CULTURE

出演する映画『スイート・ホーム』から家族の話、はたまた「人生攻略」についてまで、窪塚洋介が語り尽くす

AUG. 30 2023, 11:00AM

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撮影 / TAKA MAYUMI
ヘア&メイクアップ / 佐藤修司(Botanica make hair)
文 / 堂前 茜

相変わらず、心地いい風を纏って現れた窪塚洋介。出演する映画『スイート・マイホーム』の取材日、複数媒体によるどんな質問にも惜しみなく答えている姿を見ていると、「与えるからこそ与えられる」といった言葉が浮かんでくる。というのも、彼の昨今を見ていると、俳優としての活動はもちろん、『YouTube』で『今をよくするTV』(「コドナの社会見学」と称して体内環境や地球環境を良くするために活動するスペシャリストの元を訪れる番組)をやったり、趣味のゴルフに投じる様子を発信したり、『Instagram』で大勢の仲間たちと楽しそうに飲んでいる様子や家族と過ごす姿をアップしてくれたりと、羨ましいくらいに充実した日々を送っているように見える。前向きなことの裏には人知れずの苦労もあるはずだが、窪塚洋介が放つ陽気な気前の良さみたいなものをいざ目の前にすると、自分が得た見識を羽ぶりよく外に出し、それを大勢の人と共有しようとしてくれる精神の持ち主だからこそ、人は集まるのだし、気持ちのいい空気が彼の周りを循環しているのだと納得する。空気を澱ませないようにするのはひとえに自分次第だ。

 

空気の循環の話と強引に結びつけるつもりもないが、淀んだ精神には淀んだ空気が漂う、その怖さを体感させてくれたのが、映画『スイート・マイホーム』だ。「まほうの家」と謳われ、地下の巨大な暖房システムで家全体を温めてくれる「念願の一軒家」を購入した清沢賢二(窪田正孝)は、妻のひとみ(蓮佛美紗子)と幼い娘たちと、極寒の地でも快適に暮らしていた。しかし、ある不可解な出来事をきっかけに、周囲で変死事件が起こり始めるなど、不穏な空気が家族を包み込んでいく。窪塚はそこで、誰よりも早くその家のヤバさに勘付く賢二の兄、聡を演じた。「監視の目」に怯えながら実家で引きこもりのような生活を送る聡だからこそ気付けたこととは? 俳優でもある齊藤 工監督が抉り出したのは、人間に巣食う底知れぬ欲望と絶望だった。

結局は初めにマインド、心ありき。言葉ありきだったら言葉をそうすればいいし、心ありきだったら心をそうすればいいと思う

—— 完成した映画をどうご覧になりましたか?

窪塚 「人間って怖いな」というか、歯止めが利かなくなった人間の怖さを、誰にでも起こりうる距離感で描いているのがまた怖いんですよね。要は「自宅でこんなことが本当に起こるの?」ということがリアリティを持って迫ってくる。人間の欲望の向こう側、なれの果てみたいなものを描いている作品です。お化けが怖いとか暴力が怖いとか、そういうことはみんなあると思うけど、結局は自分の中やそれぞれの人の中にある心のあり方、それが一番怖いのを上手く表現されていたなぁと。

—— 清沢 聡という役はいかがでしたか?

窪塚 普段演じることが少ない、いや、ほとんどないタイプだったので、脚本を読んだ時に「すごく面白そうだな」と思いました。こういう人間を俺だったらどう演じるのかな? この作品の素材としてできることがあるかな?と楽しみな反面、どこまでどういう風にやったらいいんだろう?という怖さは正直ありました。だけどそれは今回、齊藤監督に委ねました。初日に、自分が思っている感じでやるけど、「その方向じゃない」、「そういうことではない」のであれば、どんどん言ってね、と伝えてから最初のシーンを撮ったんです。さじ加減は彼に任せて、不安を拭った上で、やるべきことをやりました。

