ちなみに、VFXを駆使したアクション・シーンも高度な動きが展開されていましたが、撮影に入る前からお稽古や練習はされていたんですか?
吉川 私が実演した部分は五分五分くらいだったので、そこまでハードに練習した感じではありませんでした。ですが、普段とは違う身体の使い方をするので、初めて基礎の動きを教えていただいた時は、2日間くらい全身が筋肉痛になりました。歩くスピードがものすごく遅くなって階段の登り降りも大変で。刀の持ち方を教えていただいただけでも筋肉痛になっていたので、「私ってこんなに動けないのか」と愕然としました。
バァフ しかもイジーの衣装を身に付けた状態だと、動きも変わってきそうですよね。
吉川 全く違いました。練習の時よりも思うように肩が上がらなかったですし、動きが制限されてしまうので慣れるまでに時間がかかりました。
バァフ 物語では、回を追うごとに心を通わせていくイジーとハチですが、一方で、復讐を成し遂げたいイジーと人を傷付けてほしくないハチ、それぞれが守り抜きたい“正義”の両立は不可能で、2人にも距離が生まれます。イジーの表情からも次第に葛藤が見え隠れしますが ハチと過ごす日々から少しずつ彼の想いがイジーの中に染み付いていたのかもしれないし、復讐自体にも疑念を持ち始めていた可能性もあって そうしたイジーの心情を吉川さんはどう受け止めていましたか?
吉川 自分にとっては当たり前だった物事を否定されたり、おかしいと断言されることって、受け入れがたいことじゃないですか。イジーは復讐に懸けていて、そのためには行程(復讐相手を探し殺していく)が必要なのに、それをダメだと取り上げられたら、どうすればいいのか分からなくなる気持ちはすごく理解できます。自分の成すべきことがあるし、ハチという大事な存在もいる。どちらを選択したらいいのか分からない複雑さはあるけれど、それもイジーにとっては必要な葛藤なんじゃないかなとも思いました。
バァフ 葛藤は決してマイナスなものだけじゃなくて、プラスに働く場合もあると。
吉川 はい。考え方を変える機会ができた瞬間だと思うので。イジーだけが正しいわけでもないし、ハチだけが正しいわけでもないですから。
バァフ 日頃から深く思考されている吉川さんらしい、素敵な考えですね。
吉川 自分が胸を張って続けてきたことを否定されたら、「じゃあどうしたらいいの」って、投げやりになってしまう自分も多分いると思うんです。誰しも自分を否定されたら辛いですし……。でも、その問題を解決できるかどうかは自分自身でしかないので、しっかりと考えて行動に移すことが結果的にベストだろうなと思います。
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Amazon Originalドラマ『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』
監督/三木孝浩
出演/佐野勇斗、吉川 愛/反町隆史、他
3月22日より〈Prime Video〉にて全8話を世界独占配信
【WEB SITE】
www.amazon.co.jp/dp/B0C8X1S2KQ
INFORMATION OF AI YOSHIKAWA
出演するドラマ『黄金の刻~服部金太郎物語~』が〈テレビ朝日〉系にて3月30日夜9時より放送。
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