JAN. 26 2024, 11:00AM
会話劇はともすれば内輪ノリにも転びかねないが、映画『違う惑星の変な恋人』は一貫して笑いを提供してくれる上質なエンターテインメント作品だった。描かれるのは、年齢も性格も異なる男女の恋愛群像劇。ドラマティックな出来事が展開されるわけでもなく、人間同士の距離感や気まずさが入り混じる“意味のない”会話が妙にリアルで、登場人物の誰もが一見まともなのだけど、紐解くほどにズレや人としてのダメさがこぼれ落ちてくるものだから愛さずにはいられない。
むっちゃんを演じた主演の莉子は、モデル業に加え俳優としての活躍も近年目覚ましいが、本作で魅せたシュールな笑いに終始するコメディエンヌぶりはとても新鮮で、新しい一面を目撃できたことを嬉しく思う。
バァフ 莉子さんは主演ドラマ『ブラックシンデレラ』、本誌・WEBにて公開中の『短期連載 PENTAXフィルム・プロジェクト部日誌』のゲストにご登場いただいたりとお世話になってきましたが、お会いする度に会話の楽しさを感じさせてくれる方という印象だったので、会話劇の本作は莉子さんにぴったりだと思いました。
莉子 本当ですか! すごく嬉しいです。
バァフ しかし今回は、シュールな会話の応酬や、莉子さん演じるむっちゃんが絶妙に空気が読めずシニカルに切り込んだりと、溌溂とした莉子さんのパブリックイメージとは大きく異なる姿でしたよね。
莉子 今回は役を作り込まないことを最初に自分の中で決めていたのと、台詞も覚えるけれど演じすぎない、お芝居感が出ないようにしようと考えていました。会話劇なので相手の方とキャッチボールをしていく上で生まれるものを映像にそのまま落とせたらなと。それこそ本読みも、私はモーさん役の綱(啓永)さんとだけ衣装合わせの時にたまたま2シーンくらいさせていただいたんですが、中島(歩)さんと筧(美和子)さんは撮影現場で初めてお会いしたんです。木村(聡志)監督は私たちに任せてくださる方だったので、かなり自由にお芝居させていただきました。
バァフ 受け答えの中にはアドリブのように見えた箇所が多々ありましたが、そのあたりも自由に?
莉子 話し始める時に自然と出てしまうような「あ、○○で〜」の「あ」とかも、実は台本に書かれていたんです。多分アドリブを入れても馴染んだと思いますが、細かい部分の口語も書かれていたのでナチュラルに会話ができたし、こちら側としても台詞が覚えやすくて。ページ数が多いシーンはさすがに不安でしたけど(笑)、いざ本番で演ってみると意外とスラスラ出てくるんですよね。今まで出演させていただいた作品は割と削ぎ落とされた台詞が多かったので、リアルな言葉ってこういうことなんだなと腑に落ちましたし勉強になりました。
むっちゃん、モーさん、ベンジーさん(中島)、グリコさん(筧)の4人って、現実世界にいそうでいないような、どこかファンタジーの世界に存在するような人たちなので、お芝居するにもそのラインを狙うのが一番面白いんじゃないかなと考えて。例えばむっちゃんは、決して喋りづらい人じゃないけど言動が不思議で人と少しズレている、若干厄介なにおいがする子だなっていうのが、ひと言しゃべるだけでも感じられるじゃないですか。それは蓋を開けて初めて見えてくる部分で、むっちゃんだけじゃなく4人が4人とも蓋を開けた瞬間「おや、何かおかしい人たちかもしれないぞ」と思えてしまうという(笑)。それがこの映画の魅力ですし、1人ひとりがすごく愛くるしい存在なんですよね。
バァフ モーさんの挙動不審ぶりもなかなかでした。むっちゃんとグリコが勤める美容室の店先で、終始傘を開いたり閉じたり(笑)。
莉子 あのシーンがクランクインでした(笑)。モーさんがなかなか店から出て行かないから、面白すぎて笑いを堪えるのに必死でしたもん。私、カメラが回ったら笑いは堪えられる方なんですけど、あのシーンはかつてないくらいに気合いを入れて挑みました(笑)。試写で完成作を観た時も本当に面白くて、久しぶりに映画館で笑いを堪えました。
バァフ それぞれの奇妙さが滲み出てくる中で(笑)、むっちゃんがベンジーさんに一目惚れをした瞬間が素敵でした。それまでのむっちゃんと地続きではあるんだけど、ベンジーさんに心を奪われている様が理解できる、ほんのわずかな表現の違いだと思うのですが。
莉子 出しすぎてもキャラクターっぽく作り込んだものになってしまうから匙加減が難しかったんですが、心の動きを表情に出すことは意識していました。意味を持たない会話のやり取りが基本的に続くので、台詞のテンションがずっと同じだと観ている方が飽きてしまうから濃淡を付けたり。そこはとても勉強になりました。
