CULTURE

明日海りおが自身初の音楽劇で『精霊の守り人』主演。20周年を迎えた想いと、軽やかに踏み込む新たな領域

JUL. 3 2023, 11:00AM

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撮影 / 濵中良竹 スタイリング / 大沼こずえ(eleven.) ヘア&メイクアップ / 山下景子(コール) 文 / 多田メラニー

1996年に原作小説を刊行、その後も漫画、アニメ、ドラマと形を変えながら、唯一無二の世界観を映し出してきた名作冒険ファンタジー『精霊の守り人』が初の舞台化。物語の主人公であり、国の存続の鍵を握る皇子・チャグムを命懸けで守る腕利きの用心棒・バルサ役に明日海りお、梅田彩佳をWキャストに迎え、新たに音楽劇として命が吹き込まれる。人間の尊厳など普遍的なテーマを問う本作は、時代が変遷しようとも今なお多くの世代を魅了。ゆえに舞台の情報が解禁された際には、明日海の元にも周囲から喜びの声がたくさん届いたという。

 

取材時は大抵稽古を前にしたタイミングのため、語れる内容も限られてしまう。そういった時でも明日海は、あらゆるところに敬意を払いながら素直な想いを明かしてくれるのだが、「バルサの中に真心みたいなものが芽生えていく瞬間もあるはず。そういう部分を飾りではなく、自分の心から発信していけたら」という言葉には、早くも役柄を多面的に捉え、彼女の中に役が根を張り始めたかのようだった。

明日海 初めて音楽劇に挑戦するのですが、今回のバルサのような女性を演じることも初めてかもしれないです。作品が持つ時代観だったり、少しファンタジックな世界観というのも新鮮で。(取材時)公演中のミュージカル『エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-』は、20世紀前半のメイク業界をテーマにした、割と分かりやすい骨格があることに対して、『精霊の守り人』はファンタジー性があるので、今年出演させていただく舞台としても全く系統の違う作品。表現にも幅が出せるので嬉しく思います。

バァフ バルサは“短槍遣い”として腕の立つ用心棒ですが、殺陣などのアクションに備えてどのような準備をしようと考えていますか?

明日海 日頃からどのような役をいただいても動けるようにと意識して体力作りをしているんですけれども、この稽古に入る前には今までよりも入念にストレッチをしておく必要がありそうです。腱とか靭とかを切っちゃったらどうしようと心配で(笑)。とても腕の立つ短槍遣いで、その腕を見込まれて皇子のチャグムを守る役目を任されるので、動き1つ、足取りにしても重要なんですよね。常に危険な状況に置かれても機転を利かせられる、腹が据わっている人なので、そういう部分も意識して演じられたらいいなと思います。ちなみに宝塚時代は、できれば立ち回りを避けたい方でした(笑)。宝塚の公演期間って1ヶ月以上と長めだったり、1日に2回公演の時もあるんです。加えてダンス・ショーも付いているので、体力的にも立ち回りがあるとなかなか大変で。入団して最初の1〜3年目あたりは、大体、兵士や警官の役とかをいただいて殺陣の基礎を学びます。武器も、日本刀の時もあれば洋刀やフェンシングなど、いろんなもので戦ってきたので馴染みはあります。退団後すぐのタイミングで、映画『ムーラン』の吹き替え声優を担当させていただいたんですが、戦う時の呼吸感などを表現するのに、宝塚で培った経験がとても役に立ちました。多くの殺陣の先生方にお世話になってきたので、恥ずかしくない身のこなしができたらなと思います。

バァフ 『エリザベス・アーデン』の公演をおこないながら『精霊の守り人』のことも考えてと、日程の被りはないものの、2つの作品が今、明日海さんの頭や心を占めている状態かと思います。どのように整理されているのでしょう?