—— 「齊藤監督の演出の仕方がとても心地よかった」と窪塚さんはコメントされていました。

窪塚 はい。やっぱり(齊藤監督は)演者でもあるので、演者の気持ちを理解できるじゃないですか。かつ、映画が好きで、裏方として、監督という立ち位置で、スタッフの気持ちもよく分かっている。そのバランス感覚や現場にいる時の自然体な感じが心地いいんです。そういう風に現場に「いる」ことだけで、演者側にもスタッフ側にもいい影響を及ぼしていた気がします。あとはくしくも、僕も好きな腸活の話、例えば微生物や発酵、そういうものに興味がある人なので、実際、腹巻きを現場でみんなに配っていましたね。みそ汁がいつも現場にあったりと、みんなの腸内環境を考えてもくれました。そんな現場、これまでなかった。話は飛びますけど、ロック・ミュージシャンもヒップ・ホッパーもクラシックをやっている人も、そして俳優も、分け隔てなく腸が大事なんですよね。アメリカ人もブラジル人も日本人も、宇宙人も。そんな、根本的なポテンシャルを上げる、パフォーマンスを上げるベースにも着眼して現場を作ってくれたのが齊藤監督で。俺なんかこうやって言っているだけ。現場に落とし込む作業は個人ではできるけど、プロデューサーたちにかけ合って現場でちゃんと形として落とし込むことまではできないから、そんな姿も素敵だなと思いましたし、安心感もありましたよね。

—— 齊藤監督とは元々交流が?

窪塚 初めて会ったのは〈Indeed〉のCMでした。その時からの縁で、『LINE』をするようになったり、俺がやっているYouTubeの『今をよくするTV』に対してレスポンスをくれたり。「僕も本当にそう思います」、「知れて良かったです」みたいなコメントをくれて。

—— 先程、どこまでやるかは齊藤監督に委ねた、とおっしゃいましたが、例えば聡がどもりながら話したりするその塩梅だとか、長めの前髪から見える目がギョロギョロ動いたりするだとか、そういった細部も齊藤監督がさじ加減を調整してくれたんですか?

窪塚 自分がそういった芝居を提案して、微調整してくれた感じですかね。観終わった後、「ちょっとやり過ぎたかな」という気がしなくもないんだけど、初日の時点で「ここは任せるね」と齊藤監督に伝えてから始めたことなので、その辺は振り返らないでいいかなぁと。

—— 聡は「あいつに見つかったら終わりだ」と「あいつ」を警戒して怯えていました。演じている時、窪塚さんは脳内で「あいつ」をどうイメージしましたか?

窪塚 具体的に姿があってってことじゃないですけど、置き換えて言うと、例えば僕、20代前半とかにマスコミ、いわゆるマス・メディアのパパラッチ的なのを気にするがあまり、「全員がそう見える」と感じていた時があって。何も気にならなければいいけど、「あれ、なんかあいつ、怪しいな」と思い出すと、「いや、この人も怪しい」と疑心暗鬼に全員が怪しく見えてしまうことがあったんですよ。ある意味そういう感じのイメージがあったというか。実態はないけど、でも社会ってそうじゃないですか? 「社会さん」って人はいないから、「みんな」の総称を「社会」と言っているのと同じで、「あいつら」と聡が言っている時、特定の人は指していないんじゃないかなと思います。セリフでは「〜ら」と言っていますが、ばらつきはあったんです。最初は「あいつら」で時々「あいつ」と言ったりして。「これ、統一した方が良くない?」と言ったけど、「しなくていい」ということで。漠然とした暗闇みたいなものを「あいつら」と言う時に感じていたんじゃないかなと思います。

—— 周りの人たちは、家族も含めてですが、聡が何かおかしいことを言っている、くらいの受け止め方だったんじゃないかなと思います。そういった意味で、聡はずっと孤独の中にいたと思いますが、窪塚さんも、表現者として孤独を感じることはありますか?

窪塚 生きていくこと自体が孤独な道のりで。だけど孤独な人たちがいっぱい集まってきて、手を取り合ったり支えたり、蹴落としたりもしながら生きるのがさっき話した社会なのかなと思うと、別に表現者、役者だけが矛盾を孕んでいるわけではなくて、みんなが孤独を孕んでいる。だけどそれを腹に落として、それでも楽しく、元気に生きていく、そんなゲームをしているのかもしれないですね。どこまでいっても永遠に孤独だけど、例えば今回の現場も、1人じゃ成立させられないわけで。そういう意味では孤独じゃないし、適材適所で、それぞれの得意なことを現場に持ち寄って、時間と力を使っていいものを作ろうとしている。齊藤監督もそうだし窪田もそうだけど、スタッフ含めて全員に同じ敬意を払える人間だったし、自分もそうありたいと思ってきました。

—— 窪田さんとの共演はどうでしたか?