バァフ 世の中には様々な人がいて、分かり合えないことは時としてストレスでもあるけれど、気付きを得たり面白さを感じる瞬間もあるように思います。それこそ本作のタイトルじゃないですが、あまりにも自分とかけ離れた人と出会った時に「この人は異世界の人だな」と感じるけれど、もしかしたら自分も相手から同じように思われているかもしれなくて。そんな人間の可笑しみを、むっちゃんたちからまざまざと感じました。
莉子 そうですよね。私はこっちであなたはそっちだよねと心の中で線引きしていても、ある地点では重なっているかもしれないですし。同じ惑星に住んでいる人って少ないと思うんですよね。それこそ最近、性格を判断するMBTI診断とかが流行っていますけど、ジャンルは同じだとしても実際に自分とドンピシャ同じだって人はそうそういない気がしていて。私は小学生の頃からこの業界に入ったので、そういうのを子供の頃から感じていたように思います。ただ、根底にはどんな惑星の住人であろうと、人が好きで喋ることが好き、というのはあるんですけどね。人と関わることがとにかく大好きで。モデルの撮影現場とかでもヘアメイクさんやスタイリストさんとずっと喋っていますし、基本的にスマホを触るよりも誰かと喋っていたいんです。誰かと関わっていたい、楽しいことをしたいというのは昔から変わらないかもしれません。
バァフ 莉子さんが今一番楽しいと思えることは何ですか?
莉子 友達と会っている時ですかね。お休みをいただいたらどこかしら出かけて誰かと会いますし、かなり動き回るタイプです。周りの友達から「莉子が家にいることなんてないもんね」と言われるくらい活動的です(笑)。
バァフ 家で一人の時間をゆっくり楽しむ、みたいなことは?
莉子 全然、そういうのは午前中だけあれば十分です(笑)。家にずっといても何をしたらいいのか分からないので。
バァフ 出かけて、フィルムカメラで写真を撮って。
莉子 そうそう、友達とSNS用の動画も回して。大忙し(笑)。
バァフ (笑)充実されていて何よりです。本作は莉子さんにとってチャレンジングな企画で、俳優として得られたものも多かったかと思いますが、本作を機に何か新たな目標などは芽生えましたか?
莉子 大きな目標はないですが、表現の幅をもっと広げたいと思いました。去年は舞台に出演させていただいたり、ドラマでも演じたことのないようなテイストの役柄をいただいたりと自分の中に新しい引き出しが増えていった年ではあって。
元々、お芝居を始めた頃は楽しさが分からない状況だったので、数年前の私が心からお芝居を楽しんでいる今の私を見たら、本当にびっくりするだろうなと思います。
バァフ 楽しめなかったのはどういう理由があったんですか?
莉子 3年ほど前からお芝居を徐々に始めたんですが、そもそものやり方が全然分からなかったんです。いただいた台詞を覚えて現場に行くだけだったし、お芝居でも何でもない状態と言うか……何もできない自分がすごく悔しくて、そこからワーク・ショップに通って基礎を学びました。そうしたら段々と楽しさに変わっていったんです。私はモデルのお仕事からキャリアをスタートさせたので、別の人間になりきって怒ったり泣いたり、人を好きになったり、カメラの前で感情を出すなんてことはとてもできなくて。恥ずかしさの方が強かったです。
バァフ 意外だなと感じたのは、莉子さんはお話しをする時にいつも感情豊かにこちらに伝えてくれるので、普段のご自身の延長線上にお芝居があるのかなと思っていました。
莉子 それが全然そんなことはなくて(笑)。実際にお芝居を始めると、当たり前ですが、役者さんのすごさを思い知りました。ここ2年ほどは有り難いことにたくさん現場を経験させていただいて、その1つひとつが濃い経験となっているので、お芝居を楽しめるようになった自分を褒めながらさらに頑張っていきたいです。
©「違う惑星の変な恋人」製作委員会
『違う惑星の変な恋人』
監督・脚本/木村聡志
出演/莉子、筧 美和子、中島 歩、綱 啓永、みらん、村田 凪、金野美穂、坂ノ上 茜
1月26日より〈新宿武蔵野館〉、〈UPLINK吉祥寺〉他にて全国順次公開
【WEB SITE】
chigawaku.com
INFORMATION OF RIKO
出演する『ドラマプレミア23「SHUT UP」』 〈テレビ東京〉他、『連続ドラマW-30「アオハライド Season2」』〈WOWOW〉他がそれぞれ放送中。
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