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愛と孤独の狭間で揺れ動く男を描いた純文学『愛のごとく』が令和版として実写化。主演・古屋呂敏の思う愛の真理とは

JAN. 23 2026, 5:59PM

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文 / 白土華乃子

小説家・山川方夫の遺作『愛のごとく』が、古屋呂敏を主演に迎えて映画化する。監督を手掛けるのは映画『卍』や『痴人の愛』など、これまでも純文学の映像化に携わってきた井土紀州。現実と記憶が交錯する幻想的な雰囲気や刹那的な瞬間を物語へ昇華し、リアルな温度感を含んだ作品へと立ち上げている。

 

純文学作品の実写化と言えど、本作の時代設定は令和。現代社会を舞台に、愛と孤独の狭間で揺れ動く主人公・ハヤオ(古屋)の姿が描かれる。かつての恋人・イズミ(宮森玲実)と8年ぶりの再会を機に、歪んだ関係性が動き出すという複雑な恋物語だが  恋愛を軸に人間の性を描いた本作を、古屋はハヤオとはまた違った価値観で以って冷静に分析する。ハヤオとイズミの関係は決して綺麗なものではない。脆く不確かなハヤオたちの恋愛を肯定的に受け入れられるのか、はたまた受け入れられないのか  。観る人の年代によって作品の解釈が変わる可能性を含んでいるのも本作の魅力だ。というのも、純粋ではない2人の関係性を鮮明かつ味わい深くさせるのは、これまで歩んできた人生経験を無意識のうちにハヤオたちに重ねてしまうからだ。本作は「愛とは何か?」をテーマに掲げている。極めて抽象的だが、議論が絶えない話題だろう。古屋自身も作品を通して、改めて愛について熟考したようだ。

愛とは意志であるということ

バァフ 同名小説は1964年に発表されていますが、年月を経ての実写化ですね。

古屋 原作を拝読して、“大人な作品”だとまず感じまして。成熟しきっていない人間の愛と孤独の物語だなと思いましたね。戦後間もない時期に刊行された小説ですが、現代を生きる僕が読んでも共感できる部分はたくさんあって。

バァフ 古屋さんが演じるハヤオは、小説家としてデビューしたものの、ライターへ転身して生計を立てている人物です。ハヤオの人間性に共感できる部分も多くありましたか?

古屋 ハヤオが感じている憤りや孤独、不安定さはある種、僕自身も常々どこか感じているものでもあって。彼の人柄にはスッと入り込めたと思います。ただ、人生への決断力がなく、流れるように生きている有様は僕にはない部分で。ハヤオよりは意思表示をしますし、決断を下す方向に自分を仕向けるタイプなんですよね。そういった意味で今回、台詞のチューニングにはかなり気を遣いました。シーンによって声の出力をあまり上げないようにしたり、本来であればもっと感情に任せて言ってもいいところをあえて抑えてみたり。自分の内に秘めるような伝え方をしようというのを監督含め、スタッフさんと話し合いながら進めていきました。

バァフ ハヤオの人物像について、監督からはどういった指示を受けたのでしょうか?

古屋 内向的ではあるけれど、別に暗いだけのヤツではないと。そこは履き違えないでほしいとおっしゃっていましたね。悩んでいるからずっと悩んでいる風に振る舞っているわけではないし、よりリアルな人間の在り方に近付けるように調整していただきました。

バァフ それで言うと、テンションの上がり下がりも含めて人間味のある人だなと思って。ハヤオって、ちゃんと感情を動かされるタイプの人じゃないですか。「学生時代に付き合っていた人と再会をしたら、こんな雰囲気になってしまうよね」というのも結構リアルに描かれていて。

古屋 そうですよね。イズミのテンションにどんどん飲み込まれていく感じも共感できると言いますか。でも僕が思うハヤオって、巻き込まれてはいるけれど、どこか自己中心的なんですよ。自分のことを考えているパーセンテージの方が実は大きいのではないかなと。巻き込まれているようで巻き込んでいるし、その狭間で揺れ動いているなと思います。“我”も強いタイプですよね。イズミが放つエネルギーの方が大きいので、彼女の赴くままに動かされてしまってはいるんですけど……。でも自分自身でその道を選択して、良しとしているのかなと思います。

