CULTURE

あの衝撃作に榮倉奈々が再び挑戦。Amazon Audible『Nのために』がリリース。時を経て伝わったメッセージは?

AUG. 22 2023, 11:00AM

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撮影 / 森 康志
スタイリング / 影山蓉子(eight peace) 
ヘア&メイクアップ / 竹下あゆみ 
文 / 堂前 茜

「当時の気分や肌感は覚えていて、ある意味トラウマと言っても過言ではないくらい、自分の中に残っています」——2014年にドラマ化された湊 かなえ原作の『Nのために』に主演した榮倉奈々はこう語る。それまでもそれ以降も、数々の作品に出演してきた榮倉を以ってここまで爪痕を残した衝撃作。それに再び挑むということは、彼女にとってどんな意味合いがあったのだろうか?

 

高層マンションに住むセレブ夫妻の殺害事件を発端に、現場に居合わせた大学生の希美(ドラマで榮倉が演じた)、成瀬、安藤、西崎の罪と愛を描くミステリー・ドラマをAmazonのオーディオブック、Audible(書籍を朗読した音声コンテンツを配信するサーヴィス)で榮倉が朗読。声の仕事の難しさは壁となったようだが、それ以上に『Nのために』と今、向き合ったことは、彼女の人生にとって実りある経験だった。「今も試行錯誤している」と自身の不器用さを真摯に吐露してくれた榮倉だからこそ、身をもってこの作品の背景に潜んでいたメッセージの1つを感じ取ったに違いない。

自分が決めた世界から一度出てみるのは大事だし、時に必要かもしれない

バァフ 聴かせていただいたのですが、タイトルを榮倉さんが読み上げた時点で、もう『Nのために』の世界が始まっているなぁという見事な導入でした。

榮倉 本当ですか、ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。改めて感じたのですが、声の仕事は本当に難しいです。録音スタジオにあるたくさんのスイッチを自分の中に作って調整していかないといけませんが、自分が思ったような声が出ない。だけど『Nのために』は自分にとって大きな意味のある作品でしたし、衝撃のある作品でもあったので、染み付いているものはすごくありました。あの世界観は忘れられない。

バァフ 10年経っても。

榮倉 はい、忘れられないです。ストーリーの細かい部分で抜けていたところなどはありましたが、あの時の気分や肌感は覚えていて、ある意味トラウマと言っても過言ではないくらい、自分の中に残っています。ただ、それをどうやって声の色だけで作るのか?は難しかったです。

バァフ 未だに残っている『Nのために』の肌感というのはどういったものでしょうか?

榮倉 私が演じた希美の人生が壮絶でしたし、湊さんの作品は登場人物たちの描かれ方もすごいじゃないですか。ただただ台詞で説明されるのではなく、観ているだけでその人物の人生を、ある意味霊視している感覚になる、何かが自分の中に入ってくる書き方をされている気がします。それを演じながらも感じていて。

バァフ Audibleって聴く方それぞれが色々なシチュエーションで聴かれるのだと思いますが、この作品に関しては、何かをやりながら聴くというより、落ち着ける環境で聴きたいというか。「ながら聴き」ができなくなる作品なのかなとは思いました。

榮倉 確かに、何かをしながら聴ける作品ではないかもしれません。それはそれで嬉しいです。ある特定の人の声をずっと聴き続けるって不思議な体験ですよね。

バァフ 聴いていて思ったのは、榮倉さんの声ってすごく安定感があるというか、落ち着くなと思いました。

榮倉 Audibleの担当の方に「声が好き」と言っていただいたのですが、私はありがたいですけど……、いやいやそんな、本当ですか?と思ってしまいます(笑)。

バァフ 情緒が安定しているというか。感情の起伏などをはっきり付けるパターンもあると思いますが、榮倉さんはこの作品で男性の声を含めて色んなキャラクターを演じ分けていらっしゃるんだけど、いい意味での一定のトーンがあるので、聴いていて疲れないのもありました。

榮倉 その点は気を付けました。朗読とはいえ、台詞もたくさんあるので、複雑じゃないですか。監督に、「お芝居と朗読の狭間を想像してほしい」と言われたのもあります。聴いている人に世界観を作ってほしいので、感情的になりそうな部分はなるべく抑えました。真っすぐ読もうと思って。作品自体、閉ざされた世界の人たちの話だと思うので、その辺りは意識しました。

バァフ レコーディングはいかがでしたか?

榮倉 全部で5回に分けて収録して頂きました。1回5時間くらい。最初は20ページくらいを一気に読んで、一度ストップして、噛んだ場所や間違えた場所を訂正していく作業だったのですが、途中からは間違えた瞬間に止めて朗読し直す形になりました。

バァフ 細やかなお仕事だと思うので、集中力もそんなに長くは続かないですよね。

榮倉 そうなんです。

バァフ 朗読だからこそ味わえる『Nのために』の魅力や、改めて気付いた面白さはありましたか?

