一緒にバカみたいなことができる存在って必要

バァフ まずはデビューおめでとうございます！　『ジョニー』の公開もデビューと同じタイミングで決まりましたね。

日穏 そうなんです。本来は今年の春に公開予定だったのですが、『大阪アジアン映画祭』の出展などと重なり、この時期まで伸びることになって。やっと公開を迎えられて嬉しいです。

バァフ 今回が初主演になりますが、出演が決まった時の心境はいかがでしたか？

日穏 まずはめちゃくちゃびっくりしました。元々は役者志望でしたし、〈BMSG〉に所属してからも演技仕事に挑戦したいと言っていたのですが、まさか最初に出演させていただく映画作品で主演するとは思っていなくて。信じられなかったですね。

バァフ 主演が決まったきっかけは何だったのですか？

日穏 どうやらジョニーっぽい人を探していらっしゃったみたいで……。僕がイメージにはまったらしく、演じることになりました。

バァフ 素敵な巡り合わせですね。木村監督がメガホンを取っていますが、監督ならではのユーモラスな世界観が本作でも存分に活かされていて。絶妙な間で繰り広げられる会話や独特な登場人物に惹きつけられるものがありました。日穏さんは監督の描く物語や世界観をどのように捉えていましたか？

日穏 台本を読んでまず思ったのは「まさにこれが木村監督の世界観！」というものだったのですが、過去作とどこか少し違う雰囲気も感じたんです。なんだろう……『ジョニー』の物語には大きな波があまりなく、ずっと静かに展開していくような感じで。もちろん、過去作の要素がまったくないというわけではないのですが、“奇想天外な展開”というより、どちらかというと“ちょっと分かりやすい展開”も含まれているんですよね。なので、誰が観ても観やすい作品になっているのかなと思います。

バァフ それこそ『ジョニー』の世界線と、監督の過去作『違う惑星の変な恋人』や『このハンバーガー、ピクルス忘れてる。』の世界線は繋がっているんですよね。特に、『違う惑星』でモー（牛田）を演じていた綱 啓永さんと日穏さんがコンビニで掛け合いをするシーンが面白くて。牛田がコンビニ店員、ジョニーがお客さんという関係性ですが、ゼリーを買うだけであそこまでシュールな会話劇を繰り広げられることに驚きました。

日穏 僕としてもここは面白くしないといけないと挑んだシーンで。でも振り返ってみると、演技の部分で綱さんにかなりリードしていただいていたなと思います。「日常にこんな人いないでしょ」くらいのオーバーなお芝居をされるんですけど、何故かそれがすごく自然な面白さになっているんです。僕的には「これくらいのニュアンスでいいだろう」と思っていた匙加減が、実は全然足りていなかったということに気付かされました。「ここってこんなに間をとっていいんだ」とか、「その動きって絶対アドリブですよね」みたいなことをごく自然にされるので、綱さんのお芝居から学びを得るものも多かったです。

バァフ なるほど。そこは新しい発見ですね。

日穏 そうですね。実際に映像を観て面白いなと思った反面、僕個人としては思うところがたくさんありました。もう少し色々と試せたはずなのに、という悔しい気持ちは残っています。

バァフ 牛田がランダムに配置した商品をジョニーが目を瞑って取る場面はアドリブだったのでしょうか？　お2人ともすごく自然な動きをされていたので気になりました。

日穏 いや、「それはプリン……」とか「チーズです」という牛田の台詞は、全部台本にト書きで書いてあったんです。綱さんがあの場面の面白さを動作と台詞でより引き立ててくださりました。僕は変な奴を演じるのが好きで、プライヴェートでもふざけて変なことを普通にやったりするんですけど。牛田みたいな変な奴の芝居を僕も極めていきたいです。

バァフ ジョニーは優しくて繊細な子ですが、演じる上で彼の人物像はどう捉えていましたか？

日穏 「ジョニーっぽい人がいるよ」ということで役をいただいた身ではあるのですが、僕としては「本当に俺かな？」と思うところがあって。ジョニーは僕の兄にすごく性格が似ているというか、共通点が多いなと思うんです。「そこじゃないだろう」という場面で変に詳しく説明したり、少しズレているところとか正論ばかり言ってしまうところなど、なんか似ているなと思って。兄を想像しながら役作りをしていったのと、監督の存在もかなり参考になりました。

バァフ 監督もジョニーに似ていらっしゃったのですか？

日穏 撮影ドライの時にジョニーの動きを監督がやってくださるんですけど、その動きがまんまジョニーで。「いや、もうジョニー本人ですやん！」という感じだったので、監督の動きも常に観察していました。

バァフ 現場にロール・モデルがいらっしゃったのですね。逆に、日穏さん自身と似ている点はありましたか？

日穏 僕は普段、ちょっとした冗談でも本気で受け止めてしまうところがあって。そういう点はジョニーに似ているのかなと思います。

バァフ 冒頭で、今カノの熱子ちゃん（松田実桜）を変な理由で振って怒らせてしまう場面も印象的でした。ジョニーは「僕が熱子ちゃんを好きっていうのは、日本史が好きっていうのと同じだと思う」と好きな気持ちに差別化を図りますが、最近、日穏さんが日常の中で見つけた“好き”はありますか？

日穏 最近だと、物件サイトを見るのが好きということに気が付きました（笑）。自分が住むわけでもないのに、「これくらいの敷金礼金でこの間取りか」とか「オートロックはないのか」など。1番良い物件を探すトーナメントみたいなものを勝手に開催しています。

バァフ （笑）楽しそうですね。ジョニーは学校生活に対して「楽しい時と楽しくない時、何も感じない時がある」と言いますが、日穏さんの高校生活は振り返ってみていかがでしたか？　撮影自体はちょうど高校3年生の時でしたよね。

日穏 本当に友達に恵まれたなと思います。僕が芸能の活動をしていることを知った上で関わってくれていたのですが、だからといって特別扱いをするわけでもなく普通に接してくれて。授業とかは面倒くさいな〜と思う時もありましたけど、放課後に友達と過ごす時間があったから頑張れていたと思います。

バァフ 憂鬱ではなかったのですね。

日穏 そうですね。「日穏の楽しい放課後」でした（笑）。

バァフ （笑）素敵な高校生活を送られていたのですね。ジョニーは友達の定義にも悩んでいましたが、日穏さんの思う定義とはどのようなものでしょう。

日穏 うーん……「この人がいないと楽しくないだろう」と思う人ですかね。僕自身、友達と過ごす時間があるから頑張れているところもあって。一緒にバカみたいなことができる存在って必要だなと思います。定義として考えると難しいですけど……。

バァフ ジョニーも言っていましたが、友達って「友達になろう」と言って発展する関係性というわけではないというか。

日穏 そうなんですよね。そんなこと言わなくてもお互いに友達だと認識し合っていることが、真の友情なのではないかなと思います。