明日海 これまでも同時に2つ以上の役に取り組むことは経験してきましたが、同じ作品内の話だったので全然大丈夫でした。だけど正直今は、全く違う世界と違う役柄に取り組むことに、まだそこまでは気持ちが……今日はバルサさんのことをちゃんと深く語れる自信がないんです……ごめんなさい、本当に! あの、だからきっと、『エリザベス・アーデン』を終えてギア・チェンジする、生まれ変わるみたいな気持ちで稽古に入っていくのだろうなと思います。1曲だけ『精霊の守り人』の仮曲を聴かせていただいた日があったんですが、一瞬で世界観に入れる感じがしまして……これは危険だと思いました(笑)。『エリザベス・アーデン』の稽古中でしたし、譜面を読みはじめて歌い出したら、もう……(笑)。取り組む時はどちらにも注意が必要ですね。

バァフ 以前、バァフアウト!本誌で明日海さんにお話を伺った際に、作品中に別のジャンルの音楽を聴くとそちらに引っ張られてしまうから無音で過ごしていると仰っていましたが、まさにそういうことなんですね。

明日海 作品に入ろうと思うと、深く潜ってしまうタイプなんです。「とりあえずここまでにしておこう」みたいなことが難しくて。

バァフ バルサの人物像を紐解いていくと一見しただけでは分からない、強さの裏にある弱さや葛藤、生い立ちに関する過去だったりと、1人の人間として濃く深い人生を歩んできたことが見えてきます。明日海さんご自身もさまざまなご経験をされて今の明日海さんが形成されていますが、ご自身の足跡を振り返るとどのような人生になっているなと思われますか? 感覚的なものでもいいのですが。

明日海 私なりには波乱万丈だったり、すごく悩んでしまった時もいっぱいあるんですけど、ある時から「うわぁ、どうして〜!」と頭を抱える出来事も人生の醍醐味だなと思って楽しめるようになってきて。本当に恵まれている人生だと思います。最初は宝塚からスタートしましたが、「舞台に立っていたい」という想い、好きなことや自分が志した仕事を今でも続けられている。それに、続けているからこそ出会えた方たちも本当に素敵で、どんな方と出会っても学びがあります。バルサはずっと何かを探しながら生きているのだと思いますが、私も「自分はどういう人なんだろう?」と探しながら、どんどん更新していっている気がします。こういう風に考えが変わってきたとか、最近はこういうものが素敵に感じるんだなとか。変化を楽しめるようになってきたことも幸せです。少し暇ができて考える時間が増えると無駄に悩んでしまうけれど、今はお陰様でいろんなことに集中できたり発散できるところがあるので有難いです。

バァフ 想定外の出来事が巻き起こったとしても、人生の醍醐味だと冷静に捉えられるのは素晴らしいですね。

明日海 「ポジティヴにならなきゃ!」と奮い立たせるよりも、「なるほど、ここまで重なるのね」と客観的に自分を見るイメージです。良くない流れや悪いことが続くなとか、さらに悪くなるパターンだったら何が起こるだろう?みたいなことを考えたりして、そんな気持ちもとりあえず味わいます(笑)。もちろん、嫌だなという感情はありますが、今までの人生の最悪だった時と比べたらまだ生きていけるかも、とか。考えても仕方がない、自分の力ではどうにもできないことと、できることを分けて、ふむふむと考え出したり。時間しか解決できないこともあるじゃないですか。落ち込んだ雰囲気を楽しみつつも、その奥では考える。もしかしたら、ポジティヴともまた違うのかな(笑)。

バァフ 落ち込んだ雰囲気を楽しんで、その上で考える。二重苦でしかないような……(笑)。

明日海 (笑)このお仕事をしているからだと思います。きっと何かの役には立つから。演じる役の人の悩みはその役のものでしかないので、自分の悩みと重ねるのは違うと思うんですけど、 でも、味わっておくのはね。いろんな人と生活をしていく時に苦しいことや辛いことはたくさんあるじゃないですか。でもそれを知っていた方が……お得になれる!(笑)。

