JUL. 1 2023, 11:00AM
山下敦弘監督と脚本家・宮藤官九郎がタッグを組む映画『1秒先の彼』が、ついに公開される。お互いの作品に出演したり関わりはあったものの、意見を交わし合いながらがっちりと共作するのは初めて。どうしたって期待が高まる。
本作は台湾映画『1秒先の彼女』が原作で、制作陣はリスペクトを持ったリメイクを模索したのち、日本版は男女のキャラクターを反対に配役する設定となった。主演に指名されたのは、両者の作品に出演してきた岡田将生。「誰が演じるのかが肝だと思っていた」と監督が零していたが、話を聞いて思うのは、山下と宮藤からの岡田への特別な愛着と信頼感。岡田は口が悪いのに憎めない、何もかもが1秒早い男・皇一(以下、ハジメ)を演じる。ハジメはせっかちでスタートダッシュもドアを開けるのも人より早い、郵便局の窓口で働く局員で、ある日なぜか丸1日の記憶がない。毎日やってくる長宗我部麗華(清原果耶)が何かを知っているようだが、彼女は逆に何でも1秒遅い大学生だった——。
社会の枠からちょっとはみ出してしまう人々をすくい上げてきた山下と宮藤は、自分のテンポを大事に生きて良いのだと、今作でもそっと背中を押してくれる。岡田はその肯定を真正面から受け取って突き進み、愛らしい人物を立ち上げた。終始和やかだった鼎談の雰囲気が伝わると嬉しい。
—— 岡田将生さんには発売中の『BARFOUT!』7月号にもご登場いただいていまして、「撮影前は山下監督と宮藤さんとご一緒するという、この作品自体に対する気持ちが大きかった」とおっしゃっていました。
岡田 まず山下監督は『天然コケッコー』という映画でご一緒して、今僕は33歳ですが当時は所属して間もない高校生でしたし、自分の最初の芝居を知っている方なのでやっぱり緊張します。絶対にまた仕事をしたい、山下監督に向き合いたいという気持ちでいたので、ハジメくんというキャラクターを監督とお話ししながら作れたことは本当に楽しい作業でした。今回の撮影現場で山下監督から最初にもらえた「オッケー」は、自分の中では普通のオッケーとは違う、感慨深いものでしたね。宮藤さんは映画やドラマなどでご一緒させていただいていて、毎回台本は声を上げて笑いながら読みます。もう、普通にファンなんです(笑)。とにかく、お2人とはずっと良い関係でいたいという気持ちです!って、ご本人を前にして恥ずかしいですが(笑)。
山下 なんか照れるよね、お互いに。僕は16、7年振りに岡田くんに現場で会ったんですが、すごく良い作品に出てキャリアを積んでいるのに、あの頃と芯の部分や、ちゃんと一生懸命にやってくれるところも変わっていなくて。それって普通に思うかもしれないけど、どれくらい向き合ってくれるかっていうのは、当たり前のことじゃないんです。さっき緊張すると言っていたけど、あの時は俺も必死だったからさ、多分ちょっとね、岡田くんに頼って言い過ぎていたんですよ(笑)。当時は少女漫画原作を扱うのも初めてで、実写化するなんてどうしたらいいか分からなくて。他のキャストは女の子ばっかりだったし、それで岡田くんには「一緒に答えを探そうぜ!」みたいな勢いになっちゃっていたと思います(笑)。そういう若い頃の自分を知っているという照れ臭さは、今回の現場で最初の頃はありましたけど、「あの時はあの時として、経験を経た今また一緒に頑張ろうぜ」と思える嬉しさが大きかったな。
宮藤 僕から見て岡田くんは、すごくカッコ良いのに、常に自分に不満があるというか……なんでしょうかね、自己肯定感が低いんですかね? そんな感じを受けていて。だからこれまでも自虐的だったり、屈折してたり、変な台詞をいっぱい書いていたら、いくらでもやってくれると連ドラの時に分かって(笑)。そういう安心感からか、いつの間にか台詞を書けば、僕の頭の中で岡田くんの声とお芝居に変換されるくらいイメージができるようになってしまったんです。郵便局の窓口にいる不満そうな主人公……を想像すると岡田くんが思い浮かんだし、「こういうトーンで言ってくれるといいな」っていうサンプルが今回はもうインストール済みでした(笑)。
—— (笑)原作の『1秒先の彼女』とチェン・ユーシュン監督の世界観を日本版として作り直すのは難しい作業のように思ったのですが、リメイクする上での困難だったことは?
