CULTURE

「“第1章終結”みたいな感覚」。さとうほなみが次なるステップへの前触れを感じた、主演舞台『剥愛』との出会い

OCT. 23 2023, 11:00AM

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撮影 / 水津惣一郎
スタイリング / 中澤咲希
ヘア&メイクアップ / 野中真紀子
文 / 多田メラニー

主演舞台『剥愛』と出演する映画『花腐し』が11月10日の同日に上演・公開される、さとうほなみ。奇跡的な重なりではあるが、彼女は今、主演のみならずバイプレイヤーとしても数多くの作品に出演し、記憶に焼き付ける芝居で視聴者を魅了している(同時進行で、所属するゲスの極み乙女のドラマー【ほな・いこか】としても活躍しているのだからヴァイタリティの凄さには目を見張る)。久しぶりに会い、インタヴューの終わりには「この後に控えている作品もどんな反応をしてもらえるのか楽しみ!」と愛らしい笑顔を見せてくれたが、彼女の躍進はまだまだ続くようだ。

 

そんなさとうが、「何かがスタートするというよりも“第1章終結”みたいな感覚を、プロットを読んだ時に抱きました」と語るのが、冒頭で紹介した主演舞台『剥愛』だ。描かれるのは、死後の動物の皮を剥ぎ、防腐処理をすることによって生きていた姿に復元する“剥製師”の工房を舞台に、登場人物それぞれの正義を巡る物語。

 

挑む上では、蓋をしてきた自身の過去と向き直る必要もあるのだと覚悟も滲ませる。本作はさとうのキャリアに、延いては人生に、どのような変化をもたらすのだろうか。

強制的に濁ったものに目を向けさせられる状態はどうしたってしんどい

バァフ 『剥愛』に臨む上で、「この作品をクリアしないときっと前に進めない」とお話しされていましたが、具体的には本作のどのようなところが、ご自身にとって「前」と「後」を示すと思われたのでしょうか?

さとう 元々、(脚本・演出を手掛ける)山田佳奈さんの『タイトル、拒絶』がすごく好きだったこともあって、佳奈さんとは以前からご一緒したい想いが強かったですし、今回初めてお会いしてお話しをしていても、“家族”に対する佳奈さんご自身の感性が面白いなと感じていました。『剥愛』は片田舎を舞台に、現代ではあまり需要がなくなってしまった剥製師の仕事をしている父、剥製工房に住む家族たちや来訪者などの関係性みたいなところが物語としても惹かれましたし、私が演じる菜月にも愛着を抱いたと言いますか、少し似ているような部分もあるような気がして。思い立ったらすぐに言葉や行動に移してしまうようなところであったり。菜月は「こうあるべきだ」と頑なに意思を持つ人物であって、私も全く同じというわけではないんですが、何だか分かるなと感じたんです。凝り固まっている何かがあるゆえの発言や行動に共感を覚えたんですよね。菜月を演じさせていただけるのだとしたら、きっと自分の中にあるものが1つ終結する。そんな感覚がふわっと降りてきた。何かがスタートするというよりも、“第1章終結”みたいな感覚を、プロットを読んだ時に抱きました。

バァフ これまで経験した他の作品では、終結に至るまでにはならなかった?

さとう もちろん今までの役も個性のある人物であったり、どれも好きな役ですが、私とは別人で。色々と考えていく中で『剥愛』に関しては、菜月と自分がリンクしてしまうような部分が感性として少し出てきた感じなんですよね。

バァフ 今まで以上に近しさを感じたからこそ終結できるってことなんですかね。もしかしたらここで点を打てるのかもしれない、と。

さとう ふんわりとそんな感じがしています。もし打てなかったとしても期待外れってことは全然なくて。ただただ純粋に、菜月を演じたい想いではあります。

バァフ 現段階ではまだお稽古前ですが、菜月をどのように創り上げていくのか、具体的に何かイメージはされていますか?

