NOV. 6 2023, 11:00AM
凛とした様から漂う心地良い緊張感とメロウなムード。相反するものを空間に同居させ、掴もうとしてもするりと手から抜けてしまうような独特の浮遊感の持ち主である古川雄大の撮影は、まるで徐々に変化する水面のようで、いつまでも見ていたくなるほど惹き付けられた。そんな彼が挑む次なる作品は、〈帝国劇場〉にて念願の単独初主演を飾る、ミュージカル・ピカレスク『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』。その素顔は謎に包まれ、様々な人物に変装し金持ちを相手に盗みを働く怪盗、アルセーヌ・ルパンを演じる。本作はフランスの小説家、モーリス・ルブランの『怪盗ルパン』シリーズを下敷きに、脚本・歌詞・演出を手掛ける小池修一郎の自由な創造性によって、ルパン、令嬢クラリス、魅惑的な美女・カリオストロ伯爵夫人、さらにはシャーロック・ホームズといった著名なキャラクターたちが集結し、華やかな冒険活劇ロマンへと仕立て上げられる。それだけでも十二分に心は躍るが、前述したように実体の掴めない古川の姿にはどこかルパンの影を重ねてしまい、早くも期待は高まるばかりだ。
真摯さの狭間で時折顔を出すユニークな古川の人柄にも魅了されながら(本人が意図していないのもまた良かった)、作品や表現者としての在り方について話を進めた。
バァフ お稽古の様子はいかがですか?
古川 (取材時)今は2幕の半分ぐらいまで組み立てていますが、すごく順調ですしオリジナル作品として面白いものが出来上がっている感覚があります。振り切った内容で、〈帝国劇場〉ではなかなか観たことのない作品になる気がしています。僕が演じるアルセーヌ・ルパンの生き様、そして彼と関わっていく個性豊かな登場人物たちとの交わり。ルパンは様々なキャラクターに変装するのも見どころですが、柚希(礼音)さん、真風(涼帆)さんが演じるカリオストロ伯爵夫人が、男装をするのも面白いポイントで。「こんなことをやったら面白いんじゃないか」という小池(修一郎)先生の豊富なアイデアを全部詰め込み1つのストーリーに繋げた、エンタメ性にとても優れた作品になるだろうなと思います。
個人的には〈帝国劇場〉で単独初主演をさせていただけることで、また1つ自分の目標に辿り着けたのだなという喜びが大きいです。新作を作る上でのプレッシャーと言いますか、皆さんにどう評価していただけるのか?など様々な不安も感じてはいますが、初演を経てこの後も再演を繰り返されるような作品になれることが目標です。
バァフ 台本を読まれた当初とお稽古で掘り進めていく上では、ルパンの人物像の捉え方に変化はありましたか?
古川 原作小説のルパンには、所謂、皆さんがイメージされるようなアニメのルパン像と近い印象を受けていました。なので、最初の本読みの段階でも自分のイメージ通りのものを演じてみたのですが、「もうちょっとクールでニヒルなルパンを作ってほしい」とのことで。
バァフ アニメのルパンとなると割と軽やかな印象ですが、古川さんの当初の表現としてはそういった方向性を?
古川 そうですね。設定的に言うならば、ルパンは自由に生きていて恋多き男で変装の名人でもある。そこは大元として原作などにも通ずるところですが、今回の表現としては、ニヒルでクール、そしてユーモアがありながらも飄々といろんなことをやってのける姿を求められていて。そこは、稽古に入ってから感じたルパン像の大きな違いでした。
お金持ちから盗みを働く彼の行い自体は“悪”ですが、弱き平民たちの味方で お金持ちから盗んだものを平民にばらまいている背景があるのですが ヒーロー的な見え方というのは、原作よりも濃く描かれていて。だけどルパンを“良い人”には描かないギャップ、それも本作の面白さの1つだなと思います。
バァフ 表層的にはルパンは謎めいた人物ですが、平民に財を分け与えたり、クラリス(真彩希帆)との関わりの中でルパンの人間味が徐々に浮かび上がっていきます。ただそういった部分が見え過ぎても、今回求められているようなルパン像は崩れてしまいますよね。バランスはどのように取られていますか?
