JUN. 26 2023, 12:00PM
藤原さくらのスタイルに魅せられている。元々は弾き語りのソングライティング・スタイルに加え、前作の3rdアルバム『SUPERMARKET』からトライしたトラックに誘発され、メロディ、ときにはポエトリー・リーディングにも近いフロウが歌われていくというソングライティング・スタイル。それらが離反しておらず、振れ幅となって、結果、心地良く響いてくる。2021年リリースの「Kirakira」、大滝詠一の名曲「君は天然色」のカヴァー、愛のスコール50周年 50Loveキャンペーン・ソング「mother」、Yaffleプロデュース「わたしのLife」、昨年11月にリリースした「まばたき」らのシングル曲に、斉藤和義との共作「話そうよ」他、全12曲で構成された、この5月にリリースされたニュー・アルバム『AIRPORT』では、そのスタイルがさらに進化を遂げている。圧巻なのは、初のプロデュース・アレンジをおこなった「放っとこうぜ」。まるで、ビー玉が空中に舞っているような、自由かつポップな音像が素晴らしい。数々のアーティストとコラボレーションをおこなってきた彼女が、自分なりのプロフィール・スタイルを開花させていく一歩とすれば、さらなる振れ幅の大きさを期待せずにいられない。
バァフ 僕、藤原さんの音楽スタイルの方って他にいないと思っていて。元々アコースティックで、ソングライティングするところから始まって、今トラック・ベースで作っていらっしゃるじゃないですか。両方やっている方ってなかなかいないなと思って。
藤原 maco maretsくんとの曲(「Moondancer」)なんかは、トラックをいただいて2人でメロや歌詞をキャッチボールしながら作っていったので、たしかに以前とは作り方が変わってきていますね。
バァフ メロディなども事前に用意していたものじゃなくて、その場で出てきた感じを採用することもあるんですか?
藤原 Yaffleさんとの制作は、その場でメロのアイデアも出しました。でも、そこで出てきたものをすぐレコーディングしているわけではなくて、お互いにメロディを出し合ったり、色々考えて持ち帰ったりもしているので、完全に即興で全部作っているわけではないんです(笑)。
バァフ それでもですよ。シンガー・ソングライターの方のスタイルって、AメロBメロと型があるじゃないですか。例えばヒップホップやってらっしゃる方とか、ジャズの人だったら即興でやるのが当たり前ですが、もともとフォーマットの中で作っている方が自由な作り方もやれているという。その両方の感覚を持てるのが素晴らしいです。「生活」で、初めてトラックから作られたとのことですが、最初は抵抗感はなかったですか?
藤原 「生活」の時は思うようにメロが出てこなくて、抵抗というより迷いました。「コードを送ってもらって良いですか?」とお願いして、もらったものをギターで弾いて進めて。でも、どこかでコツを掴んで、コードが無くても作れるようになりました。今回の『AIRPORT』はギターを持たずに作った曲が多いです。
バァフ ギターのストロークしている感じのリズム感とやっぱり違いますよね。バウンシィな感じが。
藤原 そうなんです。そんな曲たちを、弾き語りのツアーでやると、また全然違う曲みたいになって、面白かったです。
バァフ ギターでパフォーマンスをするアーティストが、そうでない作り方をして。で、ライヴでは本来のスタイルに戻していくっていう。また違った解釈になるのは面白いですね。あと、ポエトリー・リーディング的なフロウな感じですごく魅力に感じました。
藤原 ヒップホップをよく聴くようになったのですが、自分にゴリゴリのラップのスキルがあるか?というとそうではなくて。それこそ「放っとこうぜ」を書いた時はよく、かせきさいだぁさんの曲を聴いていました。お喋りしているくらいのラップだったら歌えるかもしれないと思って作った曲が何曲かあります。
バァフ 歌詞を書く際は悩まれるタイプですか?
藤原 悩みます。曲先でメロディから作ることが多いので、「どうしたらもっと上手くはまるだろう」、「もっと言い方がある気がする」とか。でも、ラップだと多少不自然でも、するっとそのままの言葉で歌えるのが楽しくて。
バァフ 決してカチッとはまらなくても、最後に帳尻合わせるのが気持ち良かったりもしますし。今回、人との距離感を描いていると感じていまして。近い時もあるし離れている時もある、その瞬間で変わってくるコミュニケーションの違いみたいなものが的確に抽出されているなと感じました。
藤原 今回は愛について歌っている曲が多いです。おっしゃるように、近かったり遠かったりというものを歌詞で表現している曲が多いのですが——コロナ禍の、誰かと会いたくても会えない気持ちとか、逆にお別れしてしまって、もう会えないとか、そういう距離みたいなものを考えることが最近多くて。近ければ良いわけじゃないなとも思うんです。家族とかもそうで。東京に出てきてから、逐一すべてのことを報告しているわけじゃないけど、それでもすごく近くにいてくれているような気がしますし。そういうのが愛だなと感じることが最近多くて。先日までおこなっていたツアーが、お客さんと本当に近い距離でライヴをさせてもらっていたのもあって、こんなに遠いところにいたのに、自分が歌うことでこんなにも喜んでくれたり、自分がしんどい時は自分のことのように一緒に悩んでくれたり、そういうのって愛だなって感じていたことが影響していたんだと思います。
バァフ 描かれている愛はいろんなシチュエーションに置き換えられると思うんですけど、ここで描かれている彼らは男女とも個人として立っていて。距離が縮まったり離れたりの塩梅が、聴いていてすごく気持ち良いなと。
藤原 あぁ、良かった。やっぱり色々経ると、そういうのが健全だなと思いますね(笑)。
バァフ 僕は今回の「mother」の歌詞がすごく染み入っていて。〈水〉という表現が色々なイメージを掻き立てるなと。満たされたり枯れたりありますが、この曲の場合、“包む”ということに繋がっていて。さらに水そのものがタイトルの「mother」に繋がるとも。
藤原 「mother」は、関口シンゴさんと一緒に制作させてもらった曲で。セッキーさんのアレンジを聴いて、歌詞が広がった曲の1つだったんです。セッキーさんがギターにリバースディレイをかけて面白い音になっているんですけど、全体的にホワーっと浮遊しているような感じが、お母さんのお腹の中にいるところをイメージさせたり、はたまた宇宙に浮かんでいるような感じもあって。私が作ったデモからアレンジしてもらった曲ではあるんですけど、音に助けられて生まれた歌詞だと思います。
バァフ 今回ツアーで初めて行かれたところもあるわけじゃないですか。勝手ながら、その土地ごとで作られた曲も聴いてみたいなと思っちゃいました。その場所にいないと感じなかったことがソングライティングで返ってきたら面白いなと。これだけ多くのところを周られて、しかも普段アーティストが行かないような場所でもライヴをされていたので。
藤原 最近ちょうどそれに近いことを考えていました。日本中を周っていたので、そろそろ海外にも行きたいと思っているんです。今ずっと暮らしている東京じゃないところで曲を書くのも、楽しそうだなと思いますね。
『AIRPORT』
発売中
〈SPEEDSTAR RECORDS〉
INFORMATION OF SAKURA FUJIWARA
『AIRPORT』アナログ盤が8月9日にリリース。
レギュラー・ラジオ『HERE COMES THE MOON』が毎週日曜24:00-25:00〈interfm〉にて放送中。
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