さとう 彼女が背負ってきた過去や現状も含めて、そういうものは理解していこうかなとは思っているんですけど、「演じる人物がこういう行動をするだろう」みたいな意識はどの作品にも持っていかないので、現場に入ってからになると思います。

バァフ 舞台は、以前ご取材させていただいたブロードウェイ・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(’22)以来、さとうさんにとって久しぶりの会話劇ですよね。

さとう そうなんです。『ヘドウィグ』、そして『カノン』(’21)も現代の日常生活を描いた内容ではなかったので、今回みたいにリアリティのある会話劇、かつ「もしかしたら本当にこの家族はどこかにいるのかもしれない」と感じさせる、物語に対する緊張感みたいなものはあります。だけど、『剥愛』のために揃った役者さんたち、そして佳奈さんに対しては、初めてご一緒するけれどとても信頼のある人たちだなと私は感じているので  唯一、岩男(海史)くんとは共演経験があるんですけど、彼にも絶大な信頼を置いているし、仲良くさせていただいている役者友達で。芝居に関しての不安は全くないですね。

バァフ 心を預けられる誰かがいる環境だからこそ表現の広がりもありそうですね。プロットを拝見したのですが、菜月が周囲の人を口撃する度、例えば父親からは「女の幸せを逃した社会不適合者」と罵られたり、妹からは「被害者のフリをした加害者」などと言い放たれるじゃないですか。確かに彼女は奔放で本能に任せて生きてきたとはいえ、失うものは何もないというエネルギーに満ちた人ではないはずだし、菜月なりに後悔したり傷付いてきたはずで。心のしこりが肥大していくにも関わらず、それでも彼女はなぜ家族の前で取り繕ったり、自分の生きやすい形へと変えなかったのだと思いますか?

さとう 全体的にこの家族は生きるのが下手くそな人たちの集まりなんですよね。物語の核として「何が正義で何が悪か」がテーマにあるのですが、それは個人によって違うと思うし、『剥愛』の中でもどう転がっていくかは、まだ脚本が半分くらいしか届いていない段階なので明確に見えているわけではないんですけど、みんな自分のことが正義だと思って生きているのだろうなとは考えていて。過去の出来事によって母親が出て行ってしまったトラウマみたいなものを、菜月も妹も、そして父も抱えていて。で、菜月はそれが嫌で家を出て行ったのに、新しく自分で作り始めた世界も全部剥奪されて、壊れてしまう。その結果、すごく嫌だった実家に戻るしか選択肢がない状態で。菜月が出て行ってから戻るまでの期間って、おそらく何年かあるんじゃないかなと思うんです。菜月がいなかった間の家族たちにとっては、ある種平和だったのだろうし、各々が腹に抱えているものはあるけれど、相手に見せようとせずに過ごしてきた。それなのに菜月が帰ってきてしまったことによって、また自分の卑しい部分とか、やましい過去などを見つめ直さなきゃならなくなって。

これは佳奈さんがお話しされていたことでもあるんですけど、沈殿物というのは掻き回す者がいなければずっと沈殿したままの状態だと。沈殿物が沈むちょっと濁った水の上の方をずっと見続けて生きてきた家族のところに、沈殿物を掻き回す菜月が現れちゃったから、また向き合わなければいけないものが出てきてしまった。さらに、山中(聡)さん演じる男が現れて、彼もまた沈殿して埋まっていたものを掘り起こすような人だから、強制的に濁ったものに目を向けさせられる状態はどうしたってしんどいと思うんです。それゆえに、みんながみんな自分を曲げるわけにはいかないんだろうなと。そういう生き方を選んでいるのは何も菜月だけじゃなくて、変わっていくものも変わらないものも、核としては全員が持っているのではないかなと思います。

バァフ 沈殿している間は表層的に上手く家族の形を保てていたから、きっかけがなければ一生そのままだったかもしれないですよね。じゃあ沈殿物が上がってきたことが必ずしも悪いことかと言えば、それはまた違うかもしれないし。やっと向き合える時が来た、じゃないけど。

さとう 沈殿していた時期も辛かったと思うんですよ、きっと。溜まったものを発散させるところがないし、お互いに何かを抱えていると分かっているのに、絶対に触ろうとしないってすごく気持ち悪い状況なはずで。掻き回されること、見たくないものを見ることって本当に辛い作業だろうし。どういう選択をしたってしんどいだろうなとは思うんですけどね。

バァフ 自分が蓋をしてきた過去や苦い経験を引っ張り出すことは、時として俳優さんたちにとっても必要となる作業だったりするのかなと思いますが、さとうさんもご経験はありますか? どうしてもこの蓋を開けなければ、目指している表現には到達できないかもしれない切迫感というか。

さとう 『剥愛』で言うと、私は開けなきゃいけない蓋みたいなのが結構多くて。具体的な部分はあまり言わない方がいいかなと思いますが、すごく覚悟しているところでもあります。