山下 僕は原作映画で主演のリー・ペイユーのファンになるくらい本当に面白かったし、自分がやってこなかったタイプの作品だなとも思って、まず興味を持ちました。チェン・ユーシュン監督の雰囲気や空気感は極力残したいと思っていたので、だからこそ誰が演じるのかが重要だと思ったし、日本の女優さんだと誰がいいんだろう?というところで最初は悩んでいたんです。
—— 男女を入れ替えた設定にするというアイデアは、どこから生まれたんですか?
山下 企画協⼒としてクレジットにお名前も⼊っているんですが、ある時、映画監督のふくだももこさんがリメイクをするなら男⼥反転したいと⾔っていたと周りからたまたま聞く機会があって。「なるほどな」とは思ってたんですが、会議でプロデューサー陣も「男⼥を逆にしたい」と⾔ってきたんですよ。ずっと⼥性の配役イメージが浮かばなかったので、宮藤さんが岡⽥くんを「ヒロイン」にするのであれば男⼥逆転でも書けると。「それだ!」とすごく盛り上がって、アイデアに⾶び乗りました。
—— 脚本に関してですが、「長宗我部」など名前の長さが物語のポイントになっていたり、日本独自の設定もあります。宮藤さんは映画の脚本リメイクは初めてとのことで、どのように執筆を進められたのですか?
宮藤 意外と台本を書くとなったら一緒で、作業としてはオリジナルとあまり変わらなかったですね。自分の中で映画のヴィジュアルは原作で完成しちゃっているから、漫画原作の台本を書くのに近かったかもしれないです。でも、言語が違うというのは僕にとっては救いでしたね。台詞が違うから、日本語に置き換えたらあのままじゃできない。今おっしゃっていた、名前が長いとか短いとかをポイントにするのは日本語だからできるし……なんか名前が長い人って書類を書くのも大変そうだな、絶対に人生で損をしている時間があるよなぁってずっと思っていたんです(笑)。それをネタとして脚本に盛り込んだら、いろんな要素が絡み合って面白くなってきて。長い苗字はネットで検索して相当調べましたが(笑)。
—— オフィシャル・コメントで宮藤さんは「ヒロインが岡田くんなら、それもアリだと思った」とおっしゃっていますが、どういったところにヒロイン感を感じていますか?(笑)。
岡田 僕もその理由が聞きたかったんですよね(笑)。
宮藤 いやぁ、でもほんと素直に、はっちゃけていて魅力的な原作の彼女の役を、岡田くんなら男性だけどヒロインのまま演じられるんじゃないか?って気がしたんです(笑)。お母さんには溺愛されてて、みんなにも愛されているんだけど、せっかちで『インスタ』のフォロワーが9人しかいなくて「ここは僕の居場所じゃない」という不満げな顔で郵便局の窓口に座っている男性ヒロインのハジメくん。でも一方でレイカと再会したのちに、知らなかった事実をちゃんと受け止められる許容力もこの役には必要で、岡田くんなら安心して任せられると思いました。男女を逆に設定するのは離れ業のような気もしたけど、直感的にも、これは面白くなるんじゃないかと感じて。あと、物語を見終わった後の読後感は台湾版と同じにしたいとも思っていたので、それを岡田くんと清原さんが日本版のキャラクターを生かして、より引き出してくれたと思います。
—— 岡田さんはハジメくんを演じるにあたって、「純粋な部分をいかに丁寧に演じるかが肝だった」とコメントされていますね。
岡田 そうですね。でもまずは「1秒早いってどういうことなんだろう?」と監督と話して。台詞を早口で話したり、人の台詞に食い気味で言ってみたり、色々と試したんですけどあんまりしっくりこなくて(笑)。試行錯誤を重ねて少しずつ、早くするべき部分をポイントで見つけていくことで、ハジメくんのキャラクターが作られていった感じがします。例えばハジメくんが、郵便局の従業員入り口からではなくお客さんと同じ入り口から入ってショートカットしているのも、ほんとはダメなんだけど彼の分かりやすい部分だなぁと思ったりして(笑)。そういう人よりちょっと早い、でも天然で愛らしい部分を探していきました。
山下 そうだ、「郵便局に入る時に、いつもドアにぶつかっちゃう」というアイデアもあったけど、ロケ地が自動ドアじゃなくてできなかったりしたね(笑)。そうやってハジメくんの早さをどう表すのか、現場でアイデアを出すこともありしました。
—— ロケーションを京都にしたのは、山下さんと宮藤さんの発案ですか?