古川 自分(ルパン)の背景を好きになったクラリスに対して正直に自身のことを話していくシーンがあり、どうしても人間味が感じられるポイントではありますが、あえて淡々と喋っていくことで彼の内側が見えすぎないようにセーブする感じでしょうか。平民に対しても同じで、彼らからはヒーローと称えられる存在だけど、自由気ままにクールに生きている姿が人々にとってはヒーローに見える、みたいなことなのかなと。
バァフ そうしたキャラクターの要素としては、古川さんが初めて触れる役柄だったりするのでしょうか。
古川 1人の人物が変装して様々なキャラクターになることも含めると、あまり僕が経験したことのない役になるのかなと思いつつ……でも冷静でクールな人間、みたいなところで言えば、(『エリザベート』の)トート役、(『黒執事』の)セバスチャン・ミカエリス役とか、彼らとも少し通ずるものはある気がします。
今回の舞台はルパンの姿として存在していることが割と少ないので、劇中劇じゃないけれど、何かの人物の皮を被っているルパン、という風に見えてくる。だから、“○○ぽく見える”でいいのだと思いますし、役作りをしてリアルに誰かを演じてしまうと逆に面白くなくなってしまうので、誇張した表現にしなければいけなくて。どれだけいろんな方向へ振り切っていけるのかを目下探っているところです。
バァフ リアリティを持たせるのではなくて、あくまでもルパンが何者かに扮していることを見せる表現の追求なのですね。
古川 はい。きっと誇張しすぎても面白くないでしょうし良い塩梅を狙いながら。全体のバランスも考えたら、それぞれが似たような人物にならないようにしたいなと思うんですけど、声を切り替えたりしていくとやっぱりどこか似てきてしまうところも出てくるんですよね。
バァフ その絶妙なラインを狙う作業は難しいなと思いながらも、俳優として突き詰めていく、挑戦できる心地良さも感じられていますか?
古川 とてもやりがいがあります。観ていただく方に「おっ!」と思ってもらえる、驚きなのか、楽しさなのか、何かしら心を動かしていただけるような表現を追い求められることもそうですし。それから、稽古を進めるほどに、「主役」としてのプレッシャーをしみじみ感じています。
バァフ 主にどういったところにプレッシャーを感じられているのでしょう?
古川 主役っていろんなことをやるのだなと……当たり前なんですけど(笑)。
バァフ ご主演経験の多い古川さんからその言葉を聞くのは意外でした(笑)。
古川 そうなんですよね、でも何だか改めて感じました(笑)。今回だと、演奏をしたり、ダンスや殺陣、恋愛、変装も女装にチャレンジしたりと盛りだくさんなので、行動や感情の表現も目まぐるしく変化しますし、主役の重み、任せていただける意味みたいな部分も実感しています。作品に限らず主役を重ねることへの慣れも一切ありません。少しずついろんなものを吸収していく中で、現場の作り方に関しては以前の自分よりも多少良くなってきているはずだとは思いますが。再演作となるといつもよりは若干肩の力を抜ける感覚はあるものの、今回のように新作かつオリジナル作品で、誰もまだ観たことのない世界に携わらせていただくとなるとプレッシャーは増しますね。それでも、いつも以上に楽しもうとはしています。真面目になりすぎると表現としてはつまらなくなってしまうと思うので、時と場合によりますけど、ふざけられる部分はとことんふざけて。そういう風に現場を明るくしていかなければ面白いものは生まれないのかなと思います。口では簡単に言えるのですが、僕は(一方向だけを見る仕草をして)こうなりそうな瞬間が結構あるので、「危ない、危ない」と軌道修正するようにしています(笑)。無理矢理にでも崩していく必要があって。と言うのも、1つの方向に集中してしまうと、その日1日の芝居が本当にダメなものになるんです。
バァフ 古川さんの実直さの表れでもあるように感じますが……。
古川 う〜ん、ダメなところなんですよね。個人的にはそこを早く克服したいです。
バァフ 先ほど「初演を経てこの後も再演を繰り返されるような作品になれたら」と仰っていましたが、いかに日本のオリジナル作品を生み出し、繰り返し上演される作品を残せるかといった想い、しかもまだ初演も始まっていないタイミングで考えられているのが素晴らしいなと思いました。以前、山崎育三郎さんにお話を伺った際も同様の想いをお聞きしたのですが、ミュージカルや舞台界を牽引される方々としては、そういった使命感みたいなものを常にお持ちなのでしょうか?
古川 ありがたいことに僕の場合は、素晴らしい物語や曲たちで紡ぐ、皆さんから求め続けられている人気作品と出会ってきたんですよね。作品の魅力に触れた時に「だから長く続くのだな」と腑に落ちましたし、僕もそうした作品に携わりたいと強く思いました。継承されている作品を例に出すと、『モーツァルト!』の主役・ヴォルフガング役が4代目(古川)まで続いているように、『ルパン』も僕だけがずっと出演し続けるのではなく、「この役を演じたい」と思う俳優が現れて、受け継いでくれたら嬉しいですし。『モーツァルト!』に出演することを目標にしていた、いつかの僕のように。それが、「これからもミュージカルを頑張ろう」と思える大きなモチヴェーションにもなっていますね。今は必ずしも歌の経験がなくてもミュージカルに出演できる時代なので、自分にできることをしっかり見つめていかなければと考えています。だからと言って、僕が先陣を切ってこの界隈を引っ張っていくぞ、みたいな気負いはそんなになくて。
バァフ 映像作品を例に挙げると、直近ではドラマ『Dr.チョコレート』、『ハヤブサ消防団』などで演じた古川さんの役がとても話題になっていました。ドラマ、映画と舞台に留まらずお芝居のフィールドを広げていく中で、ご自身の物作りに対する変化は何か感じられていますか?