窪塚 もちろん芝居もすごくいいんですけど。現場を作っていく、ということが、30歳を過ぎてくらいから意識的にできるようになったんじゃないかな、と偉そうな言い方だけど、思います。例えば20代の前半の時って、もっと俺、俺、オレオレ詐欺じゃないけど、自己中なところがあると思うんです。だけど自分が芝居をしやすい状況を作る=自己中心的というわけではないんですよ。それこそ齊藤監督のみそ汁みたいに、みんなのポテンシャルが上がるような温度作りをするのは俺、俺じゃない。お風呂で言ったらヨーロッパの人たちって35度くらいでも平気だけど、我々日本人にはぬるいじゃないですか。でも45度ってちょっと熱い。全然集中していない現場、カメラ前でベラベラ喋っている奴がいて、進行も遅い現場を35度、カツカツにみんなが緊張しちゃって、全然パフォーマンスが出ない現場を45度としたら、40度くらいがちょうどいい温度の現場で。態度でも言葉でも行動でもいいけど、その温度を作ろうとする作業が大事だなと思うようになってくる。それを窪田も、齊藤監督も、自然とやっているなと思いました。子役の子が泣いてしまったり寝てしまったりと、色々あったんですが、誰も嫌な顔1つせずやっているのを見て、すごい忍耐力だな、腸が整っているなと思った。「俺はまだまだだな」って。ちなみに、窪田も腸活に詳しいです。「この2トップで回っていく現場だったら大丈夫だな」と思いましたもん。本当に優しく、懐深く、子役とも接していました。

—— ところで窪塚さん、いつ「窪塚腸介」に名前を変えるんだろう?と思っているんですけど(笑)。

窪塚 (笑)キラーですね。たまに使っていますよ。だけど冷静に考えて、例えばこういう映画だったり、『ファーストラヴ』みたいな作品に俺が出て、観終わった後、みんなが余韻に浸っている時に、エンド・クレジットで「窪塚腸介」って出てきたら、みんな冷めちゃうでしょ。なので、使う場所を考えて、ですかね。腸活についての取材があれば、そう名乗ってもいいんだけど(笑)。

—— (笑)おっしゃる通りです。今回の役は、目に見えないものに目を凝らす役でした。窪塚さんが今一番目を凝らしているのは何ですか?

窪塚 ……ゴルフのゴルフ・ボールに目を凝らしていますね、自分の打った。「どこまで飛ぶか?」……って冗談ですけど、今度新しい本を出すんです。10年以上一緒に本を出してきたパートナー〈NORTH VILLAGE〉から。その修正、原稿直しに目を凝らしています。

—— 窪塚さんは言葉の人でもあります。だけどある時からちょっと一線を引かれたというか、「言葉を尽くしてきたけどこれ以上は無駄かな」、「俺は俺でやる」みたいなモードになられたような気がしていて。すべての人に向けてというより、窪塚さん自身と周りの方やファンの方がより良く生きるために、言葉としての知恵やご自身で学ばれた知識を出していかれるようになった。

窪塚 おっしゃる通り。間違いない。

—— だけどやっぱり社会の中で生きていると、「え?」と思うようなことも起きるじゃないですか。そういった理不尽なルールや出来事に対して窪塚さんは今、どう向き合われていますか?

窪塚 ある意味、思い込みでかわしている部分もあるけど、「起こることすべては良くなるために起こっている」という風に捉えていて。例えばコロナでも何でも、より良い自分、より良い明日になるために贈られてきたギフトだとして、それをインヴィテーションにできるかどうかを試されているっていう考え方。だから自分は腸を整え、自分自身のマインドを整え、あらゆることに備えて前に進めたらと思っていて。子どもをどういう風に育てたら安心できるか?と考えると、どんな時代でも楽しく生きていける子になってほしいじゃないですか。そんな時、ベースがあるかどうかがすごく大事だと思うんです。身体のこと、腸も大事だけど、マインドセットとして「起こることすべては良くなるために起こっている」、これを呪文みたいに信じ込めさえすれば、それって発動すると思う。例えば税金に対しても、払わないとコマーシャルとか来ないですからね。仕事関係者が不審がるから。もう今はお布施だと思ってる(笑)。ちゃんと使われているか分からないけど、そんなことはある意味どうでも良くて。(THE)BLUE HEARTSじゃないけど、〈どうにもならない事なんて どうにでもなっていい事〉だから、不透明なお金の使われ方をするのに声は上げた方がいいけど、そんなこととは関係なく生きていくべきだとも思って。そういう風にして生きていると、なんだかんだで、ちゃんと回り出す。結局は初めにマインド、心ありき。言葉ありきだったら言葉をそうすればいいし、心ありきだったら心をそうすればいいと思う。