バァフ 台詞のチューニングに気を遣ったと話されていましたが、台詞自体も味わい深いものが多くて。純文学ならではの独特な言い回しや言葉には惹かれるものがありました。

古屋 「私は豚ね」や「あなたは雲よ」というイズミの台詞は純文学ならではですよね。普段、絶対にしないであろう表現を、役を通して聞くのは面白かったです。でもハヤオとして生きていると、意外と違和感なく受け入れられるんですよ。イズミを演じた宮森さんは台詞の言い方を結構考えていらっしゃいましたが  その姿を見て、なんだかお洒落だなと思って(笑)。上品で素敵だなと。全編を通して、ハヤオが彼女の行動を受け止めることで物語が進んでいくので、台詞もすんなり入ってきたんでしょうね。

バァフ 相手のペースに巻き込まれていく感じって恋愛のリアルな構図というか。

古屋 ハヤオらしい恋愛の仕方ですよね。僕はハヤオよりは積極的なタイプなので、彼が何を考えているのかを探る時間もありましたが……。

バァフ パーソナリティ的にはイズミの方が近いですか?

古屋 うーん、どちらかと言うと近いかもしれないですね……。いや、でもイズミは分からない。彼女の取る行動は分からないです(笑)。ハヤオとして、彼女は何を求めているんだろうと常々思っていて。そこに居るようで居ないし、掴めるようで掴めないんですよ。だからこそどんどん気になるし、惹き込まれてしまう。そこが彼女の魅力ですよね。僕の中では「イズミ=愛」という認識でいたのですが、愛って結局何なんだろうと。どこに愛があって、何が愛なんだろうと撮影中はずっと考えていました。

バァフ 本作は「愛とは何か?」をテーマとして掲げていますけれども  

古屋 まさしくそうですね。

バァフ 撮影期間中に、古屋さん自身の愛の概念が揺らぐことってありましたか?

古屋 物語の中で、ハヤオとして強い意思を持って発言したのはワン・シーンだけだった気がするんです。イズミを誘う最後の場面なんですけど  あのシーン以外は自己中心的ながら、彼女にずっと流されていて。一定のトーンだったからこそ僕自身の愛の概念が変わることはなかったですが、模索することはありましたね。

バァフ ちなみに、古屋さんの考える愛の概念とは何でしょう。

古屋 この作品を通して一番感じたのは、愛とは意志であるということ。誰かを想うことって覚悟が必要じゃないですか? 想うまでにいろんな経験をしてやっと覚悟に辿り着くわけで。それが結果として“愛”になっているのではないかなと思います。学生時代のハヤオは覚悟がままならなかったから、イズミと別れてしまったと思うんですけど。再会して身体を重ねていくうちに、改めて自分の中で想いがどんどん募っていって  最後は彼女と一緒に居たいという意志を持って誘う。おそらく一世一代の勇気を振り絞って放った一言だったと思うんです。『愛のごとく』はその意志が固まるまでのハヤオを描いた物語なんですよね。

バァフ 愛とは何か?って、長年議論されている話題でもありますよね。

古屋 何なんでしょうね。分からないです……。ハヤオたちは不倫関係にあるので、ある種、誰かが傷付く恋愛ではあるじゃないですか。でもそこにはちゃんと心があって情熱があって、揺れ動くものもある。美しくも残酷な恋だなと試写を観て感じましたね。山川さんの表現する愛の不確かさは本当に綺麗だなと。

バァフ ずっと不安定な状態にいるハヤオですが、古屋さん自身はそういった不確かさを感じたことはありましたか?

古屋 ありますよ。普段からずっと感じています(笑)。表現の世界って正解がないですし、だからと言って誰かが点数を付けてくれるものでもなくて。ある人は「良い」と言うけれど、ある人は「ダメだ」と言うし……。その中で戦うということは、高い波の中で航海をしている感じなんですよね。だからこそ、常日頃から不安定なんだろうなと思います。

バァフ 戦いの中で、自分自身に納得いくことはありますか?