バァフ だからこそ、本作が自身の終結だと感じられたのかもしれないですね。それから、出演された映画『花腐し』についても伺わせてください。廃れていくピンク映画業界で生きる映画監督・栩谷(綾野 剛)、脚本家志望だった伊関(柄本 佑)、そして2人が愛した女優・祥子(さとう)の人生が交錯する物語でしたが……さとうさんから見て、祥子は幸福を感じていたと思われますか? と言うのも、栩谷と伊関、人間性も全く異なる2人の前では祥子の見せる表情や佇まいも異なるのですが、彼女の純真さが徐々に削られていってしまう様子は、どちらの前でも共通してあって。第三者が幸せ、不幸せと決めつけるものではないけれど、どうしても祥子は2人に身を捧げるような生き方をしているように見えたので、彼女自身の幸福のために何かをしたり、生きることはできたのかなと。

さとう そう仰っていただけるとすごく嬉しいです。そうだなぁ、でも祥子は確かに幸せを感じていたと思います。作品が違うから比較することでもないんですけど、菜月と祥子は真逆な人じゃないですか。『花腐し』の取材で何度か祥子の印象について答える時があったんですが、私的にあの子は、核を持っているようで持っていない人物だと思っていて。頑固ではあるけど流されやすかったり、ちゃんと噛み砕けていないままに人の意見を取り入れたりする。だから仰っていただいた、その人に捧げているような生き方みたいなことに結果的にはなってしまっているのだろうなと感じました。なので、とてもありがたい感想です。

祥子が若い頃にお付き合いしていた伊関さんとは付き合った年月も長くて、結婚や子供のことを考えたり、女優の夢を諦めなければいけないんじゃないかと迷い始めている時期で。でも映画の後半になってくると、その想いが真逆になる。それが『花腐し』の面白さですよね。詳細な内容は言えないのでぜひご覧いただきたいですが……例えば、身体の変化であったり、女性にとってはすごく理解できるお話でもありますし。演じていて、この関係性が辛いなと感じるところもあったりはしたんですが、現実を生々しく描いてくださったからこそだと思います。

バァフ 7月期のドラマ『彼女たちの犯罪』で演じられた翠(死に場所を求め彷徨っていた人物)や、『花腐し』の祥子。彼女たちは何か間違いを犯したり人生を踏み外してしまったような人物ですが、さとうさんが普遍的な部分をしっかりと表現して見せたことで、作品を受け取る側も特別視することなく、共感性の高い役柄だったように思います。おそらく『剥愛』の菜月もそうなるのではないかなと。所謂、生活感とか、小手先では表現しきれない普通っぽさにも毎回グッときているのですが、それにしてもさとうさんはこういった役柄が続いていますよね。

さとう 確かに情報だけ抜き取ったら、「死にたがっている人」とか小難しい人間に見える気はするんですけど、幸せに暮らしてきた人だって頭をよぎってしまう可能性はあるはずなんですよね。『花腐し』に関しては祥子という存在が消えてしまったところから話が始まるので起こった事実も情報としては入れていますが、男性2人と祥子の関係性を映し出した映画だからこそ、綾野さん、柄本さんとのその場の空気感を画面にそのまま映し出すことを意識していました。彼女たち(演じる役柄)にも普遍的な日常がある。どんな背景を持ち、どういう人たちと関係性があってどういう人物像なのかがはっきりすれば、表現しようとしなくてもその役の生活感みたいのものが見えてくるのだと思います。でも考えたら、今年は特に“謎多き女性”みたいな役が続いていましたね。それも最初は分からなくて、蓋を開けたら謎が多かった感じなんですけど(笑)。なんか、ちゃんちゃらハッピー!って雰囲気の役もやってみたいですよね(笑)。

ワンピース(64,900yen)、シューズ(51,700yen) / 共に、TELA(T-square Press Room tel.03-5770-7068) ※共に税込

□字ック第十五回本公演『剥愛』
脚本・演出/山田佳奈
出演/さとうほなみ、瀬戸さおり、山中 聡、岩男海史、柿丸美智恵、吉見一豊
11月10日〜19日〈世田谷パブリックシアター シアタートラム〉、11月22日、23日〈穂の国とよはし芸術劇場PLATアートスペース〉、11月25日、26日〈扇町ミュージアムキューブ〉にて上演

 

【WEB SITE】
www.roji649.com

 

INFORMATION OF HONAMI SATO

出演する映画『花腐し』が11月10日より公開。〈Amazon Prime Video〉にて世界独占配信中の映画『次元大介』にも出演。ゲスの極み乙女として、『COUNTDOWN JAPAN 23/24』の12/31公演に出演。

 

【WEB SITE】
www.watanabepro.co.jp/mypage/20000051

【Instagram】
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【X】
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さとうほなみサイン入りチェキ(2名様)、
サイン入りバァフアウト!ステッカー(1名様)

 

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