古川 僕は「ダンスをやりたい」という漠然とした想いから表現の世界に入って、いろんなものに興味を持つ過程で俳優にも興味を持ち、今があります。だけど、プロ意識みたいなものが強くなっていくと同時に、楽しむ気持ちはどうしても減っていきます。仕事を始めた頃の方が、純粋に楽しむ気持ちは強かったのかなとも思いますね。
バァフ 先ほど仰っていたような、目の前のことに集中しすぎてしまう理由も?
古川 そうなんです。だから自分でも未だに探っている状態で。個性は作るものじゃないけれど個性的でありたいし、なるべく自然体な自分がオリジナルであってほしいんですよね。でも、自然体をあえてやろうとしてしまう節もたまに出てくるので、そういうのを削ぎ落とす作業も必要で。
バァフ クセの強いキャラクターを演じた場合、俳優さん自身にもしばらく色が付いてしまう時もあるじゃないですか。例えば朝ドラ『エール』で演じられた、通称・ミュージックティーチャー(御手洗清太郎)は、放送の度にSNSのトレンドに入るほどインパクトのある役で、今も古川さんを見て思い浮かべる方も多いかと思います。長く愛される役を全うされたことはとても素敵ではあるのですが、ご本人的にはイメージを塗り替えたい、枠を超えたいみたいな想いはあるのでしょうか?
古川 昔の作品を覚えてくださっていることはとてもありがたいですし、払拭しようみたいな想いはないですが……だけど確かに、他の役を演じていて「ミュージックティーチャーっぽい芝居だよね」と言われたらちょっと嫌ですね(笑)。そうか、ショックに思うってことは払拭したいのかな。どう思います?
バァフ (笑)でも、受け取り手の印象と出力する側の想いが完全に一致した時は気持ち良いでしょうね。それに、ミュージックティーチャーのようなキャラクターを演じられる方は限られると思うので、「似た要素のキャラクターだけど古川さんなら素敵に演じてくれるのでは」と期待を込めてオファーされることもあるでしょうし。そうした中で、新たな役柄に触れた時の新鮮な感覚ってどんどん失われていくと思うのですが、古川さんはどういう風に乗り越えていらっしゃいますか?
古川 先ほどの話とも少し重複しますが、何も考えず、時にめちゃくちゃふざけて芝居してみることもアリなんじゃないかなと最近思っていて。大失敗したけどすごく良い方向に芝居が転んだ体験がきっかけなんですけど。失敗って、なかなかしないようにするじゃないですか。でもそこを避けてしまったら引き出しが増えていかないんじゃないかと危機を感じて。以前の僕だったら、ふざけている人を見たら「真面目にやってよ」と思っていたんですけど、最近は「きっとふざけることで何かを探しているのだろうな」と考えられるようになったんですよね。共演経験のある成河さんとかも、すごくふざけるんです(笑)。そういう風に見せているだけかもしれないし、成河さんのオリジナル・ブランドだなとも思いますが(笑)、やっぱり何かしら可能性を広げたり吸収しようとされている気がして。つい真面目に安パイにいきがちだからこそ、失敗を恐れず楽しむ気持ちは忘れずにいたいです。
コート(88,000yen)、カットソー(26,400yen)、パンツ(46,200yen) / 以上、MAYKAM(info@maykam.jp)
ブーツ(106,700yen) / N.GW/HITMAN(PRESSROOM tel.03-3481-5966) ※すべて税込
ミュージカル・ピカレスク
『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』
脚本・歌詞・演出/小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演/古川雄大、真彩希帆、黒羽麻璃央(東京公演のみ)/立石俊樹、加藤清史郎、勝矢、小西遼生、柚希礼音(東京・名古屋・大阪・福岡公演のみ)/真風涼帆、他
11月9日〜28日〈帝国劇場〉、12月7日〜20日〈御園座〉、12月29日〜24年1月10日〈梅田芸術劇場メインホール〉、1月22日〜28日〈博多座〉、2月8日〜11日〈ホクト文化ホール 大ホール〉にて上演予定
【WEB SITE】
www.tohostage.com/lupin/index.html
INFORMATION OF YUTA FURUKAWA
放送中の『ドラマ10「大奥」season2 幕末編』に出演。
【WEB SITE】
www.ken-on.co.jp/furukawa
【Instagram】
@yuta_furukawa_official