古屋 いや、ないですね。「もっとできたな」とか「撮り直したいな」と思うことばかりで。お芝居に満足することって一生ないんだろうなと思います。その中で、今できる精一杯がコレだと自分の中で丸を付けてあげて、世に放っているわけで。ある種、開き直っているところもあります。

バァフ 生計を立てるためにライターに転身して、どこか自分に対して自暴自棄になっているハヤオもいましたが、夢を見失う感覚も共感できる部分はありましたか?

古屋 ありましたね。今年で36歳になるのですが、役者人生の中で共にお芝居をしていた人たちが辞めていく瞬間を見てきたわけですよ。なので、ハヤオが小説家からライターに転身する姿も他人事には思えなくて。ライターで生きていくと決断するのも、覚悟のいることだったと思います。ハヤオの苦悩を分かっていないイズミと喧嘩をするシーンもありますが、なんだか痛いところを突いてくるなと思って。小説を書いているだけでは稼げないからライターになっているわけで、でも、イズミがハヤオの才能を信じている姿も理解できる。この作品って、突かれると痛い部分に触れる瞬間が意外と多いんです。

バァフ 確かに、そうですね。割と現実的に物事を捉えていると言いますか。

古屋 東 ちづるさん演じる奥様が「人生において愛する人はたった1人」という台詞もグサっときますよね。「いや、確かに分かるんだけど」って……。ちなみに、どう感じましたか?

バァフ 私もこの台詞は結構刺さったんです。ただこの問題って、年齢含め、色々な要素が複雑に絡み合っているというか。各々の価値観でライフ・ステージを選択していく中で、この台詞こそが真理では決してないと思うんです。

古屋 キャリアや恋愛において、ハヤオも勝負に出るのか守りに入るのか、葛藤があったと思いますし……。この作品を2回目3回目と観るごとに、改めて台詞の意味を考えていただくのも面白いのかなと思います。

バァフ きっと解釈も変わりますよね。

古屋 不倫の物語なので、その点は賛否あるんじゃないですかね(笑)。でも、年齢によって解釈がまったく変わってくると思うので、そこも魅力的ですよね。人生経験を積んだ人の方が意外と肯定的に捉える部分もあると思いますし、逆に若い世代の方が「不倫なんてダメじゃん」と否定的に捉えることもあるかもしれませんし。

バァフ 奥が深いです。本作は“愛”の他に“青春”も重要な要素になってきます。忘れていた青春を取り戻していくような2人ですが、古屋さんの思う青春の解釈はいかがですか?

古屋 青春ってその当時のことを振り返った時に、初めて気付くものなのかなと思っていて。大人になって物事の判断が良くも悪くもできるようになり、自己を埋め尽くすものがなくなったんですよ。かつてのように突発的な感情が心を支配することもないし、周りが見えなくなってしまうこともなくて。そのゾーンから抜けたんだなと感じたのが、「当時はそうだったけど今は違う」と気付いた瞬間でした。その時に初めて、かつての自分はちゃんと青春を送っていたんだなとも思って。僕にとっての青春は、右も左も分からない中、100%の全力投球で物事に向き合っていた時期で。もうその時代は終わって、今は“真夏”という感じですね(笑)。

バァフ 真夏?

古屋 青い春が終わって、夏がきました(笑)。フルマラソンをして汗をかいている感じというか。アウトドアを楽しんでいるくらいのテンション感でいますね。

バァフ なんだか爽やかですね。

古屋 特に何か達成しているわけでもないですし  自分の状況を斜に構えて見ているわけでもないので、そういう意味で、自分のやっていることを純粋に楽しんでいるなと思います。

『愛のごとく』

監督/井土紀州
原作/『愛のごとく』山川方夫
出演/古屋呂敏、宮森玲実、蒼田太志朗、窪田 翔、たなかさと、山崎真実、吉岡睦雄、佐藤真澄、芳本美代子、東 ちづる、他
公開中
©︎2026「愛のごとく」製作委員会

INFORMATION OF ROBIN FURUYA

俳優のみならず、フォトグラファー、映像クリエイターとしても活躍中。1月期ドラマ『教えてください、藤縞さん!』〈TOKYO MX〉、『親友の「同棲して」に「うん」て言うまで』〈読売テレビ〉、『ぜんぶ、あなたのためだから』〈テレビ朝日〉に出演中。

 

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古屋呂敏公式HP

 

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