榮倉 言葉であれだけ人の心をゾワゾワと掻き立てられる湊さんはすごいなと思いながら改めて読んでいました。ドラマの時は奥寺(佐渡子)さんという、後に『最愛』なども手掛けられた脚本家の方が手掛けてくださったのですが——初めて長編の脚本を1人で書かれたとおっしゃっていました——奥寺さんの書く台詞も素晴らしくて。読者として読んで入ってくるものと、演じる人を観ながら入ってくる脚本と、たぶん「Audible」ならではの体験、同じ作品でも畑が違うような面白さがあるのではないかなと思います。「気付き」で言うと、とんでもないお父さんが登場人物の中にいるじゃないですか?(希美の父親)理不尽な理由があるわけですが、分からなくはない、という部分も見えてきたと言いますか……。お父さんの気持ちまで想像できるようになったのは、10年経ったからなのと、希美という役から一歩離れて全体を見られるようになったからかなと思います。ドラマの撮影中は、もうとんでもない、こんな人いるのか?と思っていましたが、もちろん許すことができる役ではありませんが「いるかもしれないね」と今なら思えるところがあります。

バァフ 榮倉さんは、環境や相手が変わらないのなら、「自分が変わらなきゃ」という状態になったりすることはありますか? 何となく、健全で穏やかな生活を送られていそうなイメージですが。

榮倉 そんなことないです……。私の場合は、自分のせいにし過ぎているところもあって。それって自分のために良くないですし、相手のためにも良くないとも思いますし……。やれることをやったと思うなら、もうその場所からいなくなった方が楽、という考え方が希美の父なのかなと思いました。彼は彼で、親とか親族の関係で婿養子に入らなくてはいけなくて、やりたいことを全部捨てて家族のために今までやってきたから、「残りの人生は俺のために」となってしまった。そうするかどうかは別として、今ならその考え方に至った思考回路を認識することはできます。湊さんの作品は、その時にはキャッチできないメッセージが裏にある気がします。『Nのために』を反面教師にして、ではないですが、私にとっては狭い世界にいてはいけないよ。というメッセージを少し感じていたのかもしれないです。

バァフ 「他人のふり見てわがふり直せ」じゃないけど、「自分もこうなりかねない」という意識を持つのは大事だと、Audibleを聴いてより思いました。

榮倉 ありがとうございます。

バァフ Audibleを人に勧めるとしたら、どのような点をどう勧めますか?

榮倉 仕事の現場に行っても、このドラマを観てくれた人と会うことが多いですし、友達も好きでいてくれている人が多いので、ストレートに伝えます。「またAudibleで帰ってくることになったので、湊さんの世界にどっぷり漬かってほしいです」と。

バァフ 今回、Audibleに参加されたことは、榮倉さんにとってどのような体験でしたか。

榮倉 私は、約10年『Nのために』という作品に向き合うことから避けていました。それほど衝撃的でしたし、傷の深い作品になりました。そういった出会いはなかなか経験できないと思いますし、そんな自分にとって大切なこの作品に、「このタイミングで向き合うんだ」と思って。作品との向き合い方が変わったことが自分にとって良い意味になるようにしていきたいなと思いました。あれから時間が経って、時代も大きく変わりましたが、私は相変わらず試行錯誤しています。

バァフ 榮倉さんは今、どんなモードで女優というお仕事に向き合われていますか?

榮倉 14歳から芸能界に入って今までたくさん勉強させてもらったので、感謝の気持ちが多いです。私自身、ライフスタイルも変わってお仕事の仕方も変わってきました。自分にできることは何だろう?とずっと考えています。

バァフ ライフスタイルは構築されましたか?

榮倉 いえ、まだまだ建築中という感じです。

バァフ 榮倉さんのお芝居、良い意味でお芝居然としていなくて、ご本人の何かが出ちゃっているところも素敵で私は好きなので、もっと観たい気持ちはあります。

榮倉 ありがとうございます。私が器用な方ではないので、難しいことも多いです。

バァフ ご自分の人生を豊かにするためにやってきた結果、この考え方はいいなとか、こういった習慣は続けていきたいなと思えるものはありますか?

榮倉 抽象的ですが、お芝居の世界で1年に何本もの作品に携わらせていただいていた時は、ずっと緊張していたと思います。それは妊娠・出産・育児でたまたま止まったことだったのですが、例えば撮影に向けてストイックに身体を鍛えようとか、お水をたくさん飲むようにしようとか、自分の中で決めたルーティンを手放してみました。振り返ってみると、約6年間育児をしてきて、一度手放してみたことはすごく大切だったのかなと感じます。習慣にしていたことがたくさんありましたが、やめてみて、そこからまた始めたものもありますがやっぱり続かない、好きじゃないんだなと分かったこともありますし……なので、自分が決めた世界から一度出てみるのは大事だなと感じましたし、時に必要かもしれない。そう思います。

ノースリーブニット(60,500yen)、アシンメトリーニットロングスカート(107,800yen) / 共に、GIA STUDIOS(THE WALL SHOWROOM tel.03-5774-4001) ※共に税込

ローファー(116,600yen)(税込) / TOD’S(トッズ・ジャパン tel.0120-102-578)

Amazon Audible『Nのために』

朗読/榮倉奈々

配信中

 

【WEB SITE】

www.audible.co.jp/pd/B0C7LBQQZZ

INFORMATION OF NANA EIKURA

 

【WEB SITE】

www.ken-on.co.jp/eikura

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@nana_eikura

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