バァフ (笑)9月からは明日海さんの芸歴20周年記念のコンサート『20th Anniversary Rio Asumi sings dramas「ヴォイス・イン・ブルー」』が開催されますが、「役者だからこその歌を歌いたい」とコメントされていましたよね。この「役者として」の言葉に、明日海さんはどこまでもお芝居や表現の世界を求め、突き進まれている方なのだなと、個人的にグッとくるものがありまして。なので仰った、悩みや苦しみの経験も役に立つというお考えは、そもそも役者業のベクトルが一切ブレていないからこその言葉なのだなと合点がいって。

明日海 いえいえ、想いだけですけどね。役者だからこその歌と言っても、それがどこまでの出来になっているか?と言われたら、また別の話になってしまうかもしれないですし。

バァフ 前回の『1st Concert -ASUMIC LAB-』はJ-POPを歌う明日海さんの貴重な姿もあり、1曲目から鮮明に記憶に残る素晴らしいコンサートでした——今回は20周年の節目ですし、明日海さんの現在地と過去を顧みるような構成になっていきそうでしょうか?

明日海 そうですね。せっかくの20周年なので、自分らしさに帰ろうといいますか——だけど自分らしさってどんどん変わっていくから、そんなことはどうだっていいんですけど(笑)——昔はこの曲が好きだったな、この曲は初めて歌ったなとか、この役として舞台上に存在してみたいなという夢も詰まっていて。

バァフ お客様も明日海さんの人生の一部を覗けるような。

明日海 そんな感じです。現時点でのイメージ作りや選曲は、まだ亀の2、3歩目くらいしか進めていないんですけど、ゲストの方々もお呼びしているので、楽しみにしていただきたいです。やっぱり私単体でいても……ねぇ?(笑)。

バァフ 明日海さんのコンサートですから、そんなことは全くないです(笑)。

明日海 (笑)お芝居もそうですけど、相手の何かを受け取る時に、その人がどういう人かというのが見えてくるじゃないですか。そういう意味でも、ゲストの方々をお迎えすることで、お客様に楽しんでいただけるセッションになれたら嬉しいです。コンサートは『精霊の守り人』を終えてから挑むので、また違う新しい自分になっているだろうなと思うと私も楽しみです。

バァフ 明日海さんの新たなフェーズ、楽しみにしております!

明日海 まだほとんど手をつけられていないですが、コンサートをやるとなったら一生懸命、全力で取り組みますので! よろしくお願いします(笑)。

日生劇場開場60周年記念
日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2023公演/特別公演
音楽劇『精霊の守り人』
演出/一色隆司
原作/『精霊の守り人』上橋菜穂子〈偕成社〉
出演/明日海りお、梅田彩佳(Wキャスト)、渡部 秀、水石亜飛夢、小野塚勇人(劇団EXILE)、健人、唐橋 充/黒川想矢、込江大牙(Wキャスト)、雛形あきこ/村井良大、山崎樹範(Wキャスト)、他

7月29日〜8月6日〈日生劇場〉、8月13日〈枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール〉、9月3日〈新潟県民会館 大ホール〉、9月9日〈千葉県東総文化会館 大ホール〉、10月1日〈シンフォニア岩国 コンサートホール〉にて上演
※『ニッセイ名作シリーズ公演』として、小学生を対象とした無料招待公演を、長野、新潟、北海道、大阪、熊本にて8月31日〜9月28日まで実施。

 

【WEB SITE】
moribito.nissaytheatre.or.jp

 

INFORMATION OF RIO ASUMI

芸歴20周年を記念したコンサート・ツアー『20th Anniversary Rio Asumi sings dramas「ヴォイス・イン・ブルー」』を、9月15日〜19日〈東京国際フォーラム ホールC〉、9月22日〜24日〈梅田芸術劇場メインホール〉にて開催。

 

【WEB SITE】
ken-on.co.jp/asumi/

【twitter】
@asumirio_staff(スタッフアカウント)

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