—— 本というまとまった形で窪塚さんがどんな言葉を投げかけるのか、すごく楽しみですね。

窪塚 『人生攻略本』って仮タイトルです。こういう方向でいきたいと〈NORTH〉が言っていて。要はゲームとしてこの人生、この社会、この世界を捉える。それをどう攻略するか? 子供の頃に読んだゲームの攻略本みたいに。攻略本って、「読んだらつまんなくない?」とか「読んだらズルくない?」っていう意見が子供同士で当時からありましたけど、早くクリアしたかったんじゃなくて、早く強くなりたかった、早く上手くなりたかっただけで、その気持ちって今も変わっていないんですよね。その時から思っていたのは、「人生についての攻略本があるといいな」ということで。仏教の本とか聖書とかもあるけど、もっと自分に近い言葉で、自分たちの言葉で語ってくれる1冊にまとまったものがない。だからそれを今、自分の言葉で記そうと思ってやっています。

—— ノウハウ本、啓蒙本とかではなく。

窪塚 そっちに入れてくれてもいいけど、俺が出してきた本ってどちらかと言ったらタレント本みたいな枠だと思うんです、広く見れば。俺もそれこそ、ボブ・マーリーだったりマイケル・ジャクソンだったりジョン・レノンだったりっていう人たちが見ていた景色、彼らがやっていたことに憧れていたし、そうありたいとも思っていたけど、この3人はもういなくて。そして、「それが成せたか?」と言ったら、もちろんある意味では成せたから俺らみたいなのがいるけど、でも彼らのような戦い方じゃないというか、自分なりの戦い方って言うと偉そうですが、生き方を示せればなと思っています。

—— 最後に、映画の話に戻りますが、窪塚さんが考えるスイート・マイホームはどんな家ですか?

窪塚 最近知った言葉ですごく面白いなと思ったのが、パートナーに対しての言葉になってしまうけど、「結婚するまでは両目を開いてよく見てろ。見つめ合え」と。「その代わり、結婚したら片目を閉じろ」っていう。それくらいの「さじ加減」って言っちゃうと惰性的に聞こえるかもしれないけど、何もかもバランスだと思うんです。腸内環境もバランスだし、マインドもバランス。自分の中でバランスが取れていたら、その後ろにいる社会とも関係が取りやすいと思う。だけどやっぱり家族、仲間、仕事っていう順番の大事さはブレないようにしたいです。1人暮らしの時は何も思わなかったけど、「ただいま」って帰ってきて、「お帰り」がないの、めっちゃ寂しい。それは家族を持って知ったことですよね。

—— ご家族と言えば、愛流さんの活躍が目覚ましいですよね。ドラマの『最高の教師〜』もそうですし。

窪塚 僕はまだ観られていないんですが(笑)。(活躍は)嬉しいですけど、自分のこと以上に心配してしまうところはあるかもしれないですね、正直。

—— 何かアドバイスをされたり?

窪塚 具体的に演技云々という話をしたことはあるんですが、それ以上に、「自分の言葉で、自分自身や役について話せるようにした方がいいよ」ということは言っていました。そのためにはその土台になる自分自身を形作るもの、実生活もそうだし、読んだ本、観た映画、聴いた音楽、あらゆることが全部肥やしになって自分自身になるから、そこをいっぱい耕して、自分の言葉で自分自身の役や想いを伝えられるような役者になってねという話は、演技の話よりもしていたと思います。なぜかと言うと、僕らが思っている以上に全部映っていると思うから。だからいいことも含めて全部肥やしにして役にアウトプットしていくことがとても大事だと思う。今はコンプラが厳しくて、昭和の時代みたいに緩くない、優しくないから、たった1つの出来事が致命傷になっちゃって、その後出られないみたいな人たちもたくさんいたりはするけど、でも根本的なことを言えば、それすら肥やしにして何かしらの表現だったり役を生きることに使えると思うんですよね。松下幸之助さんが「極貧だったこと、病弱だったこと、学歴がないこと」の3つが成功した理由だと言っているけど、そこまででなくてもいいんです。悲しい出来事、嬉しい出来事、そういったことをちゃんと記憶して肥やしにしていけばいいと思う。

『スイート・マイホーム』

監督/齊藤 工 原作/『スイート・マイホーム』神津凛子〈講談社文庫〉 出演/窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、窪塚洋介、他

9月1日より全国公開

©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

 

【WEB SITE】

sweetmyhome.jp

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