山下 僕らだけじゃなくて色々な打ち合わせを重ねる中で出てきた場所なんですけど、案に出しながらも、京都で撮影って許可の関係で絶対に大変だろうなぁと思っていました。だって、あんまり京都の街中が舞台の映画って観たことないですもんね? でも、ちょうどコロナ禍が収まったあたりの時期が撮影で、今ほど観光客もいなかったから実現したんですよ。
岡田 僕は原作を観た時に、ゆったりとした街の雰囲気とか海の風景も含めて、すごく台湾に行きたくなる映画だったんですよね。だから今作の台本を拝見した時に、これは日本のどこの土地で撮影するんだろう?と思っていて、京都という街で撮影ができることは素敵だなと思いました。京都弁は難しくもあったんですけど、ハジメくんのキャラクターにはめちゃくちゃ合っていて、すごく助けられたんです。憎たらしいことを言っているのに、なんかちょっとスネているようだったり、可愛く聞こえてくる。京都の街自体も居心地が良いですし……あ、あと撮影の待ち時間で、何度か声をかけられたんですよ。京都の街中での撮影が珍しかったのかもしれないですけど、「大学の卒業制作でも撮っているのか?」って聞かれたりして(笑)。
山下 そうだったんだ!(笑)。ちゃんと公開される映画だよって伝えたいね。でも撮影現場は思いの外、騒ぎにならなかったんです。観光地だから京都人はカメラ自体を珍しく思わないのかなと思ったし、京都だったからこそレイカの「カメラ女子」という設定もより自然に物語に馴染んでいるようにも思いました。この作品にすごく合った日本のロケーションで撮影できたことも、すごくラッキーな点でしたね。
衣装協力(岡田) / シャツ、パンツ(ポータークラシック)、ミュール(NEEDLES)
『1秒先の彼』
監督/山下敦弘 脚本/宮藤官九郎
出演/岡田将生、清原果耶、荒川良々、福室莉音、片山友希、他
7月7日より全国公開
(C)2023「1秒先の彼」製作委員会
【WEB SITE】
INFORMATION OF MASAKI OKADA
ナレーションを務める〈NHK〉Eテレ『SWITCHインタビュー達人達』が毎週金曜21時30分から放送中。〈WOWOW〉連続ドラマW-30『にんげんこわい2』の9月1日21時より放送・配信の第4話「鰍沢」で主演。出演する映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』が10月13日公開予定。
【WEB SITE】
INFORMATION OF NOBUHIRO YAMASHITA
監督作として、映画『カラオケ行こ!』が2024年正月公開予定。久野遥子との共同監督作のアニメーション映画『化け猫あんずちゃん』(公開日未定)がフランスの『アヌシー国際アニメーション映画祭2023』で「Work in Progress」部門に選出された。
【Twitter】
@tGgwcy744aX4Rgj
INFORMATION OF KANKURO KUDO
大石 静と共同脚本を務めた〈Netflix〉シリーズ『離婚しようよ』が配信中。企画・監督・脚本を担う〈ディズニープラス〉オリジナルドラマ『季節のない街』が8月9日より全10話一挙独占配信。出演映画『こんにちは、母さん』が9月1日公開予定。脚本を手掛ける映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』が10月13日公開予定。
